刑事訴訟法改正政府案衆院通過

http://d.hatena.ne.jp/kitano/20040425#p1 で紹介した民主党議員提出の刑事訴訟法案の補足情報ですが、4月23日、民主党案は衆議院で与党の反対で否決されています。残念です。

衆法 案名「刑事訴訟法等の一部を改正する法律案」の審議経過情報
http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/keika/1D9468E.htm

一方、政府が提出していた刑事訴訟法改正案は、同じく4月23日、衆議院で与党の賛成で修正可決しています。
法案は通過〜通過〜の特急列車。小さい駅で待っている国民は置き去りです。

閣法 議案名「刑事訴訟法等の一部を改正する法律案」の審議経過情報
http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/keika/1D94372.htm

政府提出の刑事訴訟法改正案はこれです。

閣法 議案名「刑事訴訟法等の一部を改正する法律案」
http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g15905068.htm

で、政府が提出した刑事訴訟法改正案については、取調べにおける録音録画について国会で少し議論になっていますが、政府は「慎重に検討」という言葉で議論を逃げているのですね。
どういうことかというと、録音録画については、法務省最高裁事務局、警察庁国家公安委員会、外務省、日弁連の間で議論が対立していて、要するに政府内部で調整がつかず政治決断もできない状態なので改革は先送りしたいということのようです。

衆議院法務委員会 会議録第13号 平成16年4月13日
http://www.shugiin.go.jp/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/000415920040413013.htm

○鎌田委員 
それから、民主党として、河村議員を中心にして刑事訴訟法の改正の議論も進めてきて、これから法案を出す予定にも、出したのかな、になっていますけれども、取り調べ過程の可視化、録画、録音、こういったものも、きのうの公聴会でもありましたが、絶対にこれはないとだめというふうに私は思います。
これはぜひ検討の余地、これからの例えば見通しでもいいです、今こういうところでこういうような協議をしているから、大体このくらいにはめどがつくんじゃないかなというようなところまであったら、非常に進歩したと多くの人がこれは評価をすると思いますが、いかがでしょうか。
○樋渡政府参考人 取り調べ状況の録音、録画等につきましては、司法制度改革審議会意見におきましても、刑事手続全体における被疑者の取り調べの機能、役割との関係で慎重な配慮が必要であること等の理由から、将来的な検討課題とされているところでございまして、法務省といたしましても、慎重な検討が必要であるというふうに考えております。
なお、最高裁判所、日本弁護士連合会及び法務省最高検察庁は、本年の三月、裁判員制度の導入等を踏まえ、検討を要する刑事手続のあり方等に関し協議、検討を行うために、刑事手続の在り方等に関する協議会を設けたところでございまして、この協議会におきましては、委員御指摘の取り調べ状況の録音、録画等の問題につきましても協議、検討することとされておりまして、法務省としましては、同協議会における議論も踏まえ、刑事手続のあり方全体の中で多角的な見地から検討することが必要であるというふうに現在考えているところでございます。

「慎重な配慮が必要」とは要するに「警察の自白を強要する強引な取調べができる警察の既得権益に対して慎重な配慮が必要」という意味で、「将来的な検討課題」という霞ヶ関用語は「いまは結論は絶対に出ないテーマなので先送りさせてちょーだい。諦めてネ」という意味。
便利な言葉ですな、官庁用語は。
官僚のいいなりにならない改革断行内閣と呼べる改革の内実が、小泉内閣のどこにあるのかさっぱりわかりません。
ちなみに、平成13年4月10日に開かれた司法制度改革審議会では、取調べの録音について議論がされており、賛成反対の両方の意見が出ていますが、日弁連筋、最高裁事務局筋は録音は必要との立場をとる一方で、警察筋は録音されると自白を強要できないので反対しているという状態。
この日の議論をよく読むと、取調べの録音の合理性を否定するだけの具体的な理由は出ておらず、「録音・録画されていると本当のことをしゃべってもらえない」と泣き言を言うに留まっています。要するに、本当のことをしゃべってもらえるだけの証拠を被取調者に提示する能力が捜査当局に欠けているというだけの話。
被疑者の人権問題に留まらず治安問題一般が司法改革で先送りされているという見方もできそうです。
以下、平成13年4月10日に開かれた司法制度改革審議会会議録より抜粋転載。

司法制度改革審議会 第55回議事概要
日時 平成13年4月10日(火) 13:30〜16:50
http://www.kantei.go.jp/jp/sihouseido/dai55/55gaiyou.html

・ 取調過程・状況の書面による記録を義務付けるとした場合、その記録の正確性・客観性を担保できなければ、取調べの可視化にはならない。取調べを録音・録画しないというのであれば、この正確性の担保をどうするかの議論が不可欠。
・ 諸外国に比べて捜査手法が限定され、捜査のための身柄拘束期間も比較的短い我が国では、事案の真相を明らかにするためには、取調べが極めて重要となる。取調べで真実を語ってもらうためには、条理を尽くして説得する必要があるが、容易なことではない。録音・録画されている状況では、他人に見られているのと同じであり、なかなか真実を語ってもらうことはできない。
・ 真実発見ということで取調べの意義を強調するのは疑問。権力を背景にした取調べがいかに苛烈なものであるか、被疑者の立場がどのようなものであるかを認識する必要。自白が虚偽であったことが明らかになった再審無罪事例が何件もあるように、真実に反する自白をしてしまう事例はたくさんある。録音・録画し取調べを可視化することによって、虚偽の自白をなくしていくべき。
・ 取調過程等を記載した書面をリアルタイムで作成するというだけでは正確性の担保にはならない。作成主体は誰なのか、それ以外の者が記載内容の正確性についてチェックするのか。本人の署名・捺印では調書と同じで意味がない。裁判でその書面の正確性を巡って争うことになっては意味がないので、正確性を担保する工夫を検討する必要がある。
・ 裁判所の立場から見ても、取調べの適正が争われた場合に事後的にその過程を検証するための資料が必要。捜査機関が取調過程等についてリアルタイムで作成した書面の正確性を具体的にどのようにして担保するかは、この審議会で詰めるのではなく、最終意見を受けてこの改革を進めていく際に、専門的・実務的見地から検討するべきではないか。
・ 取調過程等を記載した書面を作成すること自体には意味がある。後に手が加えられることのないよう書面の管理を分けることも考えられよう。取調べが真実発見のために重要な機能を果たしていることは確かであるから、いきなり録音・録画に進むのではなく、まず、ここからスタートして、その効果・弊害等を検証していくべきではないか。
・ 最近、痴漢で逮捕されるケースが増えている。捜査機関から、「認めて罰金を払えばすぐ出れるが、認めないなら、20日間身柄を拘束する」と言われれば、やってなくても自白する人はいる。取調べの適正を確保するためには録音等による可視化も必要ではないか。

司法制度改革審議会
http://www.kantei.go.jp/jp/sihouseido/

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