【転載資料】出版労連の都青問協宛要請書

第25期東京都青少年問題協議会 委員各位

自主規制型条例を堅持し、慎重審議を求める要請書

      2003年12月17日

     日本出版労働組合連合会
     中央執行委員長 新村恭

     東京都文京区本郷2-10-9 冨士ビル
     TEL03-3816-2985 FAX03-3816-2911

 私たち日本出版労働組合連合会は、出版社、取次、書店、専門紙、フリーランスなど出版関連産業に働く労働者約7000人で組織する労働組合の連合組織です。
図書類の販売規制を含む「東京都青少年の健全育成に関する条例」に対しては、憲法はもとより出版産業存立の根幹を成す言論・出版・表現・流通の自由にかかわる問題として、かねてより動向を注視しておりました。
 東京都は10月28日、都青少年問題協議会に対して、「不健全」図書指定制度の強化などを含む「青少年健全育成条例」の一部改定を諮問しました。現在、改定に向けた協議が行われ、来年1月には都知事への答申、2月には東京都議会に改定案を上程する段取りになっていると聞き及んでいます。
 しかしながら、この間の動きには重大な疑念があります。条例改定に動き出した発端は、都緊急治安対策本部の「子どもを犯罪に巻き込まないための方策を提言する会」が、(1)「不健全」図書指定に包括指定を導入、(2)指定図書以外の図書類への対策、(3)自動販売機の年齢識別装置の設置義務化、(4)自販機の設置規制の導入、(5)警察官の立ち入り調査権の付与、(6)罰則の強化、などを検討・実行するよう求めたからだとされています。ところが提言する会は、図書類の内容が少年犯罪といかなるかかわりがあるのかはいっさい明らかにしませんでした。
 法(条例)による規制を行うのであれば、メディアが犯罪を誘発するという俗説を証明し、その上で対策を講ずるべきではないのでしょうか。付言すれば、社会学者らの研究により、性的メディアの広がりに逆比例して性犯罪が減少していることが明らかになっています。
 青少年問題協議会においては、加藤諦三副会長(専門部会会長)が表現の自由など「憲法問題を論じない」と委員に申し渡したと聞いています。表現物の規制を行おうとしているにもかかわらず、最も重要な論点を忌避する態度は不可解というほかありません。先に日程ありき、結論ありきのごとく、拙速に会議を進行させることに強い不安を感じているところです。
 12月7日の青少年問題協議会専門部会起草委員会では、提言する会の座長でもある前田雅英副部会長が答申案の骨子私案を提出しました。この私案は今後の答申づくりのたたき台とされており、個別指定の強化(指定数の拡大)、表示図書の陳列規制の強化、包括指定の導入、警察官の立ち入り調査権の付与、健全育成審議会小委員会の常設化等々、多岐にわたる規制が盛り込まれまれています。この内容には、非常な危惧を感じざるを得ません。
 このような経過から、現行条例を強化する理由をいっさい見いだすことはできず、いずれの提案も出版の自由に抵触し、容認できるものではありません。新たな規制を行うことに、私たちは明確に反対を表明します。
 一方、出版労連としては、2001年に青少年条例の改定案が都議会に提出されたときに、議会各会派に対して、現行条例の不備を正すよう要請を行い、東京都にも伝えました。
 ひとつは「健全育成審議会は例外なく公開で行うものとする」との規定を青少年条例に明記するよう求めたものです。その後、いっそう行政関連の情報公開が進展するなかで、健全育成審議会のみを例外扱いにすることは許されざる状況となっています。もうひとつは、国連・子どもの権利条約を遵守すべく「当事者たる青少年(子ども)の意見を聞くしくみを保証してください」と求めました。図書指定はもとより、深夜外出制限、深夜立入り制限、書籍の買い取り制限などの規制は、まさに青少年の日常生活にかかわることであり、ますます子どもの権利条約との齟齬を来たすこととなってしまいます。以上、2点については、すでに問題点を指摘しているにもかかわらず、今回の改定の議論では、議題にも挙げられていません。青少年問題協議会としての矜持を示すために、これらの具体化を進めるよう、あらためて、強く要請します。
 また、他の自治体の青少年条例では、指定の取り消し、異議申し立ての手続きを明文化しています。たとえば、静岡県条例には「知事は(中略)推奨又は指定をした理由がなくなつたと認めるときは、これを取り消すことができる」「何人も(中略)指定又は(中略)取り消しをすることが適当であると認めるときは、知事に対し、その旨を要請することができる」という条文があります。都民や事業者の権利・義務にかかわる規制を行いながら、指定の取り消し・異議申し立ての手続き規定がないのは都条例の不備といえます。静岡県条例のような規定を明記するべく、議題として取り上げていただきたい。
 私たちは「不健全」図書指定制度そのものを容認しているわけではありません。しかしながら、都青少年条例が事業者の自主規制を尊重する希有な条例として1964年に制定され、ぶれはありつつも、現在までそれなりに謙抑的に運用されてきた点を評価することにやぶさかではありません。他の条例が「有害」図書と呼称する一方で、東京都のみが「不健全」図書の名称を用いることになった経緯にも一定の評価を持っています。
 青少年問題協議会ならびに東京都にあっては、いたずらに規制強化を進める方向に議論を収束させるのではなく、業界の自主規制を尊重し、規制を最小限にとどめてきたという現行条例の基本的精神に立ち返って、慎重に審議を行うことを要請いたします。

以上

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(キタノ)による出版労連の「要請書」のまとめ。
私個人は、出版労連の「要請書」の認識・主張は、正当と考えます。

・都緊急治安対策本部の「子どもを犯罪に巻き込まないための方策を提言する会」は、図書類の内容と少年犯罪とのかかわりを明かにしていない。
社会学者らの研究により性的メディアの広がりに逆比例して性犯罪が減少していることが明らかになっている。
加藤諦三副会長が憲法論を忌避した態度は不可解。
・前田私案には非常な危惧を感じる。
・条例改正には理由が無く新たな規制は容認できない。
・健全育成審議会は例外なく公開すべきである。
・「提言する会」の「緊急提言」は子どもの権利条約との齟齬をきたす。
・青問協は指定取消や異議申立手続きを条例で明文化するよう議題として検討すべき。
出版労連は「不健全」図書指定制度を容認しないが、制度の謙抑的運用と「不健全」図書の名称を用いた経緯を評価する。
・青問協は業界の自主規制を尊重し、慎重審議すべき。

日本出版労働組合連合会出版労連
http://www.syuppan.net/
決議・中執声明・見解等
http://www.syuppan.net/ketsugi/2002ketsugi.html

2002年7月以降決議・中執声明・見解等の更新無し。