ミーガン法メモ

 
たとえばあなたの上司があなたの昔の仕事のミスを何度もなんども蒸し返し「だっておまえあのとき迷惑かけたじゃないか! だからオレの言う事を聞け!」と何十年も言われつづけたらどんな気持ちになりますか? 「そんなのもう終わったことじゃないか。いい加減にしろよ」と思うんじゃないでしょうか。
問題の決着がいちどついたら、もうそのことを追求せず二度と触れないというルールは、社会と人間関係を安定させます。このことを、法律の世界では「一時不再理」と言って、日本国憲法第39条にも規定があります。
さて、昨今話題のミーガン法ですが、服役して刑の執行を終えた人に対しさらに不利益処分をくだすというのは、「一時不再理」に反していることになりそうです。懲役1年で刑を終えた人が「おまえは罪を犯した」とまた逮捕して刑務所にもう一年とじこめるようなことはできません。それなら最初から懲役2年の刑を言い渡せばいいだけのことです。
ミーガン法の場合、法律ができた後に、法律ができる以前の罪について不利益処分を下すことにもなりますので、憲法39条にある「遡及処罰の禁止」にも反することにもなりそうです。
 

日本国憲法
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S21/S21KE000.html

第三十九条  何人も、実行の時に適法であつた行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問はれない。又、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問はれない。

 
アメリカでもイギリスでも遡及法であり一時不再理に反するという批判があったはずですが、そういう批判はテレビで見たことが無いですね。政治家やメディア関係者が人気とりのためだけにミーガン法ミーガン法とさわいでいるだけではないですか。
 

ミーガン法の研究 太田和敬
http://www.bunkyo.ac.jp/faculty/lib/klib/kiyo/hum/h21/h2105.pdf

反対論の多くが、性犯罪者の再生*1の機会を奪うという理由である。*2そして、90%が再生しないというのはおかしい、きちんとした治療プログラムを受けた者は、5%のみが再生しておらず、ミーガン法よりも、そうした治療プログラムを受けさせることの方が大切である。*3
また、反対論の有力なものは、家族などの本人以外の者が被害を受けるという理由であ
る。(puzzledenon f)そして、15歳のときにレイプして22カ月の刑期を終えていた自分の婚約者が、ミーガン法の対象者になって、大げさにチラシなどで中傷されたという意見もある。*4
また、反対論として、実効性がないことをあげる者もいる。性犯罪の多くは、家族、友人、隣人によって実行されており、新しく移住した人によるものは少ないのであるから、移住者を登録、情報開示しても、リアリティがない、というのである。*5この認識は、なぜ、ミーガン法が制定されたかというと、それは政治家の都合であるという批判もある。
暴力犯は1980年から92年にかけて、48.2%の再犯から、28.5%に減少しているのに、ドラッグ関係は、6.8%から30.5%へと上昇している。ミーガン法の方向が、現実に求められているのではないとする。*6

 
テレビ番組に犯罪統計のズサンな報道があるらしいです。
 

http://umetarou.sakura.ne.jp/diary/?date=20050102
http://umetarou.sakura.ne.jp/diary/?date=20050104
http://umetarou.sakura.ne.jp/diary/?date=20050105
http://umetarou.sakura.ne.jp/diary/?date=20050106
再犯者率関連まとめ
マスコミによる再犯率関連報道の問題点
http://umetarou.sakura.ne.jp/diary/?date=20050107

[1]再犯率再犯者率の混同
検挙者中に、再犯者が占める割合を表す「再犯者率」と、前科のあるものが再び犯罪を犯す確率を表す「再犯率」とは意味が異なる。報道に使用されたデータは再犯者率ばかりだったが、これを再犯率と誤認しているケースが目立った。
[2]罪種を絞り込んでいない再犯者率データの使用
報道各社が警察資料を基に算出した「41%」や「50%超」と言う再犯者率の値は、「検挙者中に何らかの前歴を持つ者の割合」であるが、この中には性犯罪以外(例えば万引き等)の前科も全て含んでしまっている為、「過去に性犯罪に手を染めた人間は、再び性犯罪を犯しがちである※」という文脈で用いるのは、極めて不適当である。
このような文脈で再犯者率(又は再犯率)のデータ使用する場合、同一罪種での(又は関連罪種に絞った)再犯者率(又は再犯率)のデータを用いる必要がある。
※今回の奈良事件を受けての一連の報道で使用された再犯率再犯者率に関する数値は、原則的に「和製ミーガン法について、考える時期に来ているのでは?」という文脈上で提示されている。
[3]強姦と強制わいせつの、同一罪種の再犯者率
平成15年の場合、同一罪種の再犯者率が比較的高いのは、傷害(20.6%)、恐喝(20.1%)、詐欺(19.8%)、窃盗(18.6%)等であり、強姦(8.9%)や、強制わいせつ(11.5%)、強姦+強制わいせつ(10.6%)は、他と比べて決して高い再犯者率とは言えない。にも拘らず、性犯罪者の再犯者率がことさら高いような報道をする事は、問題がある。

http://deadletter.hmc5.com/blog/archives/000085.html
http://d.hatena.ne.jp/rna/20040608
http://d.hatena.ne.jp/rna/20041231
http://d.hatena.ne.jp/rna/20050107
http://macska.org/index.php?p=2
http://sheepman.parfait.ne.jp/20050107.html
http://d.hatena.ne.jp/hotsuma/20050108#p1
http://d.hatena.ne.jp/hotsuma/20050107#p3

 
1月8日のフジテレビのワッツ!?ニッポンというワイドショーで、再犯率(再犯者率)について情報が提供されていましたが、「海外の統計ではどこも70%です」とかメチャクチャのことを言っていました。もちろんソースは無し。
再犯者率70%を超える国って本当にあるんでしょうか? 知っている人がいましたらソースを添えて教えてください。
 

ミーガン法のまとめ @ macska dot org
http://macska.org/meg/

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*1:法務行政では「更生」と言います。

*2:Steven Martin Cohen 'Megan's Law: Admission of Failure' http://www.pessedoff/cig-pissefoff/hn/get/forums/megan.html

*3:bannaj2@aol.com 'I agree' http://www.pessedoff/cig-pissefoff/hn/get/forums/5html 10 Cathy 'Megan's Law or the Scarlet Letter'

*4: Cathy 'Megan's Law or the Scarlet Letter' http://www.pessedoff/cig-pissefoff/hn/get/forums/16html

*5:Lauren Whitmore 'Megan's Law was a rushed piece of legislationNT' http://www.pessedoff/cig-pissefoff/hn/get/forums/megan/9/1html

*6:The Libertaian Party 'Lebertarians ask : Will Megan's Law protect politicians -- or our children?' http://www.lp.org/rel/970829-Megan.html ワシントンでは、ミーガン法が発行したが、4週間で、誰も登録がなされず、行政当局も、そんな法は知らないと述べていたとされる。こうした実効性の弱さは、予算措置が十分になされていないことも原因であるとされる。'Megan's Law Others Languish in D.C.' Washington Post 1997.6.30