日本新聞協会の裁判員法案への対応

「『裁判員制度の取材・報道指針』について」のポイントは、裁判員への取材や報道は、裁判が終った後にはじめるというあたりだと思います。

2003.5.15 裁判員制度に対する見解
http://www.pressnet.or.jp/info/seimei/kenk20030515.htm

【「偏見報道禁止」等の規定について】
全面削除を求める。
<理由>
 メディアの取材・報道には「国民の知る権利」に応えるという重大な使命がある。特に、裁判員制度が対象とする重大事件に関する報道は国民の関心が強く、そしてその関心は自然なものである。また、メディアは、事件報道を通じ、国民の必要な情報を提供し、平穏な市民生活を守るうえでも重要な役割を担っている。新たな裁判員制度によって、これまで国民に提供されてきた、国民の生命、財産を守る情報が国民から遮断されてはならない。
 翻って本規定は、たとえ訓示規定であっても実質的に事件・裁判に関する報道を規制するものになりかねないうえ、何をもって「偏見」とするのかも明確でない。恣(し)意的な運用を導く恐れの強い規定であり、表現の自由や適正手続きを定めた憲法の精神に触れる疑いがある。

2003.9.10 新聞協会編集委が司法制度改革推進本部に提出した「『裁判員制度の取材・報道指針』について」
http://www.pressnet.or.jp/info/seimei/saiban20030916.htm

〈協議状況〉
(1)裁判員、補充裁判員の個人情報の保護について
裁判員、補充裁判員の氏名、住所など、その人物を特定できる個人情報は、原則として裁判終了までは報道を控える。
・裁判終了後に、元裁判員らの氏名や住所を報じるか否かについては、本人の意向を尊重する。
裁判員候補者については、選定手続きが終わるまで氏名、住所など本人を特定する情報は報道しない。裁判員、補充裁判員に選ばれなかった人の個人情報については、本人の意向を尊重する。
(2)裁判員等への接触禁止について
・裁判の公正を守るために、裁判員が選任されてから一審判決が言い渡されるまで、原則として裁判員等への直接取材や取材の働きかけは行わない。

2004年4月2日「裁判員法」案についての声明
http://www.pressnet.or.jp/info/seimei/saiban20040402.htm

今回の政府案では「偏見報道禁止」規定は盛り込まれておらず、この点については評価できる。だが、裁判員等だった人に課せられる守秘義務については、「評議の経過やそれぞれの裁判官の意見並びにその多少の数その他の職務上知り得た秘密」などと、その範囲が明確でないうえ、義務を負う期限も限られていない。違反者に対しては1年以下の懲役または50万円以下の罰金を科す内容となっている。これでは、裁判員だった人が自らの経験をほとんど語れなくなってしまう。裁判がどのように行われたかを事後的に検証することは難しくなり、よりよい制度への議論の道も閉ざされる恐れがある。
また、裁判員の個人情報については、どういう人が判断に加わったかが全く明らかにされなくては、裁判の公正に対する社会の信頼は得られない。接触禁止も、守秘義務の範囲が明確にされず、違反に対しては罰則規定があることと合わせて、実質的に取材を困難にするだろう。

報道の自由は、三つの自由条件がすべて揃った時に、始めてその自由は確保されます。

取材の自由×編集の自由×流通の自由 = 報道の自由

報道の自由は掛け算です。
編集の自由と流通の自由が大きくても、取材の自由がゼロなら報道の自由はゼロです。どれかひとつの条件がゼロかマイナスになれば、報道の自由は「報道の不自由」になったり「政府のプロパガンダの自由」になったりします。
偏向報道禁止規定が削除され編集の自由が確保されても、接触禁止規定、永久守秘義務規定が裁判員法案で温存されたことにより、裁判への「取材の自由」は大幅に失われることになるでしょう。
裁判員法案が参議院で無修正で成立すれば、報道の自由は縮小を迫られ、国民は密室裁判で不正取引や腐敗が発生していても気づかないという状態が、今後さらに増えることになるのではとの危惧を持ちます。

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