質問主意書制限問題:国会議員への“刀狩り”

本当は将来の議会運営を左右しかねない問題なのに、ただの政争の材料に終ったのは残念です。
論点の私見

1 日本国憲法第63条*1で定める国政調査権を制限する規範が作られるとすれば、違憲立法のおそれがある。
2 日本国憲法第64条*2で定める答弁・説明義務を制限する規範が作られるとすれば、違憲立法のおそれがある。
3 国会法第75条*3で定める国会議員の質問権が制限されるとすれば、国権最高機関性を実質的に失う。

最近の主な注目質問。
読んでみると委員会質疑よりも興味深いものがいくつか散見できます。

衆議院 質問・答弁
http://www.shugiin.go.jp/index.nsf/html/index_shitsumon.htm

わが国における自殺者の増加に関する質問主意書
http://www.shugiin.go.jp/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/160062.htm
コンテンツ海外流通促進機構が制定する「日本産」マークに関する質問主意書
http://www.shugiin.go.jp/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a160009.htm
ETC(ノンストップ自動料金収受システム)の利用にかかる個人情報に関する質問主意書
http://www.shugiin.go.jp/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a160020.htm
公益通報者保護法に関する質問主意書
http://www.shugiin.go.jp/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a160021.htm
個人情報保護法に関する質問主意書
http://www.shugiin.go.jp/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a160022.htm
年金以外の社会保険料の保険給付以外の使用状況に関する質問主意書
http://www.shugiin.go.jp/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a160030.htm
いわゆる「コピーコントロールCD」に関する質問主意書
http://www.shugiin.go.jp/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a160011.htm
社会保険庁等に関する質問主意書
http://www.shugiin.go.jp/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a160025.htm
国会議員よりも高額給与をもらう国家公務員等に関する質問主意書
http://www.shugiin.go.jp/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a160027.htm
政府のリストラに関する質問主意書
http://www.shugiin.go.jp/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a160028.htm
国の個人データ流出に関する質問主意書
http://www.shugiin.go.jp/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a160029.htm
法務省によるプロバイダー等への情報削除要請に関する質問主意書
http://www.shugiin.go.jp/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/160045.htm
わが国における自殺者の増加に関する質問主意書
http://www.shugiin.go.jp/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/160062.htm

参議院 質問主意書情報
http://www.sangiin.go.jp/japanese/frame/joho7.htm

質問されて困るような政治をするな、ということに尽きます。質問権は「国会は国権の最高機関」であるということの重要な要素で、喩えるなら行政支配のための“武器”です。“武器”が制限されるということは、これは国会に対する刀狩りに等しい。
以下、議員たちの認識・意見。

衆議院議員いなみ哲男の活動報告 Vol.2 No.4 2004年8月2日発行*4
http://www.mag2.com/m/0000051438.htm

第160臨時国会が召集された。
注目の会期は与党が譲らず、議長発議による8月6日までの8日間で採決されることになった。
川端国対委員長は、「国会議員が“国会はできるだけ短いほうが良い、委員会はできるだけ開かず、答弁はしたくない”というのであれば、与党は国会から・民主主義から逃亡することに他ならない」と批判した。
藤井幹事長は、「自公の腕力と傲慢で8日間になったが、年金では、我々に是、相手に非がはっきりしている。本日10時に年金関連法の『廃止法案』を提出した。
『日歯』ヤミ献金は、16年前に選挙で山が動いたと言われたがその理由となったリクルート事件よりひどい。民主党は、東京地検に告発を行なった。委員会を開かないのであれば『質問主意書』を多用して、国会で審議を行なわないなら街頭に出て我々の姿勢を国民に示そう」と訴えた。

年金問題や日歯ヤミ献金事件の拡大を恐れた与党が、質問封じのために臨時会の会期を短くして質問を封鎖し、質問封じの対抗として質問主意書の提出戦術を民主党が表明し、質問主意書による日歯ヤミ献金事件や年金問題の拡大を恐れた与党が、質問主意書封じのために質問主意書の提出制限に乗り出した、というのが質問主意書制限の主な動機のようです。

加藤公一ジャーナル 2004/8/6 *5
http://www.melma.com/mag/54/m00010854/
http://www.melma.com/mag/54/m00010854/a00000178.html

=====与党病=====
先日、質問主意書を提出しました。
前の国会では与党の年金関連法案が成立しましたが、その後になって議論の前提を覆すような合計特殊出生率データが発表されました。今国会では、当然、そのデータを前提として議論をやりなおす必要があるのに、与党は会期を約一週間と極端に短く設定してきました。これでは実質的な議論ができないので、それならということで、質問主意書を使って政府の見解を問うことにしたのです。
今回は、社会保険料が本来の社会保険給付以外の使途にどれだけ流用されているかについて、そして、失業率の推移の見通しや年金の空洞化対策について、計2本です。
ところが、いざ主意書を議院に提出しようとしたところ、事務局から「待った」がかかりました。内容が不適切だからこのままでは受理できないというのです。質問主意書の質問事項については、資料請求を目的としたものは受理しないという先例があります(国会法上の制限はありません)。私の提出した主意書が資料請求を目的としたものだから書き直せというわけです。
社会保険料の流用の有無について質問しているのに「資料請求」と言われるのは、何か釈然としないものが残りましたが、結局、表現を若干修正して、ほとんどそのままの内容で提出しました。実は、この事務局の対応には、裏があります。首相官邸が、質問主意書の提出増に伴い行政運営に支障が生じているとして、国会側に抑制措置の検討を求めていたのです。
なんでも、質問主意書が「行政に過重な負担を強いている」そうで、官房長官が「ある議員は『質問主意書発出日本一』と自慢して、選挙公報に出している」(私のこと?)とか、「行政上の阻害要因」だとか、批判しているそうです。
質問主意書の提出数が最近急増しているのは事実です。実際、ここ10年で質問主意書の提出数は6倍以上になりました。そして、今年提出された質問主意書の8割以上は民主党からのものです。
これは、二大政党制になり、国会が確実に変わってきていることの1つの現れです。情報が国民の前に開示され、議論が活発になり、そして、着実に成果も表れています。たとえば、合計特殊出生率「1・29」が年金制度改革関連法の成立前に集計されていたのに公表されていなかった(政府が情報を隠していた)ことは、質問主意書で判明したことなのです。
それを「行政上の阻害要因」とは、どういう神経をしているのでしょう。質問主意書によって政府からの情報が得られなければ、税金のムダ遣いがますます放置されます。そのほうがよほど行政は非効率化します。(社会保険庁が多額の年金保険料掛け金をゴルフ練習場などの維持費に充てていたことも、質問主意書で明らかになりました。)
国会議員の質問権にまで足枷をはめることが国会の自殺行為だということすら、今の自民党にはわからなくなっているようです。政府の立場でしかものが見られなくなる「与党病」に罹っているのでしょう。

民主党が与党になったら、野党として政府をチェックするのは自民党です。
野党になった時の手足を自分で切り捨ててしまうような自民党公明党には政権担当能力が無いと言われてもし方がありません。
もちろん、民主党は、自民・公明に対して求めたことを自ら守る義務があります。自民党の責任追及があっても政権与党として会期を十分に確保するという責任を負うことになりますし、質問主意書に対して正々堂々と説明する責任があります。民主党タウンミーティングで「あの有事法制合意はなんだ?」と支持者から質問されて説明できず立ち往生している民主党議員たちも今の与党と大差ありません。

民主党
質問主意書制限は民主主義の原則に反する」藤井幹事長(8/6)
http://www.dpj.or.jp/news/200408/20040806_03fujii.html

民主党藤井裕久幹事長は6日の定例記者会見で、「細田官房長官質問主意書が多すぎると言ったが、おかしな話。民主主義の原則に反する。残念だと思う」と批判した。

「全国で年金改革の青空国会を」有楽町で岡田代表(8/6)
http://www.dpj.or.jp/news/200408/20040806_04marion.html
2004年08月06日  【ネット中継】藤井幹事長会見
http://asx.pod.tv/dpj/free/2004/20040806fujii_v300.asx
2004年08月06日 【ネット中継】両院議員総会
http://asx.pod.tv/dpj/free/2004/20040806soukai_v300.asx

質問主意書関連報道。
国会多数を確保した自由民主党公明党*6民主党が合意してつくった議運合意の中には質問主意書は国会最終日の前日まで回答しなくても良い」という内容が含まれています。
質問制限という“刀狩り”に合意し、妥協しておきながら、「質問主意書制限に抗議する!」とパフォーマンス(悪い意味での)している民主党議員のオソマツさには、いまさら腹も立ちません。期待もしていません。

法案審議中に政府がパンフ 年金改革で、民主は批判 8月11日
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040811-00000208-kyodo-pol
地位協定適用は不透明 政府、ジェンキンス氏処遇で見解 8月11日
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040811-00000013-ryu-oki
社保庁、また年金保険料ムダ遣い マッサージ器や防音室 8月11日
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040811-00000008-san-pol
年金問題>65歳以上の加入者40万人超に無年金の可能性 8月10日
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040810-00000113-mai-pol
小泉首相>「人生いろいろ」答弁 撤回の必要なしと確認 8月10日
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040810-00000070-mai-pol
個人情報流出、最多は社保庁16件=管理体制の徹底掲げる−政府答弁書 8月10日
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040810-00000835-jij-pol
社保庁1億以上の随意契約、1192億円…昨年度 8月10日
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040810-00000004-yom-soci
防音壁建設や楽譜購入も 社保庁、年金保険料で 8月10日
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040810-00000104-kyodo-pol
米政府の身柄請求、「適当な時期に」=ジェンキンスさんの扱いで−政府答弁書 8月10日http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040810-00000773-jij-pol
「人生いろいろ」発言、撤回の必要ない=答弁書で首相を擁護−政府 8月10日
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040810-00000795-jij-pol
質問主意書「抑制」 与党が押し切る 1日繰り上げで合意 8月7日
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040807-00000009-san-pol
質問主意書問題>細田官房長官発言に野党猛反発 8月6日
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040806-00000140-mai-pol
「戦力低下」は避けられず 民主、質問主意書の合意で 8月6日
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040806-00000227-kyodo-pol
提出後に与野党で点検 質問主意書問題で合意 8月6日
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040806-00000170-kyodo-pol

衆院議院運営委員会は6日午後の理事会で、国会議員による政府への質問主意書の取り扱いについて協議し(1)与野党議運委理事が提出された主意書すべてに目を通し、資料要求的な内容のものは提出者に修正を求める(2)提出期限は国会最終日の前日までとする−−ことで合意した。
 政府が国会側に提出の抑制措置を求めたのに対応した形だが、与党は「抑制ではなく主意書の本来の趣旨にのっとった取り扱い」としている。
 理事会では「主意書制度は議員に与えられた質問権の一形態で極めて重要な権限だ」との認識を確認した。野党側は、細田博之官房長官が5日に「(質問主意書が)行政に過重な負担を強いている」などと発言したことに抗議。与党側は抑制を強いたものではないとして理解を求めた。

質問書抑制に強く反発 「不見識」と川端氏 8月6日
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040806-00000088-kyodo-pol

川端氏は「国の施設に入るテナント選定や使用料に関し、ずさんな運用といいかげんな管理の実態を明らかにした案件だ」と反論。「国民の負託を受けてわれわれが要求することに、(官僚が)徹夜してでもしっかりと対応するのは当然だ」と述べ、今後も質問主意書を積極的に活用していく方針を表明した

細田官房長官質問主意書制限、政府側から自民に働きかけ 8月5日
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040805-00000155-mai-pol
<患者死亡事例>病院から警察へ届け出、83件中44件 8月5日
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040805-00000135-mai-soci
質問主意書の抑制を要請 「行政を阻害」と官房長官 8月5日
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040805-00000222-kyodo-pol

細田博之官房長官は5日午後の記者会見で、国会議員が政府に文書で国政に関する見解を問う質問主意書の提出増に伴い行政運営に支障が生じているとして、国会側に抑制措置の検討を求めたことを明らかにした。衆院議院運営委員会の理事会で6日に協議される。
細田氏は2003年の質問主意書の提出が計280件に上り、1件で答弁書が1521ページに達したケースもあると紹介しながら「(答弁書要求が)どんどんエスカレートし、行政に過重な負担を強いている」と強調。「ある議員は『質問主意書発出日本一』と自慢して、選挙公報に出している」と批判し「行政上の阻害要因で、何日も徹夜する行政官も出ている」と訴えた。(共同通信

医療死亡事故83人 03年度特定機能病院 8月5日
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040805-00000130-kyodo-soci
質問主意書>野党の追及手段を封じ込めへ自民党が制限画策 8月4日
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040804-00000096-mai-pol
社会保険庁 「年金流用」新たに222億円 職員宿舎を建設 6月30日
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040630-00000000-san-pol
出生率把握、年金法成立の12日前 厚労省 野党から「隠蔽」批判 6月23日
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040623-00000002-san-pol

政府は二十二日、平成十五年の合計特殊出生率(女性一人が生涯に出産する子供の平均数)が過去最低の1・29になったことを厚生労働省が年金改革関連法が審議中の五月二十四日時点で把握していたことを明らかにした。同法の成立は六月五日で、その十二日前に基礎データを把握していたことになり、政府の情報開示のあり方に批判が強まりそうだ。
山本孝史参院議員(民主党*7質問主意書への答弁書で明らかになった。答弁書では、出生率は統計情報部の複数の職員が作成し、具体的な集計結果の把握時期は「特定できない」としている。職員が五月二十四日に統計情報部長に中間報告を行い、その後、検証や説明資料の作成を行い六月九日夕に年金局長に報告。坂口力厚生労働相には十日午後に説明、同日発表したとしている。

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*1:日本国憲法「第六十二条  両議院は、各々国政に関する調査を行ひ、これに関して、証人の出頭及び証言並びに記録の提出を要求することができる。 」 http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S21/S21KE000.html

*2:日本国憲法「第六十三条  内閣総理大臣その他の国務大臣は、両議院の一に議席を有すると有しないとにかかはらず、何時でも議案について発言するため議院に出席することができる。又、答弁又は説明のため出席を求められたときは、出席しなければならない。」 http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S21/S21KE000.html

*3:国会憲法「第七十五条  議長又は議院の承認した質問については、議長がその主意書を内閣に転送する。 2  内閣は、質問主意書を受け取つた日から七日以内に答弁をしなければならない。その期間内に答弁をすることができないときは、その理由及び答弁をすることができる期限を明示することを要する。 」 http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S22/S22HO079.html

*4: いなみ哲男衆議院議員(民主党) http://www.inami-t.jp/ バックナンバーは「議員MAGS」国会議員発行メールマガジン最新号公式統合版NO.429-2004.08.03で読めます。http://www.ezvoice.org/

*5:加藤公一衆議院議員(民主党) http://www.katokoichi.com/

*6:だからあれほど棄権するなって言ったのに…。棄権は与党への信任。そういえば先月、長野県の田中康夫知事も「棄権は政権への白紙委任です」とTBSラジオのアクセスで断言してました。

*7:山本孝史参院議員 http://www.ytakashi.net/ メールマガジン「蝸牛のつぶやき」バックナンバー(vol.16 2004年5月、6月)http://www.ytakashi.net/CONTENTS/2.merumaga/04TEXT/2-2-16text.html#040623katatumuri 質問主意書NO.4(出生率)「平成十五年の合計特殊出生率を含む平成十五年人口動態統計月報年計(概数)の概況…に関する集計結果については、…同省大臣官房統計情報部長…に対しては、平成十六年五月二十四日に人口動態・保健統計課長から集計結果の中間的な報告を行ったところである。」http://www.ytakashi.net/CONTENTS/3.situmon/5.situmonshuisho/no.4.birthrate.html