喪男の小説『裏・電車男』:都内女性の20万人がHIV感染者というデマ

喪男の小説の伝播をめぐって様々な議論が行われていたようです。
デマやフィクションをデマやフィクションとして楽しむのは個人の勝手であり、自由です。だけど「ただの喪男の小説」が事実であるという前提を伴って広まるのはどうなのか。そういう“流行”なのでしょうか。
 

喪男の小説 (一般に広まっているURL)
http://pastlog.fc2web.com/dqnfemale/886.html

 
この情報のソースは下記です。ソースが喪板(もてない男性板)であることも確認しないで投稿情報を信じいた人もいるようで…ご愁傷様です。
 

■snapshot 2ch
http://snapshot.publog.net/
モテない男性板
【浮気不倫】女の醜さの証明7【中絶DQN
元URL ※自動リンク回避のためリンク先はダミーです。
http://etc4.2ch.net/test/read.cgi/motenai/1122213629/all
スナップショット
http://p2.chbox.jp/read.php?host=etc4.2ch.net&bbs=motenai&key=1122649672&ls=all

200 :前スレ886 :sage :2005/07/31(日) 00:14:30 0
(略)
喪「で、親父の病院や他の知り合いの病院2〜3ヶ所の話を聞くと、毎年とんでもないペースで増えてるそうなんだ。それも加速度がついてる位で。特に20代〜10代の女が凄いらしい。今じゃ何と2割位居るんだってさ。自分はエイズじゃないかなんて心配を全然してない、他の病気で普通に診察に来てる女の2割がHIV感染者だ。しかもその増加率は年々上がっている。
もしこの割合を、単純にそのまま都内の病院全部に当てはめたら1万2万なんて人数では済まないそうだ。都内だけで10万とか20万とか…もちろん単純計算だから、実際の正確な所は解らないけど」

 
で、上記情報が事実であるとの前提でのアレな言論を疎んじた方がついに事実の検証。
 

HIV感染者数に関するデマ
http://d.hatena.ne.jp/rna/20050830

献血HIV陽性率に日本の人口をかけると約2170人。感染者として報告されている人は献血しないので、これを上の6560人に上積みして8730人くらいがAIDSを発症していないHIV感染者数の上限と見ていいんじゃないでしょうか。
もちろんこの数字は日本全国男女含めて。都内の若い女性だけで20万人とかありえないでしょう。

 
データのソース。
 

厚生労働省エイズ動向委員会
平成16年エイズ発生動向年報
(平成16(2004)年1月1日〜12月31日)
http://api-net.jfap.or.jp/mhw/survey/04nenpo/nenpo_menu.htm
 
平成17年4月25日
発生動向の分析結果 (119KB)
http://api-net.jfap.or.jp/mhw/survey/04nenpo/bunseki.pdf

厚生労働省エイズ動向委員会平成16年エイズ発生動向年報発生動向の分析結果

平成16年エイズ発生動向年報/女性のHIV感染者
http://api-net.jfap.or.jp/mhw/survey/04nenpo/nenpo_menu.htm
http://api-net.jfap.or.jp/mhw/survey/04nenpo/bunseki.pdf

 
喪男板の女の醜さの証明スレの投稿を見た瞬間に、というか読む前にURLを見た瞬間に「これはたぶん喪男が書いた『裏・電車男』(困っている女を見捨てて嗤う喪男の物語)だろうなあ」と思ってましたが、都内女性の20万人がHIV感染者という情報を信じている人がいましたか。そうですか。
“真実性”の観点からすると、事実でない「作り話」を事実として伝えるサイトが何千何万とあったとしても、事実を伝えるサイトやウェブログがひとつでもあればいいわけで、嘘を書く人が何万といても、事実を伝えた人一人いたらその人が勝利者です。(ただし短期的にはそうならず、「事実とは意思である」と考える歴史修正主義者が勝利する場合もある、というあたりに問題があったりしますが…)
私が気になるのは、HIV感染の是非ではなくて、その是非の判断の根拠となる一次情報にアクセスして情報源の真偽を確認しないで提供された情報を信じたり伝播する人がいるのはなぜなんだろうか、ということ。
 
繰り返しますが、デマやフィクションをデマやフィクションとして楽しむのは別に問題ありません。フィクションとノンフィクションを区別できるリテラシーがその人にはあるわけですから。
でもそうではない場合があるわけです。フィクションとノンフィクションを区別できるリテラシーが無いまま、事実が小説かを区別しないまま情報を楽しんでいる。そんな奴は喪男だけだと言う人もいるけれど、はたしてそうなのか。
 
なぜリテラシーが無いのか。一次情報にアクセスして確認しないのか。
これは簡単には結論が出ない問題です。
真偽を区別するリテラシーを必要とする環境が無かった。
真偽を区別するリテラシーなんか無い方が楽しい環境だった。
ノイズがあまりにも多い環境では真偽を確かめるという行為自体が苦痛なのてノイズをノイズとして楽しんでいる。
いろいろ考えられそうですが、私はノイズ過多説を心証として持っています。
なぜ高ノイズ環境が存在するのか。高ノイズ環境が作られる原因は何なのか。高ノイズ環境を作っている人は“誰”なのか。その首謀者はどこでなにをして、どういう利害を持っているのか。
高ノイズ環境によって見えにくくなっている“事実”とは何か。
と、問題提起をして、答えを書かずにとりあえずこれまで。
 

判断は情報に依存する。
ゆえに情報源の不正は不公正な判断を導く。
判断ではなく、情報源が善悪を決定する。

 
周辺の議論。
 

宗教右翼の「ふしぎな」動き
http://d.hatena.ne.jp/umeten/20050823
いともかんたんに「純潔教育」へと誘導されるかわいそうな童貞たち
http://d.hatena.ne.jp/wetfootdog/20050823
あー、久しぶりに胸糞悪い
http://d.hatena.ne.jp/maroyakasa/20050822
流れぶった切ってスマソが、とても嬉しいことがあったので聞いて下さい。
http://pastlog.fc2web.com/dqnfemale/886.html

 
これまで確認されている工作員(情報操作業界)の活動実績などから判断すると、第一感としては、喪男板に宗教右翼が進出しているとは考えにくいです。もし進出しているのだとすると、喪男板に工作員を派遣しているそのグループは相当戦略的で、あなどれない組織だということになりますが、どうでしょうね。そう警戒して疑ってみるという態度は健全ですが、疑いっぱなしで検証しない態度も問題かもしれません。
純潔教育を絶対思想として情報操作をするグループというのはたしかにあって、そういうグループに参加している人は、いわゆる「アンチジェンダーフリー教育」を糾合しているのが現状です。ですから、活動するとすれば、アンチジェンダーフリーサイトや父権主義サイトへの誘導リンクを(自作自演レス、自作自演コメント、自作自演トラックバックなどで)目立つように張ったりするものですが、前述の喪男小説のケースではそうした誘導が目立ちません。
誘導リンクをあえて書かずにウェブログでアンチジェンフリ的な誘導をしているブログは一部ありましたが、組織的に活動しているというほど大規模では無いです。つまり、性教育や両性の平等の前提となる人権思想にダメージを与える組織的な活動にまでは到っていない。
私が「これはただの喪男の小説『裏・電車男』だ」と直感したのはそういう理由です。(まあ直感が外れる場合も無いわけじゃないですけれども)
 
関連リンク。
 

カルト宗教の純潔教育論にふりまわされる東京都
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20040929
「健全育成」政策と統一協会の関係?
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20040331
性教育の動向(6):文科省「セックスを認めない。避妊方法も教えない」
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20050718
性教育の動向(5):ここまでするのか「過激な性教育ジェンダーフリー教育に関する実態調査」
都立七生養護の件に関する補足
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20050527
性教育の動向(4):報道2001:「つくる会八木秀次氏が立ち往生(2)
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20050526
性教育の動向(3):報道2001:「つくる会八木秀次氏が立ち往生(1)
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20050525
性教育の動向(2):自民党の反性教育ジェンダーフリーキャンペーン
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20050523
内部告発:ちゆ12歳は右傾化扇動工作サイト?
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20050310/p1
サイバーエージェントが「ちゆ12歳」右傾化工作疑惑記事を削除
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20050406

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