「有害コミック」撲滅運動の歴史と背景

 
有害コミック」撲滅運動の歴史を綴った『気持ち悪い人達 6 コミケ最後の日!』(同人誌。発行;「クロスファイト!!」、1991年7月)の転載がこちらにあります。
 

■カマヤンの虚業日記
http://d.hatena.ne.jp/kamayan/
90-91年「有害コミック」問題は、極右新興宗教念法真教」が起こした。
http://d.hatena.ne.jp/kamayan/20050408/1112984301

そもそも、ことの起こりからして妙だった。有害コミック追放運動の発端を『創2月号』より引用してみよう。

 投書を機に始まった田辺市の運動
 和歌山県田辺市でコミック本の追放運動が始まったきっかけは、〔90年〕八月九日の「紀州新報」にコミック本批判の投書〔★同人誌原注〕が載ったことである。その投書を読んだ一市民が九月二日、生駒市長の自宅を訪れ、「本屋で買ってみたらあんまりひどいので、なんとか善処してほしい」と買い求めたというコミック本を二冊手渡していった。『バージンショック』という題名のそのコミック本を一読し、驚いた市長は翌日、社会教育課長を市長室に呼んだ。
 それと相前後して、市長のもとへ一通の投書が届く。投書の主はのちに「コミック本から子供を守る会」の代表を務めることになる中尾いさ子〔★★同人誌原注〕さんである。中尾さんはこう書いた。「今ここで歯止めをかけなければ、小学生の読む本にもっともっと露骨なものが連載されてくると思います」「大手の小学館講談社集英社がこのようなコミックマンガを多く出版しているのですから驚きです。お金もうけのために子供をターゲットにし、性を商品化し、女性を侮辱し、許せることではありません(要約)」
(略)
〔同人誌原注〕20ページの朝日新聞の記事http://d.hatena.ne.jp/kamayan/20050406/1112804830 とてらしあわせてみるとわかるけど★の8月9日の投書の主(中年男性)は★★の「コミック本から子供を守る会」代表、中尾いさ子の夫なのだ。
ということなのだが…
だいたい、そこいらにいる一介の主婦(たとえばこれを読んでいる、あなたのお母さん)が投書をしたくらいで市長や市議会が動くなんてことが現実にあるだろうか? とりあってもくれないのが普通じゃないだろうか。しかし信者八十万、自民党と深いつながりを持った教団がバックについているとなると話は別だ。
ただし教団が有害図書追放運動をスムーズに広めるために政治家を動かしたのか、政治家の意向をうけて教団が運動を開始したのか、どちらが先にあったのかはわからないが。

 
貴重な基礎情報の復刻掲載、ご苦労様でした。
宗教勢力の選挙協力や政治的影響といった問題については、今後さらに情報収集する必要性を感じます。
 
鎌倉さんの情報ソースが作り話ではないことは、こちらに同じソースがあることからも判断できます。
 

朝日新聞91/5/29シリーズ「学校を歩く」
和歌山県の中学校 コミック規制運動 PTA委員に署名集め依頼 官民一体「性描写は有害」
http://hiei.e-site.jp/herio/dustbox/text/souka.txt

 
規制する側とされる側がまとめた、コミック規制などの歴史。
 

青少年対策に関する国・都・練馬区の動き
http://www.city.nerima.tokyo.jp/seishonen/taisaku06.html
日本でのマンガ表現規制略史(1938〜2002)
http://picnic.to/~ami/kisei/ryakushi.htm

 
関連ログ。
 

資料:田辺市議会会議録:有害コミック撲滅発祥の地における有害図書追放議論
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20040517
普遍価値教育論の源泉:日本青少年研究所霊友会の場合
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20050320#p1

 
田辺市は、有害コミック追放政策について自共共闘(保守会派と日本共産党の政策協調)が成立している地域のひとつです。
共産党市議が有害コミックに関連した質問をしているのはそういう背景かもしれません。まあ宗教勢力に対抗するためにしかたなくコミック追放の旗を掲げているということなのだろうとは想像しますが。

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「有害コミック」撲滅運動発祥の地=田辺市

 
前記資料のつながりで、「有害コミック」撲滅運動発祥の地の田辺市について少しだけ調査してみました。
まずは市議会。
 

資料:田辺市議会会議録:有害コミック撲滅発祥の地における有害図書追放議論
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20040517

親御さんが部屋に入りまして掃除をするときなど、それを見つけまして大変びっくりいたしまして心配になったのであります。*1その運動が、これでは大変だという形で、いくらなんでも18歳以上の図書を、そしてまだまだその10年前は、なかなかそこまでポルノ的なことも、日本では理解があったというのか、まだ皆さんに理解がなかったので、えらい心配をいたしまして、これがだめだという形で、田辺市のお母さん方から全国に発信しまして、ビニ本自動販売機の追放運動が活発に行われたわけであります。
何らかの形で、今、行政として手を打たなければ、本当に何も知らない間に、とんでもないことが起こっていくような気がしてならないのであります。
(平成11年3月田辺市議会 大倉勝行市議質問)

 
市長も教育長も「有害コミック撲滅運動」発祥の地であることを恥ずかしげもなく誇っているようです。
 
次に、田辺市庁。
 

田辺市
http://www.city.tanabe.lg.jp/index.html

 
トップページから6回層ぐらい深いページに有権者数の表があります。
 

選挙人名簿登録者数 及び 投票区別登録者数
http://www.city.tanabe.lg.jp/senkan/tourokusya.htm

 
これを見ると、平成17年3月1日現在の有権者数が56,295人。首長選挙では15〜20%ぐらい組織票を固めれば当選ラインに入ってきますので、とりあえず組織票で12000ぐらいあれば当選は楽になります。
で、田辺市の投票区を個別にみていきますと、大票田地区というのかいくつかあります。以下、2000票を超える大票田地区をすべてリストアップ。こういう大票田から組織を固めるのが選挙の鉄則です。*2
 

2 田辺第一小学校玄関ホール 2,038
6 東陽中学校図書室 2,324
15 万呂コミュニティセンター 3,374
16 会津保育所保育室 3,087
17 稲成保育所保育室 2,696
47 明洋団地集会所 2,049
49 あけぼの会館 2,524

 
2000票を超えるのがこの7地区で、この7地区で18092票あります。有権者の32%。
ところで、この大票田地区の最後にリストアップされている「あけぼの会館 2,524票」ですが、この地区は特殊な地域です。どういうことかというと、このあけぼの地区一帯が、なんと念法真教の念法寺が建立されている念法真教の影響力が強い地域なのです。
 

http://d.hatena.ne.jp/kamayan/20050408/1112984301

念法寺 住所 田辺市あけぼの13

 
組織票が確実にとれる地域で、大組織を背景とした教団関係者からの「動員」を背景に、田辺市長が「念法」の名前を出されて真っ青な顔で「わわわわかった。ゆゆゆ有害コミックを追放しししましょう!」とオロオロ声で言ってしまったとしても、不思議ではありません。
 
もちろんこれは状況証拠に基く推測であって、決定的な証拠ではありません。
しかし、状況証拠がひとつだけではなく、ふたつ三つと積み重なれば、真実であるとの心証を形成する真実の蓋然性は大きくなります。
ちなみに、田辺市の与党会派の市政会の会長は、宮田政敏*3という方ですが、この方は天理教康津郡分教会長(元天理教青年会西牟婁支部委員長)で、和歌山県教育を考える議員連盟事務局長です。また宮田氏は、田辺市連合PTA会長(明洋中学校PTA会長)をしていた方でした。*4
 
蛇足ですが、最近になって中国の反日デモが注目されていますが、その対応に追われている町村外務大臣の選挙区には実に様々な宗教教団の拠点があり、「念法真教」の拠点も町村外相の選挙区にあります。
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*1:市議が指摘している親は、投書を送ったり陳情に行っていたわけですが、その親の子どもは実は30歳を超えていたという事実の方が私には驚きだったりします。

*2:「鍋は大きな肉から食え」という諺が選挙業界にあったりします。

*3:宮田政敏市議 http://www.aikis.or.jp/~miyata/index.html

*4:宮田政敏市議略歴 http://www.aikis.or.jp/~miyata/ryaku.html和歌山県教育を考える議員連盟」あいさつ 「「和歌山県教育を考える議員連盟」を大倉議員、印南町の道議員と3人で立ち上げました。会長は有田郡選出の吉井県会議員になっていただきました。 現在の教育界は左翼の思想が支配的であります。そのために校長先生は国や県や市町村の教育委員会の指導を徹底できないで苦労しています。 それは和歌山県の教職員組合日教組ではなくて共産党系の全国教職員組合に属していることが大きいと思います。 共産党の指令で動く先生方の影響から子供達を守ることが必要です。会長は吉井和視県会議員、会員数は184名、私宮田政敏は事務局長です。 」http://www.aikis.or.jp/~miyata/kyoiku.html

痛みを想像するということ

 

人の痛みのみが
僕の痛みを
和らげることができる。

(神戸市小学生殺人事件の加害少年の犯行声明文)

 
わたしたちの社会は、あの少年よりも、人の痛みを想像できているのでしょうか。
と書くと「性表現は子どもを虐待している!」*1とか言う人が出てきて鼻白むことが多々あり、おまえのその無神経な偽善が子どもたちの心の悪意を育てているんだよと心の中で反論する機会が増えている昨今の状況は憂うべき状況だなあ、などと考える日が多くなりました。
 
お金が無くて国民健康保険を持てず、病気になっても医療を受けられずに死んでいく子どもたち。
親の1/3以下の年金しかもらえず、2倍の保険料と税金を負担する子どもたち。
子どもを守れといいながら国と地方の教育行政予算を減らしている大人たち。
殺すな暴力をやめろと言いつつ、侵略戦争への政府支持や派兵を止められない大人たち。
偽善を演じているのは誰なのか。
 
虚構の偽善を演じて見せたあの少年を非難する大人たちの内面の人間性が醜ければ醜いほど、大人たちはその醜さを見せまいとして鏡を演じた少年を壊そうとします。
そんな倒錯した社会で、私たちは、私は、どう生きればよいのか。
という疑問に、加害少年の犯行声明文を乗り越えるだけの答えを導く思想が、多くの大人たちに欠けているというあたりが、少年問題の本当の問題なのではないか、などと私は感じています。
わたしたちの社会は、鬼畜と呼ばれたあの少年よりも、人の痛みを想像できているのか。
心の中での問いかけはこれからも続きます。
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*1: 都議会公明党:石井義修都議会議員「低俗漫画は児童虐待だ!」 http://d.hatena.ne.jp/kitano/20050327#p1 参照

新聞社説・コラムリンク(国内・日本語)

 
というページを作りました。
 

新聞社説・コラムリンク(国内・日本語)ショートカット
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20030102
新聞社説リンク・コラム(国内・日本語)詳細
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並べ方は(キタノ)の主観に基きます。
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