国の健全図書政策:青少年読書指導資料規定

 
青少年読書指導資料規定。正確には「青少年の読書指導のための資料の作成等に関する規程」と言います。
青少年健全育成条例に関っている人でも、この規定の存在やルーツを知っている人は意外と少ないかもしれません。
どうしてこのような規定が存在するのかということを話す前に、少しだけ歴史のおさらいをしておきます。
かつて大日本帝国が国家が戦争遂行のために教育政策と青少年政策を利用した反省を受け、戦後、民主化の過程で、地方分権政策の一貫として、教育基本法とともに教育政策と青少年政策に関する権限は地方に移行されました。*1
権限が国から地方に移行することにより、国会も中央政府も、戦争遂行のために授業内容を変えたり、青少年への指導方法を変えたりすることができないというタテマエになったわけです。
中央政府からの干渉を受けずに青少年問題を協議し、実質的に政策決定する権限を持つ青少年問題協議会の根拠法である「地方青少年問題協議会法」(当時は青少年問題協議会設置法と呼ばれていました)は、前述のような経過で作られました。
しかし、公職追放されていた旧軍部や戦争指導を実施していた旧内務省官僚が公務に復帰することを、当時の世代の人たちは止めることを怠けていたため、軍人や旧内務省官僚が政府の要職や議員に就き、その影響を受けて、いわゆる「逆コース」と呼ばれますが、教育政策と青少年政策の中央集権化・再軍備に対応可能な教育・青少年政策づくりの第一歩が始まったわけです。
こうして、かつては選挙で選ばれていた教育委員は議会(与党)が選ぶようになり、悪書追放運動と呼応するかたちで、教育基本法の骨抜き化が行われ、教科書検定制度がはじまったり、多くの都道府県で青少年健全育成がつくられました。
この「逆コース」(教育の中央集権化)の中で、「青少年の読書指導のための資料の作成等に関する規程」は作られたのです。
ちなみに、この規定を作ったのは岸内閣。当時の文部大臣は松田竹千代議員(戦前の海軍政務次官、翼賛会総務)。政策案のとりまとめを指揮した文部政務次官宮澤喜一次官(その後の内閣総理大臣)でした。
「青少年の読書指導のための資料の作成等に関する規程」の第一条には、「健全な青少年の育成上有益な図書の目録を作成し、配付するものとする。」という文言がありますが、この文言こそ、その後都道府県で作られる青少年健全育成条例の「青少年健全育成」という文言のルーツであり、「青少年の読書指導のための資料の作成等に関する規程」それ自体が都道府県の青少年健全育成条例における「優良図書指定制度」の元祖です。
 

青少年の読書指導のための資料の作成等に関する規程
(昭和三十四年九月七日文部省令第二十三号)
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S34/S34F03501000023.html

第一条  文部大臣は、社会教育として行われる青少年の読書指導に資するため、この規程の定めるところにより、おおむね十八歳までの者を対象として発行された図書(教科用図書、学習参考書その他学校で用いられることを目的としたもの、辞書及び事典を除く。)につき、社会教育審議会の議を経て健全な青少年の育成上有益な図書の目録を作成し、配付するものとする。
第二条  目録の作成は、発行者が当該目録に登載されることを申し出た図書について行うものとする。ただし、申し出のない図書であつても、社会教育審議会が適当と認めるものについては、目録を作成することができる。
2  前項の申し出の時期、申出書の様式、読者対象の別その他申し出に関し必要な事項は告示する。
第三条  目録には当該図書につき、その内容のあらまし、読者対象、利用上の注意その他読書指導上必要な事項を記載するものとする。
第四条  目録に登載された図書の発行者は、当該図書について、その内容の改訂その他重要な変更を行つた場合は、目録の記載事項の変更を申し出るものとする。
第五条  目録に登載された図書について、その登載を不適当と社会教育審議会が認めたときは、当該図書を目録からまつ消するものとする。

 
「青少年の読書指導のための資料の作成等に関する規程」が制定された当時、堀昌雄衆議院議員社会党)がその規定の問題について質疑を実施し、問題を指摘しています。
 

衆議院 第32回国会 文教委員会第5号会議録
昭和三十四年十月十九日
http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/032/0462/03210190462005c.html

○堀委員*2 私は先般来問題になっております青少年の読書指導のための資料の作成等に関する規程の問題について少し伺いたいのでございますが、その前に、ちょっと見渡しますと自民党の委員の方はお一人もいらっしゃらない。委員長はいらっしゃいますが、たといこれが休会中の委員会でございましても、これは私はもう少し自民党の方もお考えを願いたいと思うのです。私がここで申し上土げることは、単にこれは野党の立場で申し上げるとかそういうことではなくて、やはり国のいろいろな重大な問題についてまじめにこれを取り上げる態度で、決して皆さん方を追及しようとかどうとかではなく、ここで建設的な意見をわれわれは述べていきたい、こういう気持でおりますときに、委員長を除いては一人もおいでにならぬということは、私はやはり委員会軽視としてどうしても満足できないのです。本日は時間も多少おそくなっておりますからあれでございますが、今後まず私はこの委員会というものをもう少し皆さん方の方でまじめに考えていただきたい。これでは国民に対して申しわけがないのじゃないかということを私は最初に申し上げて、質問をさしていただきます。
実はことしの四月九日に文部省でただいま申し上げた問題について省令をお作りになって、そしてそれを具体化されようといたしましたところが、いろいろな方面から反対が相当に強くあったように私は聞いております。しかしその後そういう反対の中でいろいろと文部省の方も努力をされたのだと思いますが、一回お出しになった省令を、さらにあらためて九月七日にまたお出しになった、こういうふうに大体調べてみますとわかったわけでありますが、そこでこの青少年の読書指導のための資料の作成等に関する規程を設けるについては、一体どういう目的が一番中心になっておったのか。最初に大臣に基本的な問題について少しお伺いをして、あと具体的な問題は事務局の方のお答えでけっこうですが、それを大臣一つよくお聞きいただいて、あとでまた最終的に大臣に御意見を承わる、こういう格好で申し上げたいと思いますので、まず最初にこういう問題に対しての目的はどういうことであったかを一つ大臣からお答えいただきたい。
○松田国務大臣 近年青少年の読みものについては、青少年の問題がやかましいにつけて、その読書から影響するところが多いのではないか。従ってわれわれは個人としても、また文部省といたしましても、しばしばそういう問題を一般から聞くわけであります。特に公民館の主事であるとか、社会主事であるとか、青少年問題協議会の人であるとか、そういう方両の人々から聞くわけでありまして、従って世論の動きにもかんがみ、何らかの方法をもって青少年に適切なる読みものを推奨するようにしてはどうであるか、また一般の出版会社などからも、この本は特に青年の読みものとして自信を持って出したのであるからといって、特に文部省推薦なり選定なりの指定をしてもらいたいというような要望もあって、それにこたえるために、お話のような文部省の読書指導という責任から考えているわけであります。
○堀委員 ただいまのお答えは、二つの面から考えられます。一つは非行青少年の問題が読書の影響にあるから、それによい本を読ませたいということが第一点であって、二点目は特にこういうものを子供に読ませたいから、出版会社が文部省に一つ推薦をしてくれ、こういう問題と二つあったと思いますが、私はこの二つの問題は、非常に重要な問題があると思っております。まず第一に、非行青少年というものが読書の影響を受けておることは、私も事実そういうことがあるだろうと思っております。ところが、それと文部省が本を推薦するということが、直ちに結びつくかどうかという問題は、私ちょっと問題があるところだと感じるわけです。それが第一点。
それから二番目の、出版会社が、児童向けあるいは青少年向けに非常にいい本だと思って作ったから、一つ文部省で推薦をしてもらいたい、ではこれを一つ文部省で推薦してやろうという、この考え方の中には、私は非常に危険なものがあると思う。松田さんは民主主義の国といわれるアメリカにも長くおいでになった方ですから、私から大臣に対していろいろなことを申し上げるのは、釈迦に説法のうらみがありますけれども、そういうふうなお役所や何かの権威のもとに、国民がそれが権威があるものだと認めるという考え方は、私は民主主義の原則ではないんじゃないかと思うのです。民主主義の原則というものは、そういう権威というものに盲従をしないという、そういう考え方が基礎になっておるのであって、おそらく私は、アメリカでは政府が特にこれは良書だからいいというような推薦制度などはあろうとは考えません。私アメリカの制度を調べたわけではありませんが、そういうことはないだろうと思います。日本のいろいろな現状の中で、一つ非常に根本的に問題があるのは、役所がいいと言ったことは、自分たちが自主的に判断するのではなくて、まるのみにいいんだというこの事大思想が、過去のいろいろな危機を招いてきた、私どもはそういう考え方を取り去るということが、日本を平和の中に再建する道だというふうに現在も考えておるし、民主主義の道というものは、私はそういうものではないかというふうに考えるわけですが、これについて第一点の非行青少年の問題は、悪い本が一部にあるからだ。しかし悪い本が一部にあるということと、文部省がいい本を推薦したらそういう悪い本を読まなくなるということが直ちに結びつくかどうかということ、第二番目はかなり具体的に申し上げましたが、これについてもう一回お答えをいただきたい。
○松田国務大臣 すべて役所のすることが、役所にたより過ぎるという傾向にあるということは、従来からの関係もあって、古い封建思想の流れ、あなたのおっしゃる事大思想ということ、そういう点のあるということは、民主主義の建前からおもしろくないじゃないかということに対しては、私は同感であります。さればといって、ことごとく役所のすることは間違いであると考えることも、また行き過ぎではなかろうかと思うのであります。何となれば、役所といえどもやはり国会において決定せることの執行機関であるという立場から、民意をくんで、しかるべき専門の人々によって、推薦を希望してきたようなものに対しても厳重な調査をやって、これならばよかろうという厳選の結果得たものを推奨するという形をとっておるのでありますから、必ずしも役所のやることであるからいけないのだと断定することもまた行き過ぎではなかろうか、かように考えます。また役所がそういう本を推薦したからといって、直ちに悪書と結びつかないということは、これまたおっしゃる通りであろうと思いまするが、しかし悪書のことを悪書だといって否定するわけではないのでありまするから、良書として推薦する場合には、やはりそれだけの信頼感をもって読まれることになるということは一つのプラスではないか、かように考えます。
○堀委員 一番目の方は、私はこういうふうに思うわけです。悪書といいますか、青少年に望ましくない本が非常に現在出ておりますが、これは私率直に言いますと、今の資本主義制度の一つの大きな矛盾だと思うのです。もうけさえすればいいんだという考え方から、私ども望ましくないと思う本が非常に出ていて、それをまたそういう時期の青少年が読んでおるということはまことに遺憾であって、こういうことはなるたけなくしていかなければならないということは、どなたも同じだと思うのです。ただそのことと、文部省がこういう本はいい本だからといって推薦をするということとが、私は直接にそういうふうに反射的に結びつくようなものではない。一つの理由としてはあるかもしれませんが、それが直ちに結びつくようなものではないというふうに私は考えております。それから三番目の今のお話ですが、役所がやるからいいとかいけないとかいうことは、私少しも申し上げていない。ものの考え方として、要するに何か物事を行うときに、民主主義の原則は、やはり自分たちが、たとえば本を読む、民間の人たちが自由なる意思に基いてそういうことをするのが民主主義としてはいいのじゃないか。民間団体がだれもそういうことをやっていない、これはどうしても必要だから、文部省が一つやりましょうという非常に困難な問題もあるかと思う。そういうものならば、私はそういう場合やむを得ないと思うのですが、民間団体が相当熱意を持っていろいろやっておるというときに、文部省がそこへ一つ割り込んでこういう一つの問題を取り上げようとされることは、私は民主的な考え方からすると、ややもすると日本にあるそういう封建的な思想、お上の言うことが正しいのだという思想が土台にあるところでそういうことをされるということは、弊害が起る可能性があるのじゃないか。今このことを直ちにいいとか悪いということは私はまだ一言も申し上げていないのですが、そういう基本的なものの考え方についてはやはり民主的な方向をとっていくということが、現在おそらく皆さん方の政府としても頭の中で考えていらっしゃることであって、決して皆さん方が現在の世の中を封建的な制度にかえたいなどとお考えになっているとは私も思わないのです。政府とわれわれ国民が民主的にものを取り扱うという同じ方向であるとしたならば、私はそれに逆行するような形は望ましくないのではないか、こういうことを伺ったわけで、いい悪いはまだ先の問題としてまた出てきますが、私は役所がいたしたことは一から十までみんな悪いなんということは少しも考えていないのです。いいことはいいのですが、しかしいいことにもやり方があろうということを申し上げておるわけでして、だから、いいことであったら何でも役所がやってもいいということにはならない。やはり民主主義というものの中で、民間のものを育てるべきものは、文部省が育てる立場でやられるならばいいことで、みずから先頭に立って旗を振らなくてもいいものは、そういうふうにしなくてもいいのではないか、こういう気持を申し上げておるのですが、もう一回その点について……。
○松田国務大臣 文部省も読書の指導ということについて責任があると思うのです。ですから推奨といっても別に押しつけるわけではありません。これらの本は文部省の検討の結果、一般に読んでもらってもいいだろうという意味において推奨するわけでありますから、どこへも強制的に押しつけるわけでない。またお話のように民間によい団体があって、よい本を選定、推奨してくれるということもけっこうなことだと思います。新聞の読書欄などでも良書と思われるものはそうしたふうに外国でも日本でもある程度やっておるのでありますから、そういうこともけっこうだと思いますけれども、ただこれを放任しておくよりは、出版会社などから特に選定を希望してくるものに対して検討を加えて、そして推奨するということはあまり差しつかえないように私は思うのであります。
○堀委員 今の最後のところが私非常に気になるのです。出版会社が一ついい本だとほんとうに自信があれば、文部省の力を借りなくても、いい本を出せば民間の人たちもいいと認めると思うのです。ところが民間の相当りっぱな、そういう推薦をする団体があるのにかかわらず、その人たちの方に十分働きかけてやればいいことを、特に文部省に持ってきて、文部省のお墨つきをもらって、これはいい本だということにしなければ売れないような本ならば、私はそんなものにお墨つきを与えちゃまずいと思うのです。だから文部省がそういうものに利用されるということになると、私はこの制度そのものは相当重大な問題を含んでくると思う。やはり私はさっき申し上げたように、民主主義の原則は、そういう役所だとか政府だとかいう力をたよらずに、自主的に国民が判断をされた中で物事が前進するというのが原則じゃないか。そうするとこの態度はそういう封建的な思想を利用して、何らかのことを考える出版会社がありはせぬか。どうもその出版会社自体がきわめて民主的でない考え方を持っておる。その非民主的な考え方を持っておる出版会社の片棒を文部省がおかつぎになるということは、私はまことに遺憾にたえないと思うのですが、それはいかがでしょうか。
○松田国務大臣 その点、どうも公正な意見を常に吐かれる堀委員と幾らか私は違います。率直に申し上げますが、出版会社だからといって、持ってきたものをそのままそれを紹介して商売にお手伝いをしようというような考えはみじんもない。文部省にもそれぞれ専門家がおるのですから、それぞれ専門家がおって真剣にこれを調査し検討し、これならば推奨してもよかろうという本だけを単に推奨するだけである。あるいは目録に載っけるだけであるというようなことはあってもいいのではないか。それはあなたがおっしゃるように、民間においてもよい機関があって、それが推奨されることもまことにけっこうである。しかし日本でただ一つの文教の府が、それぞれ専門家によって厳重に選定し検討を加えた結果、推奨するものはことごとくこれはよけいなことだと言われることは、あまりにも行き過ぎではないかというふうに私は考えます。これは外国においても権力筋といいますか、教育上において権力を持っておるボード・オブ・エデュケーションなどが時々そういうことをやっておるわけでありまして、必ずしもすべてを民間にまかせておけばいいというものではないんじゃないか。そういうお説もむろん世間にもあるし、出版会社にもよけいなことをするな、何もかも民間にまかせてほうっておいたらいいんだ、そうして民間の良識によって勝手にすきなものは読ませればいいんだという説もあるかもしれませんが、文部省としては、文部省のやることも読書指導の一助にはなると考えておるわけであって、これを強制して読ませるようにするわけでもなく、出版会社の持ってくるものを一々推奨するわけではない。これに対して調査官をして厳重に調査させ、その上できめることでありまするから、その程度のことならばそう弊害のあることでないと私は確信いたします。
○堀委員 実は大臣が非常に問題を先までお考えになって、私は先でその弊害があるとかないとか言うかもしれませんですが、今のこの時点では弊害があるとかないとかいうことは私少しも申し上げてないのです。ものの考え方について大臣に伺っているわけなんです。それで私がものの考え方について伺っておるということは、民主主義という考え方は、やはり自分でものをきめるということ、自主的にものをきめ、判断する、一人々々の個人というものがあるという考え方に私は立っていると思うので、そういう考え方がやはり土台にならなければ困るのではないか。出版会社からこれは児童向けのためにいい本だというものを作って、一つこれを推薦してくれといって文部省にくる。私はその本が悪い本であるにかかわらず、その本を文部省が推薦するなんて言っていないのです。ものの考え方として、いい本ならば文部省のお墨つきをもらわなくても、その本は必ず読まれるし、現在の新聞や、日本図書館協会とか学校図書館協会とかその他NHKにもあるし新聞にもあります。文部広報でも、児童文学者協会、日本放送協会、それから日本図書館協会学校図書館協会の二つは最も活発に活動している、このほか毎日新聞社産経新聞社などには優良図書表彰制度があるというようなことも出ておるわけでありまして、こういう団体が現在たくさんあるのです。たくさんあるならば、今の出版社はそういうところが推薦されるようなものを作られれば、あえて文部省へ持ってきて、それの推薦だというお墨つきをもらわなくてもいけるのではないか。にもかかわらずそういうものを文部省に持ってきて、お墨つきをもらいたいという思想の中には、私はさっき申し上げた現在の日本の中に残っておる事大思想の考えの上に立って、多少文部省を利用しようというような考え方が、そういう出版会社にあるのではないか。そういうことでは日本の民主主義の上から非常にまずいんじゃないか、こういうことであって、いいとか悪いとかの論議ではないのです。民主主義という考え方の原則の上に立って考えたときに、民間のこれらのものがりっぱに活動しておる中で、特に文部省で――私のこういう民主主義の考え方の前提に立った上で、どうしても文部省でやらなければならぬ理由があれば、それを一つ承わりたいと思います。
○松田国務大臣 民主的な考え方として、自分のそれぞれの個人の考えでもって物事を進めていくという基本的な考えは、まさにその通りで、おっしゃる通りであると思います。しかしこれに加えて、あるいは子供に対して、若い者に対して、保護者なり親なりが指導助言を与えることが、何も民主主義の基本観念に反するものでないと私は考えます。
○堀委員 私は、親や学校の先生や、あるいは図書館の諸氏が、それについて助言、指導されることは何らかまわないと思うのです。ただ私が申しておりますのは、要するに政治的な問題につながりを持っております政府が、それをきめるという形は、私は民主主義の原則として見ますと、それは絶対していけないというのではないのですけれども、われわれとしてはまず民間にあるものを十分育てていくというのが本来の民主的な政府のあり方であって、どうしても足りない分があればそれはやむを得ませんが、その前に、一つ民間でこういうことをして下さいといって、その指導をおやりになることなら私は反対じゃないが、みずから手をつけて、他にあるものの中へ割り込んで、そうして自分たち政府がやるのだというその態度の中には、私ちょっと民主的な考え方として納得のいかない点があるもんですから、重ねて伺っておきたい。
○松田国務大臣 少しの違いだと思うのでありますが、政府といえどもやはり読書指導の責任を感ずるし、またただ一つの文部行政に当る日本の文部省として、父兄や一般からも一つ良書の推奨をしてもらいたいというような希望があるときに、それに応じて推奨する程度のことは、厳選の上で推奨することは、父兄なり保護者なりが指導助言を与えると同じように、そういうことがあってもあえて民主主義の基本観念に反するものでないと私は考え出る。
○堀委員 大臣は今幾らも違わないとおっしゃったけれども、父兄や学校の先生というものの立場と根本的に違うのです。それは権力なんかないのです。政府というものはやっぱり権力を持っておりますし、政治的なものの考え方の上に立っておるのでして、父兄や学校の先生と政府は私は同列に並ばないと思う。ここはこれ以上申し上げませんが、私は根本的な相違がやはり大臣との間にある。その点、私としてはまことに遺憾だと思うのです。私は事務局の方はいざ知らず、非常に民主的な大臣は私の考え方と幾らも違わないだろう、こっちがそう思っておりましたが、その点はちょっと遺憾ですが、その次に参ります。
 今度は具体的な問題に参りますが、それじゃそういう意図があったといたしましょう。文部省も大へんいい本を、そういう要望があるから一つ選定といいますか、目録とかいろいろ出ておりますが、大臣ははっきりとそこで調査をして、厳選をしてきめるんだとおっしゃっていますから、この考え方というものは大臣の御発言ですから、そうなればこれは一種のはっきりした選定なんですから、選定の問題に入るわけですが、要するにたくさん本が出されているのです。現在一カ月に新版として約百冊くらい、再版ものを含めると約二百冊ぐらい、児童少年向けの図書が出版をされております。そうすると、今度目録が作られるについての省令を見ますと、六カ月以内のものが含まれております。千二百冊ぐらいの本が実は今出ておるのです。そういう本が出ておるときに、文部省としてはやっぱり千二百冊の中のいいものを推薦をしたい、こういうお考えだろうと思うのですが、そこのところを一つ、非常にわかり切ったようなことですが、ちょっと問題があります。
○松田国務大臣 むろんこういう本は青少年に読んでもらっても非常に有益である、今日の民主国家の国民として、将来の国民としてこういうものは有益であるという考え、有意義である、これは民主主義の基本観念を一そう植えつけるためにも、民主国家の次代の国民として最も有為な人間になり得る、こういう資料になるであろうというものが選ばれるのではないかと私は考えております。
○堀委員 そうなれば私もそれはいいことだと思うのです。ところが選び方の問題を言っておるわけですが、非常にたくさんの本が出ておる。そうして、そうする場合には、選ぶということになれば、やはり全体の中から選ばなければならないと私は思いますが、大臣もやはりそういうふうにお考えでしょうか。
○松田国務大臣 もちろんそう考えております。
○堀委員 その次に――ここからもう事務局にお答えいただいてけっこうです。四月九日に省令が出ましたところが、日本書籍出版協会の方たちが強く反対をされたというふうに聞いておりますが、その反対をされた点は大体どういう点でございましたでしょうか。
○吉里説明員 お答えいたします。まず昨年の八月に読書指導分科会が発足いたしましてからいろいろ検討いたしまして、一応の素案ができましてから書籍協会と具体的な話し合いを始めました。その際まずいろいろの御意見がございましたけれども、はっきりした御意見といたしまして出て参りましたのは、申請をして本を三冊献本するのは困る、これが最もはっきりした御意見でございました。そのほか申請以外に読書指導分科会で適当と認めるものを合せてやったらどうか、こういうこともはっきりした御意見として出て参りました。その点を実は四月九日に公布いたしました省令でも一応御了解をいただきまして、三冊の点は省令上も修正をいたしますし、それから読書指導分科会の適当と認めるものについても、話し合いでできるだけそれを入れていこうじゃないか、こういうことにしておきました。
○堀委員 大体この問題につきましては、一番強く反対をしていらっしゃるのは日本書籍出版協会なんですが、私も実は詳しく経過を調べてみましたが、いろいろときわめて不十分な問題があると思います。ただいま私が伺ったことに対して、出版社はなぜ反対するかというのを日本書籍出版協会が出していらっしゃいますが、今のお答えと相当違う点がある。「なぜ私どもは文部省の図書選定に反対するかと申しますと、上述のように、1、行政機関である文部省が図書の選定をすること自体が間違っている。2、やがては、言論出版の統制にまでのびてくる。3、青少年の読書指導の資料を提供することを目標にしているが、青少年の読書指導にはもっと別の方法があるのではないか。民間の各種団体が現在実施している青少年向図書の選定、推せんを助成するのも一つの方法であるし、出版社と当局との話合いによって読書指導上の問題を検討し、そこに横たわる障害を排除していくのも一つの方法である。4、申請制度を設けていることがいけない。申請制度ということは、出版社で作った青少年向の図書を文部省に提出して、選定を願いたいといって申請し、初めて選定される資格が生れるのである。」こういうふうに書かれておりまして、「このことは前にも述べたように、文部省選定に向くような出版企画に走りやすく出版社の立場を無視し、出版の自主性をいちじるしく阻害する恐れがある。」こういうふうな項目にわたって反対の意見を述べられておるわけです。ところが今の吉里さんのお話を聞くと、一番目、二番目、三番目と一番肝心なところは反対としては受け取っていらっしゃらないようなんです。こういうふうな点、この問題が非常に紛糾してきた中には、何か文部省側にも少しすなおさに欠ける点があったのではないか。私は必ずしも文部省だけがいけないとは申しませんが、しかしどうもこの問題の取扱いの中に、その点ではちょっとはっきりしない点があるというふうにまず第一に感ずるわけでございます。
 それはそれとして次の問題へ進みますが、そういうふうな反対の理由がはっきり把握されなかったのにもかかわらず、省令が一切改められて、今度は九月七日に改めた省令が出てきた。私はある一つの省令が出されてそれがすっかり改められるについては、そういう人たちが反対をした点というものが明確にされて、その上に立って行われるのでなければ、次に出るものがまた反対をされるであろうことは、物事の筋道として明確だと思う。反対の根拠がただいまの課長のお答えのような不十分な把握であれば、次に出た省令がまたもやその人たちの強い反対に会うというふうに思うのですが、ここのところは一体どうだったのでしょうか。
○吉里説明員 先ほど申し上げましたのは、四月九日の初めの省令を公布するまでの段階を申し上げたつもりでございます。その後実は、省令を公布しましてから書籍協会側からもいろいろな御意見が出まして、反対をするというようなこともございましたので、この制度をそういう状態のもとで実施していくのも将来のためにどうかという委員会の御判断もございまして、まず四月九日に出しました省令の実施をさしあたって中止をして話し合いに入ろうじゃないか、こういうことになりまして、それから現在の省令を出すまで約四カ月の、回数にいたしますと二十数回お話し合いをいたしました。その際にいろいろな問題が向う側の方から出されましたけれども、最後に書籍協会側からもおいでいただいておりました小委員の方々から、四月九日に出しました省令に対する改正案といたしまして、いろいろな点を含んだものが出されました。ごく簡単に申し上げますと、目録制度としてできるだけ広く目録に載せてくれぬか、こういうお話もありました。それからまたいろいろな点がございましたけれども、そういう向う側の案をいろいろ委員会側でも検討いたしまして現在の省令に切りかえたわけでございまして、今度の省令を出すまでの間におきましては委員の個人的なごあっせんもいただきまして、できるだけ向うの案を取り入れたつもりでございます。
○堀委員 そのことはいろいろ御骨折りになったのでしょうが、その前にちょっと文部広報を見ますと、なぜこういうものをやらなければならぬかということについての――文部広報というのはこれはどういうあれでしょうか。私もよくわからないのですが、文部省がお出しになっているのでしょうか。
○齋藤説明員 さようでございます。
○堀委員 ですから、これはおそらく文部省の見解だと私はみなすわけですが、なぜ適書の選択が必要かという中で、非常にたくさんの本が出ておる、その中ではいい本を選ぶ必要があるだろう、これは文部省がやるとかやらないとかいう問題を離れて、適書を推薦すること自体はいいと思います。これは民間でも相当活発にやっていらっしゃるということがここに出ております。そのあとで、何か出版売りさばき元が主として学校図書館関係者を対象として行なった次のアンケートによっても、こういうものが必要だという中で、アンケート「(設問)図書選定資料として、どんなものがあれば便利とお考えですか。」という問いに対して、一番「現在ある図書目録をもっと簡便にし、見やすくし、全面の学校図書館へ無料(または低廉)配布してほしい。また内容においても信頼できるものを望む。」これが一番。二番「現在の目録は商業的、宣伝的なものが多いが、内容の充実した権威のあるものを望む。」三番「信頼ある機関による推薦図書目録を切望する。」こういうアンケートの答えが出ております。これがやはり文部省側としての一つの理由になっていると思うのです。ここが私と皆さんとの考えの相違が生じておるところだと思います。まず第一は現在ある図書目録をもっと簡便にし、見やすくし、全国の学校図書館へ無料または低廉に配付してほしい、これは学校図書館側の希望としてはあると思います。しかしそれがイコール文部省が作ってやってくれということと直ちに結びつくかどうかという点には、私はちょっと問題がある。そういういろいろな団体に対して助成金を出して、そうして現在やっていらっしゃる日本図書館協会とかそういうところで、一つ皆さんの方からこんなものを作ってもらえないかというような努力はされたのかどうか、それが第一点、それから二番の「現在の目録は商業的、宣伝的なものが多いが、内容の充実した権威のあるものを望む。」というのですが、私実はずっと調べてみたのです。日本図書館協会の目録も調べましたし、それから学校図書館協議会の目録も調べてみましたが、これらのものは商業的、宣伝的要素は私としては認められないのです。そこで文部省はこの二つすらも商業的、宣伝的要素を含むと認めておられるのかどうか、そういうものであっても差しつかえないという見解に立つのかどうか。そうして「内容の充実した権威のあるものを望む。」権威というものは直ちに政府やなにかと結びつくということは、やはり事大思想であって、権威というものは必ずしも政府やその他に結びつくものではない。日本図書館協会の推薦というものは、私は私なりに権威のあるものだというふうに理解するのですが、そういうものはすぐ政府と結びつくという考え方の中に私は危険があると思うのです。その点はどういうふうに考えるか。信頼ある機関による推薦図書目録、これは私は同じことだと思います。権威があるということと信頼ができるということは、ほとんど表と裏だと思うのですが、こういうものがここへ出されておるところを見ると、そういうふうに文部当局としては御理解になったんじゃないかと思いますが、今の三点を一つお伺いいたします。
○吉里説明員 まず初めの、学校図書館に対するいろいろの手当でございますが、私どもが社会教育局としてこの制度をやっておりますのは、あくまでも社会教育の現場というところをとらえておりますので、学校図書館に対する目録その他につきましては、私どもの方でとかくのことは申しておりません。
 なお図書館協会、これは私の所管をいたしておる法人でございますが、これにつきましては、もちろん自主性を尊重するという意味で、助言指導はもちろん、いろいろ御相談をいたしますが、現在出しております選定の目録というものに対しては、私ども意見は持っております。その意見は忌憚なく協会の方にも申し上げておるわけです。ただ現在の目録は、本の名前あるいは定価等がついておるだけでございまして、いろいろな内容等についての詳しいものが出ておりません。その点はできれば向う側もそういうことをやってもらえぬだろうか、こういう話もしております。なお私どものやりますのは、できればそういう点も補いまして、また民間でやっております選定なり推薦の制度を補完する意味も持たせまして、私どもが出しました目録の中には、学校図書館で推薦を受けておるもの、あるいは図書館協会が推薦を受けておるものは符号で表わしまして、補完をいたさしておるつもりでございます。
 なお世論の把握の問題でございますが、先ほど文部広報に出しましたもの、もちろんわれわれの方でいろいろ調べた結果でございます。なおそのほかに、内閣総理大臣官房審議室でやりました青少年の社会教育……
○堀委員 ちょっと待って下さい。そこまで聞いていない。それはあとで聞きます。私が今伺った中で重要な問題は、日本図書館協会なり学校図書館協議会というものは、文部省としては権威あるものとして認めないのかどうか、信頼のある機関として認めないのかどうかという点を私は伺ったのです。
○吉里説明員 これは学校図書館協議会の方は別といたしまして、図書館協会は私の所管でございますのではっきり申し上げますが、いろいろな事業をやっております。ただ現在の事業が選定制度だけに非常に偏しておる傾きもございますので、その点は御相談をしております。それを抜きますと、現在やっておる選定事業そのものに対して、先ほども申し上げたようにいろいろな意見を持っております。ただそれが全部必要のないものだという見解は全然持っておりません。
○堀委員 私はそういうふうに聞いていないのですよ。ここに書いてある問題の中で、アンケートに「現在の目録は商業的、宣伝的なものが多いが、内容の充実した権威のあるものを望む。」こう書いてある。目録のことを書いてあるのですよ。いいですか。そこで日本図書館協会の目録を二年分にわたって見たのです。見たら、私の考えでは商業的、宣伝的なものだとは考えられない。それと同時に、あれならば権威のあるものだと私は考え、信頼できるものだと私は考えておる。しかし文部省はどうお考えですか。私の質問にそのものずばりで答えてもらいたい。信頼できるものではないのかどうか、権威あるものではないのかどうか、そのどちらか答えてもらいたい。
○吉里説明員 もちろん現在出しておられる目録については、商業的意図あるいは政治的意図があるとは考えておりませんが、すべて完全だとは思っておりません。
○堀委員 権威と信頼の方はどうですか。
○吉里説明員 権威のとり方でございますけれども、私が申し上げましたのは、内容についてそういうふうに申し上げたわけでございまして、現在でも現場ではある程度現在出されておる選定目録についていろいろの御意見を持っておるようですが、ある程度の役割は果しておるように思っております。
○堀委員 ある程度の役割というと、権威は認めない、信頼感はあまり持てないという表現だと私は理解します。これは理解の仕方で幅を持った御答弁だと思いますが、そこはそれだけにいたしまして、私はちょっとその考え方は世論としても問題があろうかということをつけ加えさしていただきたいし、さっき内容について何もついていないとおっしゃったのですが、私が調べた範囲では簡単な内容についてのものはついております。これはちょっとあなたの方の発言が誤まりであるのじゃないかと思うのです。私は日本図書館協会の一九五七年と八年ですか、現実に調べてみた結果、内容についての簡単な説明はついております。
 その次に問題がございますのは、今私がまだ申し上げないうちに課長が話を出された内閣総理大臣官房審議室の青少年の社会教育に関する世論調査でございます。この世論調査は内閣審議室から取り寄せて調べてみました。まことにこの統計は不備である。統計自体としては、きわめて不備である。私は長年統計を専門にやっておりますから、そういう統計専門家の立場から見て、きわめて不備である。なぜかといいますと、第一、回答者の選定の中に私どもとしてちょっと問題があるというふうに考えておるだけでなくて、ここに引例をされておりますように、ここでは推薦の必要性というところで、青少年のためによい本をどこかで推薦してもらいたいが三二%、その必要がないが一五%、不明が四%で、ことしになってから本を一冊も読まない者四九%、本を読まない者が半分もある。そういう調査対象に対して、本の問題を調査をするなどということは、本質的に私はナンセンスだと思う。これは非常に幅の広い調査を一本でやろうとしておる点の矛盾だと思います。これは大体社会教育問題の何か公民館の活動とか、そういう問題が主体になっておって、読書関係の問題は、うしろの方についている、非常に部分的なものである。だから公民館活動の問題については、かなりいい答えも出ておりますが、あれを直ちにここへ持ってきて、非常に何か権威ある調査のように出されておる点は、私は調査の専門的な立場としてはどうかと思っております。さらにその次のB、推薦する機関、どういうところで推薦したらよいかというのに、文部省が一五%で、学校が一二%、図書館、公民館が七%、PTA、母の会、青年団などの民間団体六%、出版、ジャーナリズム関係五%、教育委員会五%、児童福祉審議会二%、その他不明が二、そうすると、このトータルは五四%にしかならない。あとは一体どういうことになっているかわからないような報告の仕方がされておる。その中で文部省がまたまた一五%で一位にあったというだけで、その他のもの、学校以下を加えますと、あと三九%あるのです。それだけで見ると、文部省がいいということと、あるいは文部省以外のいろいろなところ全体というものとを含めて考えると、この資料は調査自体から見まして、文部省がやったがいいという資料にはならない。ただ一番にあったから、何か文部省がやった方がいいんだというふうな取り上げ方がされておる点も、私は調査を使用された考え方としては、まことに納得ができない、そう思うのですが、あなた方は、これをどう理解していらっしゃるか。わざわざここへこの制度をやるための必要性がこれだとして出されてきた比較的具体的な問題の中の理由が非常に薄弱だというふうに思うのですが、そこはいかがでしょうか。
○吉里説明員 ただいまおっしゃった通り、現在の世論調査のやり方その他につきまして、問題があったのではないかと思いますが、出された調査結果必ずしも完全だとは実は思っておらなかったわけでございます。しかし一応全体の傾向としましては把握できますし、またこの調査結果だけでなくて、私どもが現地の公民館なり、図書館なり、いろいろなところに参りました節、あるいは大会等でも、現場の公民館の主事が、あるいは図書館の職員たちが、現在いろいろ出ておる本に対して、どの本を選ぶかという問題が一つ、それからその本をどういう方法で子供たち、青少年に助言をし、グループを育成したらいいかということに非常に悩む、こう切望されますものですから、私どもといたしましても、一応の私どもの資料として出そうという結論を得たわけでございます。
○堀委員 これはこの方が比重がかかっていないということならば、それはそれでけっこうです。ただ私は文部広報として、やはり一つのこの制度をやるについてはこういう理由だということでお出しになったものにしては、まことに権威のない文部広報だと思うのです。だからやはり皆さん方が権威というものをもうちょっとお考えになるならば、だれが見ても、なるほどこれはそうだなと思うものをお作りになるのじゃないと、私はまずいのじゃないかということを感ずるわけです。
 その次に、初めは選定制度ということになっておりましたのが、次は目録ということに省令が変ってきた。そうして目録ということに変って、その法令には、社会教育審議会の議を経て健全な青少年の育成上有益な図書の目録を作成し、配付するものとする、こうある。ところが大臣は初っぱなに文部省の見解として、厳重に一つ調査をして、その中心のいいものを選んでみなに読んでもらうのだということをはっきりおっしゃっておるので、私は表現が変ったけれども、有益な目録を作成するためには、当然やはりそこで選定をやらなければできないのじゃないか。そうすると、目録という名前に変ったけれども、これは字句の上のことではなく考え方としては、私はやはり選定制度というふうに理解しておるのですが、これは事務局の方でけっこうです。あなた方はどう考えておるか。
○吉里説明員 私どもといたしましては、初めの省令と今度の省令の立て方自体が、初め一応相当程度の高い選定をやって、それの資料、こういうことで考えております。現在の省令はすべて社会教育審議会の審議の結果に待つという形で、有益な図書の目録を作るという形に切りかえております。従いまして、この有益な図書をどの範囲まで見るかということは、審議会におまかせしていくという考え方でございますから、すべて審議会の決定に従うということを考えております。
○堀委員 初めも文部省がきめるのじゃなくて、初めの選定制度も、どうもこれは審議会の方がおきめになるようになっているし、今度も今のお話だと、審議会へおまかせしておる。幾らも変ってないと思うのです。やはり前のは選定制度ということがはっきり表に出て、今度は目録ということになっておるけれども、考え方は私はやはり選定だと思うのです。そこで事務当局は、今度のこれはそういうふうに厳選して選ぶのじゃないのかどうか、事務当局と大臣のお答えとの間にそごがあるのかどうか、これは重大な問題だと思いますので、一つそこを事務当局の側でお答え願いたい。
○吉里説明員 そごがあるとは実は思っておりませんが、この選定というか目録作成の分野というものに対しては、新しい省令でも気持としては大臣と変っていないと思っております。
○堀委員 気持が大臣と変っていなければ、やはり厳選してやるということですね。事務当局、それははっきり確認しておいてもらわないと困る。これはあとの問題に非常に重要な点を持ちますから、ここは確認してもらいました。
 次に参りますが、そうすると、選ぶについてはやはり基準が要ると思うのです。今度の新しい省令の基準というのは、そうするとどういうところにあるのでしょうか。
○宮澤説明員 ただいままでの堀委員の御質問はよく御趣旨がわかりますが、実は経緯として私どもこの問題を見ておりますと、先刻お話のように、四月九日の省令というものがありまして、これについて相当な批判が日本書籍出版協会からあったことはおっしゃる通りです。また同時に他方で、日本出版協会という側からは、原則としてこの考えには賛成だという意思表示があった段階もあるのであります。しかもこの両方の協会は、相当多くの出版業者が相ともにそのメンバーであるというふうな、かなり複雑で不思議な段階が御承知のようにあったわけであります。反対の理由としては、先刻からお述べのように、これが言論統制に向うということが表面に立ち、かつそれが第一の反対理由であった。それ以外に出版業者としてのいろいろ内部の問題があったかもしれませんが、それはここで申すべきことでもないし、私どもの推測の範囲にとどまるわけであります。そこで、先刻事務当局から御説明申し上げましたように、四月九日の省令の実行をしばらく見合せまして、そして書籍出版協会その他と私の方、事務当局がかなり長いこと話し合いをいたしまして、ある段階では文部省の事務当局としてはこの程度のものなら書籍出版協会のある程度の了解を得得るであろうというような案を得た段階がございますが、この関係というのはかなり流動的なものであって、文部省の事務当局としては少くともこれだけのことをやる以上は出版業者の協力を求めたい、正面から反対をしたのを私どもが強行するということであってはならない、こう思いましたし、他方でまた最初に大臣が答弁を申し上げましたように、やはり文部省としては国民に対して青少年の指導というものの責任はあると思います。またそれには一つの見識を持って指導しなければならないと考えます。指導とか教育とかいうものには最初に堀委員がおっしゃいましたように何がしかの危険を伴うことは事実だと思います。その危険をいかに最小限にとどめて、しかも指導し教育をするか、そういう立場に私どもは結局立たされたと思うのです。そこで九月九日付で思い切って省令を改めました。この点は、松田文部大臣就任後でありますが、文部省としてはかなり思い切って従来の考え方に反省を加えたつもりであります。つもりでありますが、しかし指導であり教育であるとすれば、そこにはある一つの見識を伴わなければならないということで、私どもはただ羅列的にすべての図書の目録を作成しようということは意味を持たない。文部省としての一つの見識、これは幅の広いものでなければならないけれども、一つの見識を持たなければならない。文部省と申すよりは、実は新しい省令では社会教育審議会の議を経るわけであります。そういうことで九月九日の省令というものができた。御指摘のようにここには有益な図書の目録を作成しとございますから、一つの判断が入ります。それはその通りであります。さてそこでそれならそれが非常に厳選をしたものでなければならないかと申せば、そこのところはお答えが非常にむずかしいと思います。なぜかと申しますと、出版協会との従来の交渉の経緯等から見ますと、私どもはこの制度をりっぱにやっていくためにはこの人たちの協力を求めようとした。今後も求めていきたいと思うのであります。とすれば、この人たちを不必要に刺激するということを実は現在の段階では避けたい。なぜかと申せば、この制度をりっぱなものに育てたい、こう思うからであります。さようなわけで、気持の上では本来厳選をして、これならば間違いないということをやりたいというのがほんとうの気持であると思いますけれども、今の段階でそれをあまり強く出していって、出版業者の方と正面からいつまでも衝突をしていくということは、この制度を育てていく上に必ずしもいいことではないと考えておりますので、若干そこに気持の上で現実にはできる限りの妥協をしていきたいという気持がまた片方で働いておる。これは事務当局から申し上げにくいと思いましたから、私からかわって申し上げます。
○堀委員 具体的な運営の問題については、今次官がおっしゃったようにいろいろと努力をされておる点を私は認めないわけじゃないのです。ただしかし私が今ここで取りしげておりますのは、やはり基本的な問題点でややとうも食い違っておる点のあることがこの問題を非常に紛糾させておるもとであって、決して経過の中だけの問題ではないと思いますので、ずっと続いて質問しておるわけです。そこでやはり今おっしゃったように厳選でなくて、少し甘いのか何か知りませんけれども、何にしても一つの基準がなければものが得られないと思うのですが、その基準になるものは具体的にはどういうものでしょうか。
○吉里説明員 初めのときの省令では、省令の中に選定の基準を書き込んでおりましたが、その後話し合いの結果、この省令の中にはそういういわゆる日録作成の基準は盛り込まない、審議会の御決定に待つということを内規で定めております。
○堀委員 その内規というのはどういうものでしょうか。
○吉里説明員 現在審議会でおきめいただいておりますものを申し上げますと、一つはやはり内容の問題であろうかと思いますが、内容の正確あるいは信頼度というものを一つの基準にいたしております。
 それからいま一つは、社会教育の読書指導という意味で行うわけでありますから、青少年の育成に必要な配慮がこの読者対象の段階ごとに払われておるかどうかということが一つでございます。それからいま一つは、子供に与えるものでございますから、用語、文章あるいは紙の質あるいは色刷りの色彩の問題等を適当であるかどうか判断するということが一つでございます。それから最後に、善良な風俗を害するかどうか、あるいは危険な模倣を誘わないかどうかというようなことを、大体四点くらいにつきまして現在御決定をいただいております。
○堀委員 ただいまのは、やはり内規にあったとか、あるいは省令に書かないというだけで、選定の基準というのは、この前の省令に大体そういうことが書いてある。多少抜かしておられるところもあるのですが、大体この前のは、正確で信頼できるものであるかどうか、これはただいまのと同じです。育成に必要な配慮、これは心身の発達に応じて教育的配慮がなされているものであるか、この二番に大体該当するのではないかと思います。第三番目の用語、文章が平易で色彩がどうかということは、八番目の用語、文章などが平易で適切であるか、これに該当する。それから善良な風俗を害し、危険な模倣を誘うというのは、その次の2に善良な風俗を害し、危険な模倣を誘い、または政治的もしくは商業的宣伝の意図がないかどうかについて留意して行うものとするということが書かれております。ですから、なるほど選定制度が目録に変ったけれども、その基準になるものは選定制度の基準とあまり大差のないものが現在内規として設けられておるというふうに今のお話を聞きますと私は感じるわけです。そこまできますと、一体なぜ選定制度であったものが目録という言葉にあれほどの形で変えられたのかという点が、経過の問題は別として、その問題を離れて見ますと、まことに納得のいかない点があるわけです。それはいろいろの経過の問題をこまかく伺ってからでないと、今すぐそれでは説明ができないと思いますから、その点はそのままにとどめますが、そこで今次官がおっしゃった日本書籍出版協会というのは大体反対の意向で、日本出版協会というのは賛成だ、いずれも非常に大きな出版関係の団体だというふうにお話になったのですが、私が調べた範囲では、日本書籍出版協会というのは三百九社くらいありまして、日本の出版業者のほとんど大部分の方がこの中に入っておられる。日本出版協会というのは、定期的にいろいろ出版をしていらっしゃるところは大体八十社内外ということで、その出版物につきましても、ただいまの日本書籍出版協会とは並べて考えられるような状態にはない。ごく少数の比較的――そういうと語弊があるかもしれませんが、小さい出版の方が多いのではないかというふうに考えますので、もちろんその意味では御意見があることをどうこう言うのではございませんが、それはそういうふうに評価をしてお考えになっておったかどうかをちょっと次官にお聞きしたい。
○宮澤説明員 日本書籍出版協会加盟三百九社はその通りであります。それから社団法人日本出版協会加盟は二百五十社でありまして、両方の協会に加盟しておるものは九十社でございます。おっしゃいますように、日本出版協会の方は中小の業者が多いようであります。歴史的にはこの協会はかなり古いようであります。概しておっしゃる通りであります。
○堀委員 まだ実はかなり問題がございますが、大へん時刻もおくれて参りましたしいたしますので、次回の委員会であとの問題をさらに詳しく伺いたいと思います。ただ、本日ここまでで伺いました範囲の中では、私は今非常に問題になっております基本的な問題について、ちょっと私大臣のお話としてどうも納得のいかない点が少しあることと、私が非常に疑問に思っておりましたところの、選定制度から目録制度に変りましたけれども、実際の考え方は少しも変っていないんだ、やはり厳選してやるんだという考え方が一本貫かれておるということが確認できたことは、私としてはきょうの委員会でよくわかりましたので、この段階に立ちまして、次会にまたあとの問題を引き続きやらしていただくということで、本日はこれで終らしていただきます。

*1:企画したのは当時のGHQ民生局ですが、内閣と国会両者の合意によって中央集権体制の解体・地方分権が決定されたことも否定できませんので、その当時の日本人の意思でそのように決定されたと考えられます。その当時は誰もがみんなもう戦争は絶対に二度と起きてほしくない、二度と戦争はごめんだという確信があったからです。

*2:堀昌雄衆議院議員社会党吉田茂をうならせるほどの経済通として知られた有力代議士。