ロシア学校占拠事件と情報操作(3)

以下、ロシア学校占拠事件に関するメディアの言論。
ロシア政府の情報操作について言及しているかいないかに注目。ロシア学校占拠事件については、熊本日日新聞琉球新報の社説が評価できます。

熊本日日新聞
新生面9月7日 ロシア学校占拠
http://www.kumanichi.co.jp/iken/iken20040907.html#20040907_0000005021

▼人質の数が多すぎると、世論や地元の人たちが強行突入に反対するとみて、意図的に情報操作をしたとの疑いも浮上している。脱出した子供の証言では、当初、トイレに行くことや水を飲むことが許されていた▼ところが占拠二日目からは、犯人グループは人質の行動をことごとく制限し始めたという。多くの子供たちを人質に、交渉を有利に進めようとしていた犯人側が、この情報操作にいらだちを募らせたとも考えられる

北海道新聞
社説 学校占拠テロ*統制の強化は逆効果だ(9月8日)
http://www.hokkaido-np.co.jp/Php/backnumber.php3?&d=20040908&j=0032&k=200409089060

ロシア政府の、情報収集を含めた準備不足が結果的に犠牲者を増やしたとすれば、不手際は責められる。
一方、事件の発生から解決にいたるまで、ロシアの報道機関は事件の全容を伝えることをためらっている。
プーチン政権が報道機関を支配下に置き、政府批判を許さない統制策を取ってきた結果だ。実際、今度の事件で暗に政権を批判したイズベスチヤ紙の編集長が辞任に追い込まれた。
グラスノスチ(公開性)が花咲いた一九九○年代初頭の旧ソ連末期やロシア初期よりも、今のロシアには報道の自由はない。
政府批判を含めた自由な報道がなければ、ロシア国民の政権不信は深まって、一致したテロとの戦いは困難になる。国際社会も、プーチン政権との連帯を、ためらうしかないだろう。

東奥日報*1
社説20040905 強権と憎悪の果てなき相克
http://www.toonippo.co.jp/shasetsu/sha2004/sha20040905.html

今度の人質事件には疑問や謎も多い。当初は三百五十人余りとされた人質は、実際には千人を超えていたようだ。世論の衝撃や作戦行動を意識した情報統制はなかったのか。
「人命を最優先」としながら、なぜ強硬策に至ったのか。突入は計画的か、それとも偶発だったのか。爆発は犯人側によるのか、突入部隊の作戦だったのか。
ロシア政府は事件の詳細にふたをしたまま幕引きをしてはなるまい。特殊ガスで犠牲を拡大した劇場事件で、世界の人権団体から批判されたことを想起すべきだ。

愛媛新聞
社説 2004.09.06 ロシア学校人質事件 強硬一辺倒ではテロを防げない
http://www.ehime-np.co.jp/shasetsu/shtsu20040906.html

それにしても、なぜこれほどの流血になったのか。
 犯人の仕掛けた爆弾が偶発的に爆発し、強行突入の発端となったとする見方の一方、爆発は特殊部隊の急襲の一環だった可能性が出ている。指揮系統の乱れも指摘されている。ロシア政府が突入前、人質の数を過少報告したのも情報操作だった疑いがある。

高知新聞
社説2004年09月04日 学校占拠事件 武力では解決しない
http://www.kochinews.co.jp/0409/040904editor.htm

児童ら人質に多数の死傷者が出たのは極めて残念だ。交渉による解決の余地はなかったのか。部隊が突入するまでにどういう経緯があったのか。
約350人と公式発表された人質の数が実際にははるかに多いとする証言があるなど、当局が情報を操作している疑いも出ている。ロシア政府は真実を包み隠さず明らかにする必要がある。

陸奥新報
2004/09/07 社説 殺りくと報復の果てに何がある
http://www.mutusinpou.co.jp/news/04090708.html

同時多発テロ」以来、世界は武力衝突、殺戮、戦争、暴力に血塗られてきた。しかし、武力行使が問題を解決してきたとは思えない。平和のための戦争など詭弁(きべん)だ。

信濃毎日新聞
9月5日 社説=ロシア学校占拠 あまりに犠牲が大きい
ロシア政府の情報統制について言及なし。
http://www.shinmai.co.jp/news/2004/09/05/006.htm
9月4日 斜面
http://www.shinmai.co.jp/news/2004/09/04/002.htm
9月2日 斜面
http://www.shinmai.co.jp/news/2004/09/02/002.htm

河北新報
ロシア学校占拠/大惨事からなにを学ぶのか
ロシア政府の情報統制について言及は無いが、エネルギー戦略について言及している点については一見に値する。
http://www.kahoku.co.jp/shasetsu/2004/09/20040905s01.htm

ブッシュ米大統領は学校人質事件発生直後、プーチン大統領との電話会談で「あらゆる支援を行う」と述べ、「チェチェンの破壊分子と国際テロ組織が連携したテロ」とするプーチン大統領に支持を表明した。
ロシアの一地域紛争だったチェチェン独立運動を米国までが世界的な「テロとの戦い」の一環と位置付けたことを意味する。「テロには屈しない」米ロの連携は今後、チェチェン紛争解決にどう影響するのか。
チェチェン共和国は、中東とカスピ海、この二つの石油資源地帯を結ぶ北カフカス地方に位置し、エネルギー戦略上の要衝にある。隣接する中央アジアの二つの国には、米中枢同時テロを機に米軍が駐留する。米国がいち早くロシア支援を打ち出したのも、チェチェンがテロの温床になることを憂慮したからだろう。

中日新聞
9月4日社説 国際社会も行動の時だ 学校占拠事件
http://www.chunichi.co.jp/00/sha/20040904/col_____sha_____000.shtml

三年前の米中枢同時テロ以降、プーチン政権が掲げるテロとの戦いの旗印の前に、その国際社会もロシア軍のチェチェンにおける残虐行為や独立運動弾圧に目をつぶってきた。その間に武装勢力は国際テロ組織との連携を深め、テロは拡散した。

沖縄タイムス
社説 2004.9.6 ロシア学校人質事件 「テロの時代」克服の努力を 死者の半数は子供だった
http://www.okinawatimes.co.jp/edi/20040906.html#no_1
社説 9月3日 チェチェン情勢 強攻策は避けるべきだ
http://www.okinawatimes.co.jp/edi/20040903.html#no_1

中国新聞
社説 占拠学校に突入 断ちたい惨劇の連鎖 '04/9/4
http://www.chugoku-np.co.jp/Syasetu/Sh04090401.html

米国共和党大会でブッシュ大統領は、イラク戦争の正当性を主張し「引き続き海外のテロリストへの攻撃態勢を維持する」と高らかに表明した。目に見えぬテロリストを、米国は、ロシアは、どう攻撃してきたのだろうか。単独行動主義的な大国の力の政策が新たなテロを生んでいるのではないか。

琉球新報
9月6日社説 ロシア学校人質・対話で憎悪に終止符を
http://www.ryukyushimpo.co.jp/shasetu/sha28/s040906.html#shasetu_2

今回もまたプーチン政権は「力」で解決したが、チェチェン問題にも有効な方策だろうか。かつて国際的な人権団体は、チェチェンでロシア軍が民間人を拷問、レイプ、虐待するなどの行為を働いていることを指摘していた事実がある。そして今、独立派の声を封じ込め、親ロシア派のかいらい政権をつくっている。不満は募るばかりだ。テロを支持する土壌は除去されるどころか、一層強固になるばかりだ。
こうしたプーチン政権の力の政策が、「強いロシア」を望む国民には支持されるのだろう。しかし、その支持は、情報すべてが公開されていないことで成り立つ。チェチェンの現実など情報が漏れだした時、この基盤は保障されるものではない。

9月2日社説 チェチェン問題・対話の道を探るべきだ
http://www.ryukyushimpo.co.jp/shasetu/sha28/s040902.html#shasetu_2

岐阜新聞
9月5日 編集余記
http://www.jic-gifu.or.jp/np/newspaper/column/main.htm#SUN

佐賀新聞 山田俊明論説委員
・9月7日付 社説 国際テロ拡散 連鎖を断つ視点こそ
http://www.saga-s.co.jp/pub/ronsetu/index.html

三年前の米中枢同時テロ以降、テロとの戦いの旗印の前に、国際社会はロシア軍の残虐行為や独立運動弾圧に目をつぶってしまった。

朝日新聞
09月05日付 《天声人語
http://www.asahi.com/paper/column20040905.html
09月04日付 《天声人語
http://www.asahi.com/paper/column20040904.html
09月07日付社説 学校テロ事件――未来を殺すな
http://www.asahi.com/paper/editorial20040907.html

ロシアのプーチン大統領は「前例のない非人間的なテロリストの犯罪だ」と事件を糾弾した。しかし、大量の犠牲者を出したことへの自らの責任には触れようとしない。国民が知りたい人質や死傷者数の公表は遅れ、情報操作の疑いさえ出ている。テロに屈するなという方針は正しい。だが、どんな結果になっても構わない、ということではない。

09月04日付社説 学校占拠事件――力と憎悪が招いた悲劇
http://www.asahi.com/paper/editorial20040904.html

毎日新聞
・社説 9月7日 学校占拠テロ 独立運動逸脱した残忍さ
ロシア政府の情報統制について言及なし。
http://www.mainichi-msn.co.jp/column/shasetsu/news/20040907k0000m070135000c.html
・社説 9月3日 社説:学校占拠テロ 子供たちをすぐに返せ
ロシア政府の情報統制について言及なし。
http://www.mainichi-msn.co.jp/column/shasetsu/news/20040903k0000m070145000c.html
・町田幸彦モスクワ支局員のコラム 
http://www.mainichi-msn.co.jp/column/kishanome/news/20040908ddm004070056000c.html

讀賣新聞 
・社説 9月4日付[学校占拠テロ]「毅然と立ち向かうしかなかった」
ロシア政府の情報統制について言及なし。
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20040903ig90.htm
・社説 9月3日付 [ロシア情勢]「テロの拡散と拡大が憂慮される
ロシア政府の情報統制について言及なし。
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20040902ig91.htm

イエスマンばかり揃っている読売新聞*2の社説はこんなもんです。
ベスランで闇賣新聞の社説をロシア語に翻訳して住民の家に配ったら、どうなるでしょうね。讀賣新聞の紙面で書けないようなことがベスランで起こるのではないかと私は推測します。もし正しい主張だと思ったら、ベスランの市民に読んでいただいたらいかがでしょうかね。

日本経済新聞
社説2 出口見えぬチェチェン紛争(9/3)
ロシア政府の情報統制について言及なし。
http://www.nikkei.co.jp/news/shasetsu/20040902MS3M0200R02092004.html

出口が見えないのは“ネット検閲をしていた日経新聞の体質”*3も、ではないですかね。

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以下、政府関連情報。

首相官邸 小泉純一郎
http://www.kantei.go.jp/jp/koizumispeech/index.html
・ロシア南部北オセチア共和国における学校占拠事件 小泉総理発プーチン大統領宛メッセージの伝達 平成16年9月4日
http://www.kantei.go.jp/jp/koizumispeech/2004/09/4message.html

内閣官房長官 記者会見
○ 北オセチア共和国における学校占拠事件に関する我が国の支援について 平成16年9月8日(水)午後
http://www.kantei.go.jp/jp/tyoukanpress/rireki/2004/09/08_p.html

このような卑劣なテロ行為は、断じて許されないものであり、如何なる理由をもってしても正当化されるものではない。日本国政府として、プーチン大統領及びロシア政府が、これまでテロとの闘いに終始断固とした姿勢で毅然として立ち向かってこられたことを支持し、敬意を表する。
テロリズムとの闘いは、国際社会が一致して取り組むべき問題であり、今後とも、我が国としても、この問題にロシアを含む国際社会とともに取り組んでいく考えである。

○ 北オセチア共和国における学校占拠事件について 平成16年9月6日(月)午前
http://www.kantei.go.jp/jp/tyoukanpress/rireki/2004/09/06_a.html

▼外務省
北オセチア共和国における学校占拠事件に関するわが国の支援について 平成16年9月8日
http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/16/rls_0908a.html
・村山内閣の比較的まともな外務大臣談話
http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/danwa/07/dko_0209.html
小泉内閣のへべれけな川口外務大臣談話
http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/danwa/14/dkw_1228.html
外務大臣会見記録(平成16年9月)
9月9日現在言及なし
http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/kaiken/gaisho/g_0409.html
副大臣会見記録(平成16年9月)
9月9日現在言及なし
http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/kaiken/fuku/f_0409.html
事務次官会見記録 平成16年9月6日
http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/kaiken/jikan/j_0409.html

北オセチア共和国学校占拠事件
事務次官
日露関係ということからしますと、我々としては特段の影響があるとは見ておりません。(事務次官
チェチェンの問題であったり、テロの問題というものは大きな課題であろうと思いますが、アジア太平洋におけるロシアの戦略的利益を、ロシア政府としてどう考えるかという根本のところでの問題については、今回の事件によって影響されるものではないと思います。

チェチェン紛争 クロノジー
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/bluebook/2003/gaikou/html/zuhyo/fig02_05_05.html
平成16年版 外交青書
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/bluebook/2004/index.html

日本政府は「プーチンがんばれ金やるぞ」だけ? 他にやることとか反省することは無いのか?
9月6日の外務省事務次官会見のボールド強調した発言ですが、私は疑問を感じます。それについての考察は後日。

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*1:余談ですが、9月5日のベスラン事件についての東奥日報社説には同感ですが、8月29日の東奥日報社説はひどいものでした。「バーチャルなゲームや映画が悪質化低年齢化が進む少年犯罪の原因であるから、厳罰化ではなくゲーム規制や映画規制を実施しろ」という文脈で書いています。東奥日報社の社説には、宗教的ともいえるバーチャルリアリティ論や強力効果論への信仰から未だ脱却できず、“強い表現者が弱い表現者を叩く”構図に基く安直な対策プログラムに対する自省や考察がありません。 http://www.toonippo.co.jp/shasetsu/sha2004/sha20040829.html 「社会環境を見渡すと、子供たちが現実とバーチャル(空想)世界を混同しかねない過激なゲーム、劇画、異常な性的ビデオや暴力映画が簡単に手の届く周囲に多数存在、早熟を促進している。核家族化の進展、自由奔放な家庭教育がごく普通になっている。こうした野放図な生育環境と社会風潮をこのままにしていいわけはない。」

*2:企業研究 読売新聞社 http://www.mynewsjapan.com/kobetsu.jsp?sn=100 「「出世したいならイエスマンになれ」。ある新人記者は上司にそう言われ、やっぱりそうなのか、と改めて思ったという。同社では、会社に対して、そして上司に対して、とにかく「イエスマン」であることが重要とされる。学歴などは一切、関係がない。」

*3:日本経済新聞によるインターネットサイト削除事件裁判はここ。日経新聞を定期購読するのはやめよう。「まだ旧体制下の新聞社と月極契約している人たちへ」 http://www5a.biglobe.ne.jp/~NKSUCKS/left-index_trial.html 企業研究「日本経済新聞社http://www5a.biglobe.ne.jp/~NKSUCKS/left-index_trial.html