総務省:有害情報判定委員会創設

政府がインターネット有害情報規制に着手:「有害サイトは閉鎖させるべきだ」
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20050615

 
の続報です。
政府が「有害情報判定委員会」を創設するそうです。
総務省の「有害情報判定委員会」を発足させることで「コンテンツ安心マーク」を定着させ、「コンテンツ安心マーク認証機関」を公然化させて総務官僚の天下りを確保する…という流れが3秒以内にひらめいた方は、有害情報対策の本質がよく見えている立派な市民で、規制反対運動の指導者の資質があります。
3分ぐらいかかって気がついた方はまあまあの理解者です。いまこの文章を読んで「そうかもしれない」と思った方は普通の方。「いやそんなことは絶対にあり得ない」と考えた方はかなりヤラレてます。気をつけよう!
 
ちなみに、総務大臣麻生太郎議員は、1990年代初頭に漫画バッシングを展開した「子供向けポルノコミック等対策議員懇話会」の会長です。
実は、小泉内閣は「子供向けポルノコミック等対策議員懇話会」のメンバーだけで支えられているような内閣で、麻生太郎総務大臣の他、細田博之内閣官房長官福田康夫内閣官房長官佐田玄一郎総務副大臣、山口総務副大臣小坂憲次前総務副大臣町村信孝外務大臣、水野清外務政務次官山崎拓首相補佐官鳩山邦夫議院運営委員長、金子一義前行革担当大臣、山本有二財務副大臣小野清子前青少年育成大臣、石破前防衛庁長官河村建夫文部科学大臣、渡海紀三郎文部科学副大臣中川昭一経済産業大臣平沼赳夫経済産業大臣今津寛内閣委員会理事、木村義雄自民党財務委員長、森山真弓法務大臣、それから総理後見人と言われている森喜朗前総理大臣は、全員「子供向けポルノコミック等対策議員懇話会」のメンバーです。
 

資料:子供向けポルノコミック等対策議員懇話会役員・会員リスト(1)
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20050530

 
「子供向けポルノコミック等対策議員懇話会」のメンバーは、小泉総理のもとで重用されていると言っても過言ではありません。小泉内閣に50%近い支持率を与えている国民は、ほんとうにどうかしていると思います。
 
さて、本題。
 

総務省

総務大臣記者会見
http://www.soumu.go.jp/menu_01/kaiken/index.html
2005年6月24日 大臣会見
http://www.soumu.go.jp/menu_01/kaiken/back_01/d-news/2005/0624.html

(質疑応答)
山口県光高校爆弾事件からみたインターネット有害情報への取組み】
問 :山口県光市でですね、

答 :爆弾?
問 :はい。それに関連して、インターネットの有害情報を規制するかどうかの、政府で検討が始まりましたけれども、一方で表現の自由との抵触の懸念もありまして、大臣としては、これについてはどのように対応されていかれる考えですか。

答 :これは基本的には、この種の便利なものが出来たときに必ずついてくる光と影の部分の影の話なのですけれども、麻薬の売買、自殺の薦め、爆弾の作り方等々いろいろ問題のあるものがインターネットに載るというのは、こういった有害な情報というものが出ていることは確か。何らかの形で規制をしなくてはいけないという声があることも間違いないのですが、今言われたように、表現の自由という話とか、いろんな問題があります。そういった意味では、常識的には、この種の話は、普通は(インターネットに)載せないほうが常識なような気がしますけれども、載ったものを観る人は非常に多いというようなことになってくると、これはどうやって規制するかということはなかなか難しいところだと思いますのでね。これはその種のことには先進的な国もありますので、そういった諸外国の情報やらをよく調査した上で、学識経験者やもちろん事業者も含めて、他に関係する警察も含めて、関係省庁いろいろあると思いますので、よく連携をしておきたいと思っているのですが、研究会を7月に立ち上げます。
問 :研究会というのは?

答 :総務省で。
問 :今の関連ですけれども、研究会のメンバーというのは具体的にどういう。

答 :それも含めて検討中。
問 :いつまでに結論を出すのか。

答 :7月に立ち上げる。その結論が出るのは何ヶ月後か、参加した人に一応聞いてみないと、すぐに、一週間というわけにはいかないだろうし。そういった意味で時間を少し、その方たちの、経験者の話も聞いてみないといけないところだと思いますけれども。結構あるよね、これは。うん、いろいろあるの。外国から情報がボンボンボンボン入ってくるから。

 
麻生総務大臣の「光と影」という言いまわしは、文部省の有害情報対策でよく使われていた言葉ですが、その頃、わたしはこう言って反論したことがあります。
 

影が強く現れる時は、ひとつの光が強すぎる時だけである。
たくさんの光源があれば、影は薄くなる
光源が少ないことが問題である

 
政府・公権力という単一の光に依存すればするほど、影は濃くなります。
たくさん人が集まっていて、人の視線がたくさんあるような場所では、犯罪は実行しにくいものです。
 
以下、メディアの報道。
 

ネット情報に第三者の「有害判定委」…総務省が検討 - 読売新聞
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050625-00000101-yom-pol
言及
http://d.hatena.ne.jp/http?//headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050625-00000101-yom-pol

http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050627
http://d.hatena.ne.jp/kotosys_blog/20050627
http://d.hatena.ne.jp/AXMU/20050626
http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20050626
http://d.hatena.ne.jp/okumuraosaka/20050626

<山口爆発事件>総務省が研究会を7月発足へ - 毎日新聞
http://www.mainichi-msn.co.jp/search/html/news/2005/06/27/20050627org00m300075000c.html
http://www.mainichi-msn.co.jp/search/html/news/2005/06/25/20050625ddm002040048000c.html
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050624-00000114-mai-pol
ネット有害情報で研究会 総務省が来月設置 - 共同通信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050624-00000114-mai-pol
総務省、ネット有害情報の規制を検討する研究会を7月に発足 INTERNET Watch
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2005/06/28/8183.html

総務省は、インターネットの有害情報への対策について検討を行なう研究会を7月に発足させる。麻生総務大臣が24日に行なった記者会見で明らかにした。
インターネットを参考にして作ったといわれる爆発物を教室に投げ込んだ、山口県立光高校の爆弾事件などを受け、総務省では麻薬の売買や自殺の誘発など有害なWebサイトの規制を検討する研究会を7月に立ち上げる。研究会では、これらのサイトを違法として削除するかどうかなどの指針を作成する。
そのほか、学識経験者や事業者、警察、関係省庁との連携を図る考えも示した。メンバーについては検討中で、研究会の結論が出るまでには数カ月要する見込みだという。

ネット情報「有害判定委」創設へ 読売新聞
http://www.yomiuri.co.jp/net/news/20050627nt02.htm

事業者の相談受け付け
総務省は24日、インターネット上に流れる情報の違法性、有害性を判断し、相談を受け付けるため、専門家による第三者機関「有害情報判定委員会」(仮称)を創設する方向で検討に入った。7月に省内に設置する有識者の研究会で、第三者機関の具体的なあり方を協議する。
今月10日には、山口県立光高校の男子生徒がネット情報を参考に作ったとされる爆発物を教室に投げ込む事件が発生した。また、ネットには、法規制の対象外である「脱法ドラッグ」の販売や、集団自殺の呼びかけ、違法ポルノなどのサイトもはんらんしている。
2002年施行のプロバイダー責任法では、有害情報の削除が事業者側の判断に任されており、事実上、野放しになっている。
このため、総務省は、事業者や利用者がネット情報が有害か否かを問い合わせられる第三者機関の創設が必要と判断した。この機関に、違法サイトの削除を求めたり、警察に通報したりする機能を持たせることも、新設する有識者研究会で検討する。研究会には、電気通信事業者や法曹関係者、消費者団体代表らが参加する予定だ。
ただ、第三者機関に情報の削除など強制力を与えると、「表現の自由」を侵す恐れもあるため、今後、論議を呼びそうだ。

ネット有害情報で研究会 総務省が来月設置 河北新報
http://www.kahoku.co.jp/news/2005/06/2005062401000736.htm

麻生太郎総務相は24日午前の記者会見で、山口県立光高校の爆発事件で逮捕された高校生がインターネット上の情報を参考に爆発物を作った疑いが出ていることを受け、ネット上の違法・有害情報に関する対応などを検討する研究会を7月中に総務省に設置することを明らかにした。
 研究会は学識経験者や電気通信事業者、消費者団体などで構成。有害情報を削除する判断指針を作成するかどうかなどを論議する

総務省、ネット有害情報対策検討へ研究会を来月発足 日本経済新聞
http://www.nikkei.co.jp/news/shakai/20050624AT1G2400I24062005.html

麻生太郎総務相は24日の閣議後の記者会見で、インターネット上の違法・有害情報への対策を検討する有識者研究会を7月に立ち上げる考えを明らかにした。山口県立光高校での爆発事件、若者の集団自殺などインターネットを使用した事件が続発していることを受けたもので、「(有害情報は)載っけないことが常識のような気がする」と語った。

 
ネット界隈の言論など。
くまさんの宮沢賢治の替え詩は良かった。特に「決して 有害情報判定員会の指示には頼らず」のあたりが。
 

http://shigemaro.cocolog-nifty.com/kumasan/2005/06/post_58fc.html

アダルトの誘惑にも負けず、
危険なスパムメールも開かず、
イジメも誹謗中傷にも負けぬ丈夫な精神とネットの知識を持ち
欲はなく 決していからず
いつも静にわらっている
1日数時間のネットとBlogを見て少しコメントをし
あらゆることを 自分の勘定に入れ 
よく見聞きし分かるように努力し 
そして忘れず そしてぼけず
マンションの書斎ともいえない小さな部屋にて
東に面白いBlogあれば 行ってコメントをし
西にプロバイダーに不具合があれば 行って苦情を言い
南に有害情報があれば プロバイダー責任法を適用してと通報し
北に喧嘩や訴訟があれば つまらないから止めろとは言わず、いい弁護士を紹介し
決して 有害情報判定員会の指示には頼らず マナーを守ろうと言い
文章日照りの時はBlogが書けないと涙を流し、
嫌なコメントが書かれているとおろおろあるき 
みんなに気にするなと言われ 
ほめられもせず 
くにもされず
そういうものに わたしはなりたい

http://blog.goo.ne.jp/melody777_001/e/f0e502331c66d6c0f6843dff9c9dd31d
http://hski.air-nifty.com/weblog/2005/06/post_6217.html
http://min2.moe-nifty.com/blog/2005/06/post_7620.html
http://youzo.cocolog-nifty.com/data/2005/06/post_fe8a.html
http://d.hatena.ne.jp/hal-e/20050627/p2
http://d.hatena.ne.jp/mkusunok/20050627
http://mkt5126.seesaa.net/article/4656566.html
http://cbp.seesaa.net/article/4666493.html
http://www.penfactory.net/archives/2005/06/post_100.html
http://blog.livedoor.jp/dori2005/archives/26532049.html
http://raveangel.blog4.fc2.com/blog-entry-194.html
http://blog.livedoor.jp/landroval/archives/26556306.html
http://d.hatena.ne.jp/ForestWalker/20050627#p2
http://blog.livedoor.jp/dendoshi/archives/26462768.html
http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050627/1119810094
http://maruyama-mitsuhiko.cocolog-nifty.com/security/2005/06/post_d2de.html
http://blogs.dion.ne.jp/13ghosts/archives/1354846.html
http://blogs.yahoo.co.jp/tetsuk_longwall/5510383.html
http://jpjpjp.ddo.jp/index.php?e=55
http://blog.livedoor.jp/timpo9/archives/26284510.html
http://tea-oka-gin.seesaa.net/article/4604846.html
http://d.hatena.ne.jp/ps04b_asada/20050625#p1
http://kattchan.blog.ocn.ne.jp/yashichi/2005/06/post_2b9f.html
http://www.53n.net/soredo/log/eid429.html
http://slashdot.jp/article.pl?sid=05/06/27/0411230&topic=19&mode=thread

 
記事の中で「2002年施行のプロバイダー責任法では、有害情報の削除が事業者側の判断に任されており、事実上、野放しになっている」という部分は誤解を与えそうですね。
プロバイダー責任法(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律)は、送信者の所在情報を通知することでプロバイダーは判断の責任を問われないことを規定していますが、情報発信の責任は発信者自身に責任があるということを前提にしています。
中継者であるプロバイダーが責任を問われない理由は、情報送信者自身に責任があるからで、現に送信者情報の通知により情報送信者は責任が問われていますので、「事実上、野放しになっている」わけではありません。
それから、「有害情報の削除」は、プロバイダー責任法に基いて削除される事例はそれほど多くはありませんが、「インターネット接続サービス等に係る事業者の対応に関するガイドライン」と呼ばれる業界ガイドラインに基く削除はかなり頻繁に実施されていますので、やはり「野放しになっている」わけではありません。
 

総務省
特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律の概要
http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/top/denki_h.html
特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律のあらまし (PDF)
http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/top/pdf/houritu.pdf
特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律条文 (PDF)
http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/top/pdf/jyoubun.pdf
特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律の図解 (PDF)
http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/top/pdf/zukai.pdf
特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律の逐条解説 (PDF)
http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/chikujyokaisetu.pdf

 
有害情報の削除については、プロバイダーで構成されているテレコムサービス協会が作成した「インターネット接続サービス事業者対応ガイドライン」で有害情報が削除されることになっており、国内サーバの情報については、ほぼすべて削除できる体制になっていますし、実際に大量に削除が実施されています。
「有害」の基準については多様な意見があり、特定宗教の宗教的価値基準を全ユーザー適用させることが好ましくないことは、ユニバーサルサービスとしてのプロバイダー事業として当然のことでしょう。
言うまでも無いことですが、インターネットの情報は日本のサーバだけにあるわけではなく、全世界で発信された情報に日本からアクセスできますので、国外情報については規制は不能です。
 

テレコムサービス協会
インターネット関連・ガイドライン
http://www.telesa.or.jp/guideline/index.htm
インターネットの苦情事例(第6版)
http://www.telesa.or.jp/guideline/2004/complaint6.htm
インターネット接続サービス等に係る事業者の対応に関するガイドライン
−2003年5月公表−
http://www.telesa.or.jp/guideline/2003/20030501_1.htm

第四章 事業者の対応措置の内容
(違法または有害な情報に対する措置)
第9条   事業者は、不特定又は多数の者(以下「公衆」という。)によって受信されることを目的とする電気通信(放送を除く。)に関して、違法または有害な情報が発信されたことを知った場合、当該情報を発信した利用者に対し、以下の各号に掲げる措置を講じることができる。
 (1) 違法または有害な情報の発信をやめるように要求すること。
 (2) 前号の要求を繰り返し行っても、発信者が要求された措置を講じないときは、事業者が違法または有害な情報を公衆が受信できない状態にすること。ただし、明らかに違法または有害で、緊急性があると判断できる相当の事由がある場合、第1号の要求を行うことなく、事業者が違法または有害な情報を公衆が受信できない状態にすること。
 (3) 発信者が違法または有害な情報の発信を繰り返す場合、発信者の利用を停止し、または発信者との利用契約を解除すること。
  2. 前項にかかわらず、事業者は、自己がプロバイダ責任制限法第2条第3号に定める特定電気通信通信役務提供者である場合であって、プロバイダ責任制限法関係ガイドラインが適用されるときは、特定電気通信による情報の流通により、他人の権利が侵害されたことを知ったときの対応について、プロバイダ責任制限法関係ガイドラインに従うものとする。

 
総務省の政策は、有害な情報が有害な状況をもたらすとの「強力効果論」仮説に基いた認識を前提とした政策ですが、この認識については、既に多くの学者が「不能」との科学的結論を出しており、政府も、有害情報とされる情報が犯罪事件を発生されたとの有害性について、「因果関係は無い」との見解を示しています。
 

神奈川県ゲーム暴力表現規制(3):関連リンク
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20050604/p1
坂元 章 2000 玩具としてのロボットと子供の社会的発達−来るべき悪影響論に対して− 日本ロボット学会誌, 18(2), 167-172
http://www.hss.ocha.ac.jp/psych/socpsy/sakamoto/media/robot.files/robot.htm

これらの研究の知見をまとめれば、「テレビゲームで遊ぶ子どもほど、社会的不適応の度合いが高い」という相関関係は見られる場合はあるが、それが「子どもがテレビゲームで遊ぶことによって、社会的不適応の度合いが強まる」という、悪影響論に一致した因果関係によるものとは考えにくく、「もともと社会的不適応の度合いが強い子どもが、テレビゲームで遊ぶようになる」という、悪影響論とは逆方向の因果関係によるものと考えられる、ということになる

日本テレビゲーム商業組合 平成17年度 事業計画
http://www.games-j.or.jp/plan/plan_2005.html

現時点においては、ゲームソフトの青少年への影響については、研究実績がまだ乏しいため、はっきりとした因果関係が実証されたわけではない。

平成12年11月9日 衆議院青少年問題に関する特別委員会
http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/150/0073/15011090073002c.html

川口雄総務庁青少年対策本部次長が政府参考人答弁
「我が国における有害情報と非行との関連につきましては、私ども総務庁の青少年対策本部がいろいろな調査を行っておりますけれども、有害情報への接触が多い少年ほど非行の経験が多いという、そういった、因果関係ではございませんけれども、相関関係があるということが確認されております。」

首都大学の宮台せんせー
論座 2001年3月号 元原稿
http://www.miyadai.com/texts/001.php

■だから、メディアの悪影響を危惧する人間は、メディアの受容文脈をコントロールすることに心を砕くべきで、それが科学的態度です。というと、また議員連中が、最近の親には子供のテレビ視聴をコントロールする力を失っているから、テレビの内容を規制してもらう以外にないのだ、と言いはじめる。私は毎度、頭を抱えてしまいます。
■もし「親がコントロールする力を失っているから」というのならば、受容文脈のコントロールが目標なのですから、内容規制ではなく、ゾーニング規制だけが主張されなければならない道理です。ところが実際には、内容規制とゾーニング規制が一人の議員の口からごちゃまぜになって主張されている。幼稚園児でも分かるようなことが分からないのです。
(略)
■というと、次のような反論が出てきます。悪影響論を実証するために、政府だって調査をしている。一昨年9月に総務庁が、昨年7月に郵政省が、それぞれ暴力的メディアへの接触頻度と、暴力を振るう頻度に関係があるというデータを出したではないか、などと言うわけですね。マスコミもこれを悪影響論を実証したものだとして紹介しています。
■いやはや、大学に入り直していただきたい。統計学の最初の講義で習うように、AとBに相関関係がある場合、因果的解釈は3通り。(1)A→B。(2)B→A。(3)A←C→B。(1)は暴力的メディアが暴力性向を高めるという解釈。(2)は元来暴力性向が高い者がたまたま暴力的メディアで欲望を発露しているとする解釈。双方で処方箋は完全に逆になります。
■(1)の悪影響論ならば、メディア内容を規制しろとなる。(2)の代理満足論ならば、メディアを規制すると欲望が現実の暴力行為に発露するので、メディア内容を規制するなとなる。ちなみに(3)は、僕の著作が採用している説ですが、別の第三のファクターがあって、これが暴力的メディアを愛好する傾向と、現実に暴力を振るう傾向を、共に高めると見ます。
■統計データの解釈についての基礎教養さえ存在しないマスコミは、政治家に、先の総務庁や郵政省のデータを突きつけられるだけで、反論のことばを失ってしまいます。悪影響を言うなら、そういうマスコミの無知無教養ぶりの悪影響こそが、政治家や国民を、悪影響論に基づくメディア規制に奔走させているとは言えないでしょうか(笑)。

松文館事件裁判 意見書
2003年4月30日 東京都立大学人文学部助教授 宮台真司
http://www.miyadai.com/index.php?itemid=59

■暴力的なメディアや性的なメディアが、受け手を暴力的にしたり性的にしたりするという「強力効果説」の発想は、20世紀の初頭に新聞・雑誌・ラジオが大衆化して以降、必ずしも実証を書いたまま、いわば大衆的な通念として流通してきた。今もそうである。
■ところが20世紀の半ばにジョセフ・クラッパーが登場し、数多くの実証的な社会調査を積み重ねた上、「限定効果説」を提唱し、学会の主流学説となった。メディアの(悪)影響を実証的に研究するアプローチ(効果研究)自体も、彼の実証研究を嚆矢としている。
■「限定効果説」とは、暴力的なメディアに接触した子供が暴力的に育つということはなく、たとえそのように見える場合も、実際には「選択性メカニズム」と「対人ネットワーク」というパラメータ(外性変数)が利いている、とする立場である。
■「選択性メカニズム」とは、例えば、もともと暴力的な素質を持った子供だけが、メディアに描かれた暴力に選択的に反応することを言う。逆に言えば、暴力的な素質を持たない子供は、メディアに描かれた暴力に影響を受けないということだ。
■「選択性メカニズム」はしばしば火薬と引金の比喩を用いて語られる。「火薬が充填」されているなら、「引金を引け」ば、弾が出る。もともとある暴力的な素質が「火薬の充填」に、メディアに接触することが「引き金を引く」ことに相当する。
■「選択性メカニズム」の実証は、メディア悪影響論を否定するものだと一般に理解されている。しかし、メディアが「引金を引く」だけなのだとしても、悪影響は悪影響ではないかとする反論が予想される。それに対し、クラッパーはこのように警告する*1
■火薬が充填されていれば、メディアが引金を引かなくても、いずれ別の要因が引金を引く。だから、メディアを除去することは何の解決にもならない。そればかりか、なぜ火薬が充填されたのかという真の問題を覆い隠す「気休め」に過ぎない、と。
(略)
■結論から言えば、メディアの悪影響についての実証研究は数多くあり、報告書の結論において「悪影響あり」とするもの、「悪影響なし」とするもの、それぞれ存在する。しかし、報告書の中身に立ち入ってみると、実証されている事柄には限りがあることが分かる。
■第一に、対象がテレビ番組の暴力表現に偏っている(前述)。第二に、もともと暴力的素因をもつ子供は暴力的メディアで短期的模倣を生じやすいこと。第三に、暴力的素因はメディアよりも家庭など人間関係要因によって形成されること。第四に、暴力的メディアを頻繁に利用する子供は現に暴力を頻繁に振るっていること。
■第二の、「暴力的素因をもつ子供による暴力的メディアの短期的模倣」については、シュラムとライルとパーカー共著『子供の人生とテレビ』1961年、S.ボール『暴力とメディア』1969年、アメリカ「公衆衛生局長官の報告」1972年など、古典的なリサーチにおいて確認されている。
■第二の裏側になるが、「子供たちが一般的に暴力的メディアを模倣する」という仮説が否定されることは、カナダ下院「テレビの暴力に関する報告書」1993年、国立衛生研究所(日本)の長期的調査(1980年代)によって指摘されている。
■第三の「暴力的素因はメディアよりも人間関係で形成される」ことは、シュラムとライルとパーカー共著『子供の人生とテレビ』1961年、カナダ下院「テレビの暴力に関する報告書」1993年、において指摘されている。
■第四の「暴力的メディアに接触する子供ほど現に暴力を振るう」との相関関係については、アメリカ「公衆衛生局長官の報告」1972年、ベスロン「テレビ暴力と青少年」報告(1978年)、アメリカ心理学会の「1985年の提言」「1990年の提言」に示されている。
■この第四の相関関係は誤解されやすいが、「暴力的メディアに接触したから暴力を奮う」という因果関係は実証されてない。むしろ、もともと暴力的素因をもつがゆえに、一方で暴力的メディアに接触し、他方で実際に暴力を奮うと解釈される必要がある。
■これらの研究を一覧すると分かるように、1950年代のクラッパーが提唱した「限定効果説」における、「選択性メカニズム」(素因)と「対人ネットワーク」(人間関係)が決定的な影響を及ぼすという論点を越える事象は、全くと言っていいほど実証されていない。
■こうした事情を踏まえて、カナダ下院「テレビの暴力に関する報告書」1993年は、テレビの暴力シーンと実際の暴力行為の間に決定的な因果関係(強力効果)が実証できない以上、法的な規制は不適切であり、関係者が協力して問題に取り組むのが良いとしている。

 
政府は、前述の通り、相関関係は認めていますが、因果関係は認めていません。さすがの官僚も、テレビカメラがまわっている国会の議場の中で堂々と嘘を吐くことはできなかったらしい。
相関関係がある場合には、未知なる第三の原因を追求して原因を明らかにしないかぎり法の強制力(公権力による営為)を発動すべきではありませんので、政府はずっと「原因の調査を続けている」と表向きには説明しています。
ところが、政府は研究を続けるだけで、研究結果については公表しようとしません。
なぜでしょうか。
 
さてここからが問題です。
複数の政府筋からの情報によれば、官僚の中ですでに次のような方針が採用されているのではないかとの議論があります。
それは、こういうことです。
 

1 政府の調査によれば、社会的問題と「有害情報」との関係において、「因果関係は無い」との結論が出されている。
2 しかし、「因果関係は無い」との結論は、いかなる場合でも国民に知られてはならないし、そのような認識を政府が持っていると疑われてもならない。
3 「因果関係は無い」との結論を政府が認知していることを公表すれば、「因果関係はある」という前提で作られている全国数百の自治体や政府機関の情報規制政策がすべて意味の無い無駄な政策だったということになる。
4 それは、官僚や政治家のメンツや、官僚や政治家の立場や、官僚や政治家の予算や権限が失われ、官僚機構や政治体制が変更される可能性を意味する。
5 国民の幸福よりも、官僚機構や政治体制の保持、すなわち「国体護持」が再優先で達成すべき政治目的である。“われわれ”*2にとっては国民のことなどどうでもよい。
6 したがって、「因果関係は無い」という研究結果を公表せずに「研究中です」とだけ答え、国民が「因果関係はある」との虚偽を勝手に信じるように、あらゆる機会を通じて宣伝工作する必要がある。
7 そのためには、「因果関係はある」との前提での情報規制を、先行して実施し、その既成事実により、国民が「因果関係はある」との虚偽を真実と信じる状況を作ることが重要である。
8 「因果関係は無い」との民間研究結果については、そう主張する科学者を政府機関などから追放し社会的に殺害し、国民が「因果関係はある」との虚偽を勝手に信じるよう記事を書くメディアに便宜を図るなど、の対策が必要がある。

 
この情報を証明する物証は、私自身は持っていません(もし物証があったら大スキャンダルだ)ので“推測”としておきますが、私なりの確信はあります。状況証拠はありますし、この仮説ならば、現在、日本で進行している情報規制の諸状況をある程度合理的に説明することができるからです。(二人ぐらい告発者が出ると面白いことになるんだけどなぁ…)
 
今回、総務省が設置する「有害情報判定委員会」の活動は、おそらく当面は「コンテンツ安心マーク」制度のマークの認証基準をどうするか、認証機関の設置をどうするか、といった周辺議論でとどまるでしょう。が、そうした前例を踏み台にして、5年後、10年後、20年後には規制が整備されてすべてのサイトがチェックを受け、有害と判定されたサイトが消えていくという可能性はゼロでは無いと思われます。
有害情報規制については、憲法を改正されるまでの間のつなぎとして機能すればいい、と規制サイドは考えているでしょう。本命はあくまでも憲法改正
そして憲法改正後にどのような法律によって暗黒社会が作られるかは、憲法改正国民投票法案において先取りされています。
 

資料:国民投票法等に関する与党協議会実務者会議報告
資料:日本国憲法改正国民投票法案骨子案
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20050609
資料:日本国憲法改正国民投票法案(議連案全文)
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20050608
表現の自由を刺し殺すために包丁を研ぐ:改憲国民投票法案(2)
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20050427

 
尚、「コンテンツ安心マーク」制度の創設には、予算措置として平成16年度4000万円、平成17年度1億5900万円が予算計上されています。今後、「有害情報判定委員会」などの議論によって展開される「コンテンツ安心マーク」制度が軌道に乗れば、2億近い予算が毎年毎年予算計上され、外部委託機関が「コンテンツ安心マーク」のマークシールなどを発行するような制度が作られれば、総務官僚の地位と権限と天下り先が生涯確保されることになるでしょう。
もちろん、1億だか2億だかかけて運用される「コンテンツ安心マーク」によってインターネットのコンテンツが「安心」なものになるとの保障は一切ありません。
税金の無駄、無駄、無駄、無駄のオンパレードです。
無駄なものはキッパリNOを言うことが必要です。
 
参考情報。
総務省の「有害情報」関連情報。
 

総務省
違法・有害情報対策
http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/d_syohi/taisaku.html
■研究会
「インターネット上の情報流通の適正確保に関する研究会」報告書 概要(12年12月)
http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/pressrelease/japanese/denki/001220j601.html
「インターネット上の情報流通の適正確保に関する研究会」報告書 本文(PDF)
http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/pressrelease/japanese/PDF/denki/001220j60101.pdf
プロバイダ責任制限法
特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律の概要
http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/top/denki_h.html
特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律のあらまし(PDF)
http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/top/pdf/houritu.pdf
特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律条文(PDF)
http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/top/pdf/jyoubun.pdf
特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律の図解(PDF)
http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/top/pdf/zukai.pdf
特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律の逐条解説(PDF)
http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/chikujyokaisetu.pdf
■フィルタリング
フィルタリングソフトについて
http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/d_syohi/filtering.html
【参考】
・インターネット接続サービスの提供にあたっての指針 (電気通信事業者協会
http://www.tca.or.jp/japan/infomation/proper/index.html
・「インターネット自己防衛マニュアル」 (テレコムサービス協会
http://www.telesa.or.jp/self%20difence/index.htm
・インターネットの苦情事例 (テレコムサービス協会
http://www.telesa.or.jp/guideline/2004/complaint6.htm
・インターネット接続サービス等に係る事業者の対応に関するガイドライン (テレコム
サービス協会)
http://www.telesa.or.jp/guideline/2003/20030501.htm
情報通信(IT政策)
http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/joho_tsusin.html
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サイト検索「有害情報」
http://tinyurl.com/8yrfy
平成17年度 総務省 重点施策
http://www.soumu.go.jp/s-news/2004/040827_1.html

(5)違法・有害情報対策
・   インターネット上を流通する違法・有害コンテンツに起因する犯罪が大きな社会問題となっていることに対応するため、モバイルフィルタリング技術の研究開発を推進するとともに、コンテンツ安心マーク(仮称)制度の創設に向けた開発・実証等を実施する。

情報通信白書
(3)良質なコンテンツの制作・流通の促進に向けた取組
安心・安全・公正なコンテンツの制作・流通体制等の実現に向けた取組
1 インターネット上の違法・有害コンテンツ対策
http://www.johotsusintokei.soumu.go.jp/whitepaper/ja/h16/html/G3601300.html

図表[2] 「新しいコンテンツ政策を考える研究会」最終取りまとめ(概要)

 
首相官邸の「有害情報」関連情報。
 

首相官邸
インターネット上における青少年に対する有害情報関係
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/others/yuugai.html
コンテンツ安心マーク(仮称)制度について(総務省
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/others/anshinm%20.pdf
モバイルフィルタリング技術の研究開発等(総務省
http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/d_syohi/filtering.html

 
関連ログ。
 

政府がインターネット有害情報規制に着手:「有害サイトは閉鎖させるべきだ」
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20050615
総務省情報フロンティア研究会報告書:他律から自律へ
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20050626
資料:子供向けポルノコミック等対策議員懇話会役員・会員リスト(1)
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20050530/p1
佐藤錬議員「情報メディアの規制をやれ、殺人事件ドラマはやめろ、芸能人は政治に口を出すな」と発言
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20050416/p1
松沢成文知事、ゲーム規制を熱く語る「ゲームが犯罪を招くので全体規制を考える時期だ」
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20050405
自民党憲法起草委員会論点整理:出版規制に踏み込む
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20050324
自民新憲法起草委:「表現の自由」制限を検討
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20050307
資料:有害図書・有害情報関連雑誌記事
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20050305
青少年健全育成基本法の制定に関する請願
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20041029

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*1: ジョセフ・クラッパー『マス・コミュニケーションの効果』NHK放送学研究室訳、日本放送出版協会、1966年(Klapper, Joseph The effects of mass communication, Free Press, 1960)。

*2:“われわれ”が具体的に誰を指すのかについては、申し訳無いですがここでは書けません。