資料:青法協:衆参両院憲法調査会の報告書に対する声明

青年法律家協会の「衆参両院憲法調査会の報告書に対する声明」を転載します。
主権者である個人が国家を管理するツールとしての憲法が、個人を管理するための国家の手段に変質するというあたりの分析に注目。
 

青年法律家協会
http://www.seihokyo.jp/
衆参両院憲法調査会の報告書に対する声明
http://www.seihokyo.jp/412.htm#8

青法協弁学合同部会
衆参両院憲法調査会の報告書に対する議長声明を発表
青法協弁学合同部会は、五月二五日、二〇〇五年四月に出された衆議院並びに参議院憲法調査会の報告書に対して、あらためてその内容の問題点を指摘し、日本国憲法の擁護を訴える議長声明を発表し、官邸・衆参両院議長、日弁連・各弁護士会、関係法律団体、マスコミ各社に送付した。
 
衆参両院憲法調査会の報告書に対する声明
二〇〇五年四月、衆参両院の憲法調査会が報告書を提出した。両院の憲法調査会では、憲法の全分野にわたりさまざまな議論がなされたが、その経過と内容における問題点については、当部会はすでに「センセイ、本気ですか!?」「センセイ やっぱり、本気ですか!?」あるいは『「平和と人権の時代」を拓く』等を発表して、批判してきたところである。今般、報告書の提出にあたり、あらためてその内容の問題点を指摘して、基本的人権の保障および平和と民主主義を実現しようとする現行憲法を、何としても擁護すべきであることを訴える。
1 憲法調査会の目的の逸脱
憲法調査会は、一九九九年の第一四五通常国会において、国会法の改正によって設置されたものである。この憲法調査会の目的は、「日本国憲法について広範かつ総合的に調査を行う」とされているが、設置の際には、調査会が改憲策動を押し進めることがないようにするための野党側の要求により、この調査会には議案提出権がないことが申し合わされている。ところが、実際の議論の内容は、改憲派委員による憲法批判が繰り返される一方で、日本国憲法が国民の基本的人権を守り、平和を維持するためにどのような役割を果たしてきたのかの主体的な調査はきわめて不十分であった。あるいは、この憲法がどのような部分において守られず、平和と基本的人権擁護が実現されていないのかの実証的調査も、ほとんど怠られたままであった。また、地方公聴会等では、憲法九条を守れという多数の意見が述べられたが、これらの意見は反映されていない。
報告書は、自公民各党における強い改憲論を受けて、改憲への指向性を打ち出そうとするものとなっている。このようなあり方は、憲法調査会設置の目的を逸脱し、設置当時の申し合わせに反するものであり、これ自体が強く批判されるべきものといえる。
2 両院の最終報告の組み立て
参議院憲法調査会において、「共通またはおおむね共通の認識が得られたもの」とされたのは、国民主権の堅持、国際協力への積極的取り組み、象徴天皇制の堅持、九条一項の堅持と自衛のための最小限度の戦力が必要であること、女性、子ども、障害者などのマイノリティーの尊重、社会保障・教育・労働の社会権の重要性、二院制の堅持、私学助成の必要性、地方分権の推進などである。現行憲法を維持する点について意見の一致を見たものの、変えるべき点については、「すう勢である意見」としてプライバシーの権利、環境権の追加がみられるが、ほとんどは意見が分かれたとなっている。
衆議院憲法調査会では、テーマごとに出された意見が紹介され、どのような意見を述べた議員が多かったかという意見分布状況を示している。
以下には、衆議院憲法調査会の報告書にしたがって、いくつかの論点について検討する。
3 憲法九条をめぐる意見
自衛権自衛隊の合憲性に関しては多数の意見として、「憲法上の措置を執ることを否定しない」とされた。国連の集団安全保障に関しては、非軍事の分野に限らず参加すべきという意見が多数を占めたとなっている。どの範囲まで許容するのかについて議論はあるものの、自衛隊の存在を認め海外での活動を認める見解が多数を占めている。
六〇年前に、周辺諸国に甚大な被害を与えた日本の植民地支配と軍事占領が終了した。しかしながら、その被害者に対する適切な補償は何らなされておらず、今日においても多数の戦後補償裁判が継続している状況にある。このような中でかろうじて、日本が周辺諸国と友好関係を築き得たのは、過去の反省にたち再び周辺国に対する軍事的脅威とならないことを誓った憲法九条を定めたことに大きな理由がある。そうでありながら、この誓いを曖昧にすることが真に「国際貢献」になるとは考えられない。
ひとたび武力紛争が生じた場合には、武力によるコントロールは困難であるし、どのような大義があろうと、市民一人ひとりのかけがえのない命が失われることには変わりがない。紛争を回避するためには、経済文化などの包括的な紛争予防のアプローチが必要で、それに関する支援を強めるべきである。憲法前文が全世界の国民が「ひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利」(平和的生存権)を有すると規定し、「専制と隷従、圧迫と偏狭を除去」する努力によって平和を維持しようと宣言しているのは、まさにこのような考えによるものといえる。自衛隊自衛権に「合憲性」を付与する必要はなく、憲法を改変することは誤りである。
4 憲法の基本原理と国家と個人の関係について
さらに、国家と個人の関係に関しては、国民の義務規定を増やすべきであるという意見や、人権保障にあたって国家の積極的役割を重視すべきという意見も述べられている。しかも、前文について、わが国固有の歴史伝統文化等を明記すべきという意見が多く述べられている。このように、憲法に義務規定を入れるべきであるとか、歴史伝統を書き込むべきというような、国家と個人の関係を「再構築」して、憲法の目的そのものを変質させようという動きがみられる。
近代憲法は、国家による市民の権利侵害を防ぐために、国家に対する規範として制定されたものである。この近代立憲の基本原理と憲法の存在意義は、今日においても何ら変わるところはない。それどころか今日においては、生活のさまざまな部分に行政が関わっており、だからこそ新たな権利保障を考えなければならない分野も増えている。このような憲法の基本原理すらも改変しようという企ては、憲法の改正どころか憲法の否定ともいうべきものである。

5 統治機構について
統治機構においては、多数を占めた意見としては、二院制の維持、首相のリーダーシップの強化、地方自治の強化などがあげられている。しかしこれらはいずれも、憲法を変えることではなく、立法によって対応できることがらである。そうした議論もなしに改憲の根拠とするのは誤りである。
また、司法が憲法判断に消極的であり憲法保障の役割を十分に果たしておらず、憲法裁判所を設置すべきであるという意見が多数を占めているが、現状で憲法裁判所を設置することは、かえって合憲のお墨付きを与える機関となるおそれが強く、慎重であるべきである。
6 結び
今後の国会においては、改憲勢力によって改憲「ムード」の作出が進められ、憲法改正を議論する常設の憲法委員会の設置や国民投票法が議論され、改憲派各党の改憲案の策定・公表が重ねられると推測される。
しかしながら先に見たとおり、現行憲法改憲する必要は何らなく、むしろ、現行憲法の理念を実現していくことこそが求められている。憲法改正を議論する常設委員会の設置や国民投票法案については、あらためて反対するものである。

二〇〇五年五月二五日
青年法律家協会弁護士学者合同部会
議長 米倉勉

 
関連リンク。
 

衆議院
衆議院憲法調査会報告書
http://www.shugiin.go.jp/itdb_kenpou.nsf/html/kenpou/houkoku.htm
衆議院憲法調査会報告書 2611KB
http://www.shugiin.go.jp/itdb_kenpou.nsf/html/kenpou/houkoku.pdf/$File/houkoku.pdf
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