南野青少年育成担当大臣「漫画を規制対象とする可能性を検討しなければいけない」と発言

 
3月15日の衆議院青少年問題に関する特別委員会で、水島広子議員(民主党)が、児童ポルノに触れる機会が多ければ多いほど性犯罪に至る可能性が高くなる」「児童ポルノは漫画や疑似ポルノであっても根絶に向けて規制をすべきである」といった発言を繰り返しました。
南野知惠子青少年育成担当大臣は、「実在する児童を描写したもののみを規制対象としている」と漫画は児ポ法の規制対象外であることを明確に宣言したうえで、「(漫画を)規制の対象としてその可能性を検討していただかなければいけないと思う」「御議論していただきながらということで、それを加味して考えを整理していく」「悪は悪という形に対して努力していく」などと答弁しています。
南野大臣はどちらかというと漫画規制に慎重な立場でしたが、水島議員の度重なる強い質問に圧されて譲歩した答弁をしてしまったようです。
 

衆議院
青少年問題に関する特別委員会 会議録
http://www.shugiin.go.jp/index.nsf/html/index_kaigiroku.htm
第3号 平成17年3月15日(火曜日)
http://www.shugiin.go.jp/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/007316220050315003.htm

国務大臣(青少年育成及び少子化対策担当)南野知惠子君
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○水島委員 それでは、午前に引き続きまして質問をさせていただきたいと思いますので、南野大臣、よろしくお願いいたします。
 午後は少し各論について伺いたいと思います。まず、児童ポルノについて伺いたいと思います。
先日、ヨーロッパにおけるペドファイル情報ネットワーク根絶プロジェクトであるコピンプロジェクトの副代表のクエール博士が、外務省のオピニオン招聘プログラムで来日され、お話を伺う機会がございました。内閣府からも法務省からもいらしていたので、よく御存じだと思います。
まず、児童ポルノの規制についての大臣のお考えをお聞かせいただきたいと思います。
○南野国務大臣 児童ポルノにつきましては、そこに描写されております児童の尊厳を害しているばかりではなく、児童を性の対象としてとらえる風潮がある、そういうことについては非常に有害なものであるというふうに思っております。
警察当局におきましても、平成十一年に制定され昨年改正された児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律を厳正に運用するなどして、児童ポルノに係る行為の規制を行っているものと承知しておりまして、私としても児童ポルノが一日も早くなくなることを望んでおります。
○水島委員 今、そこで描写されている子供本人の人権ということのほかに、子供を性の対象として見る風潮というふうにおっしゃったわけですが、そういう観点からいきますと、議員立法では見送りになっております漫画とか疑似ポルノなどについては、大臣はどうお考えになりますでしょうか。
○南野国務大臣 現行でありますいわゆる児童買春、児童ポルノの禁止法、これは児童を性的描写の対象とした表現物のうち、実在する児童を描写したもののみを規制対象としているということでございます。
実在する児童を描写したものでないポルノの規制、それの要否につきましては、平成十一年に同法が制定された際及び昨年に同法が改正された際にも、児童の保護や表現の自由との関係などから法案を提出する議員の間でさまざまな議論があったと承知いたしておりますので、今後ともこのような議論を踏まえながら規制の要否が決せられる問題であると考えております。
なお、漫画でありましても、刑法のわいせつ物に当たるものとして、その販売をした者を起訴し、第一審において有罪判決が言い渡された事例があるとも承知いたしております。
○水島委員 今の御答弁では、とても午前中、子供の利益を代弁して大臣みずからが子どもオンブードのように活躍してくださるというのからは、ちょっと違うのではないかというふうに思います。
あくまでも子供の利益を代弁して発言していただくのであれば、いろいろな議論があるうちのやはり子供の視点に立った方の観点から御答弁なさるべきではないかと思うんですけれども、きょうは、ここへ青少年担当の大臣として来られているわけですから、その点についてもう一度答弁をし直していただきたいと思うんですね。
といいますのが、今、子供を性の対象として見るような風潮というふうにおっしゃいましたけれども、そういう雰囲気だけではなく、実はこの児童ポルノを規制しなければいけない理由の一つとして、これはきちんとしたデータがございますが、一部の人にとっては児童ポルノに触れる機会が多ければ多いほど性犯罪に至る可能性が高くなるというデータがございます。
日本ではいまだに、児童ポルノがあるおかげで犯罪が減っているんじゃないかなどという意見を堂々と主張する人もいるようですけれども、これは基本的にきちんとしたデータに基づいて考えれば、一部の人にとってですけれども、そういう児童ポルノに触れる機会が多ければ多いほど性犯罪を起こす確立が高くなる。
そのようなことを考えますと、児童ポルノを、これは漫画や疑似ポルノであっても規制しないでおくということは、当然それらに触れる機会を一部の人たちにとってふやすことになって、結果として子供を対象とした性犯罪をふやすということにもなるわけで、これは青少年担当の大臣としてはきちんと規制の対象としてその可能性を検討していただかなければいけないと思うんですけれども、もう一度御答弁いただけますでしょうか。
○南野国務大臣 子供の利益というのは、それはもう本当に重要なものであると思いますけれども、いろいろな課題について、自分の立場ということについても、これはバランスをとって考えないといけないということになってまいりますので、そのような形で答弁させていただきます。
○水島委員 バランスをとってというのは、最終的に政治決着の場でバランスをとればいいわけであって、やはりまず提案する人がいなければ議論にならないわけなんです。
ちょっとまた午前中の質問みたいになりますけれども、そうすると、大臣は、青少年担当の大臣としては子供の利益を代弁してきちんとやってくださると先ほど御答弁を下さったので、この場合は、子供の利益を考えれば、児童ポルノ、それは漫画や疑似ポルノであっても根絶に向けて規制をすべきである、そのように大臣は答弁されるべきだと思うんですが、もう一方では恐らく法務大臣としての頭があって、そちらではバランスをとらなければいけない、表現の自由云々ということを考えられる。
一人の人格でそのように二つの違うものの利益を代弁するという場合に、これはどういうふうになるんでしょうか、この児童ポルノの問題などはどうなるかというのをもう少しきちんと御答弁いただけますか。
○南野国務大臣 児童ポルノ、そういう問題についてはこれは余り好ましくない、いけないことだと思いますけれども、それを法的にどうするかというと、それはまた別問題という形になります。
○水島委員 そうすると、大臣は、青少年担当大臣というそのような立場をもっても、この児童ポルノ、子供をそういう性の対象として見るようなものとして、漫画とか疑似ポルノとかそういうものについても、何とかこれを根絶できるように工夫をしたいというふうには御発言いただけないということなんでしょうか。
○南野国務大臣 そういうことではなく、それを御議論していただきながらということで、それを加味して考えを整理していくということでございます。
○水島委員 この表現の自由と、実際に、ただ子供の権利を優先させなければいけないということについては、きちんと議論をして法的な整理が必要だと思うんですけれども、その議論を始めることができない状況にあるわけでございます。
そのときに、やはり子供の権利から考えるとこうだということ、きょう午前中に私、ノルウェーの子どもオンブードが性的虐待の加害者が保育所などで働けないようにする、その期限を五年ではなくて一生働けないようにするんだ*1というふうに子どもオンブードが意見を言ったということを御紹介しましたけれども、やはりそのような意見を言ってくださる方が必要だと思うんです。
南野大臣がそういうふうに今の児童ポルノのことについてもおっしゃっていただけないということであれば、やはり子どもオンブードというものをつくらなきゃいけないという結論になると思うんですけれども、それでよろしいんでしょうか。
○南野国務大臣 それを言っていないということではないということでございます。
○水島委員 大変わかりにくいですね。
法的にどうこうというと議論があると言って、でもそれを言っていないわけではないということなので、そういう単純な法律をつくるかどうかは別として、今すぐ法規制の対象にするかどうかは別として、何とか子供が、漫画であっても疑似ポルノであってもそういうものの対象として描かれないようにしていくために何か工夫を講じていただく、そのための努力をしていただけるということなら多分御答弁いただけると思うんですけれども、いかがですか。
○南野国務大臣 悪は悪という形に対して努力していく、行動を努力していくということは当然だと思います。
○水島委員 何かだんだん珍問答になってきてしまいましたので、ちょっと先に行きたいと思うんですけれども、そのようなお気持ちがあるということは今伺わせていただいたつもりですので、この点についてまた個別の議論のときにもう少し伺いたいと思います。
先ほど言ったように、日本は、児童ポルノに触れる機会が多ければ多いほど一部の人にとっては性犯罪に至る可能性が高くなる、そのような当たり前のデータも案外知られていなくて、どうも議論のレベルが低いように私は感じております。
先日も東京拘置所に行ってまいりましたけれども、東京拘置所では、所内で服役している既決囚の処遇類型別指導の一つとして、性犯罪者に対して異性問題教育指導というのを行っております。現場の刑務官の方の熱意には大変感銘を受けましたけれども、その内容といえば、現場の手探りで試行錯誤的に行っているという感じでございました。
カナダやヨーロッパなど性犯罪問題についての先進国では、認知行動療法を中心に行動コントロールに効果のある治療法の研究がずっと進んでいるわけでございますけれども、こうした世界の流れとは、この東京拘置所で行われていることというのは、かなり隔絶された感がございました。難しい領域だからこそ、専門的知見に裏打ちされた処遇が必要であると思っております。
例えば、そのコピンプロジェクトは、EUなどの財政支援のもと、この専門分野での世界的に主要な機関として知られ、インターポールともそのデータベースを共有しているということでございますけれども、日本は、このような国際的な活動にきちんとアクセスできているんでしょうか。
○南野国務大臣 青少年に関する施策の立案のためには、青少年の現状と問題の所在ということを的確に把握する必要があるということはもちろんであります。
委員の御指摘の研究や外国との情報交換は非常に意義が大きいものと考えておりますし、性犯罪に対する研究につきましても、青少年の育成といった観点から見た場合、青少年が加害者となる性犯罪と被害者となる性犯罪の両面があると思います。それぞれ異なるアプローチが必要になるものと考えております。そして、それぞれにつきまして、いわゆる刑事の側面からの研究、医療や環境的側面からの研究などさまざまなものが考えられ、必要に応じて担当府省で実施することが適当と思われております。
私としましても、研究や外国との情報交換の点を含めまして、関係府省の調査研究が円滑になされるよう問題意識を持って見守ってまいりたいと考えております。
なお、法務省について申し上げるならば、これまで複数回にわたりまして強姦事犯等の調査研究を行った例がございます。また現在も、職員を米国等に派遣しながら、性犯罪者に対する施策や処遇について情報の収集に努めているものと承知しており、先ほど先生がおっしゃられた類型別の処遇についてもこれから検討が進んでいきますので、そのことも申し上げておきたいんですが、エテル・クエール博士、この方の講演については法務省も協賛させていただいております。
○水島委員 ここから先、どれだけ国際的な知見を取り入れて政府が工夫してくださるかというのは、これからは法務委員会の審議になってくると思いますので、ぜひ、またそちらできちんと御披露いただきたいと思っております。

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*1:水島議員が紹介する「一生働けないようにするんだ」との意見は、日本国憲法第22条が定める職業選択の自由に違反します。日本国はもはや身分制度社会ではありません。 「第二十二条  何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。」 http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S21/S21KE000.html