文化審著作権報告書について

文化庁に意見を提出している複数の方が
2003-12-11の
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20031211#p2
を読んでいるようですので、文化審著作権報告書について私なりにコメントしておきます。

全国貸本組合連合会理事長の発言には、零細貸本屋さんの経営の苦しさ、廃業の現実がにじみ出ています。こういう弱い書店流通の人たちを犠牲にしながら、一方的に「創作者の権利を守れ」と権利だけ主張することはできないと思います。
なにより、貸本屋さんを自分の作品の発表の場としている漫画家や同人の方はいらっしゃいますし、経済的に苦境に立った時に生活面で貸本屋さんの店主にお世話になっていた漫画家の方も大勢います。
営利事業というよりも芸術家支援ボランティアに近いお店だってあります。

結論から言って、私は、著作者の出版物の貸与権創設には賛成です。
が、無条件で認めるわけにはいかないとも思います。

漫画家や同人さんを育ててきた零細貸本屋さんをつぶしてまで権利を著作権を主張すべきではありません。
そのためには、漫画家や同人さんを育ててきた零細貸本屋さんが廃業に負い込まれないような環境を確保すること。たとえば、権利は原則的に認めても、漫画家や同人さんを育ててきた零細貸本屋さんにはその権利を権利者である著作者や出版社は主張しないというような環境をつくり、維持する必要があります。

つまり、漫画家や同人さんを育ててきた零細貸本屋さんと営利追求優先のブックオフやジオなどの大手レンタルチェーンを同じ条件で競争させるな、権利を求めるな、ということです。

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と、とりあえず条件付賛成を表明しつつ、もうひとつの、脱・管理統制的な観点からの懸念も書いておきます。
脱・管理統制的な観点からの懸念というのは、「エロ漫画と非エロ漫画の分断統治の下準備の可能性」です。

出版物の貸与権創立。コレってもしかして、統治権力が漫画家に対して与えようとしている飴玉なのでは…?
そんなに簡単に飴玉をホイホイと受け取ってしまっていいのでしょうか?
飴と鞭はいつもペアで、飴があるなら鞭もあります。

著作権管理団体に自分の著作物の管理をまかせられる漫画家は、著作権の恩恵を受けるでしょう。
けれど、著作権利権の恩恵から外れる漫画家もいるわけですよ。

代表的なのは、地下出版の漫画家。
地下出版の漫画家は、私の知る限り日本には2人しかいません。でも、将来、2人の地下出版漫画家が200人にならないとも限らない。

地下出版までいかなくても、たとえばですよ、著作権管理団体の加入条件として「漫画倫理基準に抵触する性表現や暴力表現を含む作品は、著作権管理団体を利用することは出来ない」というようなルールかできたら、どうなりますか?
性表現や暴力表現を扱う漫画家は、レンタルショップに金を請求できない、ということになるでしょう。

韓国ではすでに、漫画は買うものではなく借りるもの、になっています。日本も遅かれ早かれそうなるでしょう。
ということは、著作権管理団体の倫理基準に従えないエロ漫画家は、他の漫画家に比べて収入が少ない、あるいは全く無いという状態になるわけですよ。あくまでも、もしそんな「倫理基準」というものがあったなら、という仮定の話ですけれども。

「今」は、著作権管理団体というものは無いですし、「倫理基準」もありません。
しかし、将来、5年後か25年後かわかりませんが、そういう「倫理基準」が著作権管理団体でまったくつくられないという保障はありませんし、倫理基準をつくってはならないというルールもありません。

私の考えすぎであればいいのですけれどね。