民主党:住民基本台帳法一部改正案の意見を募集

 
民主党が意見を募集しています。
民主党は、住民基本台帳を閲覧して母子家庭などを探し出し少女にわいせつ行為に及ぶという卑劣な事件を例示しています。しかし、閲覧目的の虚偽や悪用については、住民基本台帳法第50条*1で罰則がすでに規定されており、量刑の是非は論じる余地はあるものの、立法としては対処済みと思われます。
したがって、民主党の「危機的事態」との認識は誤りであり、国民に無用な危機感を煽るだけであると考えます。
 

民主党
民主党住民基本台帳法一部改正案」へのパブリックコメント募集要項>
http://www.dpj.or.jp/news/200505/20050509_01public.html

◇内容:以下の点について、ご意見をお伺いします。
【ポイント1 原則非公開の例外規定について】
1−(1)本法案が成立すれば、商業目的での4情報の閲覧はできなくなります。
 さらに、世論調査や学術目的の調査、その他公益の目的であっても、閲覧される住民のプライバシーを尊重する観点から、自治体が特別の理由があると認めない限り非公開とすべきと考えています。この点について、どのように考えますか?
1−(2)公用目的での閲覧であっても、自治体が相当の理由があると認めない限り非公開とすべきと考えています。この点について、どのように考えますか?
【ポイント2 公開する情報(例外的に閲覧が認められるケース)について】
2 現在公開されている4情報のうち、公用・公益目的など例外的であっても公開すべきでない情報はありますか?(公開すべきでない情報とその理由をあわせてお書き下さい。)
  ※その他、法案に対するご意見・ご提案をご自由にお書きください。
◇方法:電子メール・郵送で受付
 ・電子メール :public@dpj.or.jp
 ・郵送:〒100−8981
   東京都千代田区永田町2−2−1 衆議院第一議員会館
   民主党政策調査会 住民基本台帳パブリックコメント担当
◇期間:2005年5月9日から2005年5月23日までの2週間
◇結果:ご意見やご提案の内容を検討させていただき、最終案をとりまとめ、内
 容を公表します。

 
問題は、悪用の抑止ではなく、悪意でも善意でもない企業活動によるプライバシーのデジタルデータベース化をいかに抑制・制御するかという点であり、それ以上でも以下でもありません。
したがって、民主党の提案についての私の判断は、前述した理由により、公益目的による閲覧を例外規定として認めるとの修正を前提条件として賛成。公益目的による閲覧を例外規定として認めるとの修正を前提条件がない場合は、悪徳政治家の「プライバシー」の保護につながるため、遺憾ながら反対との立場です。
以下、私のパブリックコメント案。コメントの提出までにはまだ時間がありますので、他に意見や異論のある方は、メールをくだされは検討させていただきます。
 

民主党住民基本台帳法一部改正案」へのパブリックコメント
情報NGO Re-anger代表
北野 桂
 
1−(1)
商業目的での4情報の閲覧は、原則非開示で良いが、以下の例外を認めるべきである。
マーケティングリサーチには住民基本台帳の閲覧を前提とした調査が前提となっている場合がある。もし、マーケティングリサーチについても非開示になると、商品開発、店舗のサービスの向上、店舗出店計画の事前調査などが困難になり、経営リスクが大幅に高まるだけではなく、企業活動のリスクやサービスや商品の質的低下が地域住民に転嫁されることになり、結局は住民の利益を損なう結果となる。
公益目的については、住民基本台帳の閲覧を認めるべきであると考える。
たとえば、世論調査については、選挙報道における有権者の投票行動の分析の前提として、住民基本台帳に基く事前世論調査が必要となるが、こうしたジャーナリズム活動などにおける住民基本台帳の閲覧も禁止されるとすれば、選挙候補者に対する国民の知る権利は著しく阻害されることになり、その結果として好ましく無い候補者を選択することによって住民は不利益を被る恐れがある。
また、政治資金報告書の検証活動などをしている民間NGOや政治団体は、政治家や候補者への個人献金の多くが親族などによるトンネル献金である実態を踏まえ、実態としてどのような勢力からどの政治家に資金が移動しているかを把握するため、住民基本台帳の閲覧を実施している。もし、係る民間NGOによる住民基本台帳の閲覧が監視されれば、何千とある個人献金などの特定のために、現地調査を実施しなければならず、そのような現地調査を実施できる資金力のある民間NGOは存在しないため、政治資金監視活動は事実上放棄しなければならなくなる。
政治資金の動きの監視を把握できなくなり、国民の知る権利が阻害される結果として住民が誤った政治家を選択するとすれば、結果的に不利益を被るのは住民自身である。
世論調査、ジャーナリズム活動、あるいは政治団体や政治監視などをしている民間NGOの活動、マーケティングリサーチなど、住民基本台帳の閲覧を前提とする公益的活動(特に国民の知る権利を実現する活動)については、その公益の住民還元の重要性に鑑み、公益目的における住民基本台帳の閲覧が必要であるとかんがえる。
 
1−(2)
ケース・バイ・ケースである。開示を請求された自治体において、住民利益のあると当該自治体が判断する場合は開示し、住民利益がないと自治体が判断する場合は非開示とすべきである。
たとえば、防衛庁などは、自衛官募集活動のために自治体に対して住民基本台帳の写しを入手して自衛官の募集活動を実施しているが、係る活動は住民利益を第一にかんがえる自治体にとっての公用目的ではないため、住民利益に合致すると判断されない防衛庁公安調査庁警察庁などの閲覧など、住民利益公用目的については非公開とすべきである。
一方、複数の自治体間で実施される自治体連合の広域サービスについてアンケートを実施するため関係住民にアンケート用紙を配るなどの目的で閲覧する場合は、当該自治体で住民利益と判断される場合は閲覧を認めることで住民利益を促進するべきである。
判断の最終的な主体はあくまでも自治体自身であるべきであり、防衛庁公安調査庁自治体の任意の同意なく住民基本台帳の閲覧を請求できる状態は、速やかに解消されるべである。
2 住民利益があるかないかによって閲覧の是非は決定されるべきであり、無条件的に非開示としなければならない情報は、いわゆる基本4情報には無いと考える。
プライバシーは住民の利益であるが、プライバシーをまもることだけが最優先で実現しなければならない住民利益であるとは考えられない。プライバシーは住民利益のひとつであるが、住民利益は他にもあるのであるから、プライバシー以外の住民の利益を阻害することのないように、プライバシーの保護を実現する必要がある。
プライバシーか公開かという二者選択ではなく、プライバシーとそれ以外の住民利益の両方を実現するような改革が必要であると考える。
住民情報の流出は、住民基本台帳の閲覧よりも、住基ネット経由の流出情報が被害規模は大きく、実際に住基ネットから流出していると思われる被害も発生しているため、プライバシー保護の観点から実行性ある対策をとるのであれば、長野モデルの全国化を促進するための法改正を提案するなど、稼働停止を含め、住基ネットの問題を優先して取り組みべきであると考える。
尚、民主党は、住民基本台帳を閲覧して母子家庭などを探し出し少女にわいせつ行為に及ぶという卑劣な事件を例示しているが、閲覧目的の虚偽や悪用については住民基本台帳法第50条で対処済みである。罰則の量刑については再検討することがあっても良いが、それを理由にして非開示にすべきだとの民主党判断は明らかにやりすぎである。
住民基本台帳の閲覧の問題は、悪用の抑止の必要性ではなく、悪意でも善意でもない企業活動によるプライバシーのデジタルデータベース化をいかに抑制・制御するかという点であり、係る観点からの取り組みが求められる。国民に必要以上の危機感を煽り、必要以上の規制を求めるネオリベラル的な民主党の対応には大きな疑問を感じる。

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*1:住民基本台帳法「第五十条  偽りその他不正の手段により、第十一条第一項の規定による住民基本台帳の一部の写しの閲覧をし、第十二条第一項若しくは第二項の住民票の写し若しくは住民票記載事項証明書の交付を受け、第十二条の二第一項の住民票の写しの交付を受け、第二十条第一項の戸籍の附票の写しの交付を受け、又は第三十条の三十七第二項の規定による開示を受けた者は、十万円以下の過料に処する。 」http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S42/S42HO081.html