補足

ARCの平野さんがサイバー犯罪条約についてウェブログでコメントしています。
9条部分についてのコメントを引用。

2004.03.17
サイバー犯罪条約も批准へ?
http://arc.txt-nifty.com/arc/2004/03/post_16.html

批准承認案件の説明書(PDFファイル)では、「我が国が行う予定の宣言のうち主要なものの概要」として、第9条関連の宣言が2つ挙げられています(説明書5頁)。

*提供又は公然陳列を目的とする児童ポルノの所持及び保管を国内法上の犯罪とすることを除くほか、児童ポルノ保有を国内法上の犯罪としない(第9条)。
*児童の姿態を描写するポルノ(実在する児童の姿態を描写したものと認められる場合を含む。)のみをこの条約上の児童ポルノとする(第9条)。
いずれも留保の範囲が不明確で、批准するにしても、もう少し内容をはっきりさせる必要があります。前者について言えば、1eのうち単純所持を処罰対象から除くことは明らかですが、1dの取得行為も処罰対象から除くのか、「他人のために」取得する行為のみ処罰するのか、それともいま保有している児童ポルノはOKだが新たな取得は処罰対象とするのか、この宣言文だけを見ると判然としません。
後者はもっと意味不明です。国内法を踏まえれば2bおよびcは留保せざるを得ず、そのための宣言だと思うのですが、その趣旨がはっきりしません。だいたいサイバー犯罪条約には「児童」の定義は置かれていませんので、素直に「未成年者」という言葉を使うか、または宣言文のなかで「児童」の定義を明らかにしておく必要があります。
さらに、「児童の姿態を描写するポルノ(実在する児童の姿態を描写したものと認められる場合を含む。)」というのはいったい何を言いたいのでしょうか。「実在しない児童の姿態を描写したものも児童ポルノに含まれる」という趣旨なのか(それなら留保・宣言の必要なし)、それとも「絵やCG画像でも、実在の子どもを特定可能な形でモデルにしている場合は処罰対象とする」という趣旨なのか。
おそらく後者だと思いますが、それならたとえば「実在する児童(18歳未満のすべての者をいう。)の姿態を描写するポルノ(実在する児童を特定可能な形で描写したと認められる写実的影像を含む。)のみをこの条約上の児童ポルノとする」のようにするべきでしょう。むしろ端的に「2bおよびcの規定を適用しない権利を留保する」としたほうがわかりやすいとも思います。なお、ここでいう「写実的」は英語ではrealisticで、絵画技法でいう抽象に対する「写実」ではなく、「本物(実在の子どもを撮影した児童ポルノ)と見まがうばかりの」といったニュアンスであることに注意。

平野さんの疑問、指摘は妥当な疑問で、サイバー犯罪条約の留保部分、特に「児童の姿態を描写するポルノ(実在する児童の姿態を描写したものと認められる場合を含む。)」については、もうすこしはっきりさせる必要がありそうです。
特に「描写」という言葉は、翻訳や国内法整備、摘発の段階で様々な解釈が可能な抽象的な言葉ですので、はっきりさせた方がよさそうですね。
たとえば、

a「14歳の人を19歳に扮装させて撮影した記録」
b「19歳の人を14歳に扮装させて撮影した記録」
c「14歳の人を19歳に見えるように写実的に描いたデッサン」
d「19歳の人を14歳に見えるように写実的に描いたデッサン」
e「実在する18未満の児童を写実的に描いた架空表現(絵画、マンガ、CGなど)」
f「実在する18未満の児童を記号的に描いた架空表現(絵画、マンガ、CGなど)」
g「実在しない18未満の児童を写実的に描いた架空表現(絵画、マンガ、CGなど)」
h「実在しない18未満の児童を記号的に描いた架空表現(絵画、マンガ、CGなど)」

このうちどれが留保すべき「描写」に該当するのか。
個人的にはb,d,f,g,hが留保対象になると思われます。そうなるよう、留保の表現を具体化すべきでしょう。
サイバー犯罪条約の留保部分は、国会で修正するなり、外務大臣の国会答弁で明確にさせるなり、何らかの対応が必要と思われます。

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