文科省「子どもとテレビゲーム」に関するNPO等についての調査研究報告書

基本的に私は、ゲームは人の心に驚きや感動などの感情への影響を与え得るからこそ有益である、という立場です。
良い影響か悪い影響かの善悪の判定は、多様な個人の価値観に基くべきものであって、そんなゲームじゃ感動できないから悪いゲームだというような善悪の判定を政府の誰かや第三者が判定して強制すべきではないです。
感動して泣いたり、愉快で笑ったり、不条理に怒ったり、そういうことのまったくない無感情なゲームしか存在しない社会、あるいは北朝鮮のようにつまらないコントで爆笑しなればならないような社会はまともな社会ですか? まともじゃない。
文科省の「報告書」では、委員個人としての提言にとどまり、ゲームの流通規制の具体的立法施策について提言したものではありません。
しかし、委員個人としての提言にとどまるとはいっても、規制立法と無関係ということではなく、規制立法の前提となる科学的調査が揃ったということを意味では、むしろ規制の提言は時間の問題になってきたと見た方が良いかもしれません。
以下、「報告書」の中から、ゲームの流通にポジティブな部分を引用します。もちろん、ネガティブな部分には科学的・論理的に脆弱な部分がありますので、ネガティブな部分にも注目する必要があります。

文部科学省
「子どもとテレビゲーム」に関するNPO等についての調査研究 −米国を中心に− 報告書 平成16年3月
http://www.mext.go.jp/a_menu/sports/ikusei/04033001.htm
はじめに
第1章 子どもとテレビゲームの現状
http://www.mext.go.jp/a_menu/sports/ikusei/04033001/001.htm
第1節 子どものテレビゲーム接触等の現状
http://www.mext.go.jp/a_menu/sports/ikusei/04033001/002.htm
第2節 テレビゲームが子どもに与える影響
http://www.mext.go.jp/a_menu/sports/ikusei/04033001/003.htm
第3節 テレビゲーム業界の取組
http://www.mext.go.jp/a_menu/sports/ikusei/04033001/004.htm
第2章 米国調査
NIMF (National Institute on Media and the Family)
http://www.mext.go.jp/a_menu/sports/ikusei/04033001/005.htm

○ テレビゲームが単純に悪いとは言えない。テレビゲームは強力であり、そのため、有益にもなるし、有害にもなると考えている。
○ なお、NIMFは、テレビゲームを一概に悪いものとは考えておらず、むしろ子どもにとって良いゲームもあると考えている。保護者の知識を増やすことによって、保護者が良いゲームを選択できるようにしたい。そのために、良いゲームの市場を拡大することで、良いゲームのメーカーが利益を出せるようにすることが重要である。また、保護者にもテレビゲームがすべて悪いとは言っていない。あくまで適切なソフトウェアを選ぶこと、テレビゲームで遊ぶ時間帯や使用時間に気をつける必要性を強調している。
保護者は忙しく、疲れているので、子どもの長時間にわたる使用が問題と考えていても、それについ子守りをさせ、楽をしてしまう。実際に、保護者に調査を行うと、子どものテレビゲーム遊びを監視している、遊び時間を制限しているなどの回答が得られるが、一方、子どもにも調査を行うと、親は子どもがどのようなゲームで遊んでいるかを知らない、監督もしていないなど、保護者とは異なる回答が見られる。
○ ゲームソフトの制作や販売などを法律で規制することは、一般論として憲法修正第一条の問題のために難しい。ワシントン州で法律が成立したが、あくまで子どもへの販売を規制するものであり、制作は規制していない。しかも、テレビゲーム業界は、憲法修正第一条に基づいて撤廃を求める裁判を起こしている。また、リーバマン上院議員なども、テレビゲーム問題に関する活動を盛んに行っているものの、法規制の活動はしていない。

MAVIA (Mothers Against Violence in America)
http://www.mext.go.jp/a_menu/sports/ikusei/04033001/006.htm
メディアスコープ(Mediascope)
http://www.mext.go.jp/a_menu/sports/ikusei/04033001/007.htm

○ メディアスコープは、表現の自由を侵すことなく、メディアが社会的な問題をより正確で信頼性高く表現するよう促すための手段と情報を提供している。
○ メディアスコープは、社会的な問題については、エンターテインメント業界と直接協力する必要があると感じている。
○ 読書が苦手な小学生のグループにコンピュータゲームによる指導を行ったところ、教師による指導の場合よりも、読解力が高まったという結果が出ている。(Schwartz, S)
学習障害の生徒でも、刺激的なコンピュータゲームによる学習作業は、効果的に学ぶことができた。(Adelman)
○ コンピュータゲームは、集中力に問題があり、リハビリプログラムに参加している子どもの治療に役立つかもしれない。(Larose, S. et al)
○ 8週間テレビゲームに接触した年長者は、自尊心が著しく高まるという結果が見られる。(McGuire, F.A.)
○ テレビゲームをした人は、しなかった人よりも、反射運動に対する反応が早い。(Clark, J.E. et al)
○ テレビゲームを行った年長者は、運動能力や運転能力などの様々な知覚運動能力が高まり、在宅事故も少ない。(Drew, B. & Waters, J)
○ テレビゲームの所有は、子どもの日常生活に大きな変化を与えない。(Creasey, G.L. & Myers, B.J.)
○ テレビゲームを頻繁に行うことは、発達上の葛藤、特に攻撃性や競争心などの管理に役立ち、神経症や引きこもりや現実逃避などを助長することはない。(Kestenbaum, G.I. & Weinstein, L.)
○ テレビゲームに頻繁に興じる人間は、あまりやらない人間よりも、外向型であり、実績を重んじない。(McClure, R. F. & Mears, F.G.)

スターブライト財団(The STARBRIGHT Foundation)
http://www.mext.go.jp/a_menu/sports/ikusei/04033001/008.htm
エンターテインメントソフトウェア協会(ESA:Entertainment Software Association)
http://www.mext.go.jp/a_menu/sports/ikusei/04033001/009.htm

ESAとしては、ゲームを規制する立法については反対であるとしている。また、新しく法を作らなくても懸念事項を既に解決していると考えている。
バーカ(Baca)下院議員の法案は、特定の性的・暴力的な表現を含んだゲームを未成年に販売・賃貸した小売店を有罪とする法案である。この法案については法案を読むと分かるが、性的、暴力的の定義が広範で抽象的なため、ESRBレーティングの「M」(17歳以上推奨)だけでなく「T」(13歳以上推奨)も含まれる可能性がある。例えば暴力的な表現には怪我が含まれるので、フットボールゲームなども対象になる可能性がある。この法案は表現の自由の観点から憲法修正第一条に違反するものであり、どのゲームが対象となるかのガイドラインも抽象的である。さらに、もし法制化されても、小売店レベルで100%守らせるのは不可能であろう。
子どもの暴力・犯罪とゲームとの因果関係については、次のとおり明らかでない。
− 規制法案のスポンサーであるDickerson議員も、子どもの暴力とゲームを結びつける調査が存在しないことを認識しており、またワシントン州の厚生当局もゲームと子どもの攻撃性は関係ないとしている。
− 米国公衆衛生局もメディアと暴力の関係性は少ないと発表しているし、オーストラリア政府も関係を示す根拠はないとしている。
− 独立的な調査機関である「チルドレンズ・ソフトウェア・レビュー(Children's Software Revue)」も立証できないとしている。
− 2000年に行ったFTCの調査結果においても、メディアの暴力だけが子どもの攻撃性を高めるとはいえないと発表している。
− 学校暴力事件の後に、FBIやシークレットサービスや司法省などが調査を行っているが、いじめ、銃へのアクセス、家庭崩壊、薬物乱用、貧困、虚無感などが事件につながる可能性が高いと判断している。
− 10代の子どもの犯罪率は1980年代からの最低レベルにあり、それに対してファンタジー暴力コンテンツは最高レベルにある。このことからも両者には相関性がないと言える。
− 10代の子どもの犯罪率についてはカナダとシアトルを比較するとカナダが低い。これは同じ映画やゲームにアクセスしていてもカナダでは銃がないためではないか。

米国任天堂(Nintendo of America Inc.)
http://www.mext.go.jp/a_menu/sports/ikusei/04033001/010.htm

○ テレビゲームがインタラクティブなメディアだからといって、暴力性が強まるというのは理解できない。ゲームだけを槍玉に挙げるのは公正ではない。暴力の問題は確かに重要で、暴力をなくすためには政府の介入も必要かもしれない。しかし、この問題が社会的に注目されるようになってからというもの、多くの政治家がこの問題を取り上げ、政治的な問題となってしまった。
○ テレビゲーム業界と映画業界は似ているが、17歳以上対象の映画に12歳の子どもが入場しても法的に罰せられることはない。なぜテレビゲーム業界だけ攻撃されるのか。親なら誰しも「自分の子どもを傷つけたくない」「暴力をなくしたい」と思っているだろう。政治家たちは、こうした親の感情を利用し、格好の「票集め」の道具としてこの問題をアピールしている。
○ 子どもを育てる責任が政府にあるとすれば、法制化もやむを得ないが、子どもを育てる基本的な責任は親にある。子どもがどんな行動をしているか、いつテレビを見ているか、どんな本を読んでいるか、どんな友達がいるかを監督するのは親の責任である。
○ テレビゲームは、憲法修正第一条により、テレビ、映画、音楽、図書同様、その表現は憲法によって守られている。これを政府が規制するためには、直接かつ即時に消費者に害があることを証明する必要がある。現在のように、「おそらく暴力的な影響があるだろう」というレベルでは、裁判所が規制を認めるとは考えられない。
ワシントン州では、「良いゲームには警察官に対する暴力は含まれるべきではない」という観点から法制化が成功したが、表現の自由は、人の好き嫌いで判断される問題ではない。この州法は、Dickerson議員の嫌いなゲームを販売できないようにしただけのもので、教育的な要素があるとは思えない。
ワシントン州で法制化された理由は、Dickerson議員がワシントンにいたためだと言える。政治家である彼女は、自分の政治課題として「ゲームの暴力」に目をつけたのだろう。しかし、同氏は、暴力的なゲームと暴力的な行動を関連付ける証明を裁判官から求められた際、「『M』にレーティングされたゲームと暴力的な行動を直接結びつける証拠はない」と認めている。

ジョー・バーカ下院議員事務所(Congressman Joe Baca’s Office)
http://www.mext.go.jp/a_menu/sports/ikusei/04033001/011.htm
ジョゼフ・リーバマン上院議員事務所(Senator Joseph Lieberman’s Office)
http://www.mext.go.jp/a_menu/sports/ikusei/04033001/012.htm
連邦取引委員会(FTC:Federal Trade Commission)
http://www.mext.go.jp/a_menu/sports/ikusei/04033001/013.htm

FTCは、暴力的なコンテンツが子どもに及ぼす影響について、科学的証明がなされたとは考えていないし、そのような研究はFTCの所掌事務の範囲外である。
○ 他方、映画、音楽、ゲーム等については、憲法修正第一条により表現の自由が保障されており、政府が映画、音楽、ゲーム等の内容を変更するよう強制することはできない。さらに、最高裁判所等の判例により、子どもへのマーケティングや子どものこれらの製品への接触を政府が制限することは困難である。したがって、政府による規制は非常に限られたものとなり、自主規制を監督することが合理的な方法となっている。

第3章 子どもとテレビゲームのより良い関係のために
1 テレビゲームに関する教育・啓発の充実
http://www.mext.go.jp/a_menu/sports/ikusei/04033001/014.htm
2 自主規制システムの充実
http://www.mext.go.jp/a_menu/sports/ikusei/04033001/015.htm
3 テレビゲームに関する研究・開発の促進
http://www.mext.go.jp/a_menu/sports/ikusei/04033001/016.htm
4 家庭・学校・業界・NPO等が連携した取組
http://www.mext.go.jp/a_menu/sports/ikusei/04033001/017.htm
5 各委員からの提言
http://www.mext.go.jp/a_menu/sports/ikusei/04033001/018.htm

文部科学省
青少年健全育成
http://www.mext.go.jp/a_menu/sports/ikusei/main4_a7.htm

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