サイバー犯罪条約、児童ポルノ選択議定書

サイバー犯罪条約児童ポルノ選択議定書の「児童ポルノ」に関する規制について、情報を若干補足します。

■外務省
サイバー犯罪に関する条約 (略称 サイバー犯罪条約
平成13年11月8日 ストラスブールで作成
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/treaty159_4.html
和文テキスト(訳文)(PDF)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/pdfs/treaty159_4a.pdf

第九条 児童ポルノに関連する犯罪
1 締約国は、権限なしに故意に行われる次の行為を自国の国内法上の犯罪とするため、必要な立法その他
の措置をとる。
a コンピュータ・システムを通じて頒布するために児童ポルノを製造すること。
b コンピュータ・システムを通じて児童ポルノの提供を申し出又はその利用を可能にすること。
c コンピュータ・システムを通じて児童ポルノを頒布し又は送信すること。
d 自己又は他人のためにコンピュータ・システムを通じて児童ポルノを取得すること。e コンピュータ・システム又はコンピュータ・データ記憶媒体の内部に児童ポルノ保有すること。
一二
2 1の規定の適用上、「児童ポルノ」とは、次のものを視覚的に描写するポルノをいう。
a 性的にあからさまな行為を行う未成年者
b 性的にあからさまな行為を行う未成年者であると外見上認められる者
c 性的にあからさまな行為を行う未成年者を表現する写実的影像

説明書(PDF)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/pdfs/treaty159_4b.pdf

我が国が行う宣言
この条約は、締約国の国内事情を尊重するとの観点から、一部の規定の実施に当たって追加的な要件を課すること、一部の規定を適用しないこと(留保)等につき宣言することを認めている。我が国が行う予定の宣言のうち主要なものの概要は、次のとおりであ
る。
(1) コンピュータ・システムに対する違法なアクセス(第二条)及びコンピュータ・データの違法な傍受(第三条)を国内法上の犯罪とするに当たり、追加的な要件を課する。
(2) 提供又は公然陳列を目的とする児童ポルノの所持及び保管を国内法上の犯罪とすることを除くほか、児童ポルノ保有を国内法上の犯罪としない(第九条)。
(3) 児童の姿態を描写するポルノ(実在する児童の姿態を描写したものと認められる場合を含む。)のみをこの条約上の児童ポルノとする(第九条)。

───────────

児童の売買、児童買春及び児童ポルノに関する児童の権利に関する条約の選択議定書
(略称 児童の売買等に関する児童の権利条約選択議定書)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/treaty159_13.html
平成12年5月25日 ニューヨークで作成
平成14年1月18日 効力発生
和文テキスト(訳文)(PDF)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/pdfs/treaty159_13a.pdf

第二条
この議定書の運用上、
(c)「児童ポルノ」とは、現実の若しくは擬似のあからさまな性的な行為を行う児童のあらゆる表現(手段のいかんを問わない。)又は主として性的な目的のための児童の身体の性的な部位のあらゆる表現をいう。
第三条
1 各締約国は、その犯罪が国内で行われたか国際的におこなわれたかを問わず、また個人により行われたか組織により行われたかを問わず、少なくとも次の行為が自国の刑法又は刑罰法規の適用を完全に受けることを確保する。
(c)前条に定義する児童ポルノを製造し、配布し、頒布し、輸入し、輸出し、提供し若しくは販売し又はこれらの行為の目的で保有すること。

説明書(PDF)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/pdfs/treaty159_13b.pdf

二 議定書の内容
2定義(第二条)
(3)「児童ポルノ」とは、現実の若しくは擬似のあからさまな性的な行為を行う児童のあらゆる表現(手段のいかんを問わない。)または主として性的な目的のための児童の身体の性的な部位のあらゆる表現を言う。
三 議定書の実施のための国内措置
1 この議定書の実施のため、児童福祉法の一部を改正する法律案および児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律案が今次国会に提出される。

サイバー犯罪条約では、政府の留保宣言として、単純所持と実在しない児童の性的描写は児童ポルノに関連する犯罪としない、とサイバー犯罪条約の「説明書」には書いてあります。
この留保には道理があることですし、漫画創作・出版関係者などを含めた世論もあるので、評価できます。ただし、国会がこの留保を承認し無い場合は問題です。

児童ポルノ選択議定書の方は、具体的規制対象にあいまいな部分があると思われます。
児童ポルノ選択議定書の「説明書」には、留保に関する情報は書いてありません。
選択議定書第三条1(c)「これらの行為の目的で保有すること」という部分を、単純所持は販売や頒布目的所持ではないという具合に素直に解釈すれば、単純所持は規制対象外と解釈できます。
が、コレクター行為は売買を伴うものであり単にコレクションしていてもいずれ販売され誰かの手に渡ると解釈すれば、コレクション行為は単純所持ではなく販売目的所持として規制対象となるとも解釈できます。
どちらにでも解釈できるので、ここら辺は国会で詰める必要があります。
それから、選択議定書の児童ポルノの定義の部分で、第二条(c)の「あらゆる表現」という文言が、実在児童の描写のみを対象としているのか、非実在児童も含めた描写を対象としているのか、いまひとつよくわかりません。
「児童の…あらゆる表現」と解釈するなら実在児童が対象だと解釈できますが、「性的な部位のあらゆる表現」と解釈するなら非実在児童も含むとも解釈できます。
英語の原文では解釈が明白かもしれませんが、私にはちょっとよくわかりません。おそらく前者だと推測しますが、どちらの解釈も間違いとも言い難いように見えるので、ここら辺も国会で詰める必要があるかもしれません。

───────────

補足

ARCの平野さんがサイバー犯罪条約についてウェブログでコメントしています。
9条部分についてのコメントを引用。

2004.03.17
サイバー犯罪条約も批准へ?
http://arc.txt-nifty.com/arc/2004/03/post_16.html

批准承認案件の説明書(PDFファイル)では、「我が国が行う予定の宣言のうち主要なものの概要」として、第9条関連の宣言が2つ挙げられています(説明書5頁)。

*提供又は公然陳列を目的とする児童ポルノの所持及び保管を国内法上の犯罪とすることを除くほか、児童ポルノ保有を国内法上の犯罪としない(第9条)。
*児童の姿態を描写するポルノ(実在する児童の姿態を描写したものと認められる場合を含む。)のみをこの条約上の児童ポルノとする(第9条)。
いずれも留保の範囲が不明確で、批准するにしても、もう少し内容をはっきりさせる必要があります。前者について言えば、1eのうち単純所持を処罰対象から除くことは明らかですが、1dの取得行為も処罰対象から除くのか、「他人のために」取得する行為のみ処罰するのか、それともいま保有している児童ポルノはOKだが新たな取得は処罰対象とするのか、この宣言文だけを見ると判然としません。
後者はもっと意味不明です。国内法を踏まえれば2bおよびcは留保せざるを得ず、そのための宣言だと思うのですが、その趣旨がはっきりしません。だいたいサイバー犯罪条約には「児童」の定義は置かれていませんので、素直に「未成年者」という言葉を使うか、または宣言文のなかで「児童」の定義を明らかにしておく必要があります。
さらに、「児童の姿態を描写するポルノ(実在する児童の姿態を描写したものと認められる場合を含む。)」というのはいったい何を言いたいのでしょうか。「実在しない児童の姿態を描写したものも児童ポルノに含まれる」という趣旨なのか(それなら留保・宣言の必要なし)、それとも「絵やCG画像でも、実在の子どもを特定可能な形でモデルにしている場合は処罰対象とする」という趣旨なのか。
おそらく後者だと思いますが、それならたとえば「実在する児童(18歳未満のすべての者をいう。)の姿態を描写するポルノ(実在する児童を特定可能な形で描写したと認められる写実的影像を含む。)のみをこの条約上の児童ポルノとする」のようにするべきでしょう。むしろ端的に「2bおよびcの規定を適用しない権利を留保する」としたほうがわかりやすいとも思います。なお、ここでいう「写実的」は英語ではrealisticで、絵画技法でいう抽象に対する「写実」ではなく、「本物(実在の子どもを撮影した児童ポルノ)と見まがうばかりの」といったニュアンスであることに注意。

平野さんの疑問、指摘は妥当な疑問で、サイバー犯罪条約の留保部分、特に「児童の姿態を描写するポルノ(実在する児童の姿態を描写したものと認められる場合を含む。)」については、もうすこしはっきりさせる必要がありそうです。
特に「描写」という言葉は、翻訳や国内法整備、摘発の段階で様々な解釈が可能な抽象的な言葉ですので、はっきりさせた方がよさそうですね。
たとえば、

a「14歳の人を19歳に扮装させて撮影した記録」
b「19歳の人を14歳に扮装させて撮影した記録」
c「14歳の人を19歳に見えるように写実的に描いたデッサン」
d「19歳の人を14歳に見えるように写実的に描いたデッサン」
e「実在する18未満の児童を写実的に描いた架空表現(絵画、マンガ、CGなど)」
f「実在する18未満の児童を記号的に描いた架空表現(絵画、マンガ、CGなど)」
g「実在しない18未満の児童を写実的に描いた架空表現(絵画、マンガ、CGなど)」
h「実在しない18未満の児童を記号的に描いた架空表現(絵画、マンガ、CGなど)」

このうちどれが留保すべき「描写」に該当するのか。
個人的にはb,d,f,g,hが留保対象になると思われます。そうなるよう、留保の表現を具体化すべきでしょう。
サイバー犯罪条約の留保部分は、国会で修正するなり、外務大臣の国会答弁で明確にさせるなり、何らかの対応が必要と思われます。

───────────

補足2

サイバー犯罪条約児童ポルノ選択議定書は、提案理由の説明が行われました。
3月18日の外務委員会で質疑が行われる見込み、のようです。

第159回国会3月16日外務委員会の動き

○委員会経過 今十六日の委員会議事経過は、次のとおりである。
△外務委員会(第七回)
サイバー犯罪に関する条約の締結について承認を求めるの件(条約第四号)
児童の売買、児童買春及び児童ポルノに関する児童の権利に関する条約の選択議定書の締結について承認を求めるの件(条約第一三号)
武力紛争における児童の関与に関する児童の権利に関する条約の選択議定書の締結について承認を求めるの件(条約第一四号)
右各件について、川口外務大臣から提案理由の説明を聴取した。

付託議案関連情報 サイバー犯罪に関する条約の締結について承認を求めるの件

サイバー犯罪に関する条約の締結について承認を求めるの件(条約第四号)概要

付託議案関連情報一覧 児童の売買、児童買春及び児童ポルノに関する児童の権利に関する条約の選択議定書の締結について承認を求めるの件

児童の売買、児童買春及び児童ポルノに関する児童の権利に関する条約の選択議定書の締結について承認を求めるの件(条約第十三号)概要

───────────

未確認一行情報

在京5系列テレビ・新聞社はサイバー犯罪条約の可決前報道自粛で合意か?

「kitanoのアレ」は噂眞かよ。私にタレコミ入れてもお金は出ません。(笑)
匿名メール(しかもアノニマイザー)が入ったのでとりあえず。朝日の紙媒体の方に記事あったような?
嘘っぽい情報だなというか単に紙面がとれないので載っていないだけかな思いつつ、毎日のDIGITALトゥデイにもasahi.comにも条約審議入りの記事が無いことに違和感を感じます。
ウェブへの掲載を自粛しているとすれば、いまのところ未確認情報は当っています。