斬首画像の公開や閲覧をどう考えるか

掲示板である方から「処刑動画が出回っていること」について、「遺族と本人の尊厳を毀損している」という怒りの投稿がありました。
この件について掲示板で書いた文を抜粋して転載しておきます。

私自身、北の系のイラク戦争報道管制問題*1イラク人犠牲者の写真を掲載したり、ブログでアメリカ兵士の遺影*2を掲載したりしていますので、わたしの立場の説明も兼ねて意見を書きます。(法律論ではありません)
 
私は、怒りや悲しみ、そして快楽などの感情それ自体は否定するつもりはないですし、否定すべきだとも思いません。しかし、怒りや悲しみによって理性や判断力が低下するという人間の性質は、自分も含めて、自覚すべきだと思っています。
何らかの現象に怒りを感じた時、その怒りがどこから発生しているのか、「怒りの根源」を私たちは冷静に見つめ、考えるべきです。
事実の表現や伝達に対する怒りなのか、事実への怒りなのか、その事実を発生せしめた悪意への怒りなのかを。
私は、事実を発生せしめた人間の悪意に対して、あるいはそのような人間の悪意を追認しようとする人間の心に対して、怒りを感じます。死の事実それ自体、あるいは死の表現それ自体に怒りは感じません。
なぜか。斬首という事実を作った人、あるいはその事実を解釈する人間に心があると思っているから怒りが生じるのであって、事実やその表現それ自体に心はないからです。
事実が悪意を作っているのではありませんし、表現が事実を作っているわけでもありません。怒りの対象は、あくまでも人の心です。
だから、処刑動画それ自体が本人や遺族を傷つけたとは思いません。傷つけたのはあくまでも殺人という行為を悪意で実行した人の心であり、こうした「テロとの戦争」を始めた人たちの心です。
「反動形成」という社会心理学の言葉もありますが、人は自分の良心を咎めるような事実を否定したり隠したがるものです。そして、香田さんの斬首映像は、無辜の市民を殺すことになった「テロとの戦争」に加担した主戦国の国民であるという事実によって、わたしたちの良心を咎めます。
その良心の咎めに対し、私たちは目を背けず、他者に責任を転嫁せず、無辜の市民の死が「テロとの戦争」の結果であるという事実を厳然と受けとめることが、本当の意味で死者を弔うことになるのだと思います。 *3
ひとつ別な具体例を挙げましょう。
たとえば、原爆犠牲者の方は、原爆のきのこ雲や犠牲者の表現物を見て、その表現に対して「尊厳を無茶苦茶にしている」と怒るでしょうか? 否。
原爆犠牲者を侮蔑しているので原爆関連情報の展示は禁止すべきでしょうか? 否。
日本政府や広島市は原爆攻撃のありのままの事実や表現物を公開してますが、広島長崎の犠牲者の尊厳を傷つけているという批判はありましたか? 否。
核兵器の開発側が核兵器の再開発のために作った米軍戦略調査団のフィルムを入手して公開する「10フィート運動」が原爆被害者の人格を毀損する核兵器翼賛運動だと批判されたことがありましたか? 否です。
事実を正確に伝え、二度と繰りかえさないための前提とすることこそが、死者に対する本当の意味での弔いになる。そう多くの人たちが考えているから、犠牲の事実を伝えようとしているでしょう。(という知事の議会答弁もあります)
一方、アメリカには、エノラ・ゲイ*4パイロットや広島大虐殺の命令を出したトルーマンを、いまでも「平和の英雄」と賞賛し、原爆被害の実態の展示物を公開すべきではないと考えているアメリカ人がいまでもたくさんいます。
原爆被害を示す展示物が第二次世界大戦の展示コーナーから撤去されたこともありました。原爆展示物の撤去は、広島長崎で死んでいった人たちの尊厳を守ったのでしょうか?否。展示物を撤去した彼等は、彼等の良心を咎める事実から目を逸らし、自分の良心が傷つかないように責任を展示物に転嫁させただけです。
怒りには同意します。しかし、怒りの対象を見誤ることは、むしろ被害者の死を貶め、遺族の苦しみ深めると私は考えます。
悲しむべきは、香田さんという存在を失ったことだけではありません。香田さんを殺した側の人たち(「テロとの戦争」を戦うべきだと主張しているブッシュとその支持者たちを含む)の人間性が死んでしまっていることにも、私は悲しみを感じます。
理性なき怒りは死者を貶めます。この「テロとの戦争」が理性なき怒りによって起きていることを、私たちは改めて自覚すべきです。その自覚なくしてこの戦争は終らないでしょう。

K君を殺した側の人たちの人間性が死んでしまっていることが悲しいのは、殺害という行動に共感しているからではなく、その逆です。意味の無いくだらない殺害という行動をやめようと自分で判断する良心、人としての良心が犯人に失われているということが悲しいということです。
 
それから、別な方から「悲惨さを伝えるという名目で、全体像(の中の一つ)と言う形ではなく、個々を晒し物にしてもいいものでしょうか」という疑問もありました。
「全体像」なるものがなんなのか不明ですし、そのような「全体像」に個々の事実が還元されて忘却されることに肯定すべき意味があるとも思えませんが、個々の悲惨さの実相が「全体像」の中で忘れ去られて良いということにはならないし、そのような個々の事象の忘却を前提にして「全体像」なるものが成立するとも思えません。
「真実はディテールに宿る」とも言います。
それから、「晒し物にしていいのか」という疑問がその方に限らずいろんなところで見られますが、むしろ私は問いたいです。

K君は晒し物になるべき罪をなにか犯したのか?

と。
殺した側に罪はあっても、K君には殺されなければならない罪は無かった。K君は危険な場所に行ったという不注意はあったかもしれないけれど、斬首されて当然な罪は犯していない。殺されたK君が悪いのではなく、悪いのはあくまでも殺した側。そうではありませんか?
そもそも、あの映像によってK君は「晒し物」になったのでしょうか?
否。「晒し物」になったのはK君ではなく、何も悪いことをしていないK君を侮蔑の文脈で殺害し、そのような殺害にあたかも理があるかのごとく追認して嘲笑した人たちの悪意です。*5
殺人犯は、自分では自分の行為を誇りプロバガンダをしているつもりが、実際には自分の発したメッセージに対する共感を得られず自爆しているです。斬首映像が公開されたことによって、斬首した側の悪意が周知され、批判されたのですよ、少なくとも日本国では。マヌケもいいところだ。
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マヌケさという点では、イラクを統治していたアメリカの暫定統治当局の対応も同じです。
昨年、イラクアメリカ暫定統治当局は、サダム・フセインの息子たちを殺害し、「晒し物」にするため、その遺体を公開しました。

■北の系
イラク戦争報道管制問題(番外編その9)
http://zirr.hp.infoseek.co.jp/020291.html

アメリカ当局はサダムの息子を「晒し物」にしたつもりなのでしょう。しかし、遺体写真が公開されたことによって非難されたのはサダムの息子よりもむしろアメリカの側でした。
アメリカ軍は「軍事力で結論を出す野蛮な国」とアラブ人たちに思われ「なぜ裁判にかけなかった」と抗議を受けていることはアラブ系メディアで報じられている通りです。

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以下、関連ログ。

■kitanoのアレ
アメリカの一部大手新聞の宙吊り遺体写真掲載について
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20040413#p1
平和記念資料館を見学しよう
http://www.pcf.city.hiroshima.jp/virtual/VirtualMuseum_j/frame/vist_fr2-7.html

参考サイト。

マグナム・フォト
Robert Capa
http://www.magnumphotos.co.jp/ws_photographer/car/index.html
http://www.magnumarchive.com/c/htm/FramerT_MAG.aspx?Stat=Portfolio_DocThumb&V=CDocT&E=2TYRYDI32L7S&DT=ALB

ロバート・キャパ関連書籍
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/tg/browse/-/602210/250-6315713-3293059

■国立広島原爆死没者追悼平和祈念館
http://www.hiro-tsuitokinenkan.go.jp/index.php

広島平和記念資料館
http://www.pcf.city.hiroshima.jp/
http://www.pcf.city.hiroshima.jp/virtual/VirtualMuseum_j/frame/vist_fr2-7.html

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*1:イラク戦争報道管制問題 http://zirr.hp.infoseek.co.jp/020244.html

*2:金曜「ナイトライン」が報じた遺影(一部) なぜ死ななければならなかったのか http://d.hatena.ne.jp/kitano/20040504#p1

*3:斬首した犯人に責任が無いという意味ではありません。念のため。

*4:エノラ・ゲイ=原爆を投下した爆撃機

*5:念のために書いておきますが、K君を殺した犯人に、イラク人の多数が共感し、その行動に同意しているとは私は考えていません。ただし、今のようなイラク人を無差別に殺すような統治を続けていれば、将来、K君を殺した人たちの行動に共感するイラク人が増えるかもしれないとは思います。