目先の経営確保か、中長期利益・番組の多様性の確保か

総務省(郵政省)
・放送政策研究会
http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/policyreports/chousa/housou_index.html
・「放送政策研究会」最終報告(平成15年2月27日)
http://www.soumu.go.jp/s-news/2003/030227_7.html
・報告書の全文(PDF)
http://www.soumu.go.jp/s-news/2003/pdf/030227_7_01.pdf
・1998年10月26日 地上デジタル放送懇談会 報告書
http://www.soumu.go.jp/joho_tsusin/pressrelease/japanese/housou/981026d701.html

・平成15年度情報通信白書
http://www.johotsusintokei.soumu.go.jp/whitepaper/ja/h15/html/F2301100.html
・放送事業
http://www.johotsusintokei.soumu.go.jp/whitepaper/ja/h15/html/F2301100.html
・売上高
http://www.johotsusintokei.soumu.go.jp/whitepaper/ja/h15/html/F2301200.html
・第3章 情報通信政策の動向 
(2)マスメディア集中排除原則の在り方の検討
http://www.johotsusintokei.soumu.go.jp/whitepaper/ja/h15/html/F3202200.html

毎日新聞 2002年10月22日東京朝刊
・再編進むかテレビ網 地上波デジタル化でローカル局の経営悪化
合併、買収に温度差−−キー局も資金不足 マスメディア集中排除原則の緩和検討
http://www.mainichi.co.jp/entertainments/tv/2002/10/22-01.html

日本民間放送労働組合連合会 中央執行委員会
放送政策研究会最終報告書 マスメディア集中排除原則緩和についての見解 2003年3月27日
http://www.minpo-kanto.com/page031.html

 総務省情報通信政策局長の私的研究会である「放送政策研究会」は2月末、マスメディア集中排除原則(以下、集中排除原則)の見直しを中心とした最終報告書(以下「報告書」)を発表した。「報告書」の内容は、地方民放ローカル局の再編を促し、集中排除原則が本来意図している、ローカル局が担うべき「地域性」や、「多様性」、「多元性」を損なうものになっており、深い憂慮を表明する。
マスメディア集中排除原則によって本来追求すべきは、多元的な放送主体による、多様な情報を通じた、地域性豊かなメディアの育成である。地域社会の発展に寄与するというローカル局本来の使命を危うくするような安易な緩和策はただちに再考されるべきである。あわせて視聴者、放送事業者がともに確信を持ってデジタル化に向かうことのできない現時点での「地上放送のデジタル化計画」中止を強く求める。

日本民間放送連盟(民放連) 民放連会長<定例記者会見>概要
・2003.7.17(2)マスメディア集中排除原則の緩和と地方局の再編問題について
http://www.nab.or.jp/htm/press/precon/20030717.html
・2003.9.18 地上デジタル放送関連
http://www.nab.or.jp/htm/press/precon/20030918.html
・2003.5.14(7)マスメディア集中排除原則の緩和と地方局再編の見通しについて
http://www.nab.or.jp/htm/press/precon/20030514.html

「マスメディア集中排除原則」は、「放送政策の憲法」とも呼ばれる放送行政の根幹で、有限希少な電波をできるだけ多くの人たちに利用し開放するという思想によって作られた、放送行政の憲法9条のようなものですね。
テレビ局は県ごとに免許がおりるようになっていて、「議決権の保有制限」によって地方の放送局を中央のキー局が経営統合できないようになっています。これが、「マスメディア集中排除原則」です。

つまり、「資本の力で放送局の経営を乗っ取ってはいけません! 地域やいろんな立場の人たちの考えが反映されるようにいろんな人たちが共同で放送局を支えなさい」というのが「マスメディア集中排除原則」で、メディア王マードックのような放送の独裁者は絶対に生まれないようになっています。非常に良い制度です。
平成15年度情報通信白書によると地上波の放送事業者数は平成14年度で358社ありますが、そこまで事業者が増えて多様な番組制作を確保でき、テレビ放送が国民生活に欠かせない存在になったのは、「マスメディア集中排除原則」とその制度を支持してきた放送関係者の努力があったおかげと言ってもいいでしょう。

ところが、自民党政権が続いたおかげで日本経済がボロボロに壊れて、広告費は激減。地方の放送局の経営は悪化の一途を辿っていて、しかも自民党が地上波デジタル政策を推進してその設備投資費用のほとんどを放送事業者におしつけたおかげで、このままだと経営破綻する放送局が出て自民党政権の面目がつぶれも時間の問題になってきた。そろそろどこかの放送局がつぶれそうだ、と。

そこで、財政赤字地方自治体の合併よろしく、各県毎に事業免免許がおりている地方放送局の事業者を、たとえば東北6県の系列局がひとつの事業者になるという具合に経営統合させて、もっと借金できるようにして問題を先送りしましょう、いままで放送局の経営は最小5社以上で共同経営しなければならなかったですがこれからは2社を資本排除して最小3社で寡占経営してもいいですよってことですよ、ぶっちゃけ。

たしかに、経営統合されて、マードックみたいな放送の独裁者が現れれるかどうか知りませんが、系列化が進めば借金もたくさんできて事業は続けていけるでしょう。社員や少数株主の反対をおしきってでも社員や番組をリストラすれば経営は効率化するかもしれません。
けれど、どうやって売りあげを増やし、借金返すんですか? 経営統合したら必ず売上や利益も大きくなるんですか?
経営を効率化するということは、少数派の社員や少数派の市民の考えや情報は切り捨てられるということですよね。効率化によって失われる番組の多様性、言論表現の多様性、放送事業の多様性が無くなったら、経営は続いても番組提供者としてはオシマイでしょう。
いつ観てもいつも同じ人が同じ番組を作っていたら、放送局のコンテンツとして面白くもなんともありません。地方の情報提供番組やニュース番組の制作まで中央の指令でコントロールされる状況になるかもしれないことがはたして良いことなのかどうか。
番組制作をケチれば目先の短期的利益はあがるかもしれないし当面の経営破綻は回避できるかもしれないですが、中長期的にはコンテンツの均一化が加速し、国民の「テレビ離れ」が加速し、視聴率はますます下がって利益は落ち込んでいくかもしれません。

そもそも、この凋落する日本経済、景気後退、そして地上波デジタルの設備投資の事業者負担は、一体、誰の責任なんですか? 地上波デジタルの設備投資を先送りして経営的に苦しい放送事業者の負担を軽減するという方法もあったはずですが、「放送行政の憲法」を改正してまでなぜ地上波デジタルのタイムスケジュールの変更だけを「聖域化」しているんですか? そこですよ、一番の問題は。

最小5社が最小3社になるだけだから「大したこと無い」と思う人もいるかもしれませんが、私は放送行政のモラルの問題というより大きい問題があると思います。
制度を変えるにしても、最低限、地上波デジタルのタイムスケジュールに固執し放送局事業の経営悪化を導いた総務大臣結果責任をとるという前提がなければ、本質的な問題解決は進まないのではないか、という疑問は残ります。

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