棺を放送させない米軍

アメリカで話題になっている興味深いニュースでした。

米軍がイラク戦死者の棺のテレビ撮影を禁止
http://www.reuters.com/newsArticle.jhtml?type=topNews&storyID=4942142

テレビで棺を撮影するな、放送するな、ということのようです。
リアルな死を伝えないテレビメディアは、リアルな死を生み出す軍事組織にとって都合の良い存在であることに間違いありません。
ジョン・ケリー民主党大統領候補は、4月25日に、棺の撮影制限により戦争の結果を隠そうとしているとブッシュ大統領を批判したそうですが、もっともな批判です。
戦争の評価には、その戦争の結果として発生した死の現実も含まれるべきで、イラク戦争が「正しい戦争」なら正々堂々と戦争の成果である死体を見せ、「これは正しい戦争だ」と言えばいいだけの話。
はじめから戦争の大義なんてものは無かったと私は何度も書きましたが、戦争を推進している本人も大義を説明できないあたりが、ありのままの戦争を見せたくない動機になっていると考えるよりないでしょう。

イラクで犠牲になった軍人に関する情報
Forces: U.S. & Coalition/Casualties
http://www.cnn.com/SPECIALS/2003/iraq/forces/casualties/index.html
http://www.cnn.com/SPECIALS/2003/iraq/forces/casualties/page2.html
http://www.cnn.com/SPECIALS/2003/iraq/forces/casualties/page3.html
http://www.cnn.com/SPECIALS/2003/iraq/forces/casualties/page4.html
http://www.cnn.com/SPECIALS/2003/iraq/forces/casualties/page5.html
http://www.cnn.com/SPECIALS/2003/iraq/forces/casualties/page6.html

上のリンクの死亡情報は、アメリカ軍だけの死亡情報で、この10倍以上いるイラク人死亡者のほとんどは、顔も名前も報道されていません。
しかし、名も無き死者ひとりひとりには、名前があり、顔があり、声があり、言葉があり、仕事があり、家族があり、涙と笑いがあり、日常があり、家族の苦しみと悲しみがあり、人生があったのです。
それらの失われた情報を想像させるだけの最低限の情報さえ隠そうとし、あるいはそれら埋もれた情報への想像力に対する抑圧に、戦争遂行者とその使者達の「二度目の殺害」「二度目の殺意」*1を感じずにはいられません。
悲惨で酷い死の現実は、悲惨で酷い死として報道されなければ、戦争の真実は伝わりません。悲惨で酷い死の現実を受けとめて戦争を支持している場合と、死の現実を知らされないで戦争を支持している場合とでは、その戦争の支持の意味あいは異なります。
人間の死に対する知覚の麻痺は、残虐な行動に対する寛容さを生じさせ、人間性を失った残虐な行為を可能ならしめます。

■The Iraq Page 
Remembering Those who Lost Their Lives in the Iraq War of 2003
http://www.pigstye.net/iraq/
アメリカ合衆国の死者
http://www.pigstye.net/iraq/index.php?topic=individuals
イギリスの死者
http://www.pigstye.net/iraq/index.php?topic=individgb
デンマークの死者
http://www.pigstye.net/iraq/index.php?topic=denmark
ブルガリアの死者
http://www.pigstye.net/iraq/index.php?topic=bulgaria
ポーランドの死者
http://www.pigstye.net/iraq/index.php?topic=individpo
スペインの死者
http://www.pigstye.net/iraq/index.php?topic=spain
ウクライナの死者
http://www.pigstye.net/iraq/index.php?topic=ukraine
イタリアの死者
http://www.pigstye.net/iraq/index.php?topic=italy
タイの死者
http://www.pigstye.net/iraq/index.php?topic=thailand
エストニアの死者
http://www.pigstye.net/iraq/index.php?topic=estonia
エルサルバドルの死者
http://www.pigstye.net/iraq/index.php?topic=elsalvodor
日本の死者
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イラクの死者
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イラク人をまきこみつつ、複数の国の国民が戦争に巻き込まれ、死亡者が出ています。
もはや「英米 対 イラク」の戦争ではありません。イラクと呼ばれた場所で第三次世界戦争と呼ぶべき戦争が10ヶ国以上の国を巻き込んて発生している、という言い方もできるように思います。

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*1: 最初の殺意は物理的な死への殺意。二度目の殺意は、死の情報さえ人々の記憶から消してしまおうという絶滅への殺意。