BPO青少年委シンポ:子どもの行動とテレビ視聴の因果関係

 
放送界の自主的な自律機関である「放送倫理・番組向上機構」(略称=BPO、放送倫理機構)の「放送と青少年に関する委員会」(青少年委員会)は、子どもの意識や行動とテレビ視聴との相関関係および因果関係について示唆を得ることを目的に実施した面接調査「青少年へのテレビメディアの影響調査」を行っていましたが、この調査結果の報告のため、シンポジウムを2月22日に開催するとの告知を出しています。
 

放送倫理・番組向上機構
http://www.bpo.gr.jp/index.html
放送と青少年に関する委員会
http://www.bpo.gr.jp/youth/f-forum.html

「青少年へのテレビメディアの影響調査」(4年間調査)の報告会と、シンポジウム“子どもとテレビ”の開催について
青少年委員会では、テレビを中心としたメディアが青少年に及ぼす影響を調べるため、小学5年生の子どもが中学2年生になるまでの4年間、毎年、同一サンプルに面接して追跡調査してきました。同調査は、2000年度から実施しています。
調査は、ある期間の子どもの意識や行動とテレビ視聴との相関関係および因果関係について示唆を得ることを目的に、小学5年生から中学2年生になるまでの4年間、同じ子どもと、その保護者に毎年、面接調査を行い、子どもの発達過程・生活空間の中でメディアの影響を捉えようとするものです。
「青少年へのテレビメディアの影響調査」結果がこのほどまとまりました。
この4年間調査で、何がわかったのでしょうか。
来る2月22日(火)の午後、4年間の「調査結果報告会」と「シンポジウム」を開催します
参加ご希望の方は、下記のプログラムをご覧の上、お申し込みください。

調査結果報告会とシンポジウム“子どもとテレビ”プログラム
http://www.bpo.gr.jp/youth/forum/kodomotv.pdf

4年間の調査報告とシンポジウム
「子どもとテレビ」
〜「青少年へのテレビメディアの影響調査から」〜
日時:2005年2月22日 13時30分開場(17時終了予定)
開場:千代田放送会館2Fホール(千代田区紀尾井町1-1)
TEL:03-5212-7034(青少年委員会事務局)
第1部
報告「子どもたちの成長に、テレビはどう関っているのか」
報告者 無藤隆(青少年委員会副委員長、白梅学園短期大学学長)
調査研究プロジェクト
 無藤隆(白梅学園短期大学学長)
 川浦康到(横浜市立大学教授)
 角谷詩織(上越教育大学助教授)
アドバイザー
 白石信子(NHK放送文化研究所主任研究員)
 堤靖芳(フジテレビ編成制作局次長兼調査部長)
 壇野竹美(テレビ朝日編成制作局編成部マーケティング担当副部長)
第2部
シンポジウム「テレビハ子どもたちに何ができるのか」
パネリスト
 無藤隆(白梅学園短期大学学長)
 江川紹子(ジャーナリスト)
 大山勝美(テレビプロデューサー、演出家)
コーディネーターケ柏倉康夫(放送大学教授)
主催:BPO放送と青少年に関する委員会」(青少年委員会)

参加申し込みフォーム
http://www.bpo.gr.jp/youth/forum/form.html

 
ちなみに、テレビの子どもの心身への影響については、文部科学省(旧文部省)スポーツ青少年局青少年課が「教育改革国民会議報告」を受けて作った「「子どもとテレビ」に関するNPO等についての調査研究会」による報告書が作られ、米国NPOなどの団体の活動を調査研究内容を報告・検討しています。
しかし、この研究会ではテレビの子どもの心身への影響について「相関関係がある」とか「因果関係がある」という報告は一切無く(当然だ)、「相関関係を調べている団体がある」とだけ報告しています。
 

■文部省
青少年の健全育成
http://www.mext.go.jp/a_menu/01_e.htm
青少年健全育成
http://www.mext.go.jp/a_menu/sports/ikusei/main4_a7.htm
「子どもとテレビ」に関するNPO等についての調査研究−米国を中心に−報告書
スポーツ・青少年局青少年課)2002/03/29
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/14/04/020409.htm

http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/14/04/020409a.pdf
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/14/04/020409b.pdf
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/14/04/020409c.pdf
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/14/04/020409e.pdf

 
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メディアの心身への影響について、政府は公式に「因果関係はないが相関関係はある」との見解*1を持っており、文部科学省は「因果関係は不明」との前提でメディア対策を講じています。
「「子どもとテレビ」に関するNPO等についての調査研究−米国を中心に−報告書」を「因果関係」で検索してみればわかりますが、「因果関係がある」という文字はありません。
「相関関係があるなら悪いじゃないか」と勘違いしている人がいるので説明しておきますが、「相関関係」は、たとえば「風が吹いた」という現象と「桶屋が儲かった」という現象の二つがあったとして、「風が吹いた」と「桶屋が儲かった」という現象には何等かの第三の要因(その要因はひとつかもしれないし、それぞれ異なる多数の要因かもしれない)が働いているというロジックです。対して「因果関係」は、前述の例では、「風が吹いた」と「桶屋が儲かった」現象は、風が吹いたことが原因となって桶屋が儲かったという単一の方向性のある関係性が在るというロジックです。
「強力効果論」はメディアが原因となって子どもが犯罪を犯したというような学説ですが、これは「因果関係」があるという仮説を前提にしています。
対して「受容文脈論」は、メディアが原因となって子どもが犯罪を犯したのではなく、原因は子どもの置かれている受容文脈、つまり受容環境が原因となっているけれど、もともと子どもが犯罪を犯すような受容環境に置かれている子どもが、メディアに接触することによって子どもが犯罪を犯すトリガーのひとつになるという考え方です。(トリガーはたくさんあって、たとえば路上で喧嘩を見たとか、喧嘩で勝った子どもが誉められたとか、自分を叱った大人が嘘をついていたということもトリガーになり得ます)
「受容文脈論」の考え方でいうと、まず貧困や親に対する養育福祉といった子どもの受容環境を改善するという政策論が第一に考えられ、受容環境の改善が不可能である場合(そんなケースは通常あり得ないですが)に受容環境を改善するまでの一時的な措置として、犯罪を犯しやすい受容環境にある子どもに対してだけトリガー全体を子どもから分離させるという政策を実施させ、その延長としてトリガーとなる特定メディアの特定表現に対してだけソーニングなどの一時的分離が必要だとの議論の順番になるはずですが、そういう科学的な社会政策や議論のプライオリティが議論されたことは、政府も民間も無かったというのが日本の現状です。
こうした科学的な社会政策をパスしてイデオロギー的議論だけで結論だけおしつけたいという思想宗教勢力は、過去数十年もの間、科学的に政策を実施することをタテマエ(実際には妥協はしてきましたが)とする文部科学省などの対応に不満を抱いていました。
イデオロギー勢力は、小渕内閣のもとで青少年育成推進会議を設置させ文部科学省と青少年政策を分離させることに成功し、森内閣のもとで青少年育成推進会議が拡大設置することで文部科学省の影響力を排除して法務省警察庁主導の青少年政策を実施することに成功し、小泉内閣の下では、文部科学省当局を完全に排除するかたちで、内閣(実質的には警察庁法務省の出向官僚)に青少年育成推進本部*2というあらゆる行政機関から独立した(しかしイデオロギー勢力の管理にある)総理直属の特務機関(もちろん法律委任根拠は無し)を閣議ででっちあげ、「社会の理解を得られた」という理由だけで「強力効果論」を前提にした青少年政策を実施し、放送界や出版界、ウェブサイトなどのメディアに対する規制が推進されているというのが今日の日本の青少年政策の現状です。
こうしたファシズム的現状に対する放送界としてのカウンターアプローチが、BPOの設立であり、放送と青少年に関する委員会の設置であり、「青少年へのテレビメディアの影響調査」であったと見られてるわけで、そういう意味で注目されているのだと思います。
BPOが「因果関係」を認めるとは予想していませんが(もし認めたら政府よりも過激にメディア規制を自発的に認めたことになり、事実上の無条件降伏です)、問題はそういうところにあるのではなく、科学的な社会政策を政府やメディア規制論者よりもリードできるかどうかという点であって、単に相関関係を認めて因果関係を否定するだけでは意味がありません。
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*1: 平成12年11月9日の衆議院青少年問題に関する特別委員会において、川口雄総務庁青少年対策本部次長が政府参考人答弁「我が国における有害情報と非行との関連につきましては、私ども総務庁の青少年対策本部がいろいろな調査を行っておりますけれども、有害情報への接触が多い少年ほど非行の経験が多いという、そういった、因果関係ではございませんけれども、相関関係があるということが確認されております。」 http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/150/0073/15011090073002c.html

*2:青少年育成推進本部 http://www8.cao.go.jp/youth/suisin/yhonbu/yhonbu.html