人権擁護法案:権力による人権侵害を権力自身で判定できるのか?

 
衆議院議員の植田むねのり氏が、今国会で審議予定の人権擁護法案について批判しています。
「公権力による人権侵害の相談を、人権侵害をおかした公権力がその相談に乗るなんて、どう考えてもおかしな話」という指摘については同感です。
 

■植田むねのり前衆議院議員社会民主党/近畿ブロック)
http://homepage3.nifty.com/munemune/
衆議院議員・植田むねのりの食生活日記(^_,^)
http://backno.mag2.com/reader/Back?id=0000063020
204号 2005年2月2日(水)
http://backno.mag2.com/reader/BackBody?id=200502021250000000063020000

法案そのものはまだ僕の手元にはないので、仔細にわたって指摘することはかないませんが、新たに設置する人権委員会法務省の外局とすることは変わっておらず、それゆえ国際水準を満たした国内人権機関とは言い難いという基本的な問題はなにも解決されていません。
2年前にも、僕は法務省ではなく内閣府の外局とすべきだと主張していましたが、それは、法務省は人権擁護行政をつかさどるのであって、その行政が人権擁護に寄与しているか否かを判断するのが、法務省の外局となれば、人権機関としての独立性は保障できない。まるで受験生が自分で採点し自分で合否判定をするようなものだ、という点でした。
それに、地方にも人権委員会をこしらえるといっても、事務局を担うのは法務局の職員なのです。国相手に訴訟を提起した際に被告側で登場するのが、法務局の担当者なのです。彼らが現場で人権委員会をも担うとどうなるのか? 人権侵害のなかには、行政のあり方に人権を侵害する問題が指摘されることもあります。公権力による人権侵害です。仮にその問題を地方の人権委員会に訴えると、相手は法務局の職員すなわちもし訴訟に持ち込んだら、被告席に座る人間が対応するということになるのです。
公権力による人権侵害の相談を、人権侵害をおかした公権力がその相談に乗るなんて、どう考えてもおかしな話なのです。
報道によれば、法案に見直し規定を盛り込むことで、野党側の理解を得よういうことらしいですが、法案を立案する段階で想定していなかった人権侵犯事例が出てくることもあり得ますから、そんなことあたりまえの話なのです。しかし、見直し規定を盛り込んだからといって一度法務省の所管にしたものを所管替えするなどそうそう簡単にできる話ではないのです。
民主党人権委員会内閣府の外局とするよう主張してきましたが、意味のない見直し規定で妥協し、あとは付帯決議でお茶を濁すなどということのないようお願いしたいものです。一刻も早く人権委員会を立ち上げるべきだという意見もあるでしょうが、現状のままでは廃案に追い込むべきです。
下手にこんな法案通してしまうと、人権擁護行政のあり方について国民がチェックすることすらできなくなり、政府=法務省のさじ加減で人権がもてあそばれてしまうことになりかねないからです。

 
あまり指摘されていませんが、人権擁護法案では、「何人も人種差別*1共通の属性を有する不特定多数の者に対して当該属性を理由として不当な差別的取扱いをすることを助長又は誘発する目的で当該属性を有することを容易に識別することを可能とする情報を文書の頒布、掲示その他これらに類する方法で公然と摘示する行為」が禁止され、救済手続の開始によって人権委員会は被害の救済又は予防を図るため適当な措置を講ずることになります。
「文書の頒布、掲示」には、インターネットのサイトや電子掲示板の情報にも適用されますので、差別的情報を掲載すると規制を受ける可能性があります。
ちなみに人権擁護法案で定義され「人種等」は「障害、疾病又は性的指向」を含みますので、たとえば「三国人を東京都が追放するべき」とか「キチガイは氏ね」とか「ロリータ野郎は社会のゴミ」といった発言を掲示板に書くと人権擁護法案の救済措置により書いた人が法律上の手続きに基いて聴取を受ける場合があります。
 

衆議院
第一五四回閣第五六号 人権擁護法案(当初法案)
http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g15405056.htm

第二条
5 この法律において「人種等」とは、人種、民族、信条、性別、社会的身分、門地、障害、疾病又は性的指向をいう。
第三条 何人も、他人に対し、次に掲げる行為その他の人権侵害をしてはならない。
2 何人も、次に掲げる行為をしてはならない。
一 人種等の共通の属性を有する不特定多数の者に対して当該属性を理由として前項第一号に規定する不当な差別的取扱いをすることを助長し、又は誘発する目的で、当該不特定多数の者が当該属性を有することを容易に識別することを可能とする情報を文書の頒布、掲示その他これらに類する方法で公然と摘示する行為
二 人種等の共通の属性を有する不特定多数の者に対して当該属性を理由として前項第一号に規定する不当な差別的取扱いをする意思を広告、掲示その他これらに類する方法で公然と表示する行為

 
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*1:たとえば在日朝鮮人とか三国人など