教科書に載らない偉人=戦前の「他称非国民」斎藤隆夫議員

斎藤隆夫議員は、日本国憲法の署名人の中でただ一人、戦前、議員生命をかけて民衆のために行動した政治家で、私の尊敬する人の一人です。
斎藤隆夫議員のような「他称非国民」がいたからこそ現在の日本国憲法が存在し、いまわたしたちの豊かな生活は存在するということをことを忘れてはならないと、いつも思っています。
斎藤隆夫議員のいわゆる「粛軍演説」は世界的にも有名な演説で、この演説のために斎藤議員は国会で懲罰委員会にかけられ、除名処分にさせられました。が、次の総選挙で斎藤隆夫は最高得点で当選*1しています。当時、敵国であるアメリカの雑誌から「日本のマーク・アントニー」と、言論人として最高評価を得たのも納得できます。
戦争が混迷を深め、「もう勝てないかもナー」「そろそろ負けが見えてきたかナー」「この戦争に参加したのは失敗だったかもナー」ってみんなが思いはじめ動揺しはじめた時期に、「非国民」といった言葉で大衆への綱紀粛正が行われ、侵略戦争遂行体制に対する反対や不満を抑圧するという意味で、2004年4月の日本国は1940年2月の大日本帝国の状況と似ているところがあります。

田村氏の歴史関連のぺージ/非国民
http://www.cc.matsuyama-u.ac.jp/~tamura/hikokuminn.htm

戦局が深刻化するにつれて、食糧や衣料品をはじめ生活必需品のほとんどが隣組を通して配絡されるようになると、「非国民」なる言葉は一層猛威をふるい出し、隣組の組長や幹部にいささかでも逆らうならば、「非国民」呼ばわりされた。そしてそれは、村八分に等しい重大な生活危機を意味した。
学校の教師たちも頻繁にこの語を使い、教師の意向に背いた生徒を理屈抜きに屈服させる絶好のスローガンとなった。はては、忘れ物をした生徒も「非国民」なら、左利きの生徒も「右手で箸の持てない非国民」にされた。
さらには1940年(昭和15)年2月2日、近衛内閣の日中戦争処理について政府を批判する斎藤隆夫の演説(衆議院本会議で代表質間に立った民政党の斎藤は、政府のいう「東洋永遠の平和」「聖戦」といったスローガンは「ことごとく空虚な偽善」であり、具体的な戦争処理方針を示せと追及した)が「聖戦を冒涜(ぼうとく)する」「非国民」的発言として軍部の反発を招き、陸軍に議員の多くも同調し、3月7日、斎藤は議員を除名される事件まで起きた。
つまり、「非国民」という言葉は、国政から町内会に至る日本社会のすべてのレベルにおいて、侵略戦争遂行体制に対する反対・不満を抑圧するのに大きな役割を果したのである。

斎藤隆夫
http://www.cc.matsuyama-u.ac.jp/~tamura/saitoutakao.htm

議事録から削除された斎藤演説部分
「国家競争ハ道理ノ競争デハナイ、正邪曲直ノ競争デモナイ、徹頭徹尾カノ競争デアル(中略)弱肉強食ノ修羅道二向ツチ猛進ヲスコレル、是ガ印チ人類ノ歴史デアリ、奪フコトノ出来ナイ現実デアルノデアリマス、此ノ現実ヲ無視シテ、唯徒(ただいたずら)二聖戦ノ美名二隠レテ、国民的犠牲ヲ閑却シ、曰ク国際正義、曰ク道義外交、曰ク共存共栄、曰ク世界ノ平和、斯ノ如キ雲ヲ掴ムヤウナ文字ヲ列へ立テテ、サウシテ千載一遇ノ機会ヲ逸シ、国家百年ノ大計ヲ誤ルヤウナコトガアリマシタナラバ現在ノ政治家ハ死シテモ其ノ罪ヲ減ボスコトハ出来ナイ(中略)事変以来今日二至ルマデ吾々ハ言ハネバナラヌコト、論ゼネバナラヌコトハ沢山アルノデアリマスルガ、是ハ言ハナイ、是ハ論シナイノデアレマス、吾々ハ今日二及シデ一切ノ過去ヲ語ラナイ、又過去ヲ語ル余裕モナイノデアリマス、一切ノ過去ヲ葬リ去ツチ、成ベク速二、成ベク有利有効二事変ヲ処理シ解決シタイ、是ガ全国民ノ偽リナキ希望デアルト同時二、政府トシテ執ラネバナラヌ所ノ重大ナル責任デアル(中略)然ルニ歴代ノ政府ハ何ヲ為シタカ、事変以来歴代ノ政府ハ何ヲ為シタカ二年有半ノ間二於テ三タビ内閣ガ辞職ヲスル、政局ノ安定スラ得ラレナイ、期ウ云フコトデドウシテ比ノ国難二当ルコトガ出来ルノデアルカ、畢竟スルニ政府ノ首脳部二責任観念ガ欠ケテ居ル(中略)国民的支持ヲ欠イチ居ルカラ、何事二付テモ自己ノ所信ヲ断行スル所ノ決心モナケレバ勇気モナイ、姑息愉安(こそくゆあん)一日ヲ弥縫(びほう)スル所ノ政治ヲヤル、失敗スルノハ当リ前デアリマス」

山根氏のサイトにある資料は、当時の金属盤レコードの音声から採った貴重な一次資料で、保存の価値ありです。
中公文庫の「回顧七十年」も、一度は目を通しておきたい本です。

山根氏のサイトの資料/斎藤隆夫支那事変処理に関する質問演説」
昭和十五年二月二日、第七十五議会における演説
http://www.yo.rim.or.jp/~yamma/zenbun.html
斎藤隆夫支那事変処理に関する質問演説」
http://homepage2.nifty.com/Bokujin/shiryou1/syukugunn.html
反軍演説(1940.2.2)
http://www.ne.jp/asahi/masa/private/history/ww2/yougo/hangun.html
http://www.c20.jp/1940/02saito.html
粛軍演説(1936.5.7)
http://www.ne.jp/asahi/masa/private/history/ww2/yougo/syukugun.html
斎藤隆夫
http://www.tanshin.co.jp/zaidan/1hito/17saitou/index1.html
第二次世界大戦資料館/斎藤隆夫
http://www.ne.jp/asahi/masa/private/history/ww2/biblo/japan/sa/t_takao.html
出石町役場/静思堂 斎藤隆夫記念館
http://www8.ocn.ne.jp/~izushi/200402/ijin/seisidou.htm
斉藤隆夫 / クリック 20世紀
http://www.c20.jp/p/stakao.html
酒井新二/時の歩み/“復興支援”の美名に隠れて(1)
http://www.pauline.or.jp/toki/
NHK/その時歴史は動いた/5月21日放送 第135回 我が言は、万人の声〜太平洋戦争前夜、日本を揺るがした国会演説〜
http://www.nhk.or.jp/sonotoki/syoukai/past03.html

評伝 斎藤隆夫―孤高のパトリオット松本健一
評伝 斎藤隆夫―孤高のパトリオット
回顧七十年 中公文庫/斎藤隆夫
ISBN:4122014417
斎藤隆夫かく戦えり 文春文庫/草柳大蔵
ISBN:4167315025
斎藤隆夫政治論集―斎藤隆夫遺稿/斎藤隆夫
ISBN:4404021496

*1: ということは、斎藤隆夫議員は元祖田中康夫という見方もできるのかな。