週刊文春3月25日号をめぐって

出版前に公開された週刊文春の中吊り

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040317-00000205-yom-soci
鬼沢裁判官
「記事を切除または抹消しなければ、販売してはならない」
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長女側の弁護士
「文春側が取材と掲載を強行したため、もはやとるべき手段がなく、やむなく仮処分を申し立てた。申し立て手続きには、(田中衆院議員ら)両親は一切関与していない」

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040316-00000315-yom-soci
文芸春秋浦谷隆平社長室長
「記事では、長女の人権に十分な配慮をした。訴えには、誠意をもって話し合いを続けたい。しかし、言論の制約を意味する今回の仮処分決定は、わずか1人の裁判官が短時間のうちに行ったもので、とうてい承服できない」
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長女側の弁護士
「公人たる政治家を親族・家族に持つ者であっても、憲法上、法律上、プライバシー権を享受するもので、地裁の決定は理にのっとったもの」

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040317-00001041-mai-soci
北海道喜茂別町の公務員安部裕史さん(30)
「田中さん側が文芸春秋に抗議するのは分かるが、販売差し止めはやりすぎだ。都合が悪い記事で、差し止めを悪用するケースも出ると思う。表現や出版の自由も考えないと」
川崎市の会社役員秋葉茂治さん(66)
「田中さんの娘は私人。興味本位で書きたてるのは行き過ぎだ。個人の話を何でも書かれたら、たまったものではない。田中さんの主張や差し止めは理解できる」

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040317-00000634-jij-pol
福田康夫官房長官
「テレビをちょっと見ただけの判断で言えば、(長女は)独立した人間、社会人で政治家ではない。そこのところはきちんと分けないといけない」

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040317-00000180-kyodo-ent
外務省内売店霞が関)店員
「外務省は『売るな』と言ってこなかった」

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040317-00000737-jij-pol
小泉純一郎ソーリ
「わたしは記事を読んでいないので分からない」
「一般論として個人のプライバシーは尊重されるべきだ」
「整合が大事だと思う」(プライバシー保護と言論の自由との兼ね合いに関して)

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040317-00000138-mai-soci
上智大の田島泰彦教授(メディア法)
最高裁はプライバシーの侵害だけを理由とする差し止めはまだ認めていない。検閲につながりかねない問題であり、重大な要件を課さない限り、差し止めは認めるべきではなく、今回のケースも詳細な検証が必要だ」
立教大社会学部の服部孝章教授(メディア法)
「記事の内容がプライバシーの侵害であることは間違いなく、出版後に裁判で争っても、文春側は負けると思う」「ただ、これで差し止めを認めるのは疑問が残る。原告側にとっても、今週号は流通ルートに乗っているうえ、大手出版社の週刊誌の差し止めとして話題になることで、訴えの利益はあまりないのではないか」
中央大の堀部政男教授(情報法)
「真紀子氏は公人でも娘は私人であり、プライバシー権が出版の権利より優先すると判断したのかもしれない。しかし、こうした出版の差し止めは、極めて限定された条件で認められるべきだ。直前に販売を禁じられた文芸春秋側の損害も無視できない。結論を急ぐ仮処分の申し立てでは、被害事実を必ずしも厳密に証明することが要求されないから、結果として拙速な命令が出る恐れもある。文芸春秋側がおとなしく従うとは考えにくく、今回の命令が妥当だったかどうかが広く議論される必要がある」

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040317-00000775-jij-soci
週刊文春が田中元外相長女に送ったFAX
「プライバシーの侵害には当らない」

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040317-00000723-jij-soci
都立の中央、日比谷、多摩の3図書館
「裁判所の決定は人格権と表現の自由について、前者に重きを置いているため、田中真紀子前外相の長女に関する記事のページに紙袋を掛けて閲覧できないようにする」

埼玉県立熊谷図書館
「図書館は資料提供を第一の任務とするため、極力制限は加えない」
「裁判で争う可能性もあるため、推移を見守り、変化があれば対応する」

民主党枝野幸男政調会長(3月17日)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040317-00000765-jij-pol
「人命にかかわる話であれば事前差し止めもあり得るかもしれないが、プライバシーとの関係では表現の自由が優先するのが一般的な考え方ではないか」

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040318-00000848-jij-soci
阪急電鉄大阪市)直営大手書店ブックファースト
「状況を見極めるため会社の方針で販売を自粛する」

朝日新聞社説 3月18日
http://www.asahi.com/paper/editorial20040318.html
http://www.asahi.com/paper/editorial.html
「不正を暴き、社会的な問題を提起しようとする週刊誌の記事はある。今回はそうしたものとは違い、個人の私生活を暴き立てようとしただけだ。政治家の利権やカネといった問題とも無関係である。雑誌を売るために、公人でもない一個人に痛みを強いる記事には公共性は感じられない。 」

讀賣新聞社説 3月18日
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20040317ig90.htm
「今回の記事に「公益目的」があるようには見えない。文春側は仮処分の審尋で、「政治家になる可能性がある人に関する記事であり公益性がある」と主張したが、説得力はない。 」

毎日新聞社説 3月18日
http://www.mainichi.co.jp/eye/shasetsu/200403/18-2.html
言論統制につながる差し止め命令は最後の手段であらねばならない。「表現の自由」を守るため、とりわけ厳格さが求められるからだ。司法への市民参加を目指す司法改革が進む折、多大な影響力を持つ週刊誌の出版の是非が、仮処分とはいえ、裁判官の非公開の単独審理で決せられる仕組みにも首をかしげたくなる。
しかも、仮処分決定は週刊誌の大半が取次店に出荷された後で文芸春秋社側に伝えられたという。実効性が薄れた段階になってまで下すべき決定だったと言えるのだろうか。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040318-00000954-jij-pol
田中真紀子前外相(3月18日)
「きょうは何もお答えできません」

一般論として、ジャーナリストは、相手が誰であろうと、プライバシーの侵害に該当していようと、報道の価値、報道の公益性があると判断した場合は自己のジャーナリズムの信念とその良心に照らして報道する義務と権利がありますし、その行動を法が制限することは、報道の自由を阻害することになり得ます。
しかし、今回の週刊文春3月25日号の外相長女記事についていえば、どんな報道の公益性があるのか、不明です。文藝春秋のコメントにも報道の公益性の説明が無く、私自身、記事を全部読んでいないのでわかりません。「プライバシーを侵害したけれど報道上正当な行為だから責任はない」と主張するのなら筋は通りますが「プライバシーの侵害はない」という文芸春秋の説明は意味不明。
公人/私人という区分のしかたで報道の公益性を認定する方法は、ある程度合理的だとは思いますが、私人の情報であってもそれが公人の公的活動を評価する情報にもなり得る場合もありますので、そこら辺はケースバイケースで考えるより無いです。
田中元外相の長女が私人か公人かという議論は、議論の対象になっている情報によります。ケ−スバイケースです。それが一般的にはゴシップ記事と受け取られるとしても、法による規制対象外とすべき公益性がある記事もあり得ます。
出版前に公開された中吊り広告を見ると、長女の離婚問題が記事の内容になっているようです。記事を全部読んでいないのでわかりませんが、中吊り広告通りの記事だとすれば、報道の公益性には疑問を感じます。
だからといって、裁判所の判断がすべてOKということにもならず、法の強制力の発動の方法が「出版差止め命令」という方法でよいのかの問題は、別途検討が必要です。