児ポ法改正「委員会起草」案、衆議院青少年特別委員会で成立

2004年6月1日、衆議院青少年問題に関する特別委員会が開かれ、児童買春・児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律案起草の件が議題となり、即日採決されました。
児ポ法起草の件については議場外での非公式協議*1において各会派で意見が一致したため、会派間で策定した委員会起草案を武山百合子委員長(民主党)が提出。
武山百合子委員長(民主党)から改正案の提案説明の後、質疑を省略*2し、委員会起草案を委員会成案とすることについて即時採決*3を実施。討論なしで採決の結果、全委員賛成で可決成立しました。
この採決により、八代英太議員(自民党)等提案による児ポ法改正案が今国会で成立する可能性は無くなりました。*4
児ポ法青少年特別委員会起草案の主な提案理由は以下の通りです。

1 児ポ法附則で、施行後3年を目途として検討され、その結果に基いて必要な措置が講ぜられるものと規定されている
2 施行状況は、児童買春事件が大幅に増加し、児童ポルノに係る事件が後を絶たない
3 国連で国連で児ポ選択議定書が、欧州評議会ではサイバー犯罪条約が採択されるなど、児童の権利擁護の国際的取り組みに進展がみられる

児ポ法青少年特別委員会案の主な内容は以下の通り。

1 児童の権利擁護の国際動向を踏まえた立法であることを明示する
2 児童の権利擁護を目的とする法律であることをより直接的に表現して明記する
3 罰則の上限を引き上げ、重罰化する
4 懲罰刑と罰金刑の併科を可能とする
5 ネットワークでの頒布行為、特定少数者へのメール送信行為及びそれを目的とした製造、所持、投資、保管「等」を新たに処罰できるものとする
6 公布日から20日後に施行
7 3年後に法律を再検討

尚、委員会起草案成立後、児ポ法改正に係る附帯決議「児童買春・児童ポルノに関する件」が提案され、質疑を省略し、討論無しで即時起立採決。全委員賛成で成立しました。
決議の内容は、以下の通りです。

決議 児童買春・児童ポルノに関する件
本委員会は、児童買春・児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律案を提出することに決した。
本案は、児童買春・児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律について、その施行状況、児童の権利の擁護に関する国際的動向等を勘案し、児童買春および児童ポルノに係る犯罪の法定刑を引き上げるとともに、電気通信回線を通じて児童のポルノを記録した電磁的記録等を提供する行為等を犯罪化する等の改正を行うものである。
児童買春・児童ポルノに係る行為が、被害児童の人権を著しく侵害し、且つ、児童を性の対象とする風潮を助長するため、これが児童の健全育成の大きな障害となっていることは改めて述べるまでも無い。
それにもかかわらず近時においても児童買春に関る事件が大幅に増加したほか、児童ポルノに係る事件も後を絶たないところであって、本委員会もこれを深く憂慮するものである。
このような中、国連において児童の売買・児童買春および児童権利に関する条約の選択議定書が、また、欧州評議会においてサイバー犯罪に関する条約がそれぞれ採択されるなど、国際的にも児童買春・児童ポルノに係る行為に対して厳しい態度で臨むことが求められており、本案はこれに応えるものでもある。
その一方、児童ポルノの所持一般を違法化すべきか否かについて、本委員会では必ずしも意見の一致を見なかった。
しかし、違法化の是非はともかくとして、少なくとも児童ポルノの所持が一般に児童の権利侵害と関連する行為であることは何人も否定できない事実であり、本委員会としても児童ポルノが根絶されることを願うものであって、このような所持を減少させるための取り組みも必要である。
そのためには、成人の意識を高めるとともに、児童に対する教育を充実させ、問題を根本的に解決することが求められているところであって、政府は、国民の児童の権利に対する理解を深めるための社会啓発・教育について万全の措置を講じ、児童ポルノの根絶に努めるべきである。
右、決議する

データソース。

衆議院テレビ(ビデオライブラリの6月1日の青少年特別委を参照)
http://www.shugiintv.go.jp/top_frame.cfm

この日の議事の音声ファイルを、暫定的に北の系に転載しました。

平成16年6月1日 衆議院青少年問題特別委員会 児ポ法改正案採決(約11分/1268kb)
http://members.at.infoseek.co.jp/kitanok/seitoku040601.wav

関連情報。

委員会起草案に賛成した青少年問題に関する特別委員会 委員名簿
http://www.shugiin.go.jp/itdb_iinkai.nsf/html/iinkai/iin_t5100.htm

八代英太議員(自民党)等提案による児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律案の審議経過情報 *5
http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/keika/1D94602.htm

青少年特別委員会案の経過と議案については

第159回国会 議案の一覧
http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/kaiji159.htm

に掲載予定。(6月1日現在未掲載)
会議録は、

http://www.shugiin.go.jp/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/nf_0073_l.htm

に掲載予定。
尚、法改正の理由に関係している二条約は、既に今国会において承認されています。

児童の売買、児童買春及び児童ポルノに関する児童の権利に関する条約の選択議定書の締結について承認を求めるの件(両院成立) 審議経過
http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/keika/1D94596.htm
サイバー犯罪に関する条約の締結について承認を求めるの件 審議経過
http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/keika/1D943CA.htm

平成11年制定の現行法。

児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H11/H11HO052.html

参考までに、原口一博議員 民主党「次の内閣」(ネクスト・キャビネット)大臣(規制改革担当、人権・消費者問題担当、子供政策担当) の情報。

一博日記
児童買春処罰法・医療問題PT・市民政策(人権・海外協力)・ 2004年05月28日 (金)
http://haraguti.com/day/ca/calen.cgi?mode=main&action=view&YMD=20040528&w=5

まだ参議院がありますので、法案についての私見・総括は後日。
参議院で審査を省略せず実質審査をどこかの会派が主張し実質審査になれば、衆議院特別委員会案が参議院で棚上げされ次期国会に継続される可能性もなきにしもあらずですが、審議省略で即決となる可能性は高そうです。
いずれにせよ委員会案は成立の見通し。
次は健全育成法案ですが、予想通り日程的に苦しいようですね。継続審議にする/しないをめぐって水面下で動きがあるようです。

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*1:議場外での非公式協議:この協議における質疑・討論の応酬は一切議事録に残らないし、公開もされません。

*2: 談合の席で議論は尽くされ全会派が一致しているので、国会での議論は省略された模様です。会期日程があまり残っていない中で、今国会での成立を再優先に各党が判断した結果と思われます。

*3:採決方法は起立採決。

*4:とはいえ、委員会成案は八代英太議員(自民党)等提案による児ポ法改正案の一部を含んでいますので、八代英太議員(自民党)等の提案と違う改正案になったとも言えません。たとえば、不特定または多数への頒布に限らず特定少数への電子メールを介した通信についても処罰する改正部分については、八代英太議員@盗聴法の父サイドは妥協せず押し通し、野党サイドが譲歩させられた形になりました。特定少数への電子メールをその情報内容によって処罰を可能とする点については、将来、別な治安立法の根拠法として転用・流用され、大問題に発展する可能性を秘めていると思われます。

*5:委員会案が成立しているため提案者より法案は取り下げられると思われます。