補足(2004.8.7)

http://d.hatena.ne.jp/kitano/20040802#p1

ここで私は総論賛成と書きました。その点について、少し補足しておきます。
なぜ総論賛成(条件付賛成)か。
ネットリンチが忌まわしい行為であるというだけの理由で、賛成しているわけではありません。反対することがむしろ将来、メディア規制につながる前提を作ることになるから、賛成するのです。
以前、週刊文春花田紀凱勝谷誠彦が、女子高生コンクリート殺人事件の加害少年を「あいつは人間じゃない。野獣だ。野獣に人権はない。だから名前を公表してもかまわない。」というようなことを言い放って、加害少年の顔と名前を雑誌に掲載し、名前と顔がネットで転載されまくったことがありました。
事実を伝えるのがジャーナリストの役割でであり、人を裁くのは法と裁判官の役目です。
法と裁判官の役割を監視し、法と裁判官の役割を糾すために合理的に必要性が認められる場合に限ってなら、実名報道が認められる場合もあり得ると思います。
しかし、冷静に考えて、週刊文春勝谷誠彦のやったことは、自分自身を犯罪者を裁く裁判官とみなし、ペンの暴力を使って加害少年を“報道リンチ”したにすぎません。本人はそうではないと言うかもしれませんが、社会の一定層の“報復感情”を満たし、週刊文春のフトコロも満たしたのは事実でしょう。
「悪人が裁判で裁けないなら、悪人だと知っているオレが裁く権利がある」というラスコーリニコフの倫理には、私は到底賛成できません。力は法の下で行使すべきであり、法無き力の行使は、コンクリート殺人事件の加害少年と同様、反逆の動機を弱者への暴力に転嫁したにすぎません。
それよりも問題なのは、加害少年の実名を晒しても週刊文春の雑誌は回収されなかったし、勝谷誠彦はいまも加害少年の名前をインターネットの日記で晒して、法務省はそれを黙認しているという事実です。
勝谷誠彦は2004年7月5日の日記で、当時の少年の戸籍名を公表し、現在も公表しています。

http://nun.nu/www.diary.ne.jp/logdisp.cgi?user=31174&log=20040705

「実名を出そう。野獣に人権はない」。この言葉は後に人権屋どもによって散々あげつらわれることになるのだがその場にいた誰もが頷き今なお私は一点の曇りもなく花田さんの判断を支持するものである。まだワープロも使っていなかった私は13字ダテの『週刊文春』の緑色の原稿用紙に一人づつ刻み込むようにして実名を書いたことを記憶している。後に至るまで少年法がらみの事件が起きると必ず引き合いに出される『綾瀬女子高生コンクリート詰め殺人事件』での実名報道を私が断行した瞬間であった。もちろん私たちが実名報道に踏み切ったのはただ感情的に被害者の無念を思いやったがためだけではない。記者たちが口々に言う「あいつらは絶対またやりますよ」という確信をもとに少年であるが故に私たちの社会に鬼畜がほどなく舞い戻ってくることへの危惧と防衛措置を重く見たのだ。罰則規定はないとはいえ私が法として存在するものを踏みにじったことは事実であるしそのことに対する批判は甘んじて受ける。しかし今回この事件が起きたことを見て自分の判断が正しかったことを確認するのである。当時、鬼畜は■■■と名乗っていた。どこでどう誤魔化すことに成功したのか奴は■■と姓を変えてまたも私たちに変わらぬ外道ぶりを見せつけてくれたのだ。

※kitanoのアレは、リンク先の情報に賛同するものではありません。

「防衛措置を重く見」て実名報道をしても犯罪は繰り返されたという事実に対する反省の欠片も無い勝谷誠彦の態度については、今更驚くべきことではないかもしれません。
が、こうした無思慮・無反省な者の言動が法務省によって黙認され、野放しになっている一方で、同じ加害少年の実名を別な人が特定の掲示板で書くと法務省咎められる人がでることになるとすれば、不平等であり、おかしなことだと思います。
そういう社会的不平等が生じることを前提に法務省が削除要請することができるシステムは、やはりフェアではないと私は思うのです。
というか、フェアじゃないから、「だったら週間文春や勝谷誠彦なんかもジャマだから消してしまえ」というメディア規制の流れのようなものを作る前提がつくられることになるわけです。
「リアルネット等価規制の原則」は、加害少年の人権保護においても例外ではありません。
リアル(週間文春)で規制がなされないのであれば、ネット(掲示板)でも削除対象外とするべきですし、リアル(週間文春)で差し押さえすべきではないのなら、ネット(掲示板)でも削除対象とすべきではありません。そういう社会平等を確保できないことが一番怖いことだな、と私は思うわけです。
法務省掲示板投稿削除要請権が付与されても、おそらく以下のようなネットリンチサイトの言論は、政治的な理由で、当面規制されることはないでしょう。
しかし、こうしたネットリンチサイトが規制されない一方で、匿名掲示板の実名情報などが規制対象となるとすれば、法運用の恣意性が問われるべきだと思います。

http://nun.nu/concrete40.tripod.com/
※kitanoのアレは、リンク先の情報に賛同するものではありません。

余談ですが、綾瀬女子高生コンクリート詰め殺人事件については、藤井誠二氏の「17歳の殺人者」が詳しく、必見です。

藤井誠二 17歳の殺人者
17歳の殺人者 (朝日文庫)
ASIN:4022613866

いま、Dやかれの母親はどんな生活を送り、なにを思っているのだろうか。母親へのインタビュー内容を要約してここに報告する。蛇足だが、一部週刊誌の記者はかれらが住むアパートの大家のところに行き、「ここにコンクリート犯の家族が住んでいるんです」告げたという。人の罪を云々言う前に、自分の神経を疑ってみるべきである。

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