児ポ法改悪委員会起草案、衆議院本会議可決成立

2004年6月3日午後未明、児ポ法改悪「委員会起草」案は、如何ながら衆議院本会議で可決成立しました。

第159回国会衆議院公報第95号会議
http://www.shugiin.go.jp/itdb_kouhou.nsf/html/kouhou/18278E_15962.htm

○議事日程 第27号
  平成16年6月3日(木曜日)
    午後1時開議

第九 児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律案(青少年問題に関する特別委員長提出)

衆議院ビデオライブラリ
(第159回 通常国会6月3日の本会議を参照してください。現時点では未公開)
http://www.shugiintv.go.jp/top_frame.cfm

児ポ法改悪委員会起草案(43号議案)は、6月3日、衆議院サイトで公表されました。
以下、ソースと法案の一部(特に問題と思われる点)を抜粋転載。

提出回次:第159回 議案種類:衆法 43号
議案名:児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律案
http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/g15901043.htm
児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律案要綱
http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/youkou/g15901043.htm
法案本文
http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/houan/g15901043.htm

第七条第一項を同条第四項とし、同条に第一項から第三項までとして次の三項を加える。
 児童ポルノを提供した者は、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。電気通信回線を通じて第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録を提供した者も、同様とする。
2 前項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。同項に掲げる行為の目的で、同項の電磁的記録を保管した者も、同様とする。
3 前項に規定するもののほか、児童に第二条第三項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせ、これを写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより、当該児童に係る児童ポルノを製造した者も、第一項と同様とする。

現行法の第七条はこうです。

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H11/H11HO052.html

児童ポルノ頒布等)
第七条  児童ポルノを頒布し、販売し、業として貸与し、又は公然と陳列した者は、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。
2  前項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。
3  第一項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを外国に輸入し、又は外国から輸出した日本国民も、同項と同様とする。

改悪案成立後の第七条はこうなります。

児童ポルノ頒布等)
第七条 児童ポルノを提供した者は、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。電気通信回線を通じて第二条第三項各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録を提供した者も、同様とする。
2 前項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。同項に掲げる行為の目的で、同項の電磁的記録を保管した者も、同様とする。
3 前項に規定するもののほか、児童に第二条第三項各号*1のいずれかに掲げる姿態をとらせ、これを写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより、当該児童に係る児童ポルノを製造した者も、第一項と同様とする。
4 児童ポルノを頒布し、販売し、業として貸与し、又は公然と陳列した者は、三年以下の懲役又は三百万円以下の罰金に処する。
5  前項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを製造し、所持し、運搬し、本邦に輸入し、又は本邦から輸出した者も、同項と同様とする。
6  第四項に掲げる行為の目的で、児童ポルノを外国に輸入し、又は外国から輸出した日本国民も、同項と同様とする。

要するに、「児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写した情報を記録した電磁的記録その他の記録を提供」することを目的として「提供、製造、所持、運搬、輸入、輸出、電磁的記録の保管、児童への撮影指示、撮影」のいずれかを実行した者は、無償且つ特定少数への提供であっても、三年以下の懲役刑又は三百万円以下の罰金刑に処せられます。
たとえば、コレクション目的でコレクター個人の間で交換したり、評論活動目的や美学研究活動目的で資料としてコピーして配布する行為などを含め、目的限定無しで第三者に「提供行為」(閲覧させた関係者を含む)をした人は、三年以下の懲役刑又は三百万円以下の罰金刑に処せられます。
ハードディスクに警察によって児童ポルノと判断されるファイルがあった場合、その保存が頒布目的であるか否かを判断する具体的な基準は存在しません。
したがって、頒布目的であるか否かをめぐる法解釈で警察と国民の間で対立が生じる可能性がありますが、そのような対立が生じた時に国民を弁護する具体的な歯止め制度は存在せず、警察当局の法解釈権は飛躍的に拡大されたことになります。
一番の問題点は、盗聴法などの治安立法と同様、児童ポルノ事件について、裁判官、検察官、担当弁護人以外の第三者による検証が困難になり、濫用や冤罪を招きやすくなるということだろうと思います。

案名「児童買春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律案」の審議経過情報
http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/keika/1D947A6.htm

尚、八代議員提出の改悪児ポ法案、

http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/honbun/g15901012.htm

は、衆議院審議経過情報

http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/keika/1D94602.htm

で公示送達された通り、撤回され、今国会での不成立が確定しました。
言うまでもないことですが、「児童ポルノ」と警察によって判断され、あるいは一部の集団が非難している情報それ自体は、善でも悪でもありません。
「情報」が悪ではありません。
本人の意思や人格を無視した「行為」が悪です。
仮に、本人の意思や人格が性表現というものを求めている場合があるのであれば、それを規制する行為はむしろ悪です。
単純所持の「犯罪化」は回避されたものの、児童の意思如何に関らず「児童ポルノ」を事実上の禁制品扱いをすることについては、児童の性表現の権利、評論の自由、法の適正手続きの観点から問題無しとは言えないと思われます。
情報の価値判断は、その情報に関る人が相対的に判断すべきことであり、児童の人権侵害行為(人身売買などの性的搾取行為)とは別に議論されねばならないことです。
こうした観点からの議論が今国会の審議で省略されたことに対しては、遺憾と言うよりありません。

───────────

*1: 第二条第三項「この法律において「児童ポルノ」とは、写真、ビデオテープその他の物であって、次の各号のいずれかに該当するものをいう。 一  児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したもの 二  他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写したもの 三  衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写したもの」