自民新憲法起草委:「表現の自由」制限を検討

 

自民新憲法起草委小委試案
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20050216#p2

 
の続報。
このニュースに不安や恐怖を感じる人はまだ救いがあります。不安がまったく無い人は、もしかしたらレミングになりかけているのかもしれません。*1
 

表現の自由」制限を検討 自民権利義務小委
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050228-00000163-kyodo-pol

自民党憲法起草委員会の「国民の権利・義務」小委員会(船田元委員長)が、憲法21条の「表現の自由」「結社の自由」など基本的人権の制限を検討している。国の立場を優先して「国民の責務」を強調、個人の自由を抑制する国家統制的な志向が目立つ。制限の適用要件があいまいでメディア規制につながりかねないとの指摘も出そうだ。

有害図書の出版禁止、「表現の自由、制限を」・自民憲法小委
http://www.nikkei.co.jp/news/seiji/20050303AT1E0300O03032005.html

自民党は3日、新憲法起草委員会の「国民の権利及び義務小委員会」を開いた。表現の自由」を一部制限しても、青少年の健全育成に悪影響を与えるおそれのある有害図書の出版を禁止できるようにすべきだとの意見が大勢を占めた。

Google「新憲法起草委員会」関連ニュース
Y!「新憲法起草委員会」関連ニュース
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国防の責務明記が多数/表現の自由制限拡大も
http://www.sakigake.jp/servlet/SKNEWS.NewsPack.npnews?newsid=2005030301003562&genre=politics
http://kumanichi.com/news/kyodo/politics/200503/20050303000339.htmhttp://www.chugoku-np.co.jp/NewsPack/CN2005030301003562_Politics.htmlhttp://www.sanyo.oni.co.jp/newspack/20050303/20050303010035621.htmlhttp://www.topics.or.jp/Gnews/news.php?id=CN2005030301003562&gid=G02http://www.kobe-np.co.jp/kyodonews/news/5030301003562.htmlhttp://www.iwate-np.co.jp/newspack/cgi-bin/newspack.cgi?politics+CN2005030301003562_1http://www.shikoku-np.co.jp/news/news.aspx?id=20050303000372http://www.kahoku.co.jp/news/2005/03/2005030301003562.htmhttp://www.mainichi-msn.co.jp/seiji/gyousei/news/20050304k0000m010067000c.html

表現の自由」(21条)については「青少年の健全育成に悪影響を与える恐れがある」場合に制限できるとしていたが、「有害情報は青少年に対してだけでない」との意見が出たため、制限の範囲拡大を含めさらに検討する。

国防の責務明記が多数
http://www.minyu-net.com/news/2005030301003562.htmlhttp://www.shizushin.com/national_politics/2005030301003562.htmhttp://www.toonippo.co.jp/news_kyo/news/20050303010035621.asphttp://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050304-00000005-san-pol
自民憲法小委:「国防責務」試案に盛り込みへ
http://www.mainichi-msn.co.jp/seiji/gyousei/news/20050304k0000m010067000c.html
JANJAN 今日のマスコミ 3月3日
http://www.janjan.jp/media/0503/0503034206/1.php

 
「有害情報は青少年に対してだけでない」という改憲派の発言ですが、語るに落ちるとはこのことで、改憲の真の狙いは青少年の健全な育成ではないということでしょう。つまり「不健全な大人に人権無し」であると彼らは考えている。
 

基本的人権」関連報道
http://nsearch.yahoo.co.jp/bin/search?p=%B4%F0%CB%DC%C5%AA%BF%CD%B8%A2&st=n
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憲法前文の論点整理、自民小委が中間集約案を提示
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050228-00000104-yom-pol
憲法>国民の義務明文化 自民起草委が前文で中間集約
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050228-00000026-mai-pol
表現の自由」制限を検討 自民権利義務小委
http://flash24.kyodo.co.jp/?MID=RANDOM&PG=STORY&NGID=poli&NWID=2005022801002511
http://www.chugoku-np.co.jp/News/Sp05022808.htmlhttp://www.sanyo.oni.co.jp/newspack/20050228/20050228010025111.htmlhttp://www.iwate-np.co.jp/newspack/cgi-bin/newspack.cgi?main+CN2005022801002511_1http://www.chugoku-np.co.jp/NewsPack/CN2005022801002511_Politics.htmlhttp://www.ehime-np.co.jp/newsflash/news20050228220.htmlhttp://www.kobe-np.co.jp/kyodonews/news/5022801002511.htmlhttp://www.sakigake.jp/servlet/SKNEWS.NewsPack.npnews?newsid=2005022801002511&genre=mainhttp://www.shikoku-np.co.jp/news/news.aspx?id=20050228000345http://www.niigata-nippo.co.jp/news/kyoudou.asp?id=20050228000302http://www.shizushin.com/headline/2005022801002511.htmhttp://www.minyu-net.com/news/2005022801002511.htmlhttp://kumanichi.com/news/kyodo/main/200502/20050228000315.htmhttp://www.toonippo.co.jp/news_kyo/news/20050228010025112.asphttp://www.topics.or.jp/Gnews/news.php?id=CN2005022801002511&gid=G01http://news.livedoor.com/webapp/journal/cid__1008566/detailhttp://www.kahoku.co.jp/news/2005/02/2005022801002511.htm

自民党憲法起草委員会の「国民の権利・義務」小委員会(船田元委員長)が、憲法21条の「表現の自由」「結社の自由」など基本的人権の制限を検討している。国の立場を優先して「国民の責務」を強調、個人の自由を抑制する国家統制的な志向が目立つ。制限の適用要件があいまいでメディア規制につながりかねないとの指摘も出そうだ。

言及ダイアリー・ウェブログもろもろ
http://d.hatena.ne.jp/http?//www.nikkei.co.jp/news/seiji/20050303AT1E0300O03032005.html

http://d.hatena.ne.jp/Louis/20050304http://d.hatena.ne.jp/amegriff/20050304http://d.hatena.ne.jp/bullet/20050304http://d.hatena.ne.jp/claw/20050304http://d.hatena.ne.jp/fashi/20050303http://d.hatena.ne.jp/guldeen/20050303http://d.hatena.ne.jp/izumihideji/20050303http://d.hatena.ne.jp/kamayan/20050303

http://blog.livedoor.jp/gijibamboo/archives/15495067.htmlhttp://blog.livedoor.jp/gun_rights/archives/15399389.htmlhttp://blog.livedoor.jp/dodgermania/archives/15288437.htmlhttp://blog.livedoor.jp/koshi_n/archives/15290661.htmlhttp://blog.livedoor.jp/you136/archives/15293126.htmlhttp://prideman.exblog.jp/2145198http://blog.livedoor.jp/p_s_y/archives/15319427.htmlhttp://pdo.cocolog-nifty.com/happy/2005/03/post.htmlhttp://ratio.sakura.ne.jp/archives/2005/02/11122948.phphttp://d.hatena.ne.jp/ujencooha/20050213#p3http://d.hatena.ne.jp/oono_n/20050213#p2http://blog.goo.ne.jp/kaichowu/e/b860c39daf8e8a4e9a41115464ac9ae1http://blog.goo.ne.jp/dada-adult/e/dd39606cccc8198f7112a32fb7ab4b28http://dslender.seesaa.net/article/1928504.htmlhttp://blog.goo.ne.jp/3566598tu2/e/a86a9661f3aedcf7bbe8f95ab24cf15bhttp://blog.goo.ne.jp/kurusugawa22/e/d241c7edf3de7dbf9b7d075af1fc377f

 
みなさん、自民党改憲の動きに疑問をお持ちのようです。まあ当然でしょう。
ところで、与党の公明党は、なにをやってるんでしょうね。無反応が薄いです。
別に期待しているわけではないですが、公明党の支持基盤の創価学会の池田会長は、70年安保闘争でヘルメットかぶって、旗持って、反戦平和を叫んでゲバヘルデモ行進してたわけです。*2
公明党さんは、1969年に田中角栄がらみで出版妨害事件というのを起こして批判され、批判対策のため盗聴事件まで起こしていましたのでもともとそういう集団だという見方もありますが*3、そうした見方を払拭する意味でも、きちんと改憲の動きに言及すべきではないでしょうか。
以下、政党(社民しか無いですが)の反応。
 

■日本社民党
福島みずほ党首の記者会見(3月2日)要旨
http://www5.sdp.or.jp/central/kaiken2005/kaiken0302.html

3.憲法改悪をめぐる動きについて
自民党の新憲法起草委員会で、中曽根元首相が委員長を務める憲法前文に関する小委員会が、前文改正の中間集約案を提示しました。なぜ前文を変える必要があるのか分かりません。「偏向したナショナリズム」の意図だけが浮き彫りになっています。
問題点の第1は、「基本的人権を常に公共の利益のために行使する責任を負う」など、人権を制約していることです。戦前の大日本帝国憲法でも権利の規定はありましたが、法律によって制約できるとなっていたので、権利が極めて制限をされ、最終的には権利など無い状況になったわけです。また「家族がわが国の伝統と文化の担い手」だという表現にあるように、「個人の尊重」や「個人の尊厳」を背後に押しやっています。もとより、憲法は国民の権利を明確にし、権力を抑制することが主な役割です。自民党案は憲法の性格を180度変えるもので、認めることはできません。
問題点の第2は、「日本の歴史や伝統の明確化」「自主憲法であることの明記」が強調されています。「大日本帝国憲法および日本国憲法の意義を想起しつつ」などの文章を見たとき、なぜ日本国憲法を戦後に作る必要があったのかということに関して、あまりに無自覚であり、恐ろしいと言わざるを得ません。「歴史」を強調するなら、大戦の歴史と犠牲を踏まえた現憲法が、戦後社会の基礎になってきた歴史こそ忘れるべきではありません。
憲法調査会の「最終報告」は、改憲の意思を示してはならないということを、改めて申し上げます。「多数意見はこうだ」「少数意見はこうだ」という報告になるとも言われています。しかし、憲法調査会の目的は「憲法について広範かつ総合的な調査」することに限定されており、「改憲が多数」などと表記することは、憲法調査会の目的に違反して、調査会自身が改憲に向けた機関であることにほかなりません。こういう報告がないように、社民党は強く求めていきます。

 
以下、マスメディアの論調。
 

琉球新報 社説
2005年3月2日
表現の自由を制限・侵してならない永久権利
http://www.ryukyushimpo.co.jp/shasetu/sha30/s040302.html#shasetu_1

小委員会が挙げた「修正すべき権利」「新しい責務」を見ると、国家統制的な色合いが濃い。メディア規制にもつながりかねず、国民の知る権利を侵害するおそれがある。到底、容認することはできない。
小委員会に提示された論点メモは「表現の自由」について「青少年の健全育成に悪影響を与えるおそれのある有害情報や図書の出版・販売は、法律で制限・禁止できる」と明記。「結社の自由」は「国家や社会秩序を著しく害する目的で作られる結社は制限できる」とした。
字面通りならば、反対するものではない。青少年の健全育成には当然、最大限の力を注がなくてはならないし、社会秩序などを乱す結社を認めることはできない。しかし、何をもって「悪影響」「有害」とするかの基準が明確でない。国のその時々の都合によって、適用要件が決められてしまうおそれを、ぬぐいさることはできない。
「有害情報、図書の制限・禁止」の背景には、凶悪化する少年犯罪の多発などがあるとみられる。しかし「表現の自由」がその大きな原因とするのは短絡的すぎる。社会状況の変化や地域共同体のつながりの希薄化など、さまざまな要素が複合的に絡まってのことだとみる。

2005年2月22日(火)
自民憲法試案・改正の必要性国民に説明を
http://www.ryukyushimpo.co.jp/shasetu/sha30/s040222.html#shasetu_1

政治の動きに比べて、国民の関心は高いのだろうか。政治スケジュールが先行して着々進められている感じはぬぐえない。憲法は国の根幹をつくる。「憲法はなんのために、誰のためにあるのか」という根本的な議論が国民から沸き上がっているとは思えない。いわば、「上」から降りてきた論議にしかみえない。国民もきちんと政治の動きを監視し、意思を表明する必要がある。

毎日新聞 2005年3月2日 東京朝刊 余録
http://www.mainichi-msn.co.jp/column/yoroku/archive/news/2005/03/20050302ddm001070131000c.html

「半分以上の人」による決定が少数派の自由を奪うものだったら、どうだろう。たとえ多数の国民が望もうと、侵してはならない基本的人権がそこでモノをいう。いわば「民主」の横暴から「自由」を守るのは民主国家の憲法の大事な役割だ
「国民は基本的人権を常に公共の利益のために行使する責任を負う」。自民党の新憲法起草委員会小委がまとめた憲法前文の参考例文の一部だ。この中間集約は全体に保守色が強いものとなったが、それはそれで一つの意見だろう。だがこと基本的人権について、その“使い方”まで前文で定めて本当にいいのだろうか
公共的価値を尊重するというのは、なるほど「正しい」主張だ。だが憲法前文で、それを基本的人権の目的のようにうたうのは何かの勘違いではないか。事実上多数者の利益を意味する「公共の利益」に、常に基本的人権が奉仕するよう求めては、何の憲法か戸惑う
民主主義が左右のライバルに打ち勝てたのは、権力におぼれやすい人間性に応じて二重、三重の姿勢制御の仕組みを組み込んだからだ。「正義の独善」や「多数の利益」の暴走の歯止めとなる基本的人権はその勘どころだ。もう少していねいに扱った方がいい。

中日新聞(東京新聞)社説 2005年2月20日*4
改憲論議する環境
http://www.chunichi.co.jp/00/sha/20050220/col_____sha_____000.shtml

さらに警戒すべきは、中国、北朝鮮などに対するここ数年のナショナリズムの高まりです。
歴史、伝統を恣意(しい)的につまみ食いしたり、感情的な排外主義を声高に唱える政治家の人気が高く、異論を唱えにくい社会の雰囲気が生まれています。
武器を携行した自衛隊の海外派遣にも多くの国民はさしたる抵抗感を覚えなくなりました。
軍事機密の範囲を拡大した自衛隊法改正、「人権保護」の名により言論、報道の自由を制約する個人情報保護法の制定や人権擁護法案の国会再提出計画など、国民の目と耳をふさごうとする動きが盛んです。
“やさしい顔のファシズム”との評さえある、このような環境は、冷静であることが必要な憲法改正論議にはふさわしくありません。
冷戦終結で米国が唯一の超大国になり、国際平和の確立へ向けた外交の選択肢が限られていることも、日本の将来を左右する新しい基本法を考えるには好ましくありません。
現在の政治状況はそれなりに国民に支持されています。だからこそかえって注意が必要なのです。

 
自民党が変更(事実上の削除)しようとしている規定はこれです。
 

日本国憲法
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S21/S21KE000.html

第二十一条  集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
○2  検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。

 
憲法21条は次の条文とも密接に関連して解釈されます。
 

十三条  すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
第九十七条  この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試錬に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。

 
青少年の健全育成に悪影響を与えるおそれのある有害情報が、具体的にどの表現物を指しているのか不明です。
規制されるべき具体的な対象(出版物)があるとの前提が改憲側にはありますが、その前提が国民に共有されているとは私には思えません。また、提案側から「この本は規制されるべきだ」と具体的な規制対象(出版物)が呈示されたこともありません。(松文館裁判のように一部の自民党議員が通報したということはありましたが。)
そして、これが一番重要なことですが、表現物を既成する立法が違憲立法と判断さたために規制できないとの証明もありません。
日本国は解釈改憲によってすでに憲法21条が部分的に廃止されているという見方もできるかもしれません。戦後の日本は、日本国憲法日米安保条約というふたつの憲法があり、解釈改憲によって憲法が実質的に改正される政治体制だからです。
たとえば、自民党議員(平沢勝栄衆議院議員)が通報して逮捕された松文館の社長と漫画家が無罪放免になり、刑法の限界が証明されたような場合には、通報した平沢議員が規制ができないと主張することは一理はあるかもしれません。
しかし、松文館事件では出版社の社長と漫画家は、遺憾ながら有罪になりました。つまり法で表現は規制されているのです、改憲せずとも。
刑法だけではありません。たとえば、デモなどは公安条例*5や静穏保持法*6で規制されていますし、メガホンで大声出せば拡声機規制条例*7で規制されます。選挙では文書の頒布や個別訪問やインターネット規制など、とてつもない制限が*8実施されていますし、政治ビラをまけば立川反戦ビラ入れ事件のように逮捕*9されます。結社の自由と言いますが、アーレフのように犯罪に関与していな信者も団体規正法で徹底的に不利益処分を受けたりしますし*10、出版活動も青少年健全育成条例で事実上制限されています。*11破防法では政党活動に対する調査・解散さえ法解釈上は可能だと政府は考えています。*12
日本には、さまざまな法制度と人権を制限するためのアクロバティックな制度解釈も用意されているため、人権は実質的に制限されています。もちろん私はそのような制度や司法解釈には反対ですけれど、それらの制度や制度解釈を肯定し運用している側が、改憲しなければ人権を制限できないかのような前提で改憲を議論しているのはいったいどういうことなのか。そのダブルスタンダードに私は呆れます。
何度も言いますが、変えるというならまず守れ。自分でも守らない憲法を変えてどうする。大人を健全に育成してどうする。笑い話にもなりはしません。
改憲の真の意図は、自民党政権下の解釈改憲を普遍化し、出版や放送などに対する事前検閲を実施することではないでしょうか。
どんな国でも、事前検閲は「自主規制」という外形をとります。最初は、条例で実施されている「自主規制の勧告の法制化」「有害図書類の指定の法制化」といったところからはじまり、それらの解釈を積み重ね、「自主ガイドラインの策定義務」という具合に本格的に事前規制が実施される可能性はあると思われます。
たとえば、中国と国交断絶状態になって核戦争の可能性が議論されるような状況が将来来るのかどうかわかりませんが、そういう国家的不安感を利用して、内閣の外交政策に反対する言論を「健全外交に悪影響を与えるおそれのある有害情報」と政府が判断してメディアに自粛を求めるといった体裁で事前検閲を求めるおそれはあるでしょう。政治家のセックススキャンダルも、利敵行為だとか健全な政治環境を阻害するといった理由で自粛が求められることになるかもしれません。
現行憲法では不可能な事前検閲を、自粛措置というかたちで認めさせるために、留保つきの表現の自由権規定を利用する。そういう理由以外の理由を、自民党改憲案から合理的に想定することは困難です。
青少年有害社会環境対策基本法案が与党によって国会に提出された事実ひとつを見ても、合憲と考えているからこそ青少年有害社会環境対策基本法案を提案したのですから、改憲の真の狙いが青少年有害社会環境対策基本法案のような規制に留まらないことは容易に想像できます。
 
この改憲の動きに、まだメモだから、議論だからまだ大丈夫、と思って安心してはだめです。「情報が奪い取られ禁止されてしまうまであなたは待たないで下さい」*13。手足を縛られ口を封じられてからどうやって逃げ出すかなどと考えても遅いです。
自民新憲法起草委の前に設置された改憲委員会でも、表現の自由の制限が議論され、一定の制限が提案されていました。衆議院憲法調査会でも一部の自民党議員が表現の自由の制限に触れて議論しています。おそらく九割方、自民新憲法起草委提言で「表現の自由」の制限は盛り込まれ、それが原案となって国会での改憲ステージが作られることになるでしょう。
増税など経済的な規制はあとでとりかえすことができますが、言論は一度失えば言論でとりかえすことは困難です。暴力以外の手段で平和的に失われた言論がとりかえされる例は、世界のどの歴史をみても稀です。
 
自民党政権下で行われている解釈改憲が正しいかどうかという議論は、改憲内容の検討以前に別途考えなければなりませんし、自民党政権下で行われている解釈改憲が永遠に続くという前提は成立しません。政権交替が今後起こる可能性は高まっています。
これまでの自民党政権下で行われた解釈改憲が新政権によって否定され、まったく違う制度運用がなされ、あるいは良心を失った最高裁判所の判事が刷新され、新しい判事によって違憲立法審査権が行使され新しい判例がつくられる可能性は、将来無いわけではありません。
というより、失政によってその可能性が次第に高まりつつあることは、他ならぬ自由民主党当事者が自覚していることでしょう。だからこそ、自由民主党政権下(の指名判事)によってつくられてきた解釈改憲を“不磨の大典”とするために、改憲という作業が続けられているのではないでしょうか。
そういう可能性を見越した上で今回の改憲案を考えると、政権交替の危機感を自由民主党が自覚し、自民党長期政権の崩壊に戦々恐々としているという危機感の裏返しが、この一連の改憲運動であるという見方もできるかもしれません。
 
以下、参考リンク。
 

中高生のための憲法教室
http://www.jicl.jp/chuukou/index.html
憲法文献データベース
http://www.jicl.jp/search/

表現の自由一般カテゴリーを検索
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衆議院憲法調査会
http://www.shugiin.go.jp/index.nsf/html/index_kenpou.htm
参議院憲法調査会
http://www.sangiin.go.jp/japanese/kenpou/index.htm

 
精神的自由権、特に内心の自由の破壊が国の軍事活動を補完する点について、水島教授(憲法学/有事法)の考察が参考になります。
 

水島朝穂教授
個人の良心が問われる時代に 2003年6月23日
http://www.asaho.com/jpn/bkno/2003/0623.html
「新聞を読んで」 〜NHKラジオ第一放送(1997年8月24日午前0時30分放送)
http://www.asaho.com/jpn/bkno/works/nhk19970824.html

 
憲法起草委員会の会長の写真はここ。喪黒福蔵(笑)。
 

自民党員 全員有罪、死刑!!!!
http://d.hatena.ne.jp/genonocide/20050126#p4

 
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*1: レミング http://zirr.hp.infoseek.co.jp/020372.html

*2:ヘルメットかぶった池田会長の姿が聖教新聞に写真で掲載されていたので作り話ではありません。証拠の写真→ http://blogs.yahoo.co.jp/kitano_b/318547.html

*3:盗聴事件についてはこちらとかを参照。 フォーラム21 特集 携帯電話通話記録窃盗事件と創価学会の盗聴体質 乙骨正生(ジャーナリスト)2002-10-15 http://www.forum21.jp/contents/contents10-15-1.html

*4: 東京新聞中日新聞は2月から連続的に「日本国憲法 逐条点検」を掲載しています。

*5:東京都集会、集団行進及び集団示威運動に関する条例(都公安条例)施行1950(昭和25)年7月3日 http://www.cc.matsuyama-u.ac.jp/~tamura/tokouannjyourei.htm

*6:国会議事堂等周辺地域及び外国公館等周辺地域の静穏の保持に関する法律(昭和六十三年十二月八日法律第九十号) http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S63/S63HO090.html

*7:神奈川県生活環境の保全等に関する条例 http://www.pref.kanagawa.jp/osirase/taikisuisitu/taiki/souon/kakuseiki.htm など

*8:公職選挙法 http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S25/S25HO100.html ネット規制総務省の法解釈に基いて実施されています。

*9:立川反戦ビラ事件 http://d.hatena.ne.jp/kitano/20041218#p1http://d.hatena.ne.jp/kitano/20041219#p1http://d.hatena.ne.jp/kitano/20041223#p1http://d.hatena.ne.jp/kitano/20050122#p1 参照

*10:観察処分更新請求についてのアーレフの見解 http://www.aleph.to/news/kaiken021209.html 観察処分の3年更新決定についての記者会見 http://www.aleph.to/news/kaiken030123.html 国民ひとりひとりから見て信じている内容がどうかが問題ではなくて、信じている内容の宗教的価値判断を根拠に公的機関が法律上の不利益処分をすることに疑義があるということです。

*11:資料/東京都青少年健全育成条例改正問題 http://zirr.hp.infoseek.co.jp/020338.html

*12:念のために書いておきますが、これらの立法に、私は反対の立場です。

*13: 国境なき記者団事務局長インタビュー http://d.hatena.ne.jp/kitano/20041212 国境なき記者団のCMのキャッチコピー。

戦前の言論統制法制史

 
憲法を改正しても、ただちに言論が消えて無くなるわけではありません。特権を持つ人の言論が言論界で占有されることによって一般の人々の生活が大きく変化するという構造は、これまでと変らないでしょう。
しかし、パワーエリートたちにとって都合の悪い言論を排除する様々な既成事実を正当化する効力を与える効果は発生しますし、それによって国民にとって大切なものが多く失われる可能性も否定できません。
行刑法はわいせつ物の頒布を犯罪として処罰されています。かつては考えられなかった「絵」に対しても、たとえば松文館事件のように*1わいせつ概念をあてはめて創作者を犯罪者として処罰しようとしています。こうやって徐々に抵抗の手足を縛られることで、自由は失っていくのです。
どんな言論への弾圧も、たとえば以下のような大日本帝国時代の統制法も、わいせつなものへの処罰だったり、あるいは非難されるべき犯罪をとりしまるための制度として最初は作られ、権力者のフリーハンドとして使われました。
 
ざっと大日本帝国時代の国民の自由圧殺の法制史を振り返って見ます。
 

明治26年 出版法制定
明治33年 治安警察法制定、行政執行法制定
明治41年 軍刑法制定、警察犯処罰令制定
大正14年 治安維持法制定
大正15年 労働争議調停法制定、暴力行為等処罰に関する法律制定
昭和 3年 不穏文書臨時取締法制定
昭和11年 思想犯保護観察法制定
昭和12年 軍機保護法制定
昭和13年 国家総動員法制定
昭和14年 国境取締法制定、軍用資源秘密保護法制定、宗教団体法制定、映画法制定
昭和15年 陸軍輸送港湾域軍事取締法改正、要塞地帯法改正、国防保安法制定(特高警察による言論弾圧のフリーハンド完成)、内閣情報局官制発布(内閣情報部を局に昇格)
昭和16年(日米開戦) 治安維持法大改正、刑法大改正(安寧秩序条項追加)、言論出版集会結社臨時取締法制定(時局に関し造言飛語を為したる者、人身を惑乱した者を処罰)、新聞紙等掲載制限令布告、新聞事業令布告

 
昭和16年の新聞事業令は、新聞社の強制統合を実施するための政令です。これにより、統合前739紙あった新聞社は54紙に強制的に統合されました。
この54紙体制が、戦後もそのまま新聞社として温存され、排他的株式占有権、再販売価格維持規制制度、記者クラブ制度などとともに、新規加入がほぼ皆無のまま新聞市場が改革されることなく現在に到っています。日本の新聞社の体制が“昭和16年体制”と呼ばれる寡占体制になっているのはそのためです。
 
法律内容について細かく説明すると長くなるので省略しますが、いずれも大日本帝国憲法が規定する「臣民の権利」を法律の留保によって制限し、時の権力者に生殺与奪のフリーハンドを与えるための制度となっている点で共通しています。
昭和16年真珠湾攻撃を実行した翌日に内閣情報局第二課が示達した「世論誘導方針」には、強力な報道統制内容が盛り込まれています。この情報操作の方針は、イラクフセイン政権や北朝鮮政権よりもエゲツナイものです。「米英」という言葉を中国、韓国、北朝鮮イラクアフガニスタンなどに置き帰ると、いまの日本(人の一部の主張)にもあてはまる点も多数あるようにも感じられます。
 

大日本帝国内閣情報局第二課
世論誘導方針*2
 
一般世論の指導方針として
一、今回の対米決戦は帝国の生存と権威の確保のため、まことにやむをえず立ち上がった戦争であることを強調すること。
二、敵国側の利己的世界制覇の野望が今回戦争勃発の直因であるように立論すること。
三、世界新秩序は八紘一宇の理想に立ち、万邦おのおのそのところをえさしむることを目的とするゆえんを強調すること。
具体的指導方針
一、わが国にとって戦況が好転することはもちろん、戦略的にも、我が国は絶対に優位な立場にあることを多いに強調すること。
二、国力なかんずく、わが経済力にたいする国民の自信を強めるよう立論すること、なお、予国、中立国はもとより、特に南方民族の信頼感を高めるよう配慮すること。
三、敵国の政治経済的ならびに軍事的弱点の曝露につとめ、これを宣伝して敵側の自信を弱め、第三国よりの信頼を失わしめるよう努力すること。
四、ことに国民のうちに、米英にたいする敵愾心を根強く植え付けること、同時に米英への国民の依存心を徹底的に払拭するようつとめること。
五、長期戦への覚悟を植えつけること。
このさいとくにこころして警戒すべき事項として
一、戦争にたいする真意を曲解し、帝国の公明な態度を誹謗する言説
二、開戦経緯を曲解して、政治および統帥府の措置を誹謗する言説
三、開戦にさいして独伊の援助を期待したとなす論調
四、政府、軍部とのあいだに意見の対立があったとなす言説
五、国民は政府の指示にたいして服従せず、国論においても不統一があるかのごとき論調
六、中、満その他外地関係に不安動揺ありたりとなす論調
七、国民のあいだに反戦厭戦気運を助長せしむるごとき論調に対しては、とくに注意を必要とする
八、反軍思想を助長させる傾きある論調
九、和平気運を期待せしめ、かつ国民の士気を沮喪せしむるがごとき論調(対米英妥協、戦争中止の要を示唆するごとき論調は、当局のもっとも警戒するところであって厳重注意を要す)
十、銃後治安を撹乱せしむるがごとき論調いっさい

 
この内閣情報局第二課の通達と同様な内容の陸軍省令「新聞掲載禁止事項標準」がペアになって、新聞雑誌の記事が差し止められ、国民の知る権利は奪われました。大日本帝国の犯罪対策や風紀対策という顔の制度は、戦争プロパガンダという牙で国民を管理したのです。
 

新聞紙条例
http://www.cc.matsuyama-u.ac.jp/~tamura/sinnbunnsijyourei.htm

第23条
① 内務大臣ハ新聞紙掲載ノ事項ニシテ安寧秩序ヲ紊シ又ハ風俗ヲ害スルモノト認ムルトキハ其ノ発売及頒布ヲ禁止シ必要ノ場合ニ於テハ之ヲ差押フルコトヲ得
② 前項ノ場合ニ於テ内務大臣ハ同一主旨ノ事項ノ掲載ヲ差止ムルコトヲ得

出版法
http://www.cc.matsuyama-u.ac.jp/~tamura/syuppannhou.htm

第19条 安寧秩序ヲ妨害シ又ハ風俗ヲ壊乱スルモノト認ムル文書図画ヲ出版シタルトキハ内務大臣ニ於テ其ノ発売頒布ヲ禁シ其ノ刻版及印本ヲ差押フルコトヲ得

 
憲法学的な限界事例ですが、自民党改憲案が憲法として確定されたなら、ウェブサイトや新聞や雑誌や放送番組を検閲しても憲法上は合憲であり、自民党以外の政党をすべて解散させて政治活動を禁止しても合憲と判断できる場合がある、と判断される場面も将来あらわれる可能性もあるでしょう。
もちろんあくまでもそれは学問的な可能性で、それを実現するかどうかは国民ひとりひとりの対応にかかっています。
みなさんはどんな社会で生きていたいですか? そういう言論の自由が制限された社会を、あなたの子どもや孫に残したいですか?>父兄のみなさん
 
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*1:http://d.hatena.ne.jp/kitano/20050227#p1http://d.hatena.ne.jp/kitano/20050221#p1

*2:畑中繁雄「覚書昭和出版弾圧小史」(絶版)。畑中繁雄の「日本ファシズム言論弾圧抄史」は買うことができる貴重な文献です。オススメ。http://www.koubunken.co.jp/0075/0073.htmlhttp://d.hatena.ne.jp/asin/4874980732 日本ファシズムの言論弾圧抄史―横浜事件・冬の時代の出版弾圧

なぜ大日本帝国憲法の「言論の自由」は機能しなかったのか

 
奇しくも社民党の党首会見でも触れられていましたが、大日本帝国憲法にも「言論の自由」はありました。
 

大日本帝国憲法
第二十九条
日本臣民ハ法律ノ範囲内ニ於テ言論著作印行集会及結社ノ自由ヲ有ス

印行は印刷して発行すること。結社は共通の目的をもって組織された団体や組合を意味します。
大日本帝国憲法と現行日本国憲法との違いはただひとつ、「法律の留保」(公権力に対する制限である基本的人権に対して法律によって認められる例外)があるか否か、という点だけです。
「法律の留保」というのは、国民の人権に法律で例外をつくることができるということです。社長の決定を平社員が例外を作ってごまかすようなものですね。
大日本帝国憲法には「法律の留保」があったために、言論の自由表現の自由という原則が例外になり、例外が戦争遂行を理由に原則へと転倒したことは、歴史事実が示している通りでしょう。
2003年4月26日、テレビ朝日の「朝まで生テレビ」で、田原総一郎氏が有事の報道統制について規制に肯定的立場から議論し、大日本帝国憲法日本国憲法との違いについて話をしていたことがあります。
以下、北の系より抜粋転載。
 

■北の系
http://zirr.hp.infoseek.co.jp/

資料/朝生/有事法制と報道統制
http://zirr.hp.infoseek.co.jp/020256.html

田原:(有事に表現の自由があるかどうかという議論になって)表現の自由なんか無いよ、そんな。(一同失笑。田原急に大声で) それ違うよまったく! イギリスだってね、BBCが有事の時、戦時と平時は分けてる。で戦時の時は軍事機密は放送しないんですよそれは! 報道しないの! (※引用者註:イギリスにはスパイ防止法がありますので、BBCは戦時/平時にかかわらず軍事機密は放送しません)
原口*1:それは公共の利益とのバランスで…
田原:軍事機密も放送していいということにはならない!
原口:そこは曖昧になるところがあると思うんだよね。
田原:じゃあ報道の自由とね安全秩序とどっちが大事? この場合有事の時に、報道の自由と国民の安全秩序とどっちを取る?(と河野と原口に顔を向ける)
一同:…(騒いでいた一同が一斉に沈黙)
【略】
田原:もっと聞きたいのは、こんなことはCMはさむ時にぐらいに説明すればいいんだけど、明治憲法と今の憲法がどこが違うのかと言うと、明治憲法にも表現の自由報道の自由はあるんですよ。ただ、法律で守られた範囲内での自由。
河野*2:そうそう。
田原:いまは法律の外、つまり憲法で基本的に守られている。そうすると、有事であろうとなんであろうが、つまり報道の自由は有るんですよ。この日本国憲法は。(一同頷く)そうするとね、軍事秘密も報じていいわけだよ、この場合。
一同:…(一同沈黙)
【略】
田原:もっと言いましょうか? あのね、日本の自衛隊の機密を漏らす時にはたぶん三年になる。でもアメリカの機密を漏らすと十年なんですよ。こんなバカバカしい国があるのかと。河野さんそうでしょ?
河野:(笑)
田原:逆に言うと、だからアメリカは10年程度の刑の機密しか日本にはくれないんですよ。向うは死刑だからね。つまり本質的にね、日本の自律なんていうことを言うのならね、そしたら単純なことですよ、報道の自由と秩序と安全とどっちが大事かなんていうことを、ちゃんと答えてもらわなきゃ。
一同:…(一同沈黙)
森本*3:だからそれを考えるカギはひとつしかないんですよ。
田原:何?
森本:国家の安全保障と言う名においてすべてのことを統制するということなんですよ!

 
人権は、例外を一度でも認めれば、その瞬間人権としての機能は失われます。法の運用によって例外は原則に転じてしまうからです。例外を認めないということ。それが人権の本質です。
大正時代から昭和の初期までは、女性の裸体画なども描かれましたが、戦争によってそれらは風俗を乱すものとして規制され、画家のほとんどが徴兵され、多くが戦死しました。
戦前にも一定の自由があり、多様な文化があり、民衆はそれを享受していました。
しかし、戦争がなにもかも消し去ったのです。「法律の留保」というたったひとつの例外があったがために。

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国会で政府が納税者番号制度の導入(民主党は以前から納税者番号制度の導入賛成)を明言したというニュースとかも気になりますが、今日はここまで。

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