NHK番組政治家介入疑惑(1):長井記者会見

 
長井暁さんに一市民として感謝したいと思います。
改変に断固として反対せず4年間対抗言論を放棄したことは情けないナァとは思いましたけれど、まあ反省したうえで今は内部告発の人柱になってくれたわけですので、それはそれとして私は告発を評価します。
安倍前自民党幹事長@日本薬業政治連盟政治献金受領者*1に10分、45分と一方的にしゃべらせている番組はありましたが、長井暁さんがテレビニュースに出演して言い分を語らせている報道番組はあまりみかけません。
どんな批判も相手の言い分を聞くことが前提です。長井氏の言い分を聞かずに的外れな反論で勝ったつもりになっている人の姿は見苦しい。ということを示す意味で、長井暁さんの記者会見を文字に起こしておきます。
以下、記者会見の前半部分。後半は後日。
 

■ビデオニュース
http://www.videonews.com/
NHK内部告発した長井暁チーフ・プロデューサー記者会見(2005年1月13日)
http://www.videonews.com/asx/011305_nagai_300.asx

司会(0:00):本来ですとNHKなりの記者クラブでするのが一般的なんですけれども、長井さんの方からNHK内というのは今回の問題の性質上好ましくないといった趣旨の申し入れがありまして、大変異例なんですけれどこちらの会場を記者クラブの幹事としてとることにしました。
NHK番組制作局長井暁チーフ・プロデューサー(0:27):まず先ほど説明がありましたように、NHKでやれば簡単なんですけれども外部でお願いしますということで、このような会場をご準備いただいたラジオ・テレビの皆さんにまずお礼を申し上げます。どうもありがとうございました。
御存知の通り、昨日の朝刊で朝日新聞のほうに記事が出てしまいましたので、取材が殺到しているということもありますので、記者会見を開いてですね詳しく正確を期すためにも記者会見を開いたほうがいいとの判断になりまして、急遽、今日開いていただいたという次第です。
それでお手元に資料が行っているかと思いますれども(と記者席を見る)、ETVの改変事項についてもあらましは資料の方をご覧頂ければ、これはあくまでも私が見聞きしたことでありますので、これですべて100%正しいかどうかということは、みなさまがたにいろいろとウラ*2をとっていただいた上で記事にしていただければというふうに思うんでありますが、一応、私が知り得たことをなるべく正確に記したつもりであります。
(1:44)まず事件のあらましについてでありますが、実際、その放送は、2001年の1月30日でございました。その29日前日から、いろいろと政治的な圧力を背景にした作り直しというものが行われたわけですが、実は以前にでもですね、この番組はその性質上非常に難しい番組であるということで、いろいろと編集には苦労しておりました。ただそれまでのいろんな議論、編集の作り直しというのはあくまでも番組論での議論であり、まあ取材相手との距離が近すぎるのではないかとか、歴史的経緯をきちんとふまえた方がいいとかですね、世界的な潮流の中で位置付けた方がいいというような、まうそういう趣旨で番組を作っておりました。
(2:30)で、29日、ご案内の通り、松尾放送総局長と国会対策をしております野島担当局長、現在の(NHKの)理事ですけれども、この二人が中川・安倍氏のところに説明に出向きまして、そこから戻ってきた夕方ですね、私も立ち会ったかたちでですね、番組制作局長室で異例の試写を行いました。
(2:56)で、この段階というのはですね、「オフライン編集」というのをアップした段階のテープでありまして、それじゃこういうものを番組制作局長や、ましてや総局長、総合企画室の担当局長が見るということはまずありえないことだったわけです。ですから、非常に異例な事態だったということははっきり言えるというふうに思います。
(3:16)それで実際この日ですね、松尾さんと野島さんが永田町からお戻りになってですね、それで試写を始め、その後いろいろ議論があってですね、番組の大幅な造り替えがなされたわけです。で、44分だった番組は異例の43分といった形で放送されることになりました。
(3:42)つまり、それまでの番組の議論とは、番組論との議論とはまったく異なる造り替えを命じられたということでありまして、これは中川・安倍両氏の意向を反映する形、彼らの了解を得るための造り替えであったことは間違いのない明白の事実であろうというふうに思っております。
(4:01)さらにNHKの方(上層部)はこのことについて、「NHK独自の判断で編集した」というふうにずっと一貫して申しておりますけれども、たとえば翌日にもまた「あと3分のカット」ということを命じられました。これは松尾放送総局長から制作現場に直接出たわけですが、これについては現場の責任者である教養番組部長も、担当のチーフ・プロデューサーも、デスクであった私も全員反対致しまして、なんとか3分のカットということを思いとどまってほしいということで松尾放送総局長に何度も働きかけをいたしましたが、これはまったく現場の意向を無視する形で、三分のカットは業務命令として命じられたと言うことは事実であります。ですから、NHKの上層部が言っている「NHK独自の判断で編集した」ということはですね、まったく現場を無視した放送総局長や番組制作局長がどのようにからんでいたかはわかりませんけれども、そういう判断であったと。それはあくまでも政治的な勢力を背景としたものだったといわざるを得ないというふうに思います。
(5:11)以上が事件の経緯でありまして、詳しくは書面の方でご確認頂きたいと思います。で、このことについてですが、海老沢会長はすべて了解していたと私は考えております。
(5:28)私の信頼すべき上司の発言によりますと、野島担当局長はですね、この事態の経緯を逐一海老沢会長に報告致しておりましたし、当然、海老沢会長の指示や了承を得てこの作業が行われたというふうに考えております。
(5:48)それで、実際に総合企画室と番組制作局がそれぞれ会長宛に報告した報告書が存在しております。これは私は手に入れて目にしておりませんけれども、存在していることは確かなようです。
(6:07)このことについて四年間私も非常に悩んでおりましたけれども、一連の不祥事を経て、去年の九月にコンプライアンス推進室というものがNHKの中に設置され、コンプライアンス通報制度というもの内部通報の制度ができました。そこで私としてはNHKの自浄能力というものに期待をしてですね、去年(2004年)の12月9日に内部通報を行いました。
(6:43)この事件を調査し、その事実を明らかにしてほしいという旨のお願いをしたわけです。で、結果的にはそれが一ヶ月経ったのですけれども、まだ関係者へのヒアリングすら始められていないという事実を私が知るに到りまして、もうこれは皆様、マスコミの方に事実を語るしかし方がないのではないかなということになりました。
(7:09)朝日新聞の方に先に出てしまいましたが、朝日の記者の方が12月の下旬に接触がございまして、私としてはとにかくコンプライアンス通報制度の結果を待ちたいのでしばらく記事にしないでくださいということをお願いしていたのですけれども、一ヶ月経ってもなんの成果も挙げられないということを知るにいたり、記事にされることを私は了承致しました。
(7:32)現実問題として、コンプライアンス通報制度はですね、末端の職員の不正については直ちに調査し、直ちに発表しております。それはご存知の通り、音響効果部の職員が自分で作曲した音楽を外部フロダクションに委託したかのように見せかけて不正にキックバックを受けていたということはご存知かと思いますが、これは内部通報制度によってですね、明らかになった事件なんです。
(8:11)つまり、末端の職員の不正は発見し次第すぐ調査し、公にするにも関らず、NHKの会長やその側近が関った出来事に関しては調査する能力も意思もないということが明白だと思います。つまり、今の海老沢体制のもとではNHKの本当の改革というのはやっぱり難しいんだなというのが、私の今回の経験で感じた点でございます。
(8:42)今回私が経験したことというのは、非常に露骨な形で政治介入がなされたという、稀有なケースかと思いますけれど、実際、海老沢体制になってからはですね、いわゆる放送現場への政治の介入、いろんなレベルのものがございますけれども、放送が中止になったり再放送が中止になったりというようなことは、非常に日常茶飯事に起るようになってしまいました。
(9:14)私は、ひとつひとつ私の関係ないことについてここで述べる立場にはございませんけれども、私自身から経験したことから言っても政治家から批判や非難が来ると、それが制作現場に直にふってきてしまうというような状況が海老沢会長のもとで行われております。特に、報道の現場ではやはり、もうそういう政府の都合の悪い番組の企画と言うものは出しても通らないんだというような雰囲気と言いますか、そういう萎縮した空気が蔓延しているという印象を私は持っております。
(9:53)ですからそういう意味で、不正経理やいろんなものが注目されておりますけれども、海老沢体制のもっとも大きな問題というのは、そういう政治介入を恒常化させてしまったという点にあるのではないかと思いまして、こういうふうなことをやはり明らかにすべきだと言うふうに思ってこのような記者会見に臨んだわけです。
(10:21)ご存知の通り、いまNHKは未曾有の危機にございます。こうしている間にも受信料の不払いがどんどん増えているというような状況であります。もう現場の営業スタッフの苦労というのはもう並大抵のものじゃない状況にきております。奇しくも今年は放送開始80周年という年でありまして、このままいくとNHKの受信料制度、公共放送の存立自体が非常に危ういという状況に到っております。
(10:54)なんとかこれは視聴者の信頼を回復し、NHKが出直すということが一日も早く求められているのだと思います。
海老沢会長が辞任を示唆したかに言われておりますけれども、改革が軌道に乗る、予算編成が軌道に乗ったところでというようなことをいっておりますけれども、私どもはそういうふうに海老沢会長が一日伸ばせはそれだけ受信料の不払いが増えるわけですから、とにかく一日も早く、海老沢会長がいなくても予算編成はできると思いますから、一日も早く辞任していただきたいというふうに思っております。
(11:35)さらにこれからの問題としては、海老沢会長の側近で固められた経営陣も即座に退陣し、人身を一新して真の改革をおしすめない限り視聴者の方のほんとうの信頼回復はなされないのではないかと私は思っております。
(11:57)海老沢会長も12月の番組*3でも何度も申し上げたとおりですね、業務改革と予算編成が軌道に乗ったら出処進退は自分自身で判断したいと申しておりますけれども、そういう話を聞くと私共の職員の多くはですね、自分の側近が経営に残る目途がたって自分の影響力がある程度保持することが軌道に乗ったらやめるというふうに聞こえてし方がないわけです。
(12:32)そのような意味で私は、会長が辞任を示唆したと言うことで安心するのではなくて、一日も早く会長には辞めていただいて、その取り巻きの方々にもですね、退場していただき、それで新しい体制でNHK改革を一日も早くはじめる必要があるのではないかと、そういうふうに思っております。
以上です、どうもありがとうございました。
 
司会:では各社、ここから自由に質問するという形にしたいと思います。マイクをまわしますので。
松本(日経新聞)(13:24) 日経新聞の松本と申します。長井さんのお歳をお伺いしたいのですけれども。
長井 42歳です。
松本 この資料にもあるように、冒頭仰っておりましたが、ご自身が見聞きした範囲内でできるだけ正確を期すということだったんですけれども、そもそも安倍・中川両氏からのああいう番組の改変の要求と言うのがどういうかたちだったのかということは、ご自身で確認の取れる範囲でどうなのかということと、それから松本さんがどういう形でそれを伝えられたのか、最終的に番組改変の制作現場への指示と言うのがどういう文言なり書面だったのか、どういう形で指示を受けたのかという三点を教えてください。
長井(14:16) 経緯としては、29日の数日前に、NHKの国会対策の職員が、中川さんたちに呼び出されて相当激しくその番組内容を批判され、放送を止めろということを言われたらしいです。それはおそらくこれは大変なことだということで、野島担当局長が手配して29日に放送現場の総責任者である松尾放送総局長を中川さんと安倍さんの所に説明にいっしょに行ったという経緯です。そこでも松尾さんはあれこれこういうふうに手直しするので放送させてほしいということを言ったらしいのですれども、まあ明確にお二人から了解は得られなかったと聞いております。で、そこから帰ってきたのが私が立ち会った試写でありまして、そこでは終始野島さんがリードするかたちで造り替えが行われました。その時、その時点では私自身は「ああこれは政治がらみだな」ということはわかっておりましたけれども、申し入れた相手が中川さん安部さんだということは全然知らなかったのですが、それを知ったのは放送の後にある上司から教えられてはじめて判ったわけですが、その時のやりとり等からもう政治的な圧力、その批判をかわすために番組を造り直すのだなあというようなことを私は認識しておりました。その時は一応議論を経てこういうふうにしたらどうかということで43分バージョンというものが作られたわけですが、その翌日というのはもうほんとにスタジオの作業は最終段階の局面になっていまして、もう完成間近というところに電話がかかってきまして、教養番組部長が呼び出されてですね、こことここを三分カットしろというような指示がございました。私はその時は断固反対してですね、組合にもそのことを訴えてなんとか松尾総局長の反意を促せないかということで話をしましたし、担当のチーフ・プロデューサーも私の意見に同意してですね、松尾放送総局長に会いに行きました。でもその時の話は、とにかく全責任は私が取るので指示通り作業を進めてほしいという松尾放送総局長が言ったというふうに聞いております。
本田(朝日新聞) 関連してよろしいでしょうか。朝日新聞の本田と申しますが、ということは安倍・中川両氏はですね、この二人が認めている29日に松尾総局長や野島担当局長と会ったということだけではなくて、その数日前に仰いましたね、数日前に野島さんとかそれから国会担当の役員を呼びつけて相当がんがんやったと。このことについては誰が長井さんに話して確認されているんでしょうか。

長井(17:13) 名前は明かせませんけれども、信頼すべき上司としか申し上げられないのですけれども、その最初に呼び出しのあった日にですね、中川さん安倍さんが全員揃っていたかは私は存じ上げません。とにかく中川さんたちのメンバーだということで、おそらく数人いらっしゃったんだと思います。そこに、役員というか国会対策の総合企画室の職員が出向いてですね、説明をして批判されたということだと思います。
本田 関連して、そこには野島担当局長がおられて他には誰がいたんですか。
長井 他のメンバーはよくわかりませんが、野島さんと中川さんがいたことは確かなようです。
本田 伊東律子局長はいらっしゃいましたか?
長井 そういうふうには聞いていません。
本田 もうひとつだけ関連して、今日配られた書面の中で、NHKのコンプライアンス推進室の方から12月17日に調査することになったという返事があって、そして一ヶ月も経った今日に到っても関係者にヒアリングすら行われていませんとありますが、これは開始されていないことはどのように確認されましたか?
長井 ちょっと説明いたしませんでしたが、このコンプライアンス通報制度と言うのは外に窓口がございまして、東京丸の内法律事務所というところでございますれども、私はこの外の窓口を通じて通報したということですので、この弁護士さんから17日にまず調査することになりましたというご連絡は頂きました。そのあと私が1月6日にもうすぐ一ヶ月経とうとしているけれども調査はどうなっているのですかという催促の書面を出しました。そうしましたら通報窓口になっております弁護士の方からご連絡がございまして、理由はこうでありました。野島さん、松尾さん、伊東さん、番組制作局長ですけれども、この三人にヒアリングを申し込んだけれども、この問題は裁判で争われている最中なので応えられないと言ってヒアリングを拒否されたというふうにですね、そういうような事情があって調査が進んでいませんという連絡を頂きました。
本田 念の為に確認ですけれども、私が入手しておりますNHKのコンプライアンス規定によりますとですね、推進室が調査を開始したらNHKの職員や機関は協力しなければならないという義務があるはずですが、ということはNHKの三人の松尾、伊東律子、それから野島担当局長はこのコンプライアンス規定違反ということが言えるんでしょうか?
長井 その辺は私もよくわかりませんけれども、裁判で争われているということが理由になるとはちょっと思えないです。
竹内(フリー) よろしいでしょうか。どうもフリージャーナリストの竹内*4と申します。こんにちは。二点質問させていただきたいのですが、さっく組合にお話をもっていかれたというところがございましたが、そのところをもう少し詳しくお聞きしたいのと、あと局内の考査室に放送活性化会議というムスタンの不祥事以降設置されてかけこみできるようなものが小さいながらもあったと思うのですけれども、そのことはご存知だったかなというのと、そこにこうなにか無かったのかというところを是非伺いたいと思います。
長井(21:08) ご存知の通りNHKは管理職になりますと組合員ではなくなるという制度になっておりますので私は現在組合員ではございません。ただこの事件が起った当時はデスクということでまだ組合員でございましたので、組合にはこの問題に関して、内部通報するということに関して11月からご相談を申しあげて、とにかく私が一番恐れましたのはこれだけ不祥事がたくさん出ていて、このことが出ることによってさらにNHKに不祥事がプラスされたというふうに視聴者の皆様に思われ受信料不払いが増えることを非常に危惧しました。ただ組合は、ご存知の通り会長と経営陣の退陣を要求しておりますし、その時の組合員の意見としては、この際、膿はすべて出しきってやり直すんだということで、そういう励ましのお言葉を頂きましたので通報にふみきったというような次第です。ですから組合とはそういう形で連絡がございます。
それから考査室云々の話は、私はよく存じ上げませんが、おそらくムスタンの時に作られたのでしょうが、まったく機能していないと思います。
竹内 事件直後ですね、なにかアクションをおこしたいと、つまり三年前ですよね…
長井 四年前です。
竹内 それはどうでしょう? 
長井 まあ本来は…あの時に徹底的に反対すべきだったという反省を今は思っております。ただ、これはほんとに言い訳になってしまいますけれども、非常に右翼からの攻撃がNHKのまわりにあり、非常な喧騒した状況の中で作業が進められ、まあほんとに突貫工事で何日も徹夜が続いているというような作業が続いておりました。ですからまずひとつは正常な判断能力がはたしてあったのかどうなのかということにちょっと疑問がございますし、あと私自身が最後まで戦えなかった理由は、私はいいのですけれども、現場に投入されたディレクター三名がございました。ですから、私が死守すれば彼らはそこで作業を止めて最後の三分は切らないというふうに作業の態度をとったと思いますが、そうすると彼らも全員処分の対象となるということがまず一点です。それと、私自身がその前の日の29日の造り替えを受け入れた理由についてですが、ちょっと前後しますけれど、申し上げますと、こういうふうになってもやっぱり元慰安婦の方々の証言というものがその時にはまだ手がついていませんでしたので、これがやっぱり放送されて一般の視聴者の皆さん、国民の皆さんに伝わるということは一定の意味があるだろうということは、私はその時は受けとめたんです。ただ、それは現実的には非常に甘い判断でして、翌日、手をつけられたのは主に元慰安婦の方々の証言部分がカットされたということなので、つまり29日の時点の造り替えを受けてしまったことが、結果として30日も踏みとどまれなかった原因だろうと私は思います。(目を閉じて俯く)
竹内 いまの話に関連してですけれども、もしその当時、長井さんはデスクで、上にチーフ・プロデューサーがいらっしゃって、現場全員が3分のカットに反対したのだったら、今日記者会見されているように反対して、そして業務命令違反で処分が下る前に全員で一致団結して記者会見をして、この上からの圧力や政治的介入を明らかにするという、そういう現場での解決の方法というのは、やっぱり思いつかなかったのでしょうか?
長井 ……ひとつはその時に私は実はスタジオから、私のよく知っている放送系列の委員長に電話をしまして、なんとかならないかということで話をしました。しかしそれはいまからすると私は非常に後悔しているのですけれども、そういう事態、実際には29日からですけれども、そういう事態になっているということを私は組合に伝えていなかったので、突然、放送の数時間前という段階で報告をしたんですれども、組合のほうはあまりにも急なことなのですぐに動けないというニュアンスでございました。組合がもし動くということになっていればまあもうちょっと事態は変っていたかもしれないですが、おそらくそれについては日報労の方にも反省があって、そういうこともあって今回は非常に私の内部通報に対して非常に協力してくださっているのではないかなというふうに理解しております。
本田 法の専門家の立場から近藤先生にお伺いしたいのですが、私の先ほどの質問で、コンプライアンス通報制度規定にあります職員とか機関は調査協力義務があると書いてあるのですけれども、ヒアリングを拒否した野島、それから松尾、それから伊東律子というこの三人の方々はこの規定違反になるんでしょうか?
近藤弁護士 対象は「職員等」ですね。定義が三条にあるようなので、厳密に言うと「現在のNHK職員」の方というのはやはりこれに該当します。現在のNHKでない方もいらっしゃるようなので、その点は若干これに該当するかという問題があるかと思いますが、職員等に該当するということになれば、これは内部規定でございますけれども、この規定の義務違反になるだろうということになります。もちろん正当な理由があればということはあるんですけれども、まあ裁判が正当な理由になるのかという、そういう問題になるかとは思います。ただまあ基本的には内部規定の義務違反ということにはなるんだろうとは思いますね、まったくの拒否をするということであれば。
本田 もう一点、長井さんの御見解をお伺いしたいのですが、一連の報道に対して安倍さんと中川さんと若干対応が異なっていてですね、安倍さんの方は自分は決して呼びつけたのではなく、NHK側が来て説明したんだと言っていますが、そういうことはあり得るのかということと、日常的にそういう政治の介入をゆるすということがですね、NHKの幹部の方が、しょっちゅう自民党に呼ばれたか説明に行くかは別にして、行く体質というのはいったいどういう中から生まれてきたんでしょうか。
長井 まず29日について、呼ばれたかどうかということについていえば、松尾放送総局長は呼ばれたと認識しているようです。全体になりますので、そもそも野島担当局長が手配するに到ったその前段の部分がもっと詳しくわからないとですね、その辺のところは明解にならないと思います。…もうひとつは?
本田 そういう体質の…
長井 ええ、それはもう、まったく違うことを申しあげるのはどうかと思いますが、海老沢会長自身は、政治的な、具体的には経世会の力をバックにして会長まで上り詰めた方なので、一見、政治家に対しては強いんじゃないかと思うきらいはあるんですね。現実には、政治部記者の方々が国会対策、政治家対策をされているわけですが、逆に、海老沢さんは政治家の方々にものすごく気をつかう方ですけれども、逆にそのことがつけいれられる。何か言えば説明に来るし、何か言えば影響力を行使できるというふうなことを議員の中に広めてしまったというということがあるんじゃないかと思います。
本田 すいません、これは長井さんでも近藤さんでもどちらでも結構ですけれど、コンプライアンス通報制度の窓口が丸の内法律事務所ですか。この法律事務所というのはNHKの顧問弁護士さんがいらっしゃる弁護士事務所だと思うんですけれど、こういうところに、これがまさにいま裁判をやっている時にですね、バウネットがNHKを訴えている裁判でNHK側に立っているわけですよね。そうすると、先ほど長井さんが仰ったこの制度自体が、外部窓口とはいえですね、NHKの顧問弁護士がやっていると。これは独立性が確保できないというか、最初からここは期待できないんじゃないでしょうか?
近藤 仕組みとしては、窓口にすぎないんですね、法律事務所は。法律事務所は窓口で、実際にやるのはコンプライアンス推進室でやるわけですから、少なくとも意味としては内部でそういうことをやるよりも、少なくともそういう申立があったということははっきりすると。そこがまあある意味では弁護士の義務と申しますか、そういうことになりますから、実際問題として本件は、くれぐれも申し上げますけれど、長井さんのこの問題は裁判とは一切関係無い。効果の問題は別として関係無い。長井さんとしてはこういう問題をしたいということでやっていますので。その場合、たしかに裁判で代理もやっているということになりますから、外部窓口の法律事務所としては非常に難しい立場にたつということはあるんだろうと思います。ただ、職務としてそういう申し出を受けてきちっとそれを調査しなさいと、そこまでの点で意味が無いということは無いと思います。あとは内部のコンプライアンス室、そこがどういう調査をするのかというところがやはり問題になるんだろうと思います。
(21:51) …です。今回こういう政治的な圧力があったと。今後これを改善していく上で、たとえば海老沢会長以下、役員陣がかわれば、人の面で変ればかなり変わっていくのか、あるいはもう国会に予算がおさえられてしまっている部分があるので、なにかシステム自体を変えて行く必要があるのか、ここら辺は現場の方はどうお考えなんでしょうか?
長井 番組制作局の人間がこういうことをお話することかどうかはあれなんですけれども、ひとつジャーナリズム論として国家権力・政治権力とジャーナリストとの距離という問題がここにあると思います。欧米ではジャーナリストを志す人であればまずイロハとしてそういうことを、つまり国家権力に肉迫しなければならないけれども一体化してはいけない、癒着してはいけないということは当然まず学ぶわけです。NHKの政治部記者だけなのかどうかというのは私はよくん存じませんけれども、どうもそういうジャーナリズム論、倫理というふうなものがまだ日本では確立されていないんじゃないかなというふうなきがいたします。
(33:11)NHKの政治記者の方の中にも立派な方がたくさんいらっしゃるのではないかと思うんですけれども、かえってそういう方は偉くならずに、何のてらいも贖罪意識も感じないような人、それで政治家と一体化できるような方がまず偉くなっているということは言えると思います。それは島会長にしても海老沢さんにしてもそうですし、いま海老沢さんの取り巻きの政治記者出身者のひともみんなそうだと思んですね。NHKは行動倫理憲章というものを作ったんですけれども、ほんとうはそういう中に、たとえば政治権力と関係を持つ業務をしている方々にはどういう姿勢で望むべきなのか、どういう行為が不正行為に当たるのか。たとえば自民党のある派閥のために行動したり、ある政治家の委託を受けてなにか放送内容に影響を及ぼすと言ったことがあった場合は、それは明らかな不正行為であるということを規定して、それを守るというようなことが必要だと思うんですが、いままでそれはNHKのなかで実際は無かったんだと思うんですね。
ひとつはそういうことですし、やはり政治と癒着する可能性のある人たちが少なくとも経営に携わるというようなことをなんらかの形で制御するようなシステムっていうのが、なんらかの形で必要なのではないかというふうに、私の個人的な見解ですがそう思っております。

 
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*1: http://d.hatena.ne.jp/kitano/20040129#p2

*2:ウラ=業界用語で伝聞事実が事実であると証明できる証拠のこと。

*3:「NHKに言いたい」

*4:竹内一晴氏。NHK・ETV2001『戦争をどう裁くか』第二回「問われる戦時性暴力」の改ざん問題を継続取材している記者のひとり。『週刊金曜日』第353号、2001年3月2日 「カットされた4分間の謎 NHK「戦争をどう裁くか」に何が起きた」参照 http://www.jca.apc.org/~itagaki/nhk/shukin353.htm