平成16年版情報通信白書

 
平成16年版情報通信白書の全文が総務省サイトで公開されています。
 

総務省
平成16年版情報通信白書(HTML版全文)
http://www.johotsusintokei.soumu.go.jp/whitepaper/ja/h16/index.html
国民のインターネット活用の現状
http://www.johotsusintokei.soumu.go.jp/whitepaper/ja/h16/html/G1201100.html
図表[1] インターネット利用人口及び人口普及率の推移
http://www.johotsusintokei.soumu.go.jp/whitepaper/ja/h16/image/G1201101.gif
図表[2] 世帯・企業・事業所(注2)でのインターネット普及率の推移
http://www.johotsusintokei.soumu.go.jp/whitepaper/ja/h16/image/G1201102.gif

 
家に一台メール送信機能つき携帯電話があるだけで「世帯でインターネットが普及している」ことになってしまう統計上の世帯普及率ですので、「普及率がこれだけ高くなったのはオレがつくらせたe-JAPAN計画のおかげだ」と自慢しまくっている森元総理とかの自慢話には、眉にツバをつけて聞いた方がよいと思います。
 

世界最高水準のブロードバンド
http://www.johotsusintokei.soumu.go.jp/whitepaper/ja/h16/html/G1101100.html

 
こういう文を見て「日本の情報通信はスバラシイ!」と喜びだす人がいそうですが、回線は太くてもそれに等価比例して運ばれている情報ソースが増えてが豊かになっているわけではないという批判は、著作権強化や既得権益保護に関連したコンテンツの囲い込み問題などで議論されていたことです。
世界最高水準のブロードバンドであることは事実でしょうが、ブロードバンドコンテンツは「大きな壷に米一粒」状態。
といった批判をかわそうとしているのかどうかわかりませんが、白書の「コンテンツ量」の項目ではかなり“粉飾”がなされているように私には見えます。
 

第2章 情報通信の現況
コンテンツ量
表[1] インターネットコンテンツ量の推移(JPドメイン対象)

図表[2] コンテンツのファイルタイプ別比率(平成16年2月)

「6年間で約15倍コンテンツが増加した」という事実を、大きくコンテンツが増えていると考えるか、まだたった約15倍しか流通していないと考えるかは判断がわかれるところです。私は後者の立場。
インターネットにおける情報通信の“処理能力”が6年間で幾何級数的に増えたことを考えると、情報を運ぶ道具は自転車が大型タンカーになったぐらい大きくなったのに対して、乗せている荷物は巾着がリュックサックに変った程度の変化しかないようにも私には思えます。
 
インターネットにおけるコンテンツの枯渇について、私がいつも連想することは、地方の公共事業と過疎の光景です。
有力議員が政治力で作らせた建設事業によって、田舎町に立派な港ができたけれど、船は週に一隻ぐらいしか来なくて、その船も近くの港からの荷物を載せているだけで国際貿易とは無関係だったりするのと、今の日本の通信事情は似ているような気がします。
港はあるけど船が無い。
船はあるけど荷物がない。
新幹線はあるけど毎日乗る客がいない。
高速道路はあるけど走る車が無い。
高速バスがあっても客がいない。
高速トラックに乗せる荷物が無い。
そういう過疎地域の問題は、著作権の不当強化によるコンテンツの囲い込みや、自由に使えるコンテンツリソースの不足と言った問題と、実は同じ“根”なのではないか。
「ITと環境、福祉は批判もされずに巨額の税金を投入可能な、新たな公共事業化へ」との言葉は長野県で真の構造改革を進める田中康夫知事の言葉*1ですが、国家による富の中央集権的な再配分政策の行詰りが、情報通信をめぐる分野でも繰り返されているのではないか。
そういう疑念が私にはあります。
 

インターネットの利用状況
http://www.johotsusintokei.soumu.go.jp/whitepaper/ja/h16/html/G1201200.html
図表[3] パソコンからのインターネットの利用用途(複数回答)

図表[4] 情報メディア別の情報収集用途(複数回答)

図表[5] インターネットでの情報収集に対する考え方

 
ウェブを作って情報発信している人は利用者の7.5%。掲示板やチャットを使っている人(読んでいるだけの人も含めて)は全体の18.7%。実際に掲示板に書きこんでいるのはインターネット利用者全体の10%程度でしょうか。
「電子掲示板は一割言論」。そう考えると、電子掲示板やウェブログに過剰に期待したり気負う必要は無いですし、たとえば出会い系サイト規正法の効果を過大評価するイカれた人たち*2のように、過剰に危険性や危機感を煽る必要も無いと思います。
 

(3) インターネット利用による国民生活の変化
http://www.johotsusintokei.soumu.go.jp/whitepaper/ja/h16/html/G1201300.html
図表[1] インターネット利用による生活の変化(複数回答)

 
「家族や友人と連絡をとる時間が増えた」と回答した人が「減った」と回答した人よりも二割多いという結果が出ています。
誰ですか、インターネットは家族関係を希薄にするなどと言っている人は。逆じゃないか。
 

国際的なデジタル・ディバイドの状況
http://www.johotsusintokei.soumu.go.jp/whitepaper/ja/h16/html/G2907000.html
図表[1] 世界の所得グループ別※人口・固定電話回線数・移動電話加入数・推計
インターネット利用者数の比率(2002年)

 
「地球がもし100人の村だったら」的に書くと、豊かな生活を送っている15人がインターネットの7割を独占していて、極貧生活を送っている40人は裕福な15人の1/13しかインターネットを使えません。
 

デジタル・ディバイドの解消に向けて
http://www.johotsusintokei.soumu.go.jp/whitepaper/ja/h16/html/G1402500.html
図表[4] 各属性がインターネット利用/未利用に与える影響度

 
インターネット利用にとってマイナスの属性は、高齢であること、所得が低いこと、町村部に住んでいること、そして女性であること。
インターネットの普及を進めてきたのは産業ですが、インターネットの普及を妨げるのもまた産業。採算性のない個人や地域にインターネットを普及させる動機は産業の中からは生まれにくいですから、公共機関がそうした動機を合理的な範囲でつくっていくしかないでしょう。
 

個人や企業の責任ある行動
http://www.johotsusintokei.soumu.go.jp/whitepaper/ja/h16/html/G1402400.html
図表[2] 情報通信ネットワークやサービスの使い方の向上のために重要と考える項目(複数回答)

電気通信サービスにおける消費者行政
http://www.johotsusintokei.soumu.go.jp/whitepaper/ja/h16/html/G3701000.html

2 電気通信の適正利用のための対応
(2)違法・有害コンテンツ対策
[1]プロバイダ責任制限法*3
インターネットの急速な普及に伴い様々な電気通信サービスの提供が可能となってきているが、その一方で、他人の権利を侵害する情報の流通も増加してきている。その対策として、平成14年5月に、インターネット上のウェブページや電子掲示板等、不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信による情報の流通によって他人の権利が侵害された場合について、(ア)プロバイダ等の責任の制限(プロバイダ等の責任を制限・明確化することにより、プロバイダ等が権利侵害情報に対して適切に対応することが促される)、(イ)(被害を受けた者からの)発信者情報の開示請求権を規定する、いわゆるプロバイダ責任制限法(「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律」)が施行された。総務省では、同法が適切に運用されるよう、業界団体による同法のガイドラインの策定に対する支援や周知を行ってきている。
[2]プロバイダによる自主規制の促進
インターネット上での違法・有害情報については、(社)テレコムサービス協会*4が「インターネット接続サービス等に係る事業者の対応に関するガイドライン」(平成10年2月公表、平成15年5月改訂)*5及び「インターネット接続サービス契約約款モデル条項」(平成12年1月公表)*6を、また(社)電気通信事業者協会*7が「インターネット接続サービスの提供にあたっての指針」(平成13年3月公表)*8を策定し、周知に努めている。総務省では、今後とも、業界団体等による自主的取組を促すための支援を行うこととしている。
[3]フィルタリングサービスの普及・開発
近年、モバイルインターネットが幅広い年齢層に急速に普及する一方、出会い系サイトを通じた児童買春等が社会問題となっている。現在、パソコン向けのフィルタリング機能(インターネットのウェブページのうち、特定の条件に合致する(しない)ページの閲覧を遮断すること。)は実現・普及しているが、(実際に児童買春等の問題となったケースで主に利用されていた)“モバイル”向けについては、その特性から、フィルタリング機能の実現に至っていないため、総務省では、児童の健全育成の観点から、平成16年度からモバイル端末におけるフィルタリング機能の実現に取り組んでいる。

 
テレサ協の作った「インターネット接続サービス等に係る事業者の対応に関するガイドライン」の第5条には「青少年の保護」という項目があり、プロバイダーは「青少年の健全な育成を阻害する情報」から青少年を保護するため、青少年への通信IDの発行に保護者の同意を求め、保護者が希望した場合に青少年の健全な育成を阻害する情報を青少年が受信できないようなID管理を行わなくてはならないというルールを定めています。
 

「インターネット接続サービス等に係る事業者の対応に関するガイドライン
http://www.telesa.or.jp/guideline/1998/19980216guide.htm
第二章 利用者の保護
http://www.telesa.or.jp/guideline/1998/guide/02.htm

(青少年の保護)
第5条
事業者は、公然性を有する通信を可能とするインターネット接続サービス等において、青少年の健全な育成を阻害するおそれのある情報から青少年を保護するため、その保護者の選択により青少年が当該情報を受信できないような仕組みを構築するよう努めるとともに、通信IDに関し、以下の取扱いをするよう努めるものとする。
個々の利用者ごとに通信IDを発行すること。
青少年への通信IDの発行には、保護者の同意を得ること。
保護者が選択した場合、青少年の健全な育成を阻害する情報を青少年が受信できないようなID管理を行うこと。

 
「青少年の健全な育成を阻害する情報」という規定は抽象的で、規範としての意味をなしていないという批判は、このガイドラインの案が作られる段階でありましたし、私も批判しました。
テレサ協は、その批判があったことをふまえ、具体的にどの情報を指しているのかについて以下のように解説しています。
 

http://www.telesa.or.jp/guideline/1998/kaisethu/05.htm

解説
「青少年の健全な育成を阻害する情報」とは、著しく性的感情を刺激し、または著しく残忍性を助長するような情報(各自治体の青少年保護条例の有害図書の定義に類似の規定がある。)をいう。

 
ご覧の通り、自治体の青少年保護条例の定義規定をコピペしているだけで、じぇんじぇん具体的ではなく、抽象的な説明であって「解説」で意味をなしていません。
たとえば、「著しく残忍性を助長するような情報」と「著しく残忍性を助長するとはいえないが軽度に残忍性を助長する情報」との違いを具体的にどのように線引きするのか、みなさんにわかりますか? そもそもどのような科学的メカニズムで人の残忍性を助長することになるのかも、わからない人がほとんどだと思います。というか、そんな科学的メカニズム自体、完全に解明されているとは言えないわけですけれども。
結局、情報を規制したい人にとって単に不愉快な情報を「青少年の健全な育成を阻害する情報」として排除することを、あたかも合理的な規制であるかのようにふるまうための制度偽装としてガイドラインが作られていると考えるしかない。
問題は、こうした偽善的な規範が一民間企業だけの判断に留まらず、日本政府によって「電気通信の適正利用のための対応」として受けとめられているということであって、たとえば最近話題になったライブドアウェブログ削除問題*9などの現象でも言える通り、こうしたガイドラインの運用によって不合理なアカウントデリートなどが行われても、政府は一切救済しないどころかそれを助長しているという点です。
 
情報通信白書の全文に目を通している時間の無い人は、官報資料版の「あらまし」が公開されています。

内閣府
官報資料版 平成16年12月8日
平成16年版情報通信白書のあらまし
http://www.gov-online.go.jp/publicity/book/kanpo-shiryo/2004/1208/siry1208.htm

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*1:週刊web SPA! 田中康夫「愛の大目玉」 http://spa.fusosha.co.jp/oomedama/main.html 12月30日1月6日合併号(12月23日売)142回 http://spa.fusosha.co.jp/oomedama/ai_142.html

*2: 北の系「出会い系サイト規正法問題(目次)」 http://zirr.hp.infoseek.co.jp/020319.html の「少年有害環境対策研究会議事要旨」など参照 http://zirr.hp.infoseek.co.jp/020343.html

*3: 特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(平成十三年十一月三十日法律第百三十七号) http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H13/H13HO137.html

*4:(社)テレコムサービス協会 http://www.telesa.or.jp/

*5:平成10年2月16日社団法人テレコムサービス協会事業者倫理委員会 「インターネット接続サービス等に係る事業者の対応に関するガイドラインhttp://www.telesa.or.jp/guideline/1998/19980216guide.htm

*6: (社)テレコムサービス協会インターネット接続サービス契約約款モデル条項(アルファ版) http://www.telesa.or.jp/guideline/model/index.htm

*7:電気通信事業者協会 http://www.tca.or.jp/

*8:「インターネット接続サービスの提供にあたっての指針」平成13年3月16日制定 http://www.tca.or.jp/japan/infomation/proper/index.html

*9:デパス四錠と煙草一箱「生扉強制削除に関するまとめ」 http://u8.livedoor.biz/archives/9214815.html など参照