単純所持禁止・奈良県が初の条例検討(2)

 
ARCの平野裕二さんが奈良県の新設条例について「子どもの安全・安心に対する総合的視点がない」とコメントしています。
 

■ARC 平野裕二のサイト
http://arc.txt-nifty.com/arc/
奈良県「子どもを犯罪の被害から守る条例(案)」
http://arc.txt-nifty.com/arc/2005/04/post_9d86.html

結論を述べましょう。まず子どもに対する犯罪助長行為の犯罪化は、前述のとおり、必要がないどころか有害となる可能性があります。その他の施策は、あえて条例を制定せずとも実施することが可能です。奈良県次世代育成行動計画(新結婚ワクワク子どもすくすくプラン)との連携も図りながら、これまでに述べてきたような視点を踏まえて政策・態勢の充実強化を進めればよいのではないでしょうか。

 
ほぼ同感です。
子どもにとって必要なルールはもっと別にあるはずで、「子どもの権利条約」を実現するための制度や予算など、子どもにとっての最善を実現する提案を持っている大人もいます。
しかし、そういう良い提案をする大人の言論が表に出ずに(あるいは潰されて)、40年前と変らない監視と隔離と制裁のショーモナイ提案ばかりが表に出てくるあたりに、問題の根の深さを感じます。
困ったことに、本当に必要な制度が作られない(潰される)という現象は、奈良県だけに限った問題ではありません。
たとえば、世田谷区では、「子ども人権条約」批准に合わせて2001年に「子ども条例」とが賛成多数で制定されましたが、これは子どもの権利を実現する条例というより、子どもに義務を課す条例でした
以下、この問題を指摘していた木下区議のサイトの情報。
 

■木下泰之区議(世田谷区議会・一人会派無党派市民)
http://www.ne.jp/asahi/setagaya-kugikai/mutouha-shimin/
平成13年第4回定例会(自11月28日 至12月6 日)
世田谷区議会会議録
2001年12月6日 子ども条例案への反対討論
http://www.ne.jp/asahi/setagaya-kugikai/mutouha-shimin/giji011206_1.htm

◆五番(木下泰之 議員) 子ども条例に反対の立場から討論を行います。
(略)
この条例案がまとまるまでの基本文書を一通り読ませていただきました。中高生の参加による初めの一歩から始まって、青少年問題協議会が五月にまとめた盛り込むべき要点、九月初旬の大綱、九月末の素案、十一月に入って当局が示した条例案、そして上程された条例案、一連の流れの中で、大綱から素案に移る際に、「社会の一員として成長に応じた責任を果たしていかなければなりません」とか、「社会における決まりごとや役割を自覚し」なる文言が挿入され、「次代を担うべき無限の可能性」が「将来を背負って立つことができる可能性」と卑近な例えとしたことにより、条例の概念自体が大きく転換しているのです。これは、条例案は多少修正が加えられましたが、かえって冒頭示したように、今度は「可能性」の言葉さえ消え、「将来へ向けて社会を築いていく役割」と、可能性が義務に置きかえられるまでに至っているのです。これでは子どもの権利条例どころか、子どもの義務条例に変質したと言っても過言ではありません。
そもそも、この条例の基本概念は、五月のまとめるべき要点では、国際的にも認知された概念、ウェルビーイング、子どもの自己実現や権利擁護が保障された状態だったのではないでしょうか。条例案上程の際の私の本会議での質問に、稲垣生活文化部長は、条例の基本姿勢は、前文の中で、「子どもは、それぞれ一人の人間として、いかなる差別もなくその尊厳と権利が尊重されます」に反映していると答えていますが、これだけでは足りません。それだけのことなら、ウェルビーイングなどという英語の概念など持ち出さずに人権擁護と一言言えば足りたはずであります。子どもの自己実現の権利こそウェルビーイングの本質なのに、このことがこの条例からすっぽり抜け落ちてしまいました。かわって健やかに育つという、聞こえはいいが、健全育成の論理がすりかえられて、条例文にちりばめられるに至っております。これは、大人の都合で健全に育てと子どもに命令をしているにすぎません。

 
子どものためになにかしなければという“善意”は、私は否定しません。が、“善意”のためにしていることが結果的に子どものたち(の意思)のためになっていないというあたりに疑問を感じます。
「あなたのためを思ってやっていることなのよ」などと言う母親とか父親はどこにでもいると思いますが、社会全体が「あなたのためを思ってやっていることなのよ」を地でやっている感じで、「そうじゃないでしょう、あなた自身が親の権威的役割を強化してあなたのエゴを守りたいのでしょう」、と思えるようなことを社会がやっているようにも見えます。
子どものためにしていることのすべてがダメだとか、親はいない方がいいなどと言うつもりはありませんが、「監視と隔離と制裁」という昔ながらの異物排除を繰り返すだけの“善意”は、もういい加減見直すべき時機にきています。
 
子どもを対等な他者として扱えない大人。
上下関係でしか子どもと向き合えないダメな大人。
そんな古臭いオヤジが持ちたがる“権威”や“威厳”を強化するための“善意”は、善意というよりは“怠惰”、あるいは“無責任”と言うべきではないでしょうか。
 
親と子は、互いにひとりの人間として対等であり、人間の権利という観点からすれば、上下関係はありません。一人の独立した人格として子どもの生き方の選択が、親や社会から尊重され援助を受けることができる社会。そのために、「子どもの人権条約」は子どもの権利を規定しています。
「子どもの人権条約」の理念を、理念のままにせず、具体的な形にしていく努力が求められます。
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政府広報資料:犯罪に強い社会の実現のための行動計画、青少年育成施策大綱

内閣府
政府広報オンライン
「時の動き」平成16年2月号
http://www.gov-online.go.jp/publicity/book/time/time200402.html

<政策フラッシュ>
「犯罪に強い社会の実現のための行動計画」を策定
世界一安全な国、日本の復活を目指す
●戦後最悪の状況にある我が国の治安
●犯罪対策閣僚会議の設置
●「犯罪に強い社会の実現のための行動計画」の概要
●行動計画に沿った今後の取組
<識者の声>
東京都立大学法学部長 前田 雅英さん
http://www.gov-online.go.jp/pdf/time/200402/time_02_09.pdf
<政策フラッシュ>
青少年育成施策大綱を決定
将来を担う青少年を育成するために
●青少年を取り巻く様々な課題
●青少年を育成する施策の基本理念と重点課題
●年齢や状況に応じた施策の基本的な方向
●特定の状況にある青少年に関する施策と環境整備
●時代の要請にこたえた青少年の育成に向けて
<識者の声>
慶應義塾大学商学部教授 樋口 美雄さん
http://www.gov-online.go.jp/pdf/time/200402/time_12_19.pdf

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