戦時人権制限法による戦時下の放送報道管制

■[国会]戦時人権制限法案(自称「国民保護法案」)による戦時下の放送報道管制

4月21、衆議院武力攻撃事態特別委員会で審議されている戦時人権制限法案(武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律案=自称「国民保護法案」)の審議より、渡辺周議員(民主党)質疑の報道機関に関する部分を抜粋して転載します。

衆議院
第159回国会 武力攻撃事態等への対処に関する特別委員会 第6号(平成16年4月21日(水曜日))
http://www.shugiin.go.jp/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/013415920040421006.htm

渡辺周
総務大臣         麻生太郎
国務大臣(事態対処法制担当)   井上喜一

○渡辺(周)委員 民主党の渡辺でございます。
・・・・
私もかつては、わずか短い間ですが、報道機関に籍を置いたことがございます。最近、戦時下のメディアについていろいろと読みました。特に、今イラクに行っている自衛隊取材に対して日本の報道機関と例えば防衛庁の間でどういうやりとりが行われたのか、あるいは九・一一以降の、あるいはそれにさかのぼること湾岸戦争からの、メディアと国防省なりオペレーションをするところとさまざまな制約があり、報道の自由といわゆる軍事上の機密と、作戦遂行における障害になってはならない、そういうさまざまな交渉の葛藤のようなものも随分読んだんです。
その中で、この中にあるのが、当初は事前協議というものを本来するという中でこれが撤回された、ただしかし、指定公共機関が作成する計画に対しては報道機関については首相は助言を行うことができる、あるいは地方の指定公共機関においては都道府県知事が助言をすることがここで書き込まれているわけでありますけれども、そもそも助言というのはどういうことなのか、その点についてお尋ねをしたいと思います。
○井上国務大臣 助言といいますのは、最近は横文字でよく言うようになってきておりますけれども、いわゆるアドバイスなんですね。助言をすることによって、何か有益な、参考になるようなことがある場合にそれを教えてあげる、これが助言ということでございます。
確かに、最初は、業務計画につきまして、国の方との協議の規定が入っていたわけですね。これにつきまして、放送関係者の方とも私はお話ししましたけれども、非常に統制的な色彩が濃くなるおそれもあるということで余り賛成をされなかったのでありまして、当初からそんな統制をしていくというような考えはなかったのでありますけれども、その意向を受けまして、業務計画を報告していただく、こういうことになったわけであります。
業務計画は、御承知のとおり、それぞれの指定公共機関、放送機関でありましたら放送機関がつくって出していただくものでございます。ですから、これは会社によりまして大分違うと思うんですね。別にこういうものをつくりなさいとかという強制をするものではありませんから、必要な事項だけを放送していただきたいということですから、このつくり方自身については非常に差があると我々は思っておりまして、それを統一するような意向もありませんし、そういう場合に、例えば、出された業務計画を見まして、ほかの社はこんなことまで書いていますよ、これは業務計画を実行する場合に非常に参考になりますよというようなことを申し上げるということです。
そのことによって業務計画を変更するとかというようなことを考えておりません。あくまで業務計画の実施に参考になるようなことを申し上げる、こういうことでありまして、強制でも何でもないんです。参考になればそれを参考にしていただきたい、こういうことであります。
○渡辺(周)委員 それは、各報道機関が、これまでの経験あるいはこれまでの検証、こうした有事報道でありますと過去の諸外国の有事における報道、さまざまなことを検証して、当然その自主性と、何よりも大前提は国民の知る権利と報道の自由、それのもとで、あわせて国益ということを考えて、先ほど国家と国民は対立するものだろうかという森岡委員の指摘がありましたが、私は、そうした国家の存亡の危機に立ったときに国益を損ねるような報道機関というのは我が国の報道機関であればないんだろう、当然そのように思っているわけです。
ただ、他国のいろいろな例を見ますと、さまざまな規制がかかってくるというのは、これはもういろいろな文献にも出ておりますし、当然、専門家もそういう指摘をしているんです。
つまり、そこにおいて、業務計画を作成します、それを報告します、そこに助言を与える、助言を与えるというのは、突っ返すということがあり得るんじゃないかなというふうに思うんですね。それはアドバイス、今も昔も、多分アドバイスという言葉はそんな最近の言葉じゃなくて昔からあったと思いますが、決して最近はやりの横文字でも何でもございません。つまり、そのアドバイスがどれぐらいの拘束力を持つのか。
つまり、わかりました、そこで首相がアドバイスをした、あるいは都道府県知事がアドバイスをした、そうですか、承っておきますということで終わるのか。わかりました、ではそれは悪いけれどももう少しここを踏み込んでこう書いてもらえませんか、こういうふうな、例えば業務計画に何らかのもう少し、ハンドルでいうところの遊びを残してもらえませんか、そういうことを言うことはあると思うんですね。
その助言が、一回返されて、私の助言を聞いた上で、悪いけれども再提出してくださいということはあるんですか。その辺はどうなんですか。
○井上国務大臣 これは、提出された業務計画について助言を申し上げる、こういうことになっておりまして、したがいまして、業務計画そのものを直してほしいとかというようなことはないわけです。ですから、業務計画を実施する上で参考になるようなことについて助言をする、こういうことになると考えています。
○渡辺(周)委員 では、そこの助言に従わなかった場合はどうなるのかということもあわせて伺いたいわけです。
つまり、事前協議といって、報道の中立性や報道の自由ということを考えたときに、いわゆる公権力の介入というものを非常に恐れた。ですから、これまで、昨年の法成立から今日の国民保護法制の制定に至る間、マスメディアから何回もアピールがあり、そしてまた協議を重ねてきた。そうしたことが行われてきた中であったからこそ、今回、事前協議という形から事後報告、しかしながら、首相の助言あるいは都道府県知事の助言という何らかの余地を残したと思うんですが、では、助言に従わなかった場合はどうなるんですか。そこだけちょっと聞いておきます。
○井上国務大臣 これはまさに助言でありまして、助言に強制力とか拘束力があるものではございません。
助言をいたしまして、それはいい助言だなということで、それを参考にして業務計画を実施される方もありましょうし、いやいや、そんなものは当然のこととしておれは考えているんだというような方もありましょうし、いやいや、おれはそんな助言に従わないよというような方もあろうと思います。それは全く指定公共機関が自主的に判断をされることでありまして、国として強制をするというようなことは毛頭考えておりません。
○渡辺(周)委員 その点についてはわかりました。これは当然、当事者同士でこれからまだいろいろなことが議論されると思うんですが、ちょっと幾つか他国の例を挙げたいなというふうに思うんです。
なぜ私がこのメディアの部分に特にこだわったかといいますと、これは、一般論として申し上げると、やはりメディアコントロールということが当然行われてしかるべき。我が国が有事であるときには、正しい情報と的確な指示によって、当然、国民の生命財産が守られなきゃいけない。ただしかし、その反面で、いわゆる情報が一元化されなかった、それで、結果的には、その背後にあることも、本来知っておかなければいけないことまでも知らされないんじゃないか。当然、そういうことが時間がたってくると起きてくるわけであります。ですから、メディアの持つ怖さというもの、まさにその頼りになる部分と怖さという部分と両方について我々は今から議論をしておくべきだろうなということでこだわっているわけであります。
 例えばなんですけれども、アメリカでは、あの九・一一のときに、統合情報センターというのをつくったんですね。つまり、情報を一元化して、定期的に、情報を一元化することで発表する。そしてもう一つは、その後に世界広報局というセクションをまたつくって、情報の一元化をして、要は、発表したわけです。それによって取材の一元化、情報の一元化をしたわけであります。
 確かに、メディアの混乱というものがあって、今回の三人の人質が、高遠さんたち前半の三人、この人たちが解放されるか否かというときにいかに混乱したか。つまり、総理大臣ですら、正確な情報を持ち合わせないというふうに発言されたわけですね。総理大臣が正確な情報を、これは手の届かないような大変遠いところの国であったということを考えても、我が国の最高責任者がまさに正しい情報を持ち合わせていないというときには、これは事例は違いますけれども、まさに我が国有事になったときに、地方自治体であるとかあるいは肝心の国民であるとかという人たちがどうやってその正確な判断ができるんだろうか。まさにメディア自身も混乱をしたわけでありますし、また、実際そういうことが想像されるわけであります。
 そういう意味では、例えば統合情報センターだとか世界広報局、こういうものをアメリカはつくったわけですけれども、当然、そういうことになれば、メディアの一元化ということも含めて何か考えていらっしゃるんでしょうか。
○井上国務大臣 武力攻撃事態等のように、国家にとりまして本当に大きな有事でありまして、そういうときに政府が出します情報がばらばらであるというようなことは、これはもう一番国民を混乱させるもとになりますから、政府の発表するものについてはきっちりと統一したものじゃないといけない、こんなふうに考えておりますけれども、メディアにつきまして特別に規制をしていこうというような考えのところはございません。
 ただ、指定公共機関で放送事業者を指定いたしますのは、これは政令で指定するのでありまして、その指定する範囲をどうしていくかというのはこれから検討するのでありますけれども、指定をするかしないかというその問題はあろうかと思うのでありますけれども、放送機関を統一して統制していくというような考えは全く持っておりません。
○渡辺(周)委員 ただ、法律の中には指定公共機関たる放送事業者というふうに入っているわけですから、すべての放送事業者と読めるわけですね。当然のことながらそういうことになるんだろうということを前提にもちろんお話をして、昨日の御答弁では、指定公共機関に民放は含まれるというふうにありますね。そういうふうに思っております。
 時間が大分限られてきましたのでちょっと急ぎますけれども、例えば、確認なんですけれども、放送事業者が取材過程で知り得た情報あるいは情報源を政府に提供するということが事実上強いられる可能性があるのではないかという識者の指摘もあるんです。
 その辺、つまり、国家のまさに存亡をかけた時期である、報道の取材源の秘匿性はもちろんでありまして、報道の中立性ももちろんでありますけれども、国家がどうなるかというときに、例えば報道機関にも当然協力を求める、あるいは国家が実は知り得ていない情報を前段階で、例えばマスメディアの情報というものを収集する必要性も出てくるんじゃないかと思うわけですね。
 例えばその点については、これは事実上強いるかどうかは別にしても、何らかの形で情報提供というものを要請するということはあるんですか。
○井上国務大臣 これは、事実上の問題として、いろいろな情報について報道機関から入手をするようなこともあろうと思うんですね。それはあると思いますけれども、情報源を知らせる、公開するというようなことは、これは報道の自由の中でも一番基本のところだと思うのでありまして、これは法律の規定に直にそういうものがなければできないことでありまして、私どもとしては、法案全体を読んでいただければおわかりのように、情報源を明らかにする、知らせる、そんなことを考えていることは全くございません。
○渡辺(周)委員 それでは、重ねて伺いますけれども、あの九・一一が起きたときに、ライス女史、大統領補佐官が、全米の主要メディアに対して、オサマ・ビンラディンのいわゆる犯行声明、声明のメッセージを流すんじゃない、繰り返し流すんじゃないと。つまり、ビンラディンのそのコメント、発言の中に、次なるテロであるとか、あるいはどこかに眠っている、いわゆる潜んでいる次なるテロリストたちに対して次なるメッセージが実はその中に組み込まれているのではないかということで要請をしたんですね。これは検閲ではなくてあくまでも要請であると。しかし、全米のメディアは、これは国家の一大事ということで、それに従ったわけであります。
 当然、そういう形での協力を求めるということは、例えば取材に一定の規制をお願いするということはあり得ると考えていいんですか。
○井上国務大臣 取材を規制するというのは、通常の場合の取材のルールというのはあろうと思います。そういうことはお願いすると思うのでありますけれども、あと、いろいろな情報について要請をする場合はあろうと思います。これは別に法律で強制するものでも何でもないので、事実の問題として、各放送事業者が持っておられる情報について、どんなものだろうかというようなことを、教えてほしいというようなことを要請することは、それはあり得ることだと思います。
○渡辺(周)委員 取材の規制というよりも、例えば、何らかのビデオテープなりが、それこそ、もし、考えたくないことでありますけれども、日本の国内で何らかのテロが起きた、それによって犯行声明をどこかの国の指導者かどこかのテロリストグループの指導者がどこかで流した、それを流したことによって次なるテロ指令が実はそこに含まれているという可能性があるわけですね。だからアメリカは、もうこれ以上ビンラディンの映像を出すんじゃないというふうに言ったわけです。
 取材というよりも報道、それに一定の制約をかけるということはあり得るというふうに今お答えになったということでよろしいですか。
○井上国務大臣 そういう規制をかけるというような条文は今回の法律の中にないわけでありまして、したがいまして、そういうことは考えていないということであります。
○渡辺(周)委員 いやいや、アメリカも法律には書いてないんですよ。だけれども、実際にこういうことになった場合にはあり得るというふうに考えた方がいいと私は思いますね。当然のことなんです。それについてお考えを聞いているわけでございます。
 もっと言いますと、アメリカの場合は、大統領令がありまして、報道機関を一定期間、国益に利するために接収するといいましょうか、利用することができるわけですね。放送伝達業者の持っている有益性を考えたら、これはアメリカだけじゃなくて、イギリスであるとかドイツでありますとか、必要な情報や警報を伝えるために一時的にマスメディアの施設や設備等を使用することができる、あるいは一定時間を政府の発表のためにあけてくれということをやることができるんですが、当然そういうことも有事の際にはあり得るというふうに考えるているんですか。
 せっかくですから、きょうは総務大臣もいらっしゃいますので、総務大臣のこの辺の御見解を聞いておきたいと思いますが、両大臣にお尋ねしたいと思います。
○井上国務大臣 そういうようなことは全く考えていないことでございますし、また、報道の自由表現の自由について制限を加える場合は、当然のこととしてこれは法律の規定が要ると思うのでありまして、そのような法律の規定を入れていないことは、これはもうおわかりのとおりでございます。放送設備等につきまして、放送局の設備を利用する、そういうようなことも考えていないということであります。
○麻生国務大臣 法律に書いてないのはもう御存じのとおりなんだと思いますが、依頼するということは十分にあり得ると思います。どこからどこどこまで部隊を移動して、それに当たっては武器の内容はどうたらこうたらなんということが公表されるなどということは敵を利するだけのことであって、それはある程度控えていただく等の依頼をするなどというのは当然のこととしてあり得ると思っております。
○渡辺(周)委員 この議論は非常に難しいと思うんです。過去にマスメディアがかなり独立性を持って発達、発展をしてきた例えば欧米諸国においても、この戦時報道とか有事報道におけるあり方というのは非常に難しいものがございます。
 例えば湾岸戦争のときに、イギリスの国防省とマスメディアが十六項目にわたる報道協定を結んだ。その中には、例えば軍隊の数であるとか、まさに今大臣がおっしゃった、武器は何であるとか、あるいはどういうオペレーションをやって、どういう人たちが指揮官であるか、あらゆることについて規制をしたわけであります。当然のことで、相手国を利するようなこと、あるいは、国に限らず相手の、我が国に何らかの脅威を与えようとしているところに対して利益を与えるようなことがあってはならないという上で、ぎりぎりの妥協をしてきているわけであります。
 そういう中で、私が何でここまでこだわったかといいますと、例えばNHK、我々も海外へ、大臣と同じように世界各地へ行きます。当然のことながら、外国へ行ってもNHKの衛星放送を見ることができるわけですね。アメリカにいようが、ヨーロッパにいようが、「おはよう日本」を見ることができる。朝鮮半島では、もう釜山あたりでは日本のNHKがそのまま入ってくるわけですね。対馬海峡を越えて入ってくる。対馬からNHKが入ってくる。当然、かの国、北朝鮮でも、国家指導者は日本の番組を見ている。そうしますと、例えば何らかのことがあった場合に、我が国の国民向けの報道というのは世界じゅうに当然流れるわけであります。当然、世界各地にいる邦人は、自分の親族や自分の身内であるとか自分の企業は大丈夫なんだろうかということで、一斉にくぎづけになるわけであります。
 そうしますと、テレビメディアのみならず、インターネットなんかも、何らかの形で情報に一定の、報道に一定の制約があるということは、まさにそのときが起きてみないとわからないわけでありますけれども、この点については、大変この問題、特に昨年のイラク戦争、その前の湾岸戦争、あるいは九・一一テロをめぐってさまざまな、まさに報道と政治のあり方が問われて検証されておるわけでありまして、その点についても恐らく議論がされると思います。

・議案名「武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律案」の審議経過情報
http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/keika/1D9452E.htm
・提出時法律案 武力攻撃事態等における国民の保護のための措置に関する法律
http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g15905098.htm

第三条
3 指定公共機関及び指定地方公共機関は、武力攻撃事態等においては、この法律で定めるところにより、その業務について、国民の保護のための措置を実施する責務を有する。
第五条
2 国及び地方公共団体は、放送事業者(放送法(昭和二十五年法律第百三十二号)第二条第三号の二の放送事業者その他の放送(公衆によって直接受信されることを目的とする電気通信の送信をいう。次条第二項において同じ。)の事業を行う者をいう。以下同じ。)である指定公共機関及び指定地方公共機関が実施する国民の保護のための措置については、その言論その他表現の自由に特に配慮しなければならない。
第二十一条 指定公共機関及び指定地方公共機関は、対処基本方針が定められたときは、この法律その他法令の規定に基づき、第三十六条第一項の規定による指定公共機関の国民の保護に関する業務計画又は同条第二項の規定による指定地方公共機関の国民の保護に関する業務計画で定めるところにより、その業務に係る国民の保護のための措置を実施しなければならない。
第二十四条 対策本部は、事態対処法第十二条第一号に掲げるもののほか、次に掲げる事務をつかさどる。
 一 指定行政機関、地方公共団体及び指定公共機関が実施する国民の保護のための措置の総合的な推進に関すること。
第二十七条
 都道府県対策本部は、当該都道府県及び当該都道府県の区域内の市町村並びに指定公共機関及び指定地方公共機関が実施する当該都道府県の区域に係る国民の保護のための措置の総合的な推進に関する事務をつかさどる。
第二十九条 都道府県対策本部長は、当該都道府県の区域に係る国民の保護のための措置を的確かつ迅速に実施するため必要があると認めるときは、当該都道府県及び関係市町村並びに関係指定公共機関及び指定地方公共機関が実施する当該都道府県の区域に係る国民の保護のための措置に関する総合調整を行うことができる。
第三十二条 政府は、武力攻撃事態等に備えて、国民の保護のための措置の実施に関し、あらかじめ、国民の保護に関する基本指針(以下「基本指針」という。)を定めるものとする。
2 基本指針に定める事項は、次のとおりとする。
 二 次条第一項の規定による指定行政機関の国民の保護に関する計画、第三十四条第一項の規定による都道府県の国民の保護に関する計画及び第三十六条第一項の規定による指定公共機関の国民の保護に関する業務計画の作成並びに国民の保護のための措置の実施に当たって考慮すべき武力攻撃事態の想定に関する事項
5 政府は、基本指針を定めるため必要があると認めるときは、地方公共団体の長等、指定公共機関その他の関係者に対し、資料又は情報の提供、意見の陳述その他必要な協力を求めることができる。
6 指定行政機関の長は、その国民の保護に関する計画を作成するため必要があると認めるときは、関係指定行政機関の長及び指定地方行政機関の長、地方公共団体の長等並びに指定公共機関及び指定地方公共機関並びにその他の関係者に対し、資料又は情報の提供、意見の陳述その他必要な協力を求めることができる。
第三十六条 指定公共機関は、基本指針に基づき、その業務に関し、国民の保護に関する業務計画を作成しなければならない。
2 指定地方公共機関は、都道府県の国民の保護に関する計画に基づき、その業務に関し、国民の保護に関する業務計画を作成しなければならない。
第五十条 放送事業者である指定公共機関及び指定地方公共機関は、第四十五条第二項又は第四十六条の規定による通知を受けたときは、それぞれその国民の保護に関する業務計画で定めるところにより、速やかに、その内容を放送しなければならない。
4 指定公共機関及び指定地方公共機関は、それぞれその国民の保護に関する業務計画を作成したときは、速やかに、指定公共機関にあっては当該指定公共機関を所管する指定行政機関の長を経由して内閣総理大臣に、指定地方公共機関にあっては当該指定地方公共機関を指定した都道府県知事に報告しなければならない。この場合において、内閣総理大臣又は都道府県知事は、当該指定公共機関又は指定地方公共機関に対し、必要な助言をすることができる。
第五十七条 第五十条の規定は、放送事業者である指定公共機関又は指定地方公共機関が第五十四条第七項(第五十五条第三項において準用する場合を含む。)の規定による通知を受けた場合について準用する。
第百一条 第五十条の規定は、放送事業者である指定公共機関又は指定地方公共機関が前条第一項の規定による通知を受けた場合について準用する。
第百七十九条 指定公共機関及び指定地方公共機関は、第百八十一条第一項の規定により緊急対処事態の認定について閣議の決定があったときは、この法律その他法令の規定に基づき、それぞれその国民の保護に関する業務計画で定めるところにより、その業務に係る緊急対処保護措置を実施しなければならない。

渡辺周衆議院議員(民主党)
http://www.watanabeshu.org/
平成16年4月21日 事態特で質問
http://www.watanabeshu.org/iinkai14.2_.html

戦時人権制限法案の「指定公共団体」には、放送局も含まれており、警報報道義務などの義務が課されています。
民主党渡辺周議員は、戦時人権制限法案第三十六条四項の助言権について触れ、問題にしています。
その点はたしかに重要な論点で、放送局に明確な拒否権が法案に明記されていない点は問題だと思います。
しかし、渡辺周議員の質疑で注目すべき問題発言は、政府の「放送局のコントロールということが当然行われてしかるべき」と発言し、「一般論として」とことわりつつも戦時人権制限法案における政府の基本前提を追認したことです。
渡辺周議員は、「我が国には国益を損ねる報道機関は無い」と発言し、国益を損なう報道をする報道機関は報道機関ではないとの見解を示しました。
これは言い換えれば、国益を損なう国民は非国民であると言って人権を剥奪した大日本帝国の暗黒人権剥奪政策の理屈とおなじであり、政府の防衛政策にとって都合の悪い報道をする放送局は「非報道機関」であるから放送免許を剥奪してもかまわない、との見解を間接的に述べているに等しいと考えられます。
早い話、屈服しましたね、民主党は。
国民の前では政府と対決姿勢をとっているかのように演じつつも、一番抵抗しなければならない肝心の部分で政府と手を握り合っている、の図が渡辺周議員の質疑からうかがえます。
戦時人権制限法案を策定した政府、政府を支持している与党、そして渡辺周議員の発言もさることながら、渡辺周議員とその発言に同調する議員が党の安全保障の政策を作っている民主党にも疑問を感じます。
具体的な話をすると、たとえば、アルジャジーラテレビが日本で支社を作ることになっていますが、日本で大規模な大都市テロが発生して武力攻撃事態になった時、アルジャジーラ日本支局が日本の大都市への再攻撃予告情報を配信し、その映像が国益を損なうと政府によって判断された場合に、その報道内容や、取材源に対してどう取扱うのか。各放送局にアルジャジーラの情報を流さず政府の情報を流すよう圧力をかけ、従わない放送局の事業免許を取り消すのか維持するのか、といった問題も懸念されます。
またたとえば、朝鮮戦争が再開して日本が戦場になった時に、在日朝鮮人についての報道はどうなるのか。在日朝鮮人の反政府デモなど、政府の政策に反するような情報が番組の中で出てきた場合に、その番組を放送した放送局免許はどうなるのか。
またたとえば、明かに攻撃を受ける可能性のある危険な場所に避難命令が発令されているような場合に、「政府は避難命令を出していますが、従うと死ぬ可能性が高いので従わないでください」というような政府活動と矛盾する番組を放送できるのか。あるいは政府の避難命令の放送を拒否できるのかどうか。
戦時人権制限法案=(自称「国民保護法案」)第五十条には、放送局の警報放送義務が課されています。
たとえば、かつて太平洋戦争の時に日本軍が沖縄で実際にやったことがありますが、軍隊が自軍を防衛するために自国民を「避難」と称して「人間の盾」として移動させ攻撃を受けにくくする作戦を実施している場合に、放送局は戦時人権制限法第五十条に基き、軍隊の指示を受けた知事の指示に基いて「避難警報」を放送する義務が課されることになります。*1
非戦・戦争不服従の立場、あるいは中立の立場をとっているジャーナリストにとって、「人間の盾」的な軍事作戦への協力は、“能動的参戦”に等しく、戦時人権制限法を守ることによって非戦あるいは中立というジャーナリストとしての報道倫理を破ることになります。
戦時人権制限法第五十条に基く警報放送義務のすべてが問題になるわけではないでしょうが、報道倫理との矛盾が生じる場面で戦時人権制限法上の放送義務を拒絶できないとすれば、報道の中立といった報道倫理をまもるために、良心あるジャーナリストは戦時人権制限法第五十条に違反し「良心の囚人」とならねばならないことになります。*2
たとえ戦時下であっても、非戦、戦争不服従の方針を確保する放送局、あるいは番組、報道というものが、言論表現における価値観の多様性原則のもとで当然にその自由と権利を認められるというのが、本当の意味での民主主義であり、言論表現の自由というものでしょう。
以上の理由で、戦時人権制限法第五条は不充分であり、抜本的に修正するか、白紙撤回して再提出するのが良いと私は考えます。

───────────

*1: 戦前には、小学校の校舎に爆弾を保管させ、空襲による被害を避けようとしました。しかし、そういった情報も連合国には筒抜けだったこともあっで、小学校の校舎も含め空襲の目標になり、結果的に多くの民間人死傷者が出たということもありました。

*2: 戦前には、東條首相の評判を落す記事を書いた記者が、徴兵されて死亡率の高い最前線に送られたということもありました。