NHK番組政治家介入疑惑(5):不正支出問題適正化報告書全文

 
NHKは不正経理問題に関する複数の公開情報をウェブサイト上から消去しています。
情報保全とテキスト化による保存の観点から、不正経理問題の重要文書と思われる「「芸能番組制作費不正支出問題」等に関する調査と適正化の取り組みについて」を全文転載します。
 

■NHK
「芸能番組制作費不正支出問題」等に関する調査と適正化の取り組みについて
http://www.nhk.or.jp/pr/compliance/0907.html

「芸能番組制作費不正支出問題」等に関する調査と適正化の取り組みについて
平成16年9月7日 日本放送協会
目次

はじめに
http://www.nhk.or.jp/pr/compliance/0907_1.html

1.はじめに 7月20日に関根放送総局長が記者会見し、内部調査で明らかになった放送総局所属のチーフ・プロデューサーによる「芸能番組制作費不正支出問題」について調査状況を報告しました。
23日には海老沢会長が記者会見し、職員が不祥事を起こし、公共放送NHKに対する視聴者・国民のみなさまの信頼を損ねたことについて陳謝するとともに、チーフ・プロデューサーを懲戒免職にしたのをはじめ関係者を処分し、会長自らも減給30%3か月としたことを発表しました。
この記者会見で会長は、「平成9年の会長就任以来7年間“改革と実行”“公開と参加”“向上と貢献”の3つの経営理念を掲げて聖域なき構造改革を進め、多くの職員もこれに応えてまじめに業務を行っている。そうした中で、責任ある立場の職員が公金というべき受信料を不正支出してしまったことは痛恨の極みであり、再発防止のために、業務の進め方の総点検活動を進めたい」と述べ、視聴者・国民のみなさまに対し、信頼回復のために全力をあげて取り組むことをお誓い申し上げました。
どこに問題があったのか、再発防止のために何をすべきか、NHKは、1か月余りにわたって調査を行いました。あわせて、会長を本部長とする「業務総点検実施本部」を7月26日に設置し、すべての業務にわたって経費支出の仕組み、手続きの総点検に取り組んでいます。また、職員などからの通報や相談を受ける窓口として「業務相談室」を同日設置しました。
NHKの役職員には、視聴者・国民のみなさまに奉仕する公共放送人として、高い倫理意識を持つことが求められています。NHKは、これまでも「新時代の行動ガイドライン」を策定し、新人研修をはじめあらゆる機会を通じて、職員に対し公共放送人にふさわしい行動をとるよう指導してきました。
コンプライアンス法令遵守)が、あらゆる企業にとって極めて重要な課題になっています。NHKもこれまで進んできた道をいっそう確かなものにするため、会長を長とする「コンプライアンス法令遵守)推進委員会」を9月7日に設けました。このコンプライアンス体制の整備により、風通しの良い組織作りを進めます。 さらに、こうしたNHKの取り組みを、外部の目を通して、より公正で的確なものにしていくことが必要です。そのため、弁護士、公認会計士の方々で構成する「NHK業務点検・経理適正化委員会」を8月18日に設け、さまざまな助言をいただいています。 このような取り組みを通し、会長を先頭に、高い倫理意識に裏付けられた緊張感のある組織作りを進めます。
受信料を財源とする公共放送NHKにとって、受信料の適正な使用は、ゆるがせにできない業務運営の基本です。
今回の「芸能番組制作費不正支出問題」などに対して、多くの視聴者・国民のみなさまから、電話やメールなどでお叱りやご意見をいただいています。ごく少数であっても倫理から外れた行為をする職員が出れば、日ごろニュース・番組によって営々として築き上げた視聴者・国民のみなさまからの信頼感が一挙に崩れ去る危険があることを痛感しています。
NHKは、今回の不祥事を厳しい教訓として、職員の倫理意識をさらに高め、不祥事の再発を防止し、視聴者・国民のみなさまからの信頼の回復に全力をあげることを改めて約束いたします。その第一歩として、これまでに解明できた「芸能番組制作費不正支出問題」についての事実関係を報告するとともに、再発防止に向けた改善の方向とNHKの考え方をお示しします。

「芸能番組制作費不正支出問題」等に関する調査と適正化の取り組みについて
http://www.nhk.or.jp/pr/compliance/0907_2_1.html

2. 芸能番組制作費不正支出問題 磯野いその克巳かつみチーフ・プロデューサー(47歳)は、平成9年から13年にかけて、担当していた「BSジュニアのど自慢」などの文芸委嘱料として、イベント企画会社社長(48歳)に不正な支払いを行い、その一部を返金させて飲食代などに使っていました。
NHKは、不正が明らかになった直後の7月23日、公共放送への信頼を著しく傷つけた責任は極めて重大であるとして、この職員を懲戒免職にし、真相を解明するために徹底した内部調査を進めてきました。
同時に、警視庁に告訴状を提出して、捜査に全面的に協力しています。今回の報告では、捜査に支障があるために公表を控えざるを得ない点が一部にありますが、これまでの調査で判明した内容をできる限り詳しくまとめました。
(1) 調査方法
① 調査体制 放送総局長、担当役員をはじめ、本部の編成局、番組制作局、マルチメディア局、経理局、広報局、それに労務・人事室で合同調査チームを設置し38人が調査にあたっている。
磯野元チーフ・プロデューサー(以下「元職員」という)が、かつて勤務していた大阪放送局と名古屋放送局も調査に加わっている。 2人の弁護士に専門的見地から助言、指導を受けている。
② 調査範囲 ア. 元職員本人に関わる調査 元職員が関わった番組で、現在も経理データが保存されており調査が可能であった平成6年8月以降のあわせて491本すべてを対象にした。
この491本の番組で、元職員が関わった文芸委嘱料や出演料などの放送料の支払いはあわせて4,139件で、そのすべてについて、支払い先の人物や団体が番組制作の業務にどのように関わっていたのかを、番組台本との照合や関係者からの聞き取りをして調査している。
*「放送料」
・ 放送料には、脚本・台本作成などに対して支払う「文芸委嘱料」、作詞・作曲などに対して支払う「音楽委嘱料」、出演者(演奏者を含む)に支払う「出演料」などがある。
・ このうち「文芸委嘱料」は、ドラマや芸能番組での支払いが多数を占める。
イ. 元職員以外に関わる調査 元職員が主に所属していた番組制作局芸能番組センターから支払われた文芸委嘱料について、平成8年4月以降のデータ 2万4,873件を洗い出して調査している。

http://www.nhk.or.jp/pr/compliance/0907_2_2.html

(2) これまでに判明した内容
① イベント企画会社社長への不正な支払い
ア. 概要 元職員は学生時代からの知り合いであったイベント企画会社社長に対し、自分が担当した番組で放送作家という名目で仕事をしたとして、平成9年2月28日から平成13年11月30日にかけて 88回にわたって不正な支払い手続きをした。
NHKの事情聴取に対して元職員は「番組のコーナー企画の提案を依頼するなど仕事をしてもらった」と主張したが、他の職員やスタッフらから聞き取り調査を行った結果、イベント企画会社社長が番組の仕事に全く関わっていなかったことが判明した。
イベント企画会社社長もNHKの事情聴取に対してこれを認めた。 不正な支払い額は税金を含めて4,888万6,600円で、税引き後にイベント企画会社社長の口座に振り込まれた総額は、4,374万 6,180円である。
イ. 番組名・本数と支払い額(いずれも税込み)
BSジュニアのど自慢 48本 2,144万6,800円
青春のポップス 22本 685万5,000円
紅白歌合戦 5本 613万2,000円
鶴瓶の家族に乾杯 8本 399万6,000円
ふたりのビッグショー 10本 366万4,800円
小柳ゆきコンサート 2本 105万2,000円
思い出のメロディー 1本 100万8,000円
ポップジャム 2本 76万0,000円
わが心の大阪メロディー 1本 75万6,000円
復活アリスファイナル 1本 62万4,000円
服部克久コンサート 1本 57万6,000円
復活!ゴダイゴコンサート 1本 57万6,000円
しぶやミックステレビ 1本 57万6,000円
日本ゴールドディスク大賞 1本 50万4,000円
天童よしみの人生劇場 1本 36万0,000円
(今回の問題は番組出演者の方々とは全く関係がありません)
ウ. 元職員へのキックバック
元職員とイベント企画会社社長は、NHKの事情聴取に対して、不正な支払いの一部がイベント企画会社社長から元職員にキックバックされていたことをいずれも認めた。
イベント企画会社社長から元職員の銀行口座への振込みは、平成12年10月から平成13年10月までの10回で937万円だが、それ以前は手渡しだったと見られ、キックバックの総額は特定できていない。
エ. キックバックさせた金の使途 元職員はキックバックさせた金について「多い時は週に2〜3回、業界の仕事仲間や職場の若手を連れて深夜から未明まで遊んだ」「仕事に関わりのあるものだった」と言っている。
NHKの任意の調査には限界があるので、キックバックさせた金の使途の解明については警視庁の捜査に委ねたい。
② 元職員の不正の手口 元職員は、どのような手口で不正を繰り返したかについて、NHKの事情聴取に対し「よく覚えていない」として、詳しい説明をしていない。しかし、関係者からの聞き取りと経理データや伝票の分析から以下のような可能性が高いと見られる。
ア. 放送作家登録
元職員は、NHKでは放送作家としての実績がなかった知り合いのイベント企画会社社長を、平成9年2月頃、NHKの著作権データベースに放送作家として登録し、文芸委嘱料の支払いを可能にした。
イ. 文芸委嘱料の支払いの流れ 文芸委嘱料支払いの通常の流れは、まず番組担当デスクが放送作家の仕事の内容をコンピューターに入力することによって支払い金額を決める。これを支払い請求という。
次に、番組担当チーフ・プロデューサーが、部下であるデスクが入力した内容に間違いがないかを確認して、請求を正式に決定する。これを支払い請求決定という。
デスクかチーフ・プロデューサーのどちらか一人だけでは支払い請求から決定までを行うことができない、いわゆるダブルチェックが必要なシステムになっている。
ウ. チーフ・プロデューサーの権限の悪用 元職員は、チーフ・プロデューサーに与えられている代理請求という手法を悪用した疑いが強いと見られる。
代理請求は、チーフ・プロデューサー本人の職員カードと暗証番号で放送料支払いシステムに接続し、その中の代理請求の項目を選択すると、番組担当デスクの名前で支払い請求をすることができるものである。
放送料の支払い請求は、本来デスクが行うが、ロケや出張などで長期間職場を離れる場合もあり、その処理ができないこともある。代理請求は、それに備えて、チーフ・プロデューサーの責任で支払い請求をすることができるように、あらかじめシステムに設定されているものである。
元職員はこれを悪用して、まず代理請求でデスクの名前での支払い請求をしたうえで、その後、自分で支払い請求決定をしていた疑いがある。
③ その他の放送作家への支払い
ア. 放送作家への支払い 元職員が関わり、今回調査可能であった491本の番組で、元職員は、あわせて54人に文芸委嘱料を支払っている。このためイベント企画会社社長以外への支払いに不正がなかったかを確認するため、この54人全員の業務実態を調査している。
イ. 「BSジュニアのど自慢」の場合 このうち、今回不正が発覚したきっかけとなり、不正に支払われた金額が最も多い「BSジュニアのど自慢」で、放送作家として元職員から支払いを受けていたのは5人である。イベント企画会社社長や関係者に対する調査から、このイベント企画会社社長には業務実態がなかったことが判明している。残る4人(A・B・C・D)の調査結果は以下のとおりである。
A 台本に名前が載っている。
実際に台本を書き、各地で行われる放送前日の予選に立ち会って、本番までに司会者コメントを作成する業務をしていた。
番組担当者全員が業務の実態を知っていた。
B 台本には名前がないが、ゲスト歌手の出演交渉をしていた。
番組担当者全員が業務の実態を知っていた。
C 台本には名前がない。
元職員は、Cについて各地のカラオケ教室、ダンススクール、タレントスクールの数や状況、民間放送のコンテスト情報、他の番組提案のための企画書作成などのリサーチ業務を依頼していたと主張しており、Cも同様のことを述べている。
元職員以外の番組担当者の中には、Cが、番組の立ち上げ時点では、ゲスト歌手の送迎や予選出場者の選定などの業務に若干関与していたかもしれないと証言する者がいるが、その後は、番組に関わる業務をしていたかどうか明らかでない。
D 台本に名前がない。
元職員は、Dについて「BSジュニアのど自慢」に直接関与する業務はしていなかったが、新しい番組の企画や提案を依頼しており、その対価として支払ったと主張している。
Dは「記憶がなく当時の資料も残っていない」と答えている。
Dがどのような業務を行っていたか、元職員以外の番組担当者で知っている者はいない。
紅白歌合戦での過払い問題
ア. 概要 平成11年の紅白歌合戦に出演したバンドが所属する音楽事務所に対し、翌年の平成12年2月から3月にかけて放送料が支払われた際に、出演料を税金を含めて745万5,000円払いすぎていたことが、今回の調査で明らかになった。
イ. 元職員の関与 元職員は当時、紅白歌合戦の事務局チーフ・プロデューサーで、放送料などの支払いに関する経理処理の責任者をしていた。元職員の部下として、当時、事務局デスクを担当していた職員は、音楽事務所のバンドの出演者数が前年より少なく、支払い額は減るはずであったにもかかわらず、「元職員から『音楽事務所への支払いは去年の紅白歌合戦並みにするように』という指示を受けた。事務局デスクをしたのは初めてだったので指示に従った」と証言している。
これについて元職員は「よく覚えていない」としか言っておらず、なぜ過払いが行われたのか、これまでの調査では明らかになっていない。
ウ. 音楽事務所社長の対応 当時の対応について音楽事務所社長は、「平成12年3月にNHKからの振込額が多すぎることに気づいて返そうとしたところ、元職員から『現金で持ってきて欲しい』と言われた。しかし、元職員が預かり証を書いてくれなかったので渡さなかった」と話している。そして、NHKから要請があれば金を返却したいとしている。
NHKとしては、警視庁による捜査の状況などを見極めながら、返却を求める考えである。
エ. 元職員と音楽事務所社長のその他の関わり 元職員との関わりについて音楽事務所社長は、上記の他に「元職員から『金に困っている』と言われ、個人的に金を貸したことがあった」と話している。

http://www.nhk.or.jp/pr/compliance/0907_2_3.html

(3) 3年前の対応
① 後任者からの指摘 平成13年6月、元職員のあとを引き継いで「BSジュニアのど自慢」のチーフ・プロデューサーになった職員は、番組の経費が予定額を超過する赤字体質を解消しようと、元職員が担当していた6月以前の経理状況を調べたところ、業務の実態が把握できない2人の放送作家への支払いに気づいた。1人はイベント企画会社社長で、もう1人は、(2)③イ.のCの人物であった。
さらに、元職員が音楽事務所の社長から現金を受け取ったことがあるという噂を、芸能番組部の職員から聞き込んだため、平成13年 12月中旬頃、この2つのことを当時の庶務担当チーフ・プロデューサーに報告した。報告はさらに、庶務担当チーフ・プロデューサーから当時の芸能番組部長に伝えられたが、2人は、このうちの音楽事務所をめぐる噂の方が重大な問題だと受け止めて対応した。
② 芸能番組部長らの対応
ア. 音楽事務所社長への対応
当時の芸能番組部長と庶務担当チーフ・プロデューサーは、元職員が音楽事務所社長から現金を受け取っていたという噂の真偽を、平成13年暮れか平成14年1月頃、音楽事務所社長に聞いた。
音楽事務所社長は「元職員に個人的に金を貸しているが、まだ返済されておらず借用書も受け取っていない」と答えた。
これを受けて芸能番組部長らは、平成14年1月下旬頃、元職員を転勤先の大阪放送局から呼び出して厳しく注意し、返済するように指示した。
元職員はその後、音楽事務所社長の銀行口座に振り込んで返済した。
イ. 「BSジュニアのど自慢」の放送作家への対応
庶務担当チーフ・プロデューサーは、元職員を呼び出した際に、「BSジュニアのど自慢」で業務の実態が把握できない放送作家への支払いが繰り返されていたことについても問いただした。
元職員は「イベント企画会社社長には『BSジュニアのど自慢』のコーナー企画の提案やリサーチなどの仕事を依頼した。もう1人も、番組の収録をする地域のカラオケ教室やタレントスクールのリサーチなどを依頼した」と主張した。
これを信用した庶務担当チーフ・プロデューサーは「リサーチ業務なら放送料ではなく役務費として支払うべきで、適正な経理処理をするように」と元職員を指導、注意し、芸能番組部長に報告した。
しかし芸能番組部長と庶務担当チーフ・プロデューサーは、その奥に不正が潜んでいることには気づかなかった。赤字を解消したことで問題が解決したと考えたもので、「不正を知りながら隠蔽しようとしたものでは決してない」としている。
NHKは、管理監督責任者として重大な職務怠慢があったとして、7月23日付けで、当時の芸能番組部長と庶務担当チーフ・プロデューサーに対し、それぞれ停職6か月と出勤停止7日の懲戒処分を行うとともに、現職であった芸能番組センター長、歌謡・演芸番組部長を解職した。

http://www.nhk.or.jp/pr/compliance/0907_2_4.html

(4)その他の調査
① 名古屋放送局
元職員が平成2年7月から平成6年7月まで勤務していた名古屋放送局でも調査を行っている。これまでに、平成5年12月に元職員が、番組出演者の旅費として8万2,800円を不正に受け取ったことがあり、当時全額を戻入させたうえで職場の上司が注意したことがあったことがわかった。調査は継続して行っている。
大阪放送局
元職員は大阪放送局に転勤した後も、それまでと同じ手口で、あわせて3回、イベント企画会社社長に対して税金を含めて174万円の不正な支払いをしていたことがわかっている。この3回分は、(2)①アの88回に含まれている。
元職員が大阪放送局でその他に不正をしていなかったか、調査を継続している。
③ 元職員以外による文芸委嘱料の不正経理の有無
文芸委嘱料の支払いが多い番組制作局芸能番組センターから、平成8年4月以降に支払われた文芸委嘱料あわせて2万4,873件を対象に、番組台本と照合したり担当者からの聞き取りをしたりして、業務実態があったかどうかを調査している。これまでのところ元職員以外による文芸委嘱料の不正経理は見つかっていない。

http://www.nhk.or.jp/pr/compliance/0907_2_5.html

(5)今後の方針
① 今後の調査
NHKのこれまでの調査で、イベント企画会社社長への不正な支払いは、税金を含めて4,888万6,600円である。他にも元職員の関係で不正がないかどうかを調べているが、NHKの任意の調査には限界があり、全面的な解明を進めるために、警視庁に対してこうした支払い状況についても詳しく説明し、捜査に協力している。
② 不正支払いによる被害の弁済
NHKの事情聴取に対して、元職員は弁済の意思を明らかにしている。NHKとしても、元職員やイベント企画会社社長に対して被害の弁済を求める考えであり、今後、警視庁による捜査の状況などを見極めながら具体的な対応を決めていく方針である。

http://www.nhk.or.jp/pr/compliance/0907_2_6.html

(6)明らかになった問題点とそれに対する適正化施策
平成9年から平成13年まで、4年間にわたり88回続けられていた文芸委嘱料の不正な支払いは、その途中で発覚しませんでした。
番組制作費の着服はなぜ防げなかったのか。
今回の芸能番組制作費不正支出に関して、いくつかの問題点が明らかになりました。これらに対しては、すみやかに適正化施策を実施し、再発の防止に努めます。
① 責任ある立場のチーフ・プロデューサーの不正
最大の問題は、放送現場で部下を指導・監督する立場にあるチーフ・プロデューサーが不正を行ったことです。
チーフ・プロデューサーは、放送番組の企画から取材、制作、そして完成に至るまで、担当番組の制作に関する現場責任者です。さらに番組制作に関わる経費の支払い請求の決定権を持っています。そうした責任ある役職にあり、本来不正を未然に防ぐべき立場にある者が、与えられた権限を使い不正を行ったことを、重大かつ深刻に受け止めています。
公共放送に働く者としての倫理・公金意識が欠落していたことが、今回の不正経理の大きな原因です。
【適正化施策】
責任体制および研修の強化
〇 各番組部の部長は、番組制作に関するあらゆる業務について、番組担当のチーフ・プロデューサーを管理監督し、業務を円滑に進めていく責任があります。
放送料など重要な支払い請求については、これまでチーフ・プロデューサーの権限だったものを改め、今後は、チーフ・プロデューサーの確認を経たうえで、最終的に部長が決定を行うこととし、責任体制を強化します。
〇 チーフ・プロデューサーや副部長などの中堅管理職に対しては、職場の中核にふさわしい責任感と、指導・監督能力を持たせるため、新たに経理処理に関する具体的な事例を題材とした実践的な研修を実施します。
〇 貴重な受信料の重みを認識するため、初心に立ちかえって全職員に対する研修のあり方を見直します。実際に受信料契約や収納を行う営業現場研修を拡充し、このことを通じて、高い倫理・公金意識をもった職員の育成に取り組みます。
② 業務実態を把握しにくい放送作家への支払い
経理処理において、放送作家の人選と文芸委嘱料支払いのルールの中に、職員が不正を行う余地がありました。
放送作家の業務は、本来、ドラマの脚本や芸能番組の構成台本の執筆、クイズやコントの創作などでした。しかし、番組の制作形態が多様化するのに伴い、情報収集やアイデアの提供、出演交渉など多種多様な業務までを文芸委嘱料の対象としてきました。
そのため、放送作家の定義や業務範囲があいまいとなり、台本などの成果物が残るドラマの脚本執筆や芸能番組の構成業務などを除いて、放送現場の担当者以外には、放送作家の業務実態を把握しにくく、実際の業務に見合った支払い額なのかどうか、確認が難しい構造になっていました。
このことが、今回の不正支出を引き起こした原因のひとつだと考えます。
【適正化施策】
ア.放送作家の人選および報酬の支払い手続きを厳格に運用
放送作家としての業務は、脚本や構成台本の執筆など成果物が残るものに限定します。また、情報収集やアイデアの提供など役務的な業務は文芸委嘱料の対象から明確に切り離し、役務費として支払うよう徹底します。
放送作家に業務を依頼する際には、契約・発注・請求書類の整備をさらに徹底します。また、台本など成果物の確認もいっそう厳格に行います。
成果物の残らない情報収集やアイデア提供などの役務的な業務についても、放送作家と同様に契約・発注・請求書類を整備します。そして、NHKの発注担当者と情報収集やアイデア提供などの業務を行う相手それぞれに対して、実施した業務の具体的内容や実施日時などを記した業務報告書の作成を新たに義務づけ、その内容を確認した上で、請求に基づく支払いを行うよう、手続きを改めます。
〇 これまで、どの放送作家を起用するかは、放送現場の判断に任されてきました。今後、放送作家を起用するにあたっては、業務の必要性や起用することの適正性などに関して、新たに各部局長による事前審査を行い、そのうえで、放送総局内に新設する「放送作家等審査委員会」(放送総局長が座長)において厳正な審査を行って決定することに改めます。
〇 また、「放送作家等審査委員会」は、放送作家への支払い状況を3か月ごとに調査し、不適切な支払いが行われていないかをチェックします。
イ.取引全般における契約手続きのさらなる適正化
〇 番組制作だけでなくNHKのすべての業務において、外部と取引を行うにあたっては、契約書の作成などの契約手続きをいっそう厳格なものとし、取引の透明性・公正性の確保に努めます。
③ 放送料の「代理請求」システム
放送料の代理請求というシステムにも問題がありました。これは、担当のディレクターが出張などの理由から、放送料を請求できないとき、上司が本人に代って、本人の名前を使って請求するものです。そうして請求したものは同じ上司が決定できることになっています。今回はこのシステムの悪用が不正な経理処理につながったと思われます。
【適正化施策】 放送料支払いシステムの改修
〇 不正な経理処理に悪用されたと思われる放送料の代理請求の制度を廃止し、同一人が請求とその決定をあわせて行うことができないよう、放送料支払いシステムを改修します。
また、本人になりすました請求を防止するため、一定期間内でのパスワード変更を義務づけ、またパスワードの厳重な管理を徹底するなど、システムへのアクセス権の管理をいっそう厳格に行います。
経理審査・監査体制の課題
放送現場での「請求・決定」、経理での「審査・決定」という一連の経理処理手続きの中で、これまで経理審査は、証ひょうと金額の照合にとどまる面もありました。今後は、番組制作の業務内容にさらに踏み込んだ審査を行うことが課題です。
【適正化施策】
ア. 審査体制の強化
〇 放送総局内の主な番組制作部局に審査担当管理職を新たに配置し、業務実態を的確に把握した厳格な審査を行えるよう体制を強化します。
〇 放送業務内容の実態に精通した経理担当者を育成し、実効性の高い審査体制の構築をめざします。
〇 プロデューサーや記者など放送現場で働く職員に対しても、経理処理の指導・監督を行えるよう人材育成を図ります。
イ. 監査体制の強化
〇 新たに監査室に専任チームを設け、外部の専門家と連携しながら、予算規模の大きな番組などを対象に、随時、機動的・集中的に監査を実施できる体制とし、不正経理やずさんで不適切な経理処理のさらなる防止、発見の観点からの監査を強化します。

3. その他の問題
http://www.nhk.or.jp/pr/compliance/0907_3_1.html

3. その他の問題
芸能番組制作費不正支出問題が明らかになった後、過去に起きたさまざまな問題が報道され、改めて調査しました。
(1)ソウル支局長のずさんな経費精算問題
① 事案の概要
平成5年7月から平成9年6月にかけてソウル支局に勤務していた当時のソウル支局長は、この間、本部の報道局に月ごとの会計報告をした際に、外部プロダクションに領収書の額を実際より多めに書かせて、支局の取材活動費などの経費を精算していた。経費の使途について、私的な流用はなく、取材活動に使われていたと認定し、当時の報道局長は「経理処理が不適切だった」として厳重注意した。
② 前回の調査
当時の支局長の経理処理の不適切さについて、後任者からの指摘を受けた報道局が調査を始め、担当者がソウルに赴いて外部プロダクションの社長らから事情を聴くとともに、プロダクション側から提出された請求書の写しなどを収集した。
その請求書の写しと報道局総務部に保存されていた経理資料を照合した結果、当時の支局長は、実際の支払い額より多めの額の領収書を、外部プロダクションの社長に書いてもらっていたことがわかった。
裏付け資料として当時プロダクション側から提出された29か月分の伝票から、不適切な経理処理の額は、一か月に60万円から210万円程度であり、足し上げると4,399万7,120円(1ウォン=0.13円で換算)になることがわかった。平成5年7月から平成9年6月までの総額を確定することはできなかった。
当時ソウル支局では、北朝鮮の核開発疑惑の浮上と南北関係の極度の緊張、北朝鮮のキム・イルソン主席の死去、ノ・テウ元大統領とチョン・ドゥホアン元大統領の逮捕など重大なニュースが相次ぎ、極めて厳しい情勢の中で取材や番組制作活動が行われていた。
そうした状況の中での当時のソウル支局長の取材状況の調査、当時の支局員や外部の関係者などからの聞き取り調査、さらに支局長個人の銀行口座の出入金記録の調査などを行った。調べに対し、元支局長は、「取材先との関係で、領収書を受け取れないことがあった。経理の仕方をよく把握していなかったうえ、業務に忙殺されて精算が面倒だった」と説明したうえ、「公金であるという意識を欠いた全くずさんな処理であった」と認めた。
こうした調査内容から、私的な流用はなかったと判断したが、極めてずさんな経理処理の実態が明らかになった。
調査報告を受けた当時の報道局長は、「経理処理が不適切であった」として、当時の支局長に対し、平成9年10月24日に厳重注意した。
また、前任者についても、年間に2〜3回同様の不適切な経理処理をしていたことを本人が認めたため、同日、報道局長が注意した。
③ 今回の調査結果
報道局の調査から7年経った今年7月、当時の支局長を現在の赴任先のソウルから呼び寄せ、改めて調査を行った。この調査によって、新たな事実は見つからなかった。

http://www.nhk.or.jp/pr/compliance/0907_3_2.html

(2)宇宙新時代プロジェクト“カラ出張”問題
① 事案の概要と前回の調査
平成13年4月、「宇宙新時代プロジェクト」の職員がカラ出張をしているのではないかという内部からの指摘があった。
出張伝票などの調査で疑いが濃厚になったため、2人から事情聴取したところ、2人は、「私的流用はなかった」と説明したものの、カラ出張の事実を認めた。カラ出張で得た金は、「機密性の高い宇宙関係情報を収集するための取材などに使った」と述べている。
カラ出張と認定したのは、以下の件数と金額である。
・エグゼクティブ・プロデューサー
平成10年4月から13年2月にかけ21件121万9,760円
・チーフ・プロデューサー
平成11年6月から13年2月にかけ24件195万940円
当時の放送総局長は、平成13年5月24日、「取材活動のためとはいえ、出張経費を不正に請求し流用することは、職員として断じてあってはならない行為である」として、厳重注意し、全額を戻入させた。
さらに、同年6月の人事異動で2人の配置転換を行った。
② 今回の調査
今回の報道を受けて、当時の調査資料を再点検するとともに、当時の関係者などから改めて聞き取りを行った。その結果、前回の調査内容が確認された。

「芸能番組制作費不正支出問題」等に関する調査と適正化の取り組みについて
http://www.nhk.or.jp/pr/compliance/0907_3_3.html

(3)岡山放送不正経理問題
① 事案の概要
平成10年、岡山放送局で当時の局長らが、放送部長の不正経理を把握しながら、金を全額返したことで、責任は不問に付し、本部への報告をしなかった。
② 事実経過
平成8年2月から9年12月にかけて、当時の岡山放送局の放送部長が、実在しない2軒の飲食店の請求書によって、40回以上にわたって業務打合せなどの伝票を起こし、経理に回して90万円を不正に支出させていた。
このことは平成10年5月、局内の不正告発の訴えなどから発覚し、放送部長は不正を認めて90万円を返還した。
しかし、当時の局長らは、管理職異動を半月後に控えて、自分たちで決着したいなどと考え、この事実を伏せ、放送部長の責任を不問に付した。返済された90万円は、正規に経理処理をすると事実が明らかになるため、備前焼の壷の購入に充てられ、壷は岡山放送局の備品とした。
平成11年3月、前年に着任した新局長が、不正があったとの話を耳にし、証ひょう類を調査させるなどした結果、事実がわかった。
責任審査が行われ、放送部長は懲戒免職、局長ら対応に関わった当時の局幹部3人は、不正を報告せず適切に対処しなかったことから、出勤停止7日〜2日の懲戒処分を受けた。
当時の局長は壷を購入した代金の90万円を返金し、岡山放送局の雑収入として収納された。

http://www.nhk.or.jp/pr/compliance/0907_3_4.html

(4)甲府放送局備品盗難問題
① 事案の概要
平成14年2月から15年3月にかけて、甲府放送局で備品や私物が相次いで紛失した。 平成15年1月、当時の甲府放送局職員(ディレクター)が、他の職員の私物であるデジタルビデオカメラをインターネットオークションで売ったという情報が寄せられ、事情を聴いたところ、この職員は「一時的に同居していた友人がやったと思われる」と関与を否定した。
職員は同年3月に「一身上の都合」で依願退職し、友人の代わりにと、ビデオカメラの代金35万円を弁済した。
しかし、その過程で局の備品も紛失していることが判明。その一部について、同じ職員名義でインターネットオークションで同型のものが販売されていたことがわかったが、甲府放送局は調査を打ち切り、本部に適切な報告をしなかった。
② 再調査と被害届
インターネットオークションでビデオカメラを購入した男性から事情を聴いた結果、代金の振込先は元職員の銀行口座だったことが今回判明した。元職員からも再度事情を聴いたが、元職員は改めて関与を否定した。
いずれにせよ、備品や私物は盗難にあった可能性が強いことがわかり、NHKは甲府警察署に被害届を提出した。
備品盗難の調査を不十分なまま終えていたうえ、本部に適切な報告をしなかったことについて、今回、放送総局の地域放送担当の副総局長が、当時の放送部長を厳重注意し、NHKを退職し子会社に勤務している当時の放送局長については子会社の社長から厳重注意した。

5.おわりに
http://www.nhk.or.jp/pr/compliance/0907_5.html

5.おわりに
視聴者・国民のみなさまの信頼や期待に応え、正確で迅速なニュースや質が高く心を豊かにする番組の放送に取り組むことが、公共放送NHKの使命です。そのためには、編集の自由が何よりも大切で、それを支えるのが職員の高い倫理意識であることに改めて思いを致しています。
視聴者・国民のみなさまに奉仕する公共放送NHKとして、みなさまから寄せられる信頼や期待の上におごりや甘えが生まれていなかったのかを見つめ直します。
“改革と実行”“公開と参加”“向上と貢献”に引き続き取り組み、その実をいっそう上げるため、コンプライアンス活動に取り組みます。
会長が先頭に立ち、「コンプライアンス法令遵守)推進委員会」の設置を中核とした体制を整備し、「NHK業務点検・経理適正化委員会」など外部の専門家の意見を十分に踏まえて、経理をはじめとするすべての業務の適正化を推進していきます。
この報告書は、信頼回復に向けたNHKの取り組みの始まりです。一から出直す覚悟で、真摯に取り組んでまいります。
今後とも、みなさまのご意見を伺いながら、課題や問題点が明らかになれば、そのつど、適正化施策を講じていきます。
NHKは、今一度視聴者・国民のみなさま一人ひとりからいただいている受信料の重みを認識し、緊張感を持ち不断の努力を積み重ねて、視聴者・国民のみなさまの信頼を確かなものにしたいと考えています。

 
この問題の過去ログはこちら。
 

NHK受信料横領問題(1)
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20040914
NHK受信料横領問題(2)
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20040915
NHK受信料横領問題(3)
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20040916
NHK受信料横領問題(4)
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20040917
NHK受信料横領問題(5)
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20041126
NHK不祥事:生活ほっとモーニング事件最高裁判決
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20041127
NHK受信料横領問題(6)
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20041220
NHK受信料横領問題(7)
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20041222
NHK番組政治家介入疑惑(1):長井記者会見
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20050114
NHK番組政治家介入疑惑(2):長井記者会見(その2)
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20050115
NHK番組政治家介入疑惑(3):各新聞社社説のまとめ
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20050116

 
関連リンク
 

NHK不祥事カテゴリー
http://dailynews.yahoo.co.jp/fc/domestic/nhk/
MAMO’s 日録メモ風の更新情報
http://www.aa.alpha-net.ne.jp/mamos/whatsnew.html
NHKに政治介入。政府高官が圧力・干渉、番組内容を改変。受信料問題に影響も。ETV「裁かれた戦時性暴力」で
http://www.aa.alpha-net.ne.jp/mamos/tv/nhk2.html
NHK「女性戦犯国際法廷」番組改竄問題・私家版
http://postx.at.infoseek.co.jp/NHK-kaizan/top.html
NHK「問われる戦時性暴力」改変箇所・判明分
『世界』2001年5月号・高橋哲哉「何が直前に消されたか NHK「問われる戦時性暴力」改変を考える」より
http://postx.at.infoseek.co.jp/NHK-kaizan/takahasi.html

───────────