立川反戦ビラ事件:法学館憲法研究所のコラム

 
法学館憲法研究所で立川反戦ビラ入れ弾圧事件と表現の自由について、憲法学の立場からコラムが掲載されています。
 

■法学館憲法研究所
http://www.jicl.jp/hitokoto/index.html
なぜ「表現の自由」が…
小沢隆一さん(静岡大学人文学部法学科教授・憲法学)
http://www.jicl.jp/hitokoto/index.html
http://www.jicl.jp/hitokoto/backnumber/20050217.html

いくつかの例をあげましょう。①2004年2月27日、東京都立川市内の防衛庁官舎にイラクへの自衛隊派遣に反対する内容のビラを配布したことについて、「住居侵入罪」として3人が逮捕され、3月5日に起訴されました。しかも、3人は、5月11日に保釈が認められるまで75日間も勾留されました(この事件の詳細は、次を参照して下さい。宗像充『街から反戦の声が消えるとき−立川反戦ビラ入れ弾圧事件−』樹心社・2005年)。②同年2月12日、杉並区の公園の公衆トイレに「戦争反対」の落書きをした若者に対して、東京地裁は、懲役1年2ヶ月執行猶予3年というこの種の犯罪では異例に重い刑を言い渡しました。③同年3月3日、日本共産党の機関紙赤旗の号外を配布した社会保険庁の職員が、公務員の政治的活動を禁止した国家公務員法102条に違反するとして逮捕、起訴され、東京地裁で裁判が係属中です。④同年12月23日、東京都葛飾区で日本共産党の「都議会報告」、「区議団だより」などをマンションに配付していた男性が、住人の通報により駆けつけた警察官に逮捕されました。男性は、日中の静かにマンションの共有部分の廊下を歩き、ドアポストにビラを配付していただけです。やめるよう求めた住人に対しても「入れてほしくないなら入れません」と応対したとされています。にもかかわらず、男性は、20日間近くの勾留の末、起訴されました。こちらの事件も東京地裁で裁判が始まろうとしています。
3.このサイトをご覧のみなさんの多くは、法律家をめざして日々勉学に励んでおられることでしょう。こうした事態を、どう思われますか?
・・・・・
憲法学のなかで定着している「表現の自由の優越的地位」の理論に照らしても、また市民常識から判断しても当然と思われるこの判決を、検察が不服として控訴する。これが、今の日本の司法の悲しいかな現実です。

◆立川反戦ビラ事件無罪判決と表現の自由 内田雅敏さん(弁護士・東京弁護士会
(2005年1月31日)
http://www.jicl.jp/hitokoto/backnumber/20050131.html

立川反戦ビラ事件無罪判決
極めて当然な判決だと思いますよ。極めて当然なことを今の裁判所はなかなか受け入れてくれないなかで、今回裁判所は法の支配や立憲主義の破壊に対して踏みとどまってくれたという気持ちです。
判決理由では明確には述べられていませんが、このビラはイラク戦争に対する反対を狙い撃ちにした選択的、政治的な起訴であるという配慮が働いていると思います。
最近表現活動に対する締付けが強化されている
オウム事件のときに、刑法や刑事訴訟法から見ればとても無理だと思われるようなことが、住居侵入罪などで無茶苦茶な逮捕、起訴がされましたね。しかしオウムだから仕方ないということであまり非難の声は出なかった。そういうことを見過ごしてしまった私達の社会が、オウムによって復讐されているんじゃないかという気がします。ナチズムによる弾圧の最初は共産主義者で、次が社会主義者でした。大方の人はまだ大丈夫だって思っていたら、その後自由主義者がやられました。同じような流れになってきているのではないでしょうか。
自衛隊員の政治的行為には目をつぶっている
―ところで、先生は東京地検に対する告発状を準備されているそうですね。
内田 はい。公務員の政治的行為の制限に対する国の態度は極めて恣意的です。昨年10月15日に、陸上自衛隊の幹部が、元防衛庁長官で当時自民党憲法改正案起草委員会座長だった中谷元衆議員議員の依頼を受けて、勤務時間中に憲法改正草案を作り提出しました。草案には、自衛隊を「自衛軍」として憲法に明記すべきであり、現行憲法上許されていない集団的自衛権の行使について憲法改正することによって、これを可能にすべきだと主張するなど,公務員の憲法尊重擁護義務(憲法99条)に反する行為をしています。これは自民党憲法改正草案大綱に盛り込まれました。
かつては、三ツ矢作戦とか、来栖統合幕僚会議議長の超法規発言という自衛隊員の政治的発言については、厳しい批判を受けました。
憲法改正論議における「表現の自由」の取扱い
今、政党などの改憲案を見ると、「知る権利」や「情報開示請求権」など、表現の自由をより保障しようという意見が主張されていますね。
内田 よく言われているように、「新しい人権」は憲法9条の改正を通すための「目くらまし」として使っているわけです。しかし、実はそれに止まらず、人権の総則規定で「公共の秩序」を強調するなどして、「新しい権利」についても実質的には制限する危険性があるのではないでしょうか。
―「創憲」を唱える民主党は、昨年6月の同党憲法調査会「中間報告」で、「憲法を国民の手に取り戻す」と主張しています。
内田 そうすると、今憲法は国民の手にないのかと、押し付け憲法論とどこに違いがあるのかという気がします。民主党は、一方で「基本的人権尊重」と言いながら、現実には今まで「日の丸・君が代」の問題で、学校でどのような処分が行われ憲法番外地となっているかということについてほとんど発言していません。むしろ民主党のある突出した東京都の議員が推進しているという気がします。

 
関連ログ。
 

「落書き」事件判決/「何が」汚いのか
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20040212
迷惑防止条例改悪案:ビラを持っていると30万円以下の罰金
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20041216
立川反戦ビラ事件一審判決:良心の囚人に無罪判決、ビラ配布に可罰的違法性無し
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20041218
立川反戦ビラ事件一審判決:良心の囚人に無罪判決(その2)
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20041219
立川反戦ビラ事件一審判決:良心の囚人に無罪判決(その3)
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20041223
立川反戦ビラ事件:検察が控訴
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20041216
街から反戦の声が消えるとき
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20050128#p2
立川反戦ビラ事件:2月27日に集会を開催
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20050214#p2

───────────