儲ける秘訣は盗聴機販売? ネットエージェントが本社移転

電子メールを盗聴するための電子メール盗聴ボックス(通信事業者貸与用仮メールボックス)を受注販売していた*1ネットエージェント株式会社*2が、「業務拡大に伴い、本社を移転」したそうです。

ネットエージェント [NetAgent Co., Ltd.]
本店移転のお知らせ
http://www.netagent.co.jp/office_move.html

このたび弊社では業務拡大に伴い、本社を移転することになりました。
移転日:2004年9月6日(月)
移転先:東京都墨田区錦糸1−1−5 Aビル5F

儲かる秘訣は電子メール盗聴の需要とかでしょうか?
私は金儲けが悪だと言いたいわけではありません。しかし、どんな仕事にも、その仕事上必要・必然的な倫理(モラル)というものがあるでしょう。顧客の信頼を裏切らないというモラルが。
たとえば、郵便配達している職員が、配達物を勝手に開封して読んだり、中には言っている情報を使ったりすることは、犯罪に抵触する以前の倫理の問題です。
郵便というシステムを使っている人は、システムを動かしている人が配達物を勝手に開封したり持ち逃げしたりしないというシステムを信頼して使っています。そういう顧客の信頼を決して裏切らないという前提のもとで、顧客は金を支払い、システムを利用している。配達物を勝手に開封したり持ち逃げするということは、その前提を壊すことになり、自分自身の仕事を壊していることになる。
そういう意識が心の中で常に働いているということが、職業倫理、職業的良心というものであり、これは郵便業界に限らず、どんな職業にもあてはまります。
そして大事なことは、職業倫理・職業的良心というものは、それは法制度がどうであれ、時の政府の意向がどうであれ、最優先で守られなければならない内的ルールであるということです。
「法律があるから倫理は棚上げしても良い」「法律上自由なのだから営業上も自由だ」というような思考は、もはや自己を自分自身で規律するという意味での「倫理」ではあり得ません。むしろその逆でしょう。
どんなことがあっても顧客の信頼は裏切らないという職業的良心を失った瞬間、顧客のシステムに対する信頼性はゼロになり、「へえ、あんたはそういう人間だったのかい。さようなら」と心の中で決別することになるでしょう。
さて、ネットエージェント株式会社は、ネットワークセキュリティやプライバシー保護などを売っているようです。*3
ところが、驚くべきことに、そういう会社が同時に電子メール盗聴ボックスを販売し、許可していない第三者に電子メールの文面を覗かせるための機材を提供していたという事実が一方であります。
ネットエージェント株式会社の経営者*4は、いったいどういう神経をしているのでしょうか?
顧客のプライバシーを必ず守るという職業上の良心の存在を疑わさせるような、電子メール盗聴ボックスの販売は、ネットワークセキュリティやプライバシー保護を謳って商売をしている業界にとって、恥ずべきことではないでしょうか。
情報処理学会の「倫理綱領」には、情報処理技術の研究者、開発者および利用者が遵守すべき行動規範として次のことを明記していますが、電子メール盗聴ボックスの販売は、こうした倫理に反するおそれがあると思われます。

情報処理学会倫理綱領*5
1.社会人として
1.2 他者の人格とプライバシーを尊重する。
2.専門家として
2.3 情報処理技術がもたらす社会やユーザへの影響とリスクについて配慮する。
3.組織責任者として
3.1 情報システムの開発と運用によって影響を受けるすべての人々の要求に応じ、その尊厳を損なわないように配慮する。
3.2 情報システムの相互接続について、管理方針の異なる情報システムの存在することを認め、その接続がいかなる人々の人格をも侵害しないように配慮する。

個人情報の安全を守りますと宣伝する一方で、その顧客の個人情報を漏洩させるための機材を売って利益を得ている会社を、誰が信頼するでしょうか。
ネットエージェント株式会社にしてみれば、「法制度があるからし方が無い。通信傍受の主体は捜査機関でありネットエージェント株式会社ではない。電子メール盗聴ボックスを設置するのはプロバイダーであってネットエージェント株式会社ではない。」などという具にもつかない反論が出るのかもしれません。
しかし、何に使われるのか、その目的が「個人情報の本人の意図しない漏洩」以外の使用方法が無く、使われれば必ず「個人情報の本人の意図しない漏洩」が発生することがあらかじめはっきりしている以上、「個人情報の本人の意図しない漏洩」の主体が誰であれ、「個人情報の本人の意図しない漏洩」の合法性がどうであれ、法制度以前の職業倫理として、あるいはプライバシー侵害主体・主犯が誰であれ、「個人情報の本人の意図しない漏洩」の幇助・共犯者であるということは、一般人の常識的感覚として認知されるだろうと思われます。
職業上の良心さえ守れない企業が、顧客の信頼を守ることができるでしょうか?
「合法で金儲けになるならなんでもあり」だとすれば、それは脱法的手段で庶民を騙して儲ける暴力団の詐欺的営業にも等しい。
もし私がネットワークセキュリティシステムの発注責任者だったら、ネットエージェント株式会社には絶対に発注しないでしょうし、もし私が東京地方裁判所(民事第20部)の裁判官だったらネットエージェント株式会社顧問の三好高文弁護士に破産管財人の指名など決定しないでしょうし、もし私がマネジメントコンサルティングを必要とする経営者だったら江見淳氏にコンサルタントなど絶対に依頼しないでしょう。
あくまでも、もし私が、だったらの話です。信頼を裏切られていることを知らない消費者は、取引を続けるかもしれません。
尚、ネットエージェント株式会社サイトの情報*6によると、パートナー企業として、萩原電気株式会社*7ダイキン工業株式会社*8、株式会社ナカガワメタル*9の企業名が公開されています。
この三社の全部または一部が、ネットエージェント株式会社が設計・販売した電子メール盗聴ボックスの製造を請け負っていたかどうかは、現時点では確認されていません。


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