メディアとたばこ広告規制:厚労省の漫画喫煙表現の研究

 
最近、メディアとたばこ広告規制に関して、奇妙な報道がありました。
 

一部漫画で喫煙描写6% 厚労省研究班「影響心配」(Yahoo!ニュース)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050114-00000011-kyodo-soci
http://www.kahoku.co.jp/news/2005/01/2005011401000111.htm

主要な少年漫画5誌に登場した喫煙シーンは、ページ換算で全体の0・38%で、喫煙の描写が1カ所でもある作品では平均6・4%に上るとする調査結果を、厚生労働省研究班が14日までにまとめた。

一応私の立場を書いておきますが、私はタバコは大嫌いで、健康増進法による公共空間における分煙規制には賛成の立場ですし、公共空間における受動喫煙防止環境の拡大に賛成の立場で地方行政にコミットし、公共機関の公共空間における喫煙規制を含む条例を成立させました。また、尾崎米厚氏の研究成果を含め、予防医学についてはその意義を認めます。
つまり私は喫煙規制賛成派として書きますれど、今回の厚労省研究班の尾崎米厚氏の研究については、報道で読んだ範囲では、すこし疑問があります。
 
以前にも書きましたが、漫画雑誌を含めたメディアの影響は、その受容環境によって変化し得ますので、喫煙表現を含む漫画を読んでいる青少年がどんな受容環境に置かれているのかを検証することには科学的な意味がありますが、ただ単に漫画にどんな表現があったのかということだけを調べても科学的な意味はありません。
たとえば、青少年の家族がどれくらい喫煙に肯定的、あるいは否定的な態度をとっているのか。あるいは、青少年が通学している学校では職員室を含めてどれくらい喫煙に寛容か。あるいは青少年を指導している親や教師がどれくらい青少年の前で喫煙しているのか。そういう青少年の受容環境によって、喫煙表現を伝達するメディアに対する青少年の影響は多様です。
従って、メディア表現の中に喫煙表現が含まれるからといって、直ちに規制できるものではありません。少なくとも法的強制力にもとづく包括的表現規制の根拠とはなり得ません。
なにか数字がありさえすればそれが全部科学的で学問的な意味があるというような錯覚を持つ人やメディア関係者がいるようすが、そうは限らない一例がここにあるのではないかと思います。
 
ちなみに、未成年者喫煙禁止法では「情ヲ知リテ其ノ(未成年者の)喫煙ヲ制止セサルトキハ科料ニ処ス」との一条があり、青少年の環境は既に制度によってコントール済みと言えます。
問題があるとすれば、ルールの不備ではなく、成年者喫煙禁止法というルールに実効性を持たせる行政上・司法上の措置の不備であろうと思われます。
 

成年者喫煙禁止法(明治三十三年三月七日法律第三十三号)
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/M33/M33HO033.html

第三条  未成年者ニ対シテ親権ヲ行フ者情ヲ知リテ其ノ喫煙ヲ制止セサルトキハ科料ニ処ス
○2 親権ヲ行フ者ニ代リテ未成年者ヲ監督スル者亦前項ニ依リテ処断ス

 
漫画の表現調査から少し話題が変りますが、広告規制については、「たばこ規制枠組条約」の国内法整備が今後、焦点になると思われます。
日本国政府は「たばこ規制枠組条約」に署名し、立法府は昨年5月に条例を承認しました。
たばこ規制枠組条約」には、広告表現物に対する厳しい規制(インターネット上の広告規制を含む)が含まれています。
しかし、条約が想定している表現規制は、無条件で表現が規制し得るようにはなっていません。
条例で、「憲法又は憲法上の原則に従い」とか「いかなる制裁をも科することができることを認め又は承認するものではない」といった条件を付す文言がきちんと明記されています。
つまり、「たばこ規制枠組条約」では、たばこに関する表現一般が規制されているわけではなく、需要を促す広告についてのみ規制合理性が認められているのであって、少なくとも漫画表現がこうした規制に対象になることは想定されていません。
漫画表現のチェックなどくだらない調査よりも、たばこ関連事業者から国会議員や政府職員がどれくらい政治資金などの援助を受けているのか、政府職員や国会議員とたばこ関連事業者の“援助交際”ぶりを調査し公表することが優先されるべきかと思われます。
 

■外務省
たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約 (略称 たばこ規制枠組条約*1
平成16年5月19日 国会承認
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/treaty159_17.html
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/pdfs/treaty159_17a.pdf

第八条 たばこの煙にさらされることからの保護
1 締約国は、たばこの煙にさらされることが死亡、疾病及び障害を引き起こすことが科学的証拠により明白に証明されいてることを認識する。
2 締約国は、屋内の職場、公共の輸送機関、屋内の公共の場所及び適当な場合には他の公共の場所におけるたばこの煙にさらされることからの保護を定める効果的な立法上、執行上、行政上又は他の措置を国内法によって決定された既存の国の権限の範囲内で採択し及び実施し、並びに権限のあるほかの当局による当該措置の採択及び実施を積極的に促進する。
十三条 たばこの広告、販売促進及び後援
2 締約国は、自国の憲法又は憲法上の原則に従い、あらゆるたばこの広告、販売促進及び後援の包括的な禁止を行う。この包括的な禁止には、自国が利用し得る法的環境及び技術的手段に従うことを条件として、自国の領域から行われる国境を超える広告、販売促進及び後援の包括的禁止を含める。この点に関し、締約国は、この条例が自国について効力を生じた後五年以内に、適当な立法上、執行上、行政上又は他の適当な措置をとり、及び第二十一条の規定に従って報告する。
4 締約国は、憲法又は憲法上の原則に従い、少なくとも次のことを行う。
・・・・・
(e) ラジオ、テレビジョン、印刷媒体及び適当な場合には他の媒体(例えば、インターネット)におけるたばこの広告、販売促進及び後援について、五年以内に、包括的な禁止を行い、又は自国の憲法若しくは憲法上の原則のために包括的な禁止を行う状況に無い締約国の場合には、制限すること。
7 特定の形態のたばこの広告、販売促進及び後援を禁止している締約国は、自国の国内法に従い、自国の領域に入る当該携帯の国境を超えるたばこの広告、販売促進及び後援を禁止する主権的権利並びに自国の領域における国内の広告、販売促進及び後援について適用する制裁と同等の制裁を科する主権的権利を有する。この7の規定は、いかなる制裁をも科することができることを認め又は承認するものではない

説明書
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/pdfs/treaty159_17b.pdf
「たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約」の署名について 平成16年3月9日
http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/16/rls_0309a.html
「たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約」の受諾書の寄託について 平成16年6月8日
http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/16/rls_0608b.html

 
───────────
関連リンク。
 

健康増進法(平成十四年八月二日法律第百三号)
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H14/H14HO103.html

第二十五条  学校、体育館、病院、劇場、観覧場、集会場、展示場、百貨店、事務所、官公庁施設、飲食店その他の多数の者が利用する施設を管理する者は、これらを利用する者について、受動喫煙(室内又はこれに準ずる環境において、他人のたばこの煙を吸わされることをいう。)を防止するために必要な措置を講ずるように努めなければならない。*2

厚生労働省
職場における喫煙対策のためのガイドライン(全文)
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2003/05/h0509-2a.html
新たな職場における喫煙対策のためのガイドラインの策定について
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2003/05/h0509-2.html
今後のたばこ対策の基本的考え方について(意見具申)
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2002/12/s1225-6a.html
たばこの有害性に関する科学的実証
http://www1.mhlw.go.jp/topics/kenko21_11/b4.html
21世紀のたばこ対策検討会討議内容のまとめ
http://www1.mhlw.go.jp/houdou/1008/h0831-1.html
98/06/26 第7回 21世紀のたばこ対策検討会
http://www1.mhlw.go.jp/shingi/s9806/txt/s0626-3.txt
98/05/22 第5回 21世紀のたばこ対策検討会
http://www1.mhlw.go.jp/shingi/s9805/txt/s0522-1.txt
98/05/08 第4回 21世紀のたばこ対策検討会
http://www1.mhlw.go.jp/shingi/s9805/txt/s0508-1.txt
98/04/22 第3回 21世紀のたばこ対策検討会
http://www1.mhlw.go.jp/shingi/s9804/txt/s0422-1.txt
98/03/06 第2回 21世紀のたばこ対策検討会議事録
http://www1.mhlw.go.jp/shingi/s9803/txt/s0306-2.txt
98/02/24 第1回 21世紀のたばこ対策検討会議事録
http://www1.mhlw.go.jp/shingi/s9802/txt/s0224-1.txt
受動喫煙防止対策について [ハイライト]
http://www.mhlw.go.jp/topics/tobacco/houkoku/judou.html
平成10年度 喫煙と健康問題に関する実態調査 [ハイライト]
http://www1.mhlw.go.jp/houdou/1111/h1111-2_11.html
分煙効果判定基準策定検討会報告書
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2002/06/h0607-3.html
「喫煙と健康問題に関する検討会」報告書(要約版) [ハイライト]
http://www.mhlw.go.jp/topics/tobacco/houkoku/kituen01.html

■加藤尚彦衆議院議員(民主党)
2 2004年たばこ規制元年
WHOたばこ規制枠組条約と政治家の役割
http://www.kato-naohiko.com/kessan-whotabako.html

■社団法人日本たばこ協会
http://www.tioj.or.jp/

ヤフー 嫌煙カテゴリー
http://dir.yahoo.co.jp/Recreation/Hobbies_and_Crafts/Smoking/Anti_Smoking/

───────────

*1:日本は国会批准が行われましたが、たばこ規制枠組条約は40ヶ国の批准90日後に発行することになっており、現在はまだ未発行ですが、2005年2月に発行が見込まれています。http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050119-00000021-nnp-kyu 参照

*2:健康増進法第二十五条は努力義務であって罰則はありませんので、事業者がこの規定に反していても処罰されることはありません。しかし、条例によって罰則付きで規制を受ける地方自治体はあります。