「団体」とは誰か(その2):組織犯罪法は形を変えた破防法:共謀罪との関係

共謀罪とのからみで、組織犯罪法の「団体」要件について言及します。
組織犯罪法、団体規正法、破防法。この治安三法は、「共同の目的」という言葉が共通のキーワードになっています。

組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(平成十一年八月十八日法律第百三十六号)
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H11/H11HO136.html

(定義)
第二条  この法律において「団体」とは、共同の目的を有する多数人の継続的結合体であって、その目的又は意思を実現する行為の全部又は一部が組織(指揮命令に基づき、あらかじめ定められた任務の分担に従って構成員が一体として行動する人の結合体をいう。以下同じ。)により反復して行われるものをいう。

無差別大量殺人行為を行った団体の規制に関する法律(平成十一年十二月七日法律第百四十七号)
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H11/H11HO147.html

(定義)
第四条
2  この法律において「団体」とは、特定の共同目的を達成するための多数人の継続的結合体又はその連合体をいう。ただし、ある団体の支部、分会その他の下部組織も、この要件に該当する場合には、これに対して、この法律による規制を行うことができるものとする。

破壊活動防止法(昭和二十七年七月二十一日法律第二百四十号)
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S27/S27HO240.html

3  この法律で「団体」とは、特定の共同目的を達成するための多数人の継続的結合体又はその連合体をいう。但し、ある団体の支部、分会その他の下部組織も、この要件に該当する場合には、これに対して、この法律による規制を行うことができるものとする。

「共同の目的」とは、簡単に言うと思想や信仰、価値観や主義、意見の共有や共感を指します。どうとでも解釈できる、適用したい側にとっては都合の良い言葉。思想や信仰、価値観や主義、意見の共有それ自体が、犯罪を構成するひとつの要件になり得ます。
組織犯罪法と団体規正法が、形を変えた破防法だと言われる所以でしょう。
組織犯罪法も団体規正法も、破防法が持っているような厳格な適用基準や適用手続がないので、破防法よりも容易に破防法と同等の効果をもたらすことができます。破防法が適用されるよりも悪い。そういう重大な法律が、平成11年にあっけなく成立してしまっていたわけです。
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もし、今国会に上程された「刑法等改正案」(後述)が成立すると、組織犯罪法で規定される「共同の目的」のために実行された犯罪は、長期四年以上の懲役又は禁錮の刑についてはすべて「共謀罪」が適用されます。
共謀罪については過去ログ

思想共有罪:共謀罪国会上程
http://d.hatena.ne.jp/keyword/%b6%a6%cb%c5%ba%e1

を参照のこと。
共謀罪が適用されるということは、実行犯が犯罪を実行した時に実行に手助けをしていなかったとしても、「共同の目的」と判断される思想や主義を実行犯と共有し、実行犯の犯罪計画を知っているだけで罪に問われ、処罰され得るということです。別名相談罪と呼ばれる所以です。

衆議院
提出回次:第159回
議案種類:閣法 46号
議案名:犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案
http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/g15905046.htm
提出時法律案
http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g15905046.htm

(組織的な犯罪の共謀)
 第六条の二 次の各号に掲げる罪に当たる行為で、団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を共謀した者は、当該各号に定める刑に処する。ただし、実行に着手する前に自首した者は、その刑を減軽し、又は免除する。
一 死刑又は無期若しくは長期十年を超える懲役若しくは禁錮の刑が定められている罪 五年以下の懲役又は禁錮
二 長期四年以上十年以下の懲役又は禁錮の刑が定められている罪 二年以下の懲役又は禁錮
2 前項各号に掲げる罪に当たる行為で、第三条第二項に規定する目的で行われるものの遂行を共謀した者も、前項と同様とする。

組織犯罪法の適用対象犯罪には、たとえば「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律」の第七条(児童ポルノ頒布等)が含まれます。
ということは、たとえば、5年以下の懲役が規定されている「児童ポルノ多数提供目的電磁的記録保管罪」の実行犯の言動に共感したり主義に同調したりすると「共同の目的」を持っていたと解釈され、かつ実行犯の相談に応じるなどで犯罪計画を知っていたら、知っていた人は実際に「児童ポルノ多数提供目的電磁的記録保管罪」に協力していなくても「児童ポルノ多数提供目的電磁的記録保管罪」の共謀罪に問われ得ます。
つまりぶっちゃけ、

ロリポルノはいいね。オレ、いま手元にネットで拾ってきた炉利ポルノを単純所持しているけれど、オレだけ持って独占するのはオレの美的思想に反するので、知り合いの数人に提供して趣味を共有しようかと思っている。そのために児童ポルノをDVDに焼くつもりだ。ところで、安いDVD売ってるところ知らない?

などという会話があって、

うんうん。芸術の共有にはオレも賛成だな。DVDは石○で買いだめだな。

などとあいづちをうった時点でていて、その後実際にその会話どおりに児童ポルノが多数に提供するために実行犯が児童ポルノの電磁的記録を保管したら、保管罪実行犯が懲役5年以下の刑に処せられるだけではなく、実行犯の会話の相手になった人も、児童ポルノ多数提供目的電磁的記録保管罪の共謀罪で2年以下の懲役刑に処せられる可能性があり得ます。*1
あくまでも、今国会で刑法等改正案が成立したら、の場合ですが。

児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律(平成十一年五月二十六日法律第五十二号)
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H11/H11HO052.html

児童ポルノ提供等)
第七条  児童ポルノを提供した者は、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。電気通信回線を通じて第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録を提供した者も、同様とする。
2  前項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。同項に掲げる行為の目的で、同項の電磁的記録を保管した者も、同様とする。
3  前項に規定するもののほか、児童に第二条第三項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせ、これを写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより、当該児童に係る児童ポルノを製造した者も、第一項と同様とする。
4  児童ポルノを不特定若しくは多数の者に提供し、又は公然と陳列した者は、五年以下の懲役若しくは五百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。電気通信回線を通じて第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録を不特定又は多数の者に提供した者も、同様とする。
5  前項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。同項に掲げる行為の目的で、同項の電磁的記録を保管した者も、同様とする。

ちなみに、刑法等改正案では、共謀罪に問われる人が「実行に着手する前に自首」した場合は、刑を減免することになっています。
つまり、犯罪計画を知った人は、すぐに警察に出頭して、計画をバラせば良いわけですね。
あるいは「共同の目的」を持っていると解釈されないように、思想や主義を捨て去るか。
「共同の目的」と解釈されそうな思想を捨てたことを客観的に証明できるよう、反児童ポルノ団体に入って「新しい法制度をもっともっともっともっと作れぇぇぇ!」などと絶叫するなどして、"踏み絵"を踏むという方法も、もしかしたら裁判官の心証を良くするかもしれません。(保障はできませんが)
もちろん、上記に挙げた適用例は限界事例に近いですし、あくまでも、今国会で刑法等改正案が成立したら、の場合です。
実際には、誰もが弁護しにくい見るからに悪人の誰かをスケープゴートにして逮捕し、「あんたらもあいつと同じことになるかもしれないよ」と業界を巻き込んで圧力をかけ、自主規制させるために使われることになるのでしょうね。刀を抜かずに見せて「斬るぞ」と恐怖(テロル)を与えて使うのと同じやり方で。
こうして社会は、お互いがお互いを監視し合い、裏切り、密告し合う、超監視社会が完成することになるのでしょう。

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以上の考察から、北の系としては、「犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案」、特に共謀罪について、成立に強く反対を表明します。
おとり捜査などの承認などについても問題がありますが、後日改めて。

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共謀罪関連の追補(2004.10.23)

共謀罪創設を含む刑法等改正案に対する民主党の対応ですが、江田五月参議院議員民主党岡山県選挙区/参議院民主党・新緑風会」議員会長)が共謀罪立法をめぐる党内活動の一部を公開しています。
条約の国内法整備というたてまえから、民主党は全面的に反対ということにはならないのかもしれませんが、条約を超える立法については党として議論する余地があるかもしれません。

江田五月参議院議員民主党岡山県選挙区)
http://www.eda-jp.com/
活動日誌
5月26日(水)
http://www.eda-jp.com/katudo/2004/5/26.html

10時から本会議。今日は長丁場です。午前中は11時半まで、有事関連の7法案と3条約の趣旨説明と質疑で、平野達男さんが質問に立ちました。その間に中座し、法務省の担当者から、条約刑法と借地借地法の説明を聞きました。前者は共謀罪といわれる内容のものですが、今国会成立の目処は立ちません。後者は議員立法で、事業用定期借地権の手直しです。

9月7日(火)
http://www.eda-jp.com/katudo/2004/9/7.html

11時半から1時間、日弁連*2の担当者から、共謀罪・サイバー犯罪処罰法案についての意見を聞きました。国際組織犯罪防止条約*3とサイバー犯罪防止条約*4に対応した国内法ですが、条約の範囲を越えたところが問題になりそうです。

10月13日(水)
http://www.eda-jp.com/katudo/2004/10/13.html

16時半から30分ほど、法務省の担当者から内閣提出法案の説明を聞きました。継続法案が法務省で2件、司法制度で1件、新規法案が法務省で4件、司法制度で2件です。継続では共謀罪法案と弁護士費用敗訴者負担法案、新規では修習経費貸与法案が難問です。根保証改革法案や動産等債権譲渡登記法案、刑法罰則強化法案も、精査を要します。法務行政全般に対する一般質疑も欠かせず、53日の会期では、先が思いやられます。

 
関連ログ・資料。
 

共謀罪」に反対する超党派国会議員と市民の集い
国会、議員の共謀罪関連情報
漫談:共謀罪推進派ビラ
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20050716
イベント:共謀罪の廃案を求める国会院内集会
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20050708
言論テロ:山岡俊介さん宅が炎上
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20050703
神の刑罰:「共謀罪」法案、国会審議入り
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20050623
共謀罪反対会/「団体」とは誰か・共謀罪/前科者2人だけでも暴力団
共謀罪」の成立は許さない!緊急集会
「団体」とは誰か(その2):組織犯罪法は形を変えた破防法共謀罪との関係
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20041023
共謀罪についての情報(追補)
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20041025/p2
思想共有罪:共謀罪国会上程
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20041020
話し合うことが罪になる共謀罪
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20040604
サイバー犯罪に関する条約を可決
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20040424
続・サイバー犯罪条約児童ポルノ選択議定書
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20040320
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■北の系
資料/法制審議会刑事法部会議事録
共謀罪推進派が多数の会議
http://zirr.hp.infoseek.co.jp/020145.html
法制審議会刑事法(国連国際組織犯罪条約関係)部会 第1回会議 議事録
http://zirr.hp.infoseek.co.jp/020198.html
法制審議会刑事法(国連国際組織犯罪条約関係)部会 第2回会議 議事録
http://zirr.hp.infoseek.co.jp/020142.html
法制審議会刑事法(国連国際組織犯罪条約関係)部会 第3回会議 議事録
http://zirr.hp.infoseek.co.jp/020143.html
法制審議会刑事法(国連国際組織犯罪条約関係)部会 第4回会議 議事録
http://zirr.hp.infoseek.co.jp/020144.html
法制審議会刑事法(国連国際組織犯罪条約関係)部会 第5回会議 議事録
http://zirr.hp.infoseek.co.jp/020199.html

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*1:■2004.10.23補足。共謀罪は、上記ケースではあいづちをうった時点で成立するおそれがあります。あいづちをうったあとで実行犯が着手しすると、共謀共同正犯です。記述に間違いがあり誤解を与える内容でしたので、訂正しお詫びします。間違いをご指摘をいただいた方にこの場を借りてお礼申し上げます。

*2:日弁連=日本弁護士連合会 http://www.nichibenren.or.jp/

*3:国際組織犯罪防止条約=国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約 http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/treaty156_7.html 和訳 http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/pdfs/treaty156_7a.pdf 説明書 http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/pdfs/treaty156_7b.pdf

*4: サイバー犯罪防止条約=サイバー犯罪に関する条約 http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/treaty156_7.html 訳文 http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/pdfs/treaty156_7a.pdf 説明書 http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/pdfs/treaty156_7b.pdf