資料:報道・表現の危機を考える弁護士の会 声明

 

■LLFP  報道・表現の危機を考える弁護士の会
http://llfp.j-all.com/

自民党総裁 小泉純一郎 殿
自民党幹事長 武部勤 殿
緊急声明
2005年8月5日

新聞各紙の報道によれば、自民党は、今月1日、NHKの番組改変に関する朝日新聞社の取材記録とされる資料が月刊現代9月号に掲載されたことを問題として、事実関係が明らかになるまで同党役員が朝日新聞社の取材 (記者会見を除く) を拒否する旨を表明するとともに、同社に対し、同党国会議員が個別取材を拒否する旨の通知書を送付した。
自民党の上記対応は、民主主義の根幹である報道・表現の自由及び市民の知る権利に対する乱暴な挑戦であり、看過できない重大な問題である。そこで、言論・表現の自由及び知る権利の危機を憂慮するジャーナリスト・学者・弁護士有志は、自民党に対する緊急声明を発表する。
今回問題となった資料は、2000年12月8日から12日にわたって東京で開催された 「女性国際戦犯法廷」(以下 「国際法廷」 という) をNHKが外部の制作会社の協力の下に取材・制作し、20001年1月30日に放送された番組について、政治家の圧力による改変があったとされる問題に関して、朝日新聞社が圧力を受けたとされる松尾武NHK放送総局長 (当時) 及び圧力をかけたとされる中川昭一安倍晋三衆院議員を取材した際に録音された媒体を再現したものだとされる。これまで、朝日新聞社は、録音した媒体の存在を明らかにしていなかった。
新聞各紙の報道によると、自民党は、取材拒否の理由について、 1) 朝日新聞記者が被取材者をだまし、隠れて無断で録音し続けている可能性があり、そうだとすれば、報道機関としての存在資格も大きく揺るぎかねない大問題である、 2) 朝日新聞社自身が流出に深く関与している可能性があるが謝罪をする意思がない、などの点を挙げている。
しかし、そもそも、報道機関が公人の社会的に非難される可能性のある行為をについて取材する場合、その公人もしくは行為に関係ある者に質問する際に、承諾を得ずに会話を録音することは、発話者を秘匿しなければその後の取材・報道が困難となる場合 (いわゆる 「取材源の秘匿」 となる場合) を除いて、当然、許される行為である。なぜなら、その公人の行為は主権者たる国民が知るべき情報である一方、取材後に、取材した相手が言を翻して、報道内容を批判したりするおそれがあり、そのような場合には、報道機関としては主権者である国民から負託された知る権利にこたえて真実に迫る使命を果たすことが困難となるからである。
また、朝日新聞自身が保有する情報が外部に流出したこと自体は、情報管理の問題として、朝日新聞自身によって検証されるべき問題である。しかし、公人が取材を受けた内容が、当初予期した以外の方法で公表されたとしても、公表方法に国会議員が寄せる期待は国民の知る権利に勝るものとはいえない。本件の場合には、テープ録音があるのであれば、その反訳を朝日新聞自身が公表すべきであったともいいうるのであり、月刊誌に掲載されたことを被取材者が非難できる立場にはない。
「国家の意思は統治される市民の意思によって決定される」とすることが民主主義の基本原則である。すなわち、国会議員や政党は、その意見を国民に常に提示してその信を問うことにその存在根拠があるのである。
そして、今日のような情報化社会の中では取材力・報道力をもつ報道機関を介しての情報提供が非常に有益である。国会議員、政党自身が報道機関のその役割を排除するような姿勢を取ることは民主主義の原則を軽視するものであり、国民の権利を侵害するものである。さらに、本件の自民党の対応には、批判的な言論を封じようという意図があるという見方さえできる。
よって、私たちは、自民党に対し、朝日新聞社に対する取材拒否を撤回することを要請する。

2005年2月4日 報道・表現の危機を考える弁護士の会
NHK番組改編問題」 に関する声明文
http://llfp.j-all.com/appeal/20050204.html

自民党朝日新聞社に対する取材拒否撤回を求める緊急声明への呼びかけ
http://alertwire.jp/read.cgi?id=200508051514285

 
関連情報。
 

立花隆の「メディア ソシオ-ポリティクス」
第34回 NHK番組改変の取材メモ流出で問われる報道の使命と政治介入
http://nikkeibp.jp/style/biz/topic/tachibana/media/050805_syuzaimemo/
http://nikkeibp.jp/style/biz/topic/tachibana/media/050805_syuzaimemo/index1.html
http://nikkeibp.jp/style/biz/topic/tachibana/media/050805_syuzaimemo/index2.html
http://nikkeibp.jp/style/biz/topic/tachibana/media/050805_syuzaimemo/index2.html
http://nikkeibp.jp/style/biz/topic/tachibana/media/050805_syuzaimemo/index3.html

毎日新聞(8月2日)の報道によると、このニュース漏洩に自民党は大いに怒った。これまでの政治家側の主張がみんなウソっぱちだったとわかった上、政治家がNHKに対して圧力をかけるのが日常茶飯事になっているということがバレてしまったことに怒ったらしい。「月刊現代」にテープ(記録)を流したのは朝日新聞の内部者にちがいあるまいということで、今後、自民党役員は朝日新聞の取材を拒否するということを、役員会で機関決定したのだという。
これはもう唖然とする対応という以外ない。このような恥ずべき事態(公共放送への自民党中枢幹部の圧力の日常性)がバレたら、まずは、形ばかりではあっても、申し訳ないという表情をしてみせるのが当然なのに、居丈高に今後の朝日新聞に対する取材拒否を叫ぶとは何事だろう。本末転倒というしかない。
さらに唖然とするのは、自民党から取材拒否を通告された朝日新聞側でも、政治が大きく動こうとしているこの時期に自民党を取材できなくなったら、新聞の死活にかかわる事態ということで、社内でニュース漏洩者をいち早くつきとめて、そのクビをさし出すことで自民党と手打ちをはかろうという動きが政治部を中心として着々と進行中という。
自民党恐さにそんな岡っ引きまがいのことをしたら、それこそ朝日新聞の報道機関としての“政治生命”にかかわることになるということが、朝日の幹部にはわからないのだろうか。

■ビデオニュース
http://www.videonews.com/
8月10日
自民党朝日新聞社に対する取材拒否撤回を求める緊急声明: 日隈一雄弁護士×海渡雄一弁護士 (2005年8月5日・弁護士会館)
【映像】
http://www.videonews.com/asx/080505_jiminasahi_300.asx

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