表現の自由を刺し殺すために包丁を研ぐ:改憲国民投票法案(2)

 
国民投票法等に関する与党協議会実務者会議が2004年12月3日にとりまとめた日本国憲法改正国民投票法案骨子の全文を転載します。
この骨子案に対する私の意見は、憲法改正国民投票法案は国民の言論の自由を制限する違憲立法の疑義があり、且つ改憲の理由が無いので、上程には反対です。詳しくは脚注を参照のこと。
 

国民投票法等に関する与党協議会実務者会議報告 平成16年12月3日
 
日本国憲法改正国民投票法案骨子(案)
第一 総則
一 趣旨
日本国憲法の改正についての国民の承認の投票(以下「国民投票」という。)については、この法律の定めるところによるものとすること。
二 国民投票の期日等
1 国民投票は、国会が憲法改正を発議した日から起算して30日以後90日以内*1において内閣が定める期日に行うものとすること。
2 内閣は、国民投票の期日前20日*2までに、国民投票の期日を官報で告示しなければならないもとすること。この場合において、国会から内閣に送付された憲法正案を併せて掲載するものとすること。
三 国民投票投票権
衆議院議員及び参議院議員の選挙権を有する者は、国民投票投票権を有するものとすること。
四 国民投票に関する事務の管理
国民投票に関する事務は、中央選挙管理会が管理するものとすること。
五 投票人の名簿
国民投票には、公職選挙法に規定する選挙人名簿及び在外選挙人名簿*3を用いるものとすること。
六 国民投票に関する啓発、周知等
総務大臣中央選挙管理会並びに都道府県及び市町村の選挙管理委員会は、国民投票に際し、国民投票の方法その他国民投票に関し必要と認める事項を投票人に周知させなければならないものとすること。
第二 投票及び開票
一 一人一票
国民投票は、一人一票に限るものとすること。
二 投票管理者及び投票立会人
投票管理者及び投票立会人に関し、必要な規定を置くものとすること。
三 投票の方式等
1 投票人は、投票所において、憲法改正に対する賛成又は反対の意思を表示する記号を、自ら記載して*4、これを投票箱に入れなければならないものとすること。
2 投票用紙の様式、投票の方式、投票の効力その他国民投票の投票に関し必要な事項は、憲法改正発議の際に別に定める法律の規定によるものする*5こと。
四 開票管理者及び開票立会人
開票管理者及び開票立会人に関し、必要な規程を置くものとすること。
五 投票及び開票に関するその他の事項
この法律及び三の2の法律に規定するもののほか、国民投票の投票及び開票に関しては、衆議院比例代表選挙の投票及び開票に関する規定の例によるものとすること。
第三 国民投票分会及び国民投票
一 国民投票分会及び国民投票
国民投票分会及び国民投票会について必要な規定を置くものすること。
二 国民投票の結果の告示等
1 中央選挙管理会は、国民投票の結果の報告を受けたときは、有効投票総数、賛成投票数及び反対投票数並びに賛成投票数が有効投票総数の二分の一*6を超える旨又は超えない旨を官報で告示するとともに、総務大臣を通じ内閣総理大臣に通知しなければならないものとすること。
2 内閣総理大臣は、1の通知を受けたときは、直ちにこれを両議院の議長に通知しなければならないものとすること。
第四 国民投票の効果
一 国民の承認
国民投票において、憲法改正に対する賛成投票の数が有効投票総数*7の二分の一を超えた場合は、当該憲法改正について国民の承認があったものとすること。
二 憲法改正の公布
内閣総理大臣は、中央選挙管理会より、憲法改正に対する賛成投票の数が有効投票総数の二分の一を超える旨の通知を受けたときは、直ちに当該憲法改正の公布の手続きを執らなければならないものとすること。
第五 訴訟
一 国民投票無効の訴訟
1 国民投票の効力に関し意義があるときは、投票人は、中央選挙管理会を被告として、国民投票の結果の告示の日から起算して30日以内*8に、東京高等裁判所*9に訴訟を提起することができるものとすること。
2 1による訴訟の提起があった場合において、国民投票に関する規定に違反することがあるときは、国民投票の結果(憲法改正に対する賛成投票の数が有効投票総数の二分の一を超えること又は超えないことをいう。)に異動を及ぼすおそれがある場合に限り*10、裁判所は、その国民投票の全部又は一部の無効の判決をしなければならないものとする。
二 国民投票の結果の無効の訴訟
 国民投票の結果の効力に関し異議があるときは、投票人は、中央選挙管理会を被告として、国民投票の結果の告示の日から起算して30日以内に、東京高等裁判所に訴訟を提起することができるものとすること。
三 訴訟の処理に係る原則
一又は二による訴訟については、裁判所は、他の一切の訴訟に優先して、速やかにその裁判をしなければならないものとすること。
四 訴訟の提起が投票の効果に与える影響
一又は二による訴訟が提起されても、その無効判決が確定するまでは、国民投票の効果に影響を及ぼさないものとすること。*11
第六 再投票及び更正決定
一 再投票
1 第五の一又は二による訴訟の結果、国民投票の全部若しくは一部が無効となった場合又は国民投票の結果が無効となった場合(二の更正決定が可能な場合を除く。)においては、更に国民投票を行わなければならないものとすること。
2 第五の一若しくは二による訴訟を提起することができる期間又はこれらの訴訟が裁判所に係属している間は、再度票を行うことができないものとすること。
二 更正決定
 第五の二による訴訟の結果、国民投票の結果が無効となった場合において、再投票を行わずに国民投票の結果を定めることができるときは、国民投票会を開き、これを定めなければならないものとすること。*12
第七 国民投票に関する周知
一 国民投票公報
都道府県の選挙管理委員会は、憲法改正案、投票用紙の見本その他国民投票に関し参考となるべき事項を掲載した国民投票公報*13を発行しなければならないものとすること。
二 投票記載所の憲法改正案の掲示
市町村の選挙管理委員会は、国民投票の当日、投票所内の投票の記載をする場所その他適当な箇所に憲法改正案の掲示をしなければならないものとすること。
第八 国民投票運動に関する規制
一 投票事務関係者等の国民投票運動の禁止
1 国民投票の投票管理者、開票管理者、国民投票分会長及び国民投票長は、在職中、その関係区域内において、国民投票に関し憲法改正に対し賛成又は反対の投票をさせる目的をもってする運動(以下「国民投票運動」という。)をすることができないものとすること。
2 不在者投票管理者は、不在者投票に関し、その者の業務上の地位を利用して国民投票運動をすることができないものとすること。
3 中央選挙管理会の委員等、選挙管理委員会の委員及び職員、裁判官、検察官、警察官等*14は、在職中、国民投票運動をすることができないものとすること。
二 公務員等の及び教育者の地位利用による国民投票運動の禁止
国又地方公共団の公務員等及ひ教育者(学校教育法に規定する学校の長及び教員をいう。)は、その地位を利用して国民投票運動をするととができないものとすること。
三 外国人の国民投票運動の禁止等*15
1 外国人は、国民投票運動をすることができないものとすること。
2 外国人、外国法人等は、国民投票運動に関し、寄附をしてはならず、何人も国民投票運動に関し、外国人、外国法人等から寄附を受けてはならないものとすること。
3 何人も、国民投票運動に関し、外国入、外国法人等に対し、寄附を勧誘し、又は要求してはならないものとすること。
四 国民投票に関する罪を犯した者等の国民投票運動の禁止
この法律に規定する罪により刑に処せられ国民投票投票権を有しない者及び公職選挙法公民権を停止されている者は、国民投票運動をすることができないものとすること。
五 予想投票の公表の禁止*16
何人も国民投票に関し、その結果を予想する投票の経過又は結果を公表してはならないものとすること。
六 新聞紙又は雑誌の虚偽報道等の禁止*17
新聞紙(これに類する通信類を含む。以下同じ。)又は雑誌は、国民投票に関する報道及び評論において、虚偽の事項を記載し、又は事実をゆがめて記載する等表現の自由を濫用して国民投票の公正を害してはならないものとすること。
七 新聞紙又は雑誌の不法利用等の制限*18
1 何人も、国民投票の結果に影響を及ぼす目的をもって、新聞紙又は雑誌の編集その他経営を担当する者に対し、財産上の利益の供与、供応接待等を行って、当該新聞紙又は雑誌に国民投票に関する報道及び評論を掲載させることができないものとすること。
2 新聞紙又は雑誌の編集その他経営を担当する者は、財産上の利益の供与を受けること等によって、当該新聞紙又は雑誌に国民投票に関する報道及び評論を掲載することができないものとすること。
3 何人も、国民投票の結果に影響を及ぼす目的をもって、新聞紙又は雑誌に対する編集その他経営上の特殊の地位を利用して、当該新聞紙又は雑誌に国民投票に関する報道及び評論を掲載し、又は掲載させることができないものとすること。
*19
八 放送事業者の虚偽報道等の禁上*20
日本放送協会及び一般放送事業者は、国民投票に関する報道及び評論において、虚偽の事項を放送し、又は事実をゆがめて放送する等表現の自由を濫用して国民投票の公正を害してはならないものとすること。
第九 罰則
1 買収罪、国民投票の自由妨害罪、投票の秘密侵害罪、国民投票運動の規制違反の罪その他の罪に関し、必要な罰則の規定を置くものとすること。
2 国外犯に対し、必要な罰則の規定を置くものとすること。
第十 その他
1 国民投票の執行に関する費用は、国庫の負担とするものとすること。
2 この法律の施行に関し必要な事項は、政令で定めるものとすること。
3 その他所要の規定を設けるものとすること。
第十 施行期日
 この法律は、     から施行するものとすること。

 

4/18「憲法改正国民投票法案」を考える緊急院内集会
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20050417#p1

 
で紹介したイベントについて、報告情報がありましたので紹介しておきます。
 

日本民主法律家協会
http://www.jdla.jp/
澤藤統一郎の事務局長日記
http://www.jdla.jp/jim-diary/jimu-d.html
2005年04月18日(月)
9条を刺し殺すために包丁を研ぐ
http://www.jdla.jp/cgi-bin01/jim-diary/sd_diary_h/index.html

本日は、11時45分から13時過ぎまで、参議院議員会館で「自由な報道なくして、改憲案の是非を判断できるのか〜『憲法改正国民投票法案』を考える緊急院内集会〜」。弁護士有志が呼び掛けたもの。最近、このような集会の連続で昼休みがつぶれる。
緊急の呼びかけだったが、充実した集会となった。若手の弁護士が、献身的な準備をしてくれたおかげである。各分野の人々の発言を通じて、改憲投票法の位置が見えてきたように思う。
吉川春子共産党議員と、福島瑞穂社民党議員の発言に微妙なニュアンスの差があった。吉川議員は、「改憲実現手続具体化としての国民投票法案である以上、その国会上程には絶対に反対」という力強く歯切れのよいものだった。改憲反対の立場からの手続き法整備無用論だから、「真っ当に民意を反映する法案なら賛成」とは絶対にならない。「少しはマシな法案に」「少しでも真っ当な法案に」という発想もない。
一方、福島議員は「社民党はこの手続き法に一律反対の方針は持っていない」と前置きしながら、メディア規制や市民の改憲論議を封殺するその内容を暴露し批判することの重要性を指摘。市民の議論を保障し、市民の理解あっての国民投票でなくてはならない。これを主権者に封じて何の憲法改正か。その批判を盛り上げて国民投票法案の上程を阻止できれば改憲を阻止できる、と言う。
当然に両者の主張があってよい。改憲阻止の立場が明確な人には、歯切れよい吉川流が心に響くだろう。福島流は、そこまで立場が固まっていない人にも、聴く耳を持たせることになる。私は、ガチガチの改憲阻止派だが、福島流にも魅力を感じる。個別具体的な条文の吟味で、その不当性を訴えることは、改憲反対の陣営をひろげることになると思う。
民意を反映しない姑息な改憲手続き法作りは、改憲派の自信のなさの反映である。仮に「真っ当な手続き法」ができたとすれば、それは改憲に現実的な障碍となるだろう。一括投票方式ではなく個別テーマごとの投票方式となれば、9条改憲の上程自体を阻止する現実的な展望が開けるのではないか。
今日は、議員(社・共・民)・ジャーナリスト・市民団体の参加を得た。あらためて、法律家の問題提起の有効性と重要性を思う。
追記 福島瑞穂議員の話から。
憲法改正国民投票法案の上程準備は、夜中に包丁を研いでいるようなもの。『何のために包丁を研いでるの』と聞くと、『憲法9条を刺し殺すため』。『おいおいそいつはやめてくれ』と言わざるを得ません」
手続き法整備が改憲のためのものという比喩として、分かり易く印象深い。これ、いただこう。

2005年04月12日(火)
憲法改正国民投票法案」を考える緊急院内集会  
http://www.jdla.jp/cgi-bin01/jim-diary/sd_diary_h/index.html

本日、「報道の自由を考える弁護士の会」の集い。
次の企画として、メディア規制の観点から、改憲国民投票法案を考える院内集会をすることに。日本ペンクラブ日本ジャーナリスト会議が共同企画者として名を連ねてくれる。新聞労連民放労連出版労連も、という見通し。
2001年11月に「超党派」の「憲法調査推進議員連盟」が発表した法案がある。通称「議連案」。自民党は、これを自民党案としたうえ、昨年11月3日公明党と摺り合わせて一部改定。これが、与党案となっている。
この法案のメディアに対する敵対意識は常軌を逸していると言って過言でない。がんじがらめの規制を掛けて、「絶対に、メディアで憲法改正問題の議論などさせるものか」という意気込み。そこで、緊急院内集会の副題を「自由な報道なくして、改憲案の是非を判断できるのか」とした。
たとえば、規制の対象はテレビや新聞、出版だけではない。インターネットにも及ぶと考えざるをえない。法(案)69条には、「新聞紙(これに類する通信類を含む。以下同じ)」として、規制対象となる新聞紙の定義が盛り込まれている。「これに類する通信類」とは、インターネットも含まれることになろう。私の「日記」など、真っ先に検挙されかねない。
同条で規制される行為は、「国民投票に関する報道及び評論において、虚偽の事項を記載し、又は事実をゆがめて記載する等表現の自由を濫用して国民投票の公正を害する」ことである。その違反には「2年以下の禁固又は30万円以下の罰金(85条1項)」が科せられる。処罰対象の行為は「表現の自由を濫用して国民投票の公正を害する」ことである。こんなに漠然とした構成要件では、あれもこれも犯罪とされてしまう。マスコミ・ミニコミに及ぼす萎縮効果は著しい。
法案の70条3項は、「何人も、国民投票の結果に影響を及ぼす目的をもって新聞紙又は雑誌に対する編集その他経営上の特殊の地位を利用して、当該新聞紙又は雑誌に国民投票に関する報道及び評論を掲載し、又は掲載させることができない」とする。一読して意味が理解できるだろうか。「経営上の特殊の地位を利用」という犯罪行為とは何なのだろう。
自民党が配布した解釈資料によれば、ここでいう「経営上の特殊の地位」とは、「新聞紙、雑誌に記事を掲載し又は掲載させることについて、相当の影響力を有する地位をいう(新聞社の社長、編集長、大株主など)」とされている。これなら分かるだろうか。普通の国語能力ではますます分からない。普通以上の国語能力では、ますますその危険性が見えてくる。違反者には、同じく「2年以下の禁固又は30万円以下の罰金(85条2項)」が待っている。
最大限に表現の自由が保障されねばならない局面で、表現の自由が圧殺されようとしているのだ。

 
ウェブサイトやウェブログの言論も規制対象になり得るという点は、強調してしすぎることは無いと思います。
「9条を刺し殺すために包丁を研ぐ」との福島さんの表現は言い得て面白い。私も同感です。殺されるのは9条だけでなく、表現の自由もですけれども。改憲案には言論の自由権に対する「法律の留保」が盛り込まれていますので、「骨子案」は「表現の自由を刺し殺すために包丁を研ぐ」法案と言っても良いのではないかと。
 
こちらにも関連情報あり。
 

http://blog.goo.ne.jp/tokyodo-2005/e/376a149e8e5b783b0f2dc24856fe0ee7
http://blog.goo.ne.jp/tokyodo-2005/e/c23fdf98e783e0fefb47437c367ac928
http://blog.goo.ne.jp/tokyodo-2005/e/bc2624e0e4467f7aaf4d94fff3528aec

 
そういえば、新聞社の投稿は今年になってからまだ一回しか出していなかったな…。今後はもっと新聞・雑誌への投稿ペースを増やさないとならないか…。
 
社民党などの見解。
 

社会民主党
http://www5.sdp.or.jp/
憲法をめぐる議論についての論点整理
http://www5.sdp.or.jp/central/topics/kenpou0310.html

(4)国民投票法案について
 96条は、主権者たる国民の憲法制定権の行使を保障するものであり、主権そのものの行使として公平で最も民主的な手続きで実施されなければならない。そのためには、少なくとも、[1]投票者の意思を正確に投票結果に反映されるようにするため、全体を一括して投票に付すのではなく、個別の条項ごとに賛否の意思を表示できる提案方法及び投票方法とすべきであること、[2]公職選挙法の規定を横滑りさせるのではなく、言論・表現の自由国民投票運動の自由が最大限尊重されるよう、戸別訪問や集会の開催、文書の配布、情報媒体を使ってのPR等については、原則自由とするべきであること、[3]通常の選挙における投票権者に加えて、18歳以上の者の投票権や通常の選挙では認められていない重度身体障害者の在宅投票・代理投票を認めるなどできるだけ拡大すべきであること、[4]国民投票の前に、憲法教育をあらためて徹底することが大前提となることはいうまでもなく、国会発議から投票実施まで、国民が十分な情報を収集し、学び、考え、話し合う時間をとるべきであること、[5]国の最高法規たる憲法の改正というきわめて重要な問題を問うのであるから、賛成票の数え方については有効投票数の過半数ではなく、全有権者過半数或いは少なくとも最低限総投票数の過半数を超えたかどうかで決すべきであること、[6]憲法改正案に反対の者だけに×印を付けさせ、それ以外の投票はすべて賛成であるとみなすといった国民の声を積極的に聞かない方法を採用しないこと、[7]憲法改正案の承認についての意思が十分かつ正確に反映されたことになるよう、投票率が一定割合に達しない場合の扱いを定めるべきであること、などは不可欠の要件といわざるをえない。
しかし、自民党民主党が中心となった憲法調査推進議員連盟が検討している憲法改正に関する国民投票法案及び国会法改正案については、国民主権の視点が重視されておらず、[1]改憲案の提案権の主体、[2]審議の定足数、[3]各条文または各項目ごとに提案すべきか、全体をまとめて不可分一体として提案すべきかという提案方式、[4]○をつけるのか×をつけるのかという投票方式、[5]投票権の範囲、[6]国民の「過半数」の数え方、[7]最低投票総数についての規定、[8]運動に対する規制などについて見過ごすことのできない多くの問題がある。とくに投票方式について、一括して賛否を問う形態にするのか、「改正」条項ごとに賛否を問う方式にするのかは、改憲発議の際に決めるということになっており、まったく法案の体をなしていない。例えば一括方式では、Aを変えたいがBは変えたくないという場合、賛成票を投じると全部変えられてしまうし、反対票を投じるとAは変えることができなくなり、どちらにしても投票者の意思が反映されないことになり、一つ一つの条項について自らの意思を表示し決定することができるようにすることが必要である。
 それだけでなく、「国民投票に関し憲法改正に対し賛成又は反対の投票をさせる目的をもってする運動」が規制対象とされているが、憲法改正について意見を表明するあらゆる行為が対象となるなど、過度に広汎な規制となるおそれがある。とりわけ新聞、雑誌、テレビ等のマスコミ報道及び評論に過剰な規制を設けようとするなど、看過できない問題点が含まれている。
 憲法改正の手続法については、それ自体憲法の保障する諸原理に則っていなければならないが、議連で検討されている法案では、国民の自由な議論は阻害され、真に民意を反映する投票は実施できない。しかも改憲ムードをあおり改憲のための法的基盤に格好をつけるためだけに、民主主義的保障もないままスピード成立させられようとしていることは許してはならない。
 いずれにせよ、国民投票については、投票方式や投票運動のあり方、「過半数」の意味合い、国民の「承認」の効力発生時期をはじめ議論すべき課題は多く、法的に内容面の十分な精査が必要である。あわせて「改悪」につながらないかどうか政治的に慎重な検討が必要である。同時に、主権者が、自ら責任を負った判断と権利を行使するためにも、国会のなかだけの議論ではなく、国民的にしっかりと議論がなされることが不可欠である。議論なき国会だけの判断による手続法の整備は、断じて認めることはできない。

衆議院憲法調査会での最終報告書議決にあたって(談話)(4月15日)
http://www5.sdp.or.jp/central/timebeing05/danwa0415.html
参議院憲法調査会での最終報告書議決にあたって(談話)(4月20日
http://www5.sdp.or.jp/central/timebeing05/danwa0420.html
主張「調査会報告」憲法改悪阻止に向けて全力を傾注
http://www5.sdp.or.jp/central/shinpou/syuchou/syutyou0427.html

日本ペンクラブ
http://www.japanpen.or.jp/
http://ch.kitaguni.tv/u/6822/%bb%f1%ce%c1/%cb%a1%ce%a7/0000194125.html

声明 憲法改正国民投票法案の白紙撤回を求める
憲法改正論議にあわせ、改正のための「国民投票法案」が早ければ今国会に上程されようとしている。そしてこの法案では、「国民投票に関し憲法改正に対し賛成または反対の投票をさせる目的をもってする運動」を「国民投票運動」と規定し、これを厳しく規制する条文が予定されている。
具体的には、(1)新聞・雑誌・テレビ等の虚偽・歪曲報道の禁止、(2)予測投票の公表禁止、(3)新聞・雑誌の不法利用等の制限、を定める。立法担当者は、現在ある公職選挙法の規定と同じであると説明しているが、実際の運用では、自己の見解の発表や、世論調査・予測報道や意見広告の規制など、曖昧な文言によって過度に広汎な規制が及ぶ危険性を否定できない。
その問題点を整理すると、まず第1に、現在の公選法自体が世界に類をみないほどの厳しい表現規制を強いている法律であって、これを基準に善し悪しを論ずること自体が問題である。第2に、公選法は人を選択する場合の手続きを定めるのに対し、投票法は政策選択のための法律であって比較の対象にならない。そして第3に、国のもっとも基本的な姿勢を定める憲法を議論するに際しては、最大限、表現の自由を保障すべきであって、それを規制することがそもそも大きな誤りである。
さらに投票法は、(4)教育者の投票運動の禁止、(5)外国人の投票運動の禁止を規定している。要するに、教育者や外国人は憲法改正問題について口出しをするなということであるが、ここに至っては、露骨な批判封じ込め策そのものである。
日本ペンクラブは、現在明らかにされている投票法案から、ここに示したような表現規制によって非民主的かつ理不尽な憲法改正作業を進めようとの意図を読みとらざるを得ない。これらは明らかに日本国憲法で保障され発展してきた表現の自由の意味を理解しないものである。表現者の団体である日本ペンクラブは、与党が同法案の即時白紙撤回することを求める。
2005年3月15日
社団法人 日本ペンクラブ 会長 井上ひさし

 
以下、ダイアリー・ウェブログ界隈の発言等。
 

http://blog.goo.ne.jp/cats-west/e/1403a55816696d15212e37ecabb87563

投票資格を「18歳以上の日本国民」とするか「18歳以上」とだけにするかで、大きく意味合いが変わってくるのですがはてさて。

http://nobusan.exblog.jp/1873414

もしかしたら,研究室の雑談で教員が「私は改正に反対だ」と学生に話をすることも問題があるのではないだろうか? だいたい,憲法改正が発議されたら,学校で「憲法教育」をしてはいけなかったりするのだろうか?
現行憲法を授業できちんと教えることは,この条項に絶対違反するだろう...

http://2.suk2.tok2.com/user/rrrrino/?mod=day&y=2005&m=04&d=17&a=1

国民投票がよいかどうかはともかく、この法案には問題点があるように思うのですが・・・改善されるのでしょうか?

 
改憲賛成派のご意見の例。頭の中が大日本帝国か。
 

http://mizuho14.blog3.fc2.com/blog-entry-226.html

やはり今後は反國家主義者への弾圧が必要でしょう。
ちなみにみずほは、何度も言及しているとおり、帝國憲法こそが唯一の正当憲法だと考えています。

 
そういえば神保さんのところで、「従軍慰安婦ははいなかった」「憲法よ、おまえはすでに死んでいる」の小室直樹氏を呼んで改憲話に花を咲かせていました。小室直樹氏の議論については後日コメント。
 

■ビデオニュース
http://www.videonews.com/

衆参の憲法調査会で最終報告書がまとまり、国会で憲法改正が喧しく議論されている。しかし、政治学者の小室直樹氏は、このままでは、憲法改正は見送られるだろうとの見方を示す。その理由は、憲法とは「国民意識の反映」であり、憲法意識が欠如していては憲法を書き直すことなど無理だからだと言う。

プレビュー映像
http://www.videonews.com/asx/marugeki_backnumber_pre/marugeki212_pre.asx

 
関連ログ。

資料:国民投票法等に関する与党協議会実務者会議報告
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20050609/p1
資料:日本国憲法改正国民投票法案骨子案
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20050609/p2
資料:日本国憲法改正国民投票法案(議連案全文)
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20050608
表現の自由を刺し殺すために包丁を研ぐ:改憲国民投票法案(2)
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20050427
4/18「憲法改正国民投票法案」を考える緊急院内集会
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20050417
自民党憲法起草委員会論点整理:出版規制に踏み込む
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20050324#p3
自民新憲法起草委:「表現の自由」制限を検討
戦前の言論統制法制史
なぜ大日本帝国憲法の「言論の自由」は機能しなかったのか
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20050307#p1
自民新憲法起草委小委試案
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20050216#p2
憲法廃止の改憲「論点整理案」 自民党の体制転覆計画
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20040704#p2

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*1:わずか1ヶ月で発議されてしまうのは、国民的議論の不在を前提としており、民主主義原則に反します。

*2:わずか20日で投票が実施されてしまうのは、国民的議論の不在を前提としており、民主主義原則に反します。

*3:憲法の影響を最も大きく長く受ける人は若年者ですので、20歳以上ではなく、18歳以上の国民を改憲投票名簿として作成し、18歳以上に投票権を与えるべきでしょう。

*4:最高裁判所判事の国民審査制度が機能していないとして改憲案で国民審査制度を廃止することを提案している人が、最高裁判所判事の国民審査制度と同じ投票方法を採用しているのは矛盾してます。投票は、改正案全体に対する賛否ではなく、逐条ごとに賛否を表明できるようにすべきです。

*5:国民投票法で投票方法について定めず、発議立法で投票方法を定めるのは、先に手足を縛ってから後で手足の動かし方を定めるようなもので、意味がありません。

*6:有効投票を基準とすることは、実質的多数による決定するとの多数決原理に反します。有権者の1/2以上の投票を最低定足投票数とし、投票総数が有権者の1/2未満の場合は発議無効とし、全国民の二分の一の賛成によって改正に賛成を得たものとすべきです。

*7:有効投票数を母数とすることは、投票率を下げれば下げるほど宗教団体などの組織票が投票結果に与える影響が大きくなり、腐敗する国会議員の選挙と同じ結果をもたらすことになります。「有権者の1/2以上の投票を最低定足投票数とし、投票総数が有権者の1/2未満の場合は発議無効とし、子どもを含めた全国民の二分の一の賛成」によって改正に賛成を得たものとすべきでしょう。

*8:全国民の生活に絶大な影響を及ぼす改憲における選挙犯罪の時効がわずか30日というのはあまりにも短過ぎます。除権時効は30日ではなく20年が相当でしょう。

*9:三審制が原則であるのに、高裁と最高裁でしか審査できないのは不合理です。三審制の原則通り、地裁から裁判を提起するものとし、裁判員の参与を義務付けるべきでしょう。

*10:「異動を及ぼすおそれがある場合に限り」ということは、たとえば選挙妨害があったり買収があったとしても異動を及ぼさないと判断される場合は、裁判所は判決さえ出ないということになります。実力行為でやりたい放題悪どい投票運動をやっても票の結果次第で禊が済んでしまうことになりかねません。手続きが一つでも公正でなければ当然に無効判決が出せる前提でなれば、投票法とは言えません。

*11:裁判所の仮執行により処分決定があった場合は仮執行で試行手続きを中止できるようにすべきです。

*12:司法で投票が無効になっているのなら当然再投票すべきであって、司法の判断とは異なる決定を国民投票会が出すことは、終審を下すことができる司法権それ自体を否定することになり、憲法上無効な違憲立法です。

*13:国民投票公報を発行しなればならない期日が明記されていません。投票直前になって投票方法が発表されるとすれば、国民が投票方法について知らないまま投票運動をしなればならず、改憲案について必要な議論が抑止されるおそれがあります。

*14:たとえばドイツなどでは裁判官の労働組合による原発反対運動で原発が止まった実例がありますが、それほど自由な議論を前提にしてドイツでは改憲が実施されています。地位を利用するのではなく私人として運動することを規制する合理性がありません。公務員も、公務員である以前に国民であり人間ですので、運動に参加する権利を認めるべきでしょう。

*15:公職選挙法では国会議員やその他の選挙で外国人の選挙運動ができるのですから、外国人の運動も認めるべきでしょう。外国人が議論に参加していたとしても、投票するのはあくまでも日本人なのですから、外国人の議論参加は問題ありません。そもそも言論の自由は外国人を含めた「人間」に対して与えられているものであって、日本国籍人に対するものだではないので、外国人の言論を禁じる立法は違憲です。

*16:予想投票の公表の禁止は、言論の自由の制限です。

*17:改憲論議における虚偽・真実の判断の主体は読者であり国民であって、中央選管ではありません。「虚偽報道等の禁止」条項は、連合国が大日本帝国の占領統治時代に帝国政府に対して出した「プレスコード」とまったく同一の検閲基準です。係る検閲基準を認めることは、言論の自由の制限になると同時に、検閲の禁止に反します。

*18:「新聞紙又は雑誌の不法利用等の制限」は、新聞・雑誌の編集権の侵害のおそれがあり、言論の自由表現の自由を侵害します。

*19:「何人」に対する論評の自由の制限は、国民の言論の自由表現の自由、論評の自由の侵害であり、違憲無効です。

*20:「放送事業者の虚偽報道等の禁上」は新聞雑誌者の虚偽報道等の禁上と同様、プレスコード=検閲ルールと同義であり、編集権の侵害であると同時に、放送の独立を侵害しており、国民の知る権利の侵害です。