国境なき記者団事務局長インタビュー


2004年12月9日、TBS「NEWS23」の特集「シーン04 ジャーナリズムの一年」で、国際NGO「国境なき記者団*1の事務局長へのインタビューが放送されました。
以下、放送より抜粋。
 

筑紫:2004年を振り帰るシリーズ「Seen'04」。今日はジャーナリズムのこの一年です。今年は、治安の悪化でイラクは泥沼化し、戦争と報道という古くて新しいクローズアップされるなど、メディアの姿勢が改めて問われる一年でした。今夜は、フランスを拠点に報道の自由を守り続ける「国境なき記者団」の事務局長と我々メディアが置かれた状況について考えます。
 
国境なき記者団のCM。ビデオ映像。

"N'attendez pas qu'on vous prive de l'information pour la defendre"
(情報が奪い取られ禁止されてしまうまであなたは待たないで下さい)*2

 
ナレーター:「国境なき記者団」の事務局長を務めるフランス人ジャーナリスト、ロベール・メナール氏が来日した。1985年にフランスで結成された「国境なき記者団」は、「報道の自由なくして真に自由な社会はない」をスローガンに、ジャーナリストへの弾圧を告発するとともに、メディア規制の動きを監視する活動を行ってきた。メナール氏は世界各国を飛びまわりメディア規制の抗議活動を繰り広げ、拘束中のジャーナリストたちを釈放させてきた。さらに毎年「報道の自由度ランキング」を発表して報道の自由を奪う動きに対し警鐘を鳴らしている。
 
筑紫:(監獄のセッティングになっているスタジオを見て)われわれは監獄の中にいる、というわけですね。

国境なき記者団」事務局長=ロベール・メナール:そうです。現在130名以上のジャーナリストが投獄されています。彼らはただ自分の仕事をしようとしただけで投獄されてしまったのです。あなたが日本で自由にしている仕事を世界の半分の国々では、不孝にしてすることができないのです。
 


5月19日のニュース:「記者同行取材、日本テレビを“排除”→撤回」
2月3日のニュース:「陸自本隊第一陣イラクへ…」防衛庁が取材一部自粛を申し入れ
3月17日のニュース:「週刊文春 「差し止め」に波紋」
12月4日のニュース:「NHK元職員逮捕について」

 
ナレーター:「国境なき記者団」が発表した「報道自由度ランキング」*3。さて、日本の順位は?
 

 
筑紫:日本は、本当は民主主義の国なのにそれほど高くはない…。この日本の評価というのは主としてどういう理由からでしょうか?
メナール:なぜかというと、日本には「記者クラブ」というシステムがあり、これがいろいろな問題を投げかけているからです。
筑紫:メナールさんがお書きになったご本*4の中で、記者クラブのところがあります。私は30年来「記者クラブ」は無くすべきだという主張*5をしていますけれども、非常に少数です。30年間かかっても。しかも、私がそう言いつづけることに対して、「非常に偽善的だ」とかいろんな非難を受けつづけてきております。それは政府や経済界からではなくてジャーナリストの仲間からそういう声が出てきているのです。問題はもっと深刻だという事をこの機会に指摘しておきたいのですが。

メナール:私はあなたに賛成です。*6記者クラブは、マスメディアに対する情報操作を行ったり、また、ある種の情報に対し優先的に関与できるなど、政府とマスコミの一部との間で特別な“身内意識”を持たせることになります。結局は、報道の自由という意味において正常ではない関係を結ばせることになる悪いシステムなのです。
 
ナレーター:「戦争とメディア」。海外に目を転じても、メディアをめぐる状況は厳しさを増している。イラク戦争の余波が続いた2004年は、過去最悪のペースでジャーナリストが死亡。(2004年、殺害されたジャーナリスト…47名、逮捕・投獄されたジャーナリスト…121名 「国境なき記者団」調べ) ジャーナリストがより危険にさらされる状況になっていると指摘する。
 
筑紫:戦争と報道の関係で大変問題なのは、しばしば戦争を始めると政府がメディアをコントロールしようとする。あるいは政府が自分たちの望む方向に報道を操作しようとするという問題があると思いますが、イラク戦争でやはりそういうことが起きていると思いませんか。
メナール:もちろんです。戦場に向う人々を強制しようという試みが為されるわけです。イラク戦争開始当初、ジャーナリストはパスが与えられ、直ちに軍に組み入れられました。それはたしかに報道するためですが、同時にアメリカ軍が情報操作を試みるためなのです。
筑紫:いまのことは戦争取材での「エンベッド」(エンベッド取材:前線部隊と寝食をともにしながら取材する方法。米軍との間に取材ルールが決められる)*7と呼ばれることを仰っていると思いますが、それだけではなくてたとえばイラク大量破壊兵器があるかないかをめぐる報道。つまり、戦場だけではなくてワシントンでの報道にもいろんな問題があったと思いますけれども。
メナール:戦争前にも、アメリカのマスコミに対して圧力がありました。アメリカのような大国に失礼だとは思いますが、一部のマスコミ報道は戦争のプロバガンダになっていました。FOXニュースなどを聞けばもはやこれは報道ではなくプロバガンダの領域に入っていることがわかります。戦争準備のために言いたいことが言えるより、マスコミに対する圧力が試みられるのです。
 
ナレーター:イラク戦争とメディアをめぐっては、イラク大量破壊兵器があると主張するアメリカ政府の言い分をそのまま報道し、結果的に戦争を後押しすることになったアメリカのメディア。しかしその後大量破壊兵器が存在しなかったことが明らかになり、メディアの報道姿勢が問われる事態となった。
 
ナレーター:メナール氏は、911同時多発テロ以後、「テロとの戦い」の名の下、表向き言論の自由が保証されている民主主義国家でも徐々に報道の自由が制限されていると指摘する。
 

メナール:911以降、あらゆる体制に於いて自由を奪うために「テロとの戦い」という名目が利用されています。その最たる例がプーチン大統領でしょう。今日、プーチン氏は自分と敵対した者や自分を批判する者をテロリストだと決めつけて悦にいっているわけです。テロとの戦いということが主流になっているので、我々の民主主義社会においてさえなにか問題があっても、もはやなにも言えないのです。もし、私があなたを「このジャーナリストはテロリストだ」と言いさえすればもう誰もあなたをかばう人は誰もいなくなります。たとえそれが嘘だとしてもです。テロリズムに対抗しなければならないのは確かです。私も安全な生活を望んでいます。四人の子供がいるパリに爆弾が落ちてほしくありません。あなたも東京にそんなことが起きてほしくないと思いますよね。しかし、自由も尊重されなければならないのです。
 
ナレーター:メディア規制、ジャーナリストの拘束、遠い話のように聞こえるこうした出来事だが、メナール氏は日本でも気がつかないうちに徐々にメディア規制されている危険があると警鐘を鳴らす。
 
メナール:想像してみてください。明日から政府管轄の唯一のテレビ局しかないと言われたら、この国の経済も人々の生活も一変してしまうでしょう。政府と違う考えをしただけであなたが監獄に入れられるなどとはとんでもないことです。それだけで20年の禁固刑に処されることがどんなことだか想像してみてください。

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