資料:住民基本台帳の閲覧制度等のあり方に関する検討会報告書(案)

総務省住民基本台帳の閲覧制度等のあり方に関する検討会報告書(案)が公表されました。以下、その全文を転載します。
尚、この報告書は「案」ですので、決定される報告書はこの内容と異なる可能性があります。
 

総務省
第8回住民基本台帳の閲覧制度等のあり方に関する検討会
日時:平成17年10月7日
http://www.soumu.go.jp/menu_03/shingi_kenkyu/kenkyu/daityo_eturan/j_daityo_eturan08.html
【資料1】 「住民基本台帳の閲覧制度等のあり方に関する検討会報告書(素案)」に関する意見募集結果の概要(PDF)
http://www.soumu.go.jp/menu_03/shingi_kenkyu/kenkyu/daityo_eturan/pdf/j_daityo_eturan08_s1.pdf
【資料2】 報告書(案)(PDF)
http://www.soumu.go.jp/menu_03/shingi_kenkyu/kenkyu/daityo_eturan/pdf/j_daityo_eturan08_s2.pdf

資料2
住民基本台帳の閲覧制度等のあり方に関する検討会報告書(案)
1 基本的な考え方
(1) 住民基本台帳制度は、住民基本台帳法(昭和42年法律第81号。以下「法」という。)に基づくもので、市町村において、住民の居住関係の公証、選挙人名簿の登録その他の住民に関する事務の処理の基礎とするとともに、住民の住所に関する届出等の簡素化を図り、あわせて住民に関する記録の適正な管理を図るため、住民に関する記録を正確かつ統一的に行う制度として創設され、一方では、住民の利便を増進し、他方では国や地方公共団体の行政の合理化を図ることを目的とするものである。
(2)法により、市町村長は、個人又は世帯を単位とする住民票からなる住民基本台帳を作成することとされ、法で義務付けられた住民からの届出等に基づき住民票の記載を行うこととされている。住民票の記載事項には、氏名、生年月日、性別、世帯主との続柄等、戸籍の表示住民となった年月日、住所、選挙人名簿の登録に関する事項、国民健康保険の被保険者資格に関する事項など16事項がある(注1) 。
このように、住民基本台帳には、法に基づき収集された個々の住民に関する情報(以下「個人情報」という。)が記録されているものである。
(3)法においては、居住関係を公証する公簿として、法制定時から、広く一般に公開することが原則(以下「公開原則」という。)とされ、法11条において何人も住民基本台帳の一部の写しの閲覧を請求することができること、法12条及び20条において何人も住民票の写し(又は記載事項証明書)及び戸籍の附票の写しの交付を請求することができることとされている。(注2)
(4)これに対しては、個人情報保護の観点から、公開原則を見直し、原則非公開とすべきとの意見がある。特に、現行の閲覧制度は、広く何人でも閲覧を請求できることとされているため、閲覧の対象が氏名、生年月日、性別、住所の4情報に制限され、不当な目的又はそのおそれがある場合等には請求を拒否できることとされているとしても、その審査基準等が不明確なこともあり市町村の審査がまちまちとなっていること、ダイレクトメールなどの営業活動のために大量に閲覧され広く利用されていること、制度を悪用したと考えられる事件が発生していることなどについて問題点が指摘されている。
(5)一方で、住民基本台帳は、居住関係の公証制度として、また、住民に関する各種行政事務の基本台帳として、個人情報を保護しながらも、それを適切に利用することにより、住民の利便の増進と国・地方公共団体の行政の合理化を図ろうとするものである。
(6)以上のようなことを踏まえて、当検討会としては、情報通信技術の著しい発展等社会経済情勢の変化とそれに伴う個人情報保護に対する意識の変化に的確に対応するため、「現行の何人でも閲覧を請求できる」という閲覧制度は廃止し、法の目的に即して、閲覧できる主体と目的を限定するとともに、審査手続等についても整備するなど新たな制度として構築すべきと考える。
併せて、住民票の写し等の交付制度についても手続の明確化等所要の見直しを行うべきである。
また、住民基本台帳に基づいて調製される選挙人名簿についても、公職選挙法(昭和25年法律第100号)に基づいて、選挙人名簿抄本の閲覧制度が設けられているが、同法の目的に即して、個人情報保護の観点から所要の見直しを行うべきである。
(注1)住民票の記載事項は、次の16事項とされている。①氏名②出生の年月日③男女の別④世帯主についてはその旨、世帯主でない者については世帯主の氏名及び世帯主との続柄⑤戸籍の表示。ただし、本籍のない者及び本籍の明らかでない者については、その旨⑥住民となつた年月日⑦住所及び一の市町村の区域内において新たに住所を変更した者については、その住所を定めた年月日⑧新たに市町村の区域内に住所を定めた者については、その住所を定めた旨の届出の年月日及び従前の住所⑨選挙人名簿に登録された者については、その旨⑩国民健康保険の被保険者である者については、その資格に関する事項⑪介護保険の被保険者である者については、その資格に関する事項⑫国民年金の被保険者である者については、その資格に関する事項⑬児童手当の支給を受けている者については、その受給資格に関する事項⑭米穀の配給を受ける者については、その米穀の配給に関する事項⑮住民票コード⑯住民の福祉の増進に資する事項で住民票の写しの交付により個人の秘密を侵すおそれがないと認められるもののうち、市町村長が住民に関する事務を管理し及び執行するために必要と認めるもの
(注2)法制定時において、公開原則がとられたのは、主として、①住民票の記載事項には、個人の秘密に属するような事項は含まれていないと考えられていたこと、②法の前身である住民登録法でも公開とされていたこと、③個人の身分関係を記録する戸籍の記載事項も公開とされていたこと(昭和51年の改正前の戸籍法第10条、④閲覧等により記載内容の正確性の確保が図られること、⑤ )住民の利便の増進に役立つこと、等の理由によるものとされている。これに対して、その後の社会一般のプライバシー意識の高揚や情報化社会の進展等による、国民のプライバシー保護に対する関心の高まりを受けて、閲覧制度等については、昭和60年と平成11年に次のような改正が行われた。
(昭和60年の法改正)
・閲覧制度について、請求者に請求事由等を明らかにさせるとともに、市町村長は、当該請求が不当な目的であることが明らかなとき又は閲覧により知り得た事項を不当な目的に使用されるおそれがあることその他の当該請求を拒むに足りる相当な理由があると認めるときは当該請求を拒むことができることとされた。
また、市町村長は、政令で定めるところにより、住民基本台帳の写し又は住民票の記載事項の一部の記載を省略した住民基本台帳の一部の写しを作成し、これをもって住民基本台帳の閲覧に代えることができるものとされた。
・住民票の写しの交付制度については、戸籍法に準じ、請求者に請求事由等を明らかにさせるとともに、請求が不当な目的によることが明らかなときは拒むことができることとされた。
また、住民票記載事項証明書の交付について法定化されるとともに、住民票の写しの交付に当たって市町村長が省略できる住民票の記載事項として、個別行政事項のほかに、世帯主との続柄及び戸籍の表示の事項が加えられた。
・戸籍の附票の閲覧制度については廃止されるとともに、その写しの交付については、住民票の写しの交付に関する規定が準用された。
・偽りその他不正の手段により閲覧をし又は住民票の写し等の交付を受けた者に対して過料、(5万円以下)を課すこととされた。
(平成11年の改正)
・閲覧制度について、閲覧の対象を住民基本台帳の一部の写し(氏名、生年月日、性別、住所)とされた。
・住民票の記載事項として、住民票コードが加えられたが、住民票コードについては、第三者からの住民票の写しの交付請求の対象外とされた。
・偽りその他不正の手段により、閲覧をし又は住民票の写し等の交付を受けた者に対する過料の限度額が引き上げられた(10万円以下。)
 
住民基本台帳の一部の写しの閲覧制度の見直し
(1)閲覧できる主体と目的
ア 現在の閲覧制度の利用状況を大きく分けると、①国及び地方公共団体の職員による職務上の利用(公用)、②本人等利害関係人や弁護士等による利用(特定された住民に係る公証)、③世論調査や学術調査など公益性のある調査等のための利用(公益)、④ダイレクトメールなど専ら営業活動のための利用(営利)とに分けることができる。
イ 住民基本台帳の利用目的は、まずは、当該住民基本台帳を管理する当該市町村において「住民の居住関係の公証、選挙人名簿の登録その他の住民に関す、る事務の処理の基礎とするとともに、住民の住所に関する届出等の簡素化を図るため」に利用することである。
次に「住民に関する記録を正確かつ統一的に行う制度」として、「住民の利便の増進」と「国及び地方公共団体の行政の合理化」を図ることとされていることから、当該住民本人及び同一世帯の者、並びに国、都道府県及び他の市町村に利用させること(個人情報を提供すること)は、その本来の目的に含まれていると言える。
なお、国及び地方公共団体については、無条件に利用・提供が認められるわけではなく、国及び地方公共団体が法令の定める事務又は業務を遂行する場合に、必要な限度で情報を利用・提供できるものである。
ウ また、住民基本台帳の閲覧制度は、住民票の写しの交付制度と併せて、住民の居住関係を公証する制度として、設けられているものである。
公証すべき相手方としては、次のような者が考えられる。
① 本人又は同一の世帯の者
② 国及び地方公共団体
③ ①及び②以外の者のうち住民の居住関係について確認することについて
正当な理由をもつ者
①及び②については、イで述べたところの住民基本台帳の利用目的にも合致する。③については、住民基本台帳の公証制度としての利用目的から、閲覧を認めることが適当と考える。
③について、まずは、住民票の写しを取得する場合(参考)に準じて考えることが可能である。
これらのうち、対象となる住民が氏名等により特定されている場合については、当該住民以外の住民の個人情報が閲覧されるのを防ぐ観点から、閲覧制度よりも住民票の写しの交付制度で対応することが適当と考えられる。
 

(参考)本人以外の第三者が住民票の写しを取得する主な場合
・本人の代理として取得する場合
・・・明らかに本人の利益になるとき
・債権者(金融機関・特殊法人等)が債権の回収のために債務者本人の住民票の写しを取得する場合
・・・本来であれば本人から取得してもよいケースであるがそれが困難な場合
・相続手続や訴訟手続などにおいて法令に基づく必要書類として取得する場合・・・法令上必要とされる場合
・弁護士等が法令に基づく職務上の必要から取得する場合
・・・法令上必要とされる場合
特殊法人等が公共用地の取得のために必要とする場合
・・・法令上必要とされる場合

 
エ 次に、氏名等により住民を特定することが困難であるが、特定の住所又は一定の地域に居住する住民に係る居住関係について確認することについて正当な理由がある場合には、公証制度としての利用目的の範囲内として、閲覧を認めることが適当と考える。
具体的には、国や地方公共団体が法令の定める事務又は業務を遂行する場合のほか、次のような場合については、その成果が国や地方公共団体の施策に反映されるなど公益性があり、住民の利便の増進に資すると考えられること等から、閲覧を認めることが適当と考える。
a 世論調査、学術調査などいわゆる社会調査のうち公益性が高いと考えられるものの対象者を抽出するために閲覧する場合(注3)
ここでいう調査とは、具体的には次のような調査をいうものとする。
・放送機関、新聞社、通信社等の報道機関が報道の用に供する目的で行う調査
・大学その他の学術研究を目的とする機関が学術研究の用に供する目的で行う調査
・上記以外の機関等が統計的手法を用いて行う調査のうちこれらに準じるもの
これら社会調査を行う主体及び調査の内容は様々であることから、その調査の公益性個人情報の取扱い等について厳格な審査を行う必要がある。
公益性の判断基準の一つとして、例えば、調査結果が広く公表され、その成果が社会に還元されているかどうかを基準とすること等が考えられる。
 
(注3)行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(以下「行政機関個人情報保護法」という。)第8条第2項第4号では、行政機関等以外の者へ保有個人情報を提供できる場合として「専ら統計の、作成又は学術研究の目的のために保有個人情報を提供するとき」が挙げられている。これは、専ら統計の作成や学術研究のために個人情報を利用する場合は、特定個人が識別できない形で用いられることが通常であり、個人の権利利益が侵害されるおそれが少なく、かつ、公共性も高いと考えられるからと説明されている。
 
b 社会福祉協議会自治会などの公共的な団体が住民サービスの向上につながるような公益性の高い事業を実施するために閲覧する場合等(注4)
これらについては、それぞれの団体の行う事業の内容、閲覧を認める必要性等も、個々の事業によって異なると考えられることから、各市町村長の判断により閲覧を認めることができるようにすることが適当と考える。
また、住民票の写しの交付では対応できないが、なお居住関係について確認する特別な理由がある場合(例自らの所在地を住所としている者が他にいないか等を確認するために閲覧する場合)も同様である。
 
(注4)行政機関個人情報保護法第8条第2項第4号では、行政機関等以外の者へ保有個人情報を提供できる場合として「本人以外の者に提供することが明らかに本人の利益になるとき、その他保有個人、情報を提供することについて特別の理由があるとき」が挙げられている。特別の理由があるときとは、具体的には、①行政機関に提供する場合と同程度の公益性があること、②提供を受ける側が自ら情報を収集することが著しく困難であるか、又は提供を受ける側の事務が緊急を要すること、③情報の提供を受けなければ提供を受ける側の事務の目的を達成することが困難であること等と説明されている。
 
オ 営業活動としてのダイレクトメールなどのために閲覧することについては、認めるべきではない。
カ 本人及び国や地方公共団体以外に閲覧させる場合には、本人が拒否するときには申出を受け付ける制度(オプトアウト)や本人から改めて申出を受け付ける制度(オプトイン)を導入すべきかどうかについても議論されたが、上述のように国や地方公共団体、公益性の高い場合等に閲覧を限定するのであれば、それらの制度を導入する必要はないと考える。なお、いわゆるプライバシー権を自己情報をコントロールする権利として捉えるべきではないかとの観点から、導入すべきとの意見もあった。
また、公益性の高い調査等への台帳の利用を認めるに際し、住民基本台帳法の目的に即し、その範囲内において認めるものであることを明確にするため、同法の目的規定の見直しについても検討すべきではないかとの意見があった。
(2)審査手続
ア 特定の住民についての閲覧制度を存続する場合の手続については、住民票の写しの交付制度と同様とすべきと考えられるが、不特定多数の住民について閲覧する場合については、原則として、その理由及び閲覧により取得した個人情報の管理などについて審査を行う必要がある。
特に、社会調査を行う主体については様々であることから、閲覧の請求があった場合には、厳格な審査を行う必要がある。具体的には、次のような事項を明らかにさせ、必要な資料の提出を求めることが考えられる。また、個々のケースについて、判断が困難な場合には、市町村において、個人情報保護条例に基づく審議会に諮問した上で判断することも考えられる。
 
① 請求者の氏名・住所
所属する事業所等の名前、所在地、責任者
委託を受けて調査を行う者については、委託者の名前、所在地、責任者
② 請求事由及び閲覧したい住民の範囲
調査等の内容の分かる資料
住民基本台帳を利用する必要性
調査結果の公表の方法・時期
③ 情報の管理・廃棄体制
閲覧により取得した個人情報の管理・廃棄の方法、時期
④ ①〜③の裏付けとなる資料
例法人登記、事業所概要
大学の委員会又は学部長による証明書
日本世論調査協会、市場調査協会等による証明書
プライバシーマーク
⑤ 誓約書
目的外に利用しないこと等
 
イ 国及び地方公共団体の職員が職務上の必要から閲覧を請求する場合については、従来は請求事由を明らかにする必要がないこととされているが、不特定多数の住民について閲覧を請求する場合については、犯罪捜査等に必要な場合を除き、原則として請求事由を明らかにするとともに、少なくともその属する機関の所掌事務又は業務の遂行として行っていることを手続的にも明らかにすべきである。
(3)閲覧方法等
ア 閲覧用の住民基本台帳の一部の写し(以下「閲覧用リスト」という。)の作成方法については、一部の市町村で閲覧用リストを氏名のアイウエオ順で作成する等の対応をとっている。本報告で提言するような、閲覧できる場合の限定、審査手続の整備等の抜本的な見直しを行うことにより、閲覧用リストの作成方法については、今後は、居住関係を公証する制度との観点から、町字等の地区ごとに住所順とすることを基本とすべきと考えられる。
イ また、請求者に閲覧させる際には、請求事由に応じて必要な範囲を超えて閲覧することがないように、原則として職員の面前で行わせるとともに、閲覧者が閲覧し書き写した内容について請求事由と齟齬がないか確認するとともに、そのコピーを保管しておくことが適当である。
なお、閲覧用リストではなく、コンピュータの端末で閲覧をさせることも考えられるが、その場合、必要以上に閲覧させることがないような措置を講ずる必要がある。
ウ閲 覧の手数料についても、一部の市町村では、閲覧を制限する観点からその引上げ等が行われているのではないかと考えられるが、閲覧制度を抜本的に見直すことにより、手数料の取扱いについては、その閲覧制度の事務処理に必要な額とすべきと考えられる。
 
(4)不正な目的での閲覧や目的外利用を防ぐための仕組み
ア 国や地方公共団体については、行政機関個人情報保護法や個人情報保護条例等による制限が働くこととなるが、それ以外の者に対して、不特定多数の者の閲覧を認める場合には、目的外に利用しないことを条件に閲覧を認めることとすべきである。併せて、閲覧を認めた相手方と請求事由等の概要を公表することにより、透明性を高めることが適当である。
イ アの担保措置として、市町村長から閲覧により取得した個人情報の利用状況及び管理・廃棄について報告を求めることとすべきである。
不正な目的での閲覧や目的外利用が判明した場合には過料に処すこと等、(不正閲覧等の公表、刑罰)を検討すべきである。
(5)住民票の写しの交付制度等の見直し
ア 住民票の写しの交付制度については、現在でも請求事由の審査等がかなり厳格に運用されており、個人情報保護の観点から、更に厳格な運用を確保することにより適切に対応することが可能であると考えられる。
特に、国や地方公共団体の職員による職務上の請求や弁護士等の職務上の請求については、その職名又は資格及び職務上の請求である旨等を明らかにして請求する場合は、請求事由を明らかにしなくてもよいこととされている中、近年行政書士等による職務上請求用紙の不正使用等の事件が発生していること等も踏まえ、各業士からの職務上の請求に当たっては、詳細な請求事由まで明らかにさせることは必ずしも必要ないが、住民票の写しの使用目的(根拠法令等)、依頼者名、提出先については、職務上の請求であることを明らかにする観点から記載させるなど手続を明確にする必要がある。
また、請求者に対する身分証明書の提示等本人確認を徹底する必要がある。
イ 戸籍の附票とは、本籍地で作成される戸籍と住所地で作成される住民票との間を連絡、媒介して、戸籍と住民票の共通記載事項の内容を一致させるとともに、住民基本台帳の記録の正確性を確保するための帳票である。戸籍の附票の写しについては、不動産の登記等、過去の居住関係の公証が必要な場合に利用されているものであり、アに準じて手続の明確化等を図るべきである。
ウ 戸籍の謄抄本の交付制度の見直しに係る検討とも整合を図るべきである。
3 選挙人名簿抄本の閲覧制度の見直し
(1)選挙人名簿は、投票できる者の範囲を確定するために、市町村の選挙管理委員会によって調製、保管される公簿である。選挙人名簿への登録は、当該市町村の区域内に住所を有する年齢満20年以上の日本国民で、引き続き3ヶ月以上当該市町村の住民基本台帳に記録されている者について行うものとされている。また、選挙人名簿には、選挙人の氏名、住所、性別及び生年月日等の記載をすることとされている。
(2)選挙人名簿については、その正確性を確保するため、市町村の選挙管理委員会は、選挙時(選挙の期日の公示又は告示の日から選挙の期日後5日に当たる日まで)を除いて、選挙人名簿の抄本(住所、氏名、生年月日、性別を記載)を閲覧に供し、その他適当な便宜を供与しなければならないこととされている。これは、選挙人名簿を常時選挙人の目に触れさせておくことにより、選挙人名簿の正確性を確保しようとするものであり、選挙人は、選挙人名簿に脱漏、誤載又は誤記があると認めるときは、市町村の選挙管理委員会に対して、調査の請求をすることができることとされている(公選法29条2項及び3項。)
(3)現在、選挙人名簿抄本の閲覧は、
① 選挙人が自己又は特定の選挙人について登録の有無を確認するために閲覧する場合のほか、
② 候補者等、政党、政治団体が選挙運動や政治活動を行うために閲覧する場合
③ 報道機関や学術研究機関が世論調査や学術調査を行うために閲覧する場合
に認める取扱いがなされている。
一方、ダイレクトメール等の営利目的での閲覧は認めておらず、各市町村の選挙管理委員会において要綱等を定め、事務処理が行われている。
ただ、市町村の選挙管理委員会などからは、選挙人名簿は住民基本台帳に基づいて調製されること、法令上閲覧を拒否できるといった規定がないこと、登録者の有無の確認といった選挙人名簿の正確性の確保に結果的につながっている閲覧はあまりないことなどから、選挙人名簿抄本の閲覧は住民基本台帳の一部の写しの閲覧で代替可能であり、選挙人名簿抄本の閲覧制度について、廃止も含めた見直しを行うべきとの意見もある。
また、本検討会において意見を聴取した一部の団体からは、本人が登録の有無を確認する場合を除いて、原則として閲覧制度を廃止すべきとの意見があったところである。
しかしながら、選挙人名簿は住民基本台帳と連動しているものの、選挙人名簿の登録・抹消については、住民基本台帳とは別の制度として市町村の選挙管理委員会が当該市町村の区域内に住所を有するか否かを判断する仕組みとなっており、住民基本台帳の一部の写しを閲覧することができれば選挙人名簿抄本の閲覧はしなくてもよいことにはらなない。
また、選挙人名簿への登録の有無は選挙権の行使と密接に関連するものであり、本人が自己又は特定の者について登録の有無を確認する手段は選挙の公正な執行のために必要不可欠である。
さらに、現状において、②及び③の場合の閲覧件数は極めて多く、仮に閲覧制度を廃止することとした場合には選挙運動・政治活動や世論調査・学術調査に大きな支障を来すおそれがあるとの意見も多く出されたほか、諸外国においても類似の制度が設けられているところである。
これらの点を踏まえると、住民基本台帳の一部の写しの閲覧制度の見直しを行うのに併せて(4)の見直しを行うことを前提に、今後とも閲覧制度を存続する必要があると考える。
(4)現行の選挙人名簿抄本の閲覧制度について、閲覧を拒否できる場合が法令上明確ではないとの問題点があることから、個人情報保護の観点を踏まえ、次のような見直しを行うべきである。
ア 公職選挙法第1条に「選挙制度を確立し、選挙が選挙人の自由に表明せる意思によって公明且つ適正に行われることを確保し、もって民主政治の健全な発達を期することを目的とする」旨規定されており、公職選挙法の目的に即して閲覧できる場合を法令上明確に位置づけることが必要である。
① 選挙人が自己又は特定の選挙人の登録の有無の確認を行うために閲覧する場合
選挙人名簿の正確性を確保するために当然に必要な閲覧である。
② 候補者等、政党、政治団体が選挙運動や政治活動を行うために閲覧する場合
選挙運動や政治活動は、民主政治の健全な発達の基礎となるものであるとともに、選挙人の意思の決定に寄与するものである。
③ 報道機関や学術研究機関が政治・選挙に関する世論調査や学術調査を行うために閲覧する場合(P5 aのうち政治・選挙に関するもの)
報道機関や学術研究機関が政治・選挙に関する有権者の意識や関心についての世論調査や学術調査を行うことは、政策形成の一助になっており、民意を顕在化し、民主政治の質的な充実を図る上で欠くことができない公益性を有しており、選挙人の意思の決定に寄与するものである。
なお、②及び③についても、間接的に選挙人名簿の正確性を確保するという面もある。
イ ②及び③の場合、その主体の範囲を明確に画することは困難であり、偽りその他不正の手段による目的外の閲覧を防止するため、閲覧に関する事務処理の基本的な手続規定を法令に定めることとすべきである。
その際、公職選挙法令の規定や市町村の選挙管理委員会の要綱等で定められている手続も踏まえ、次のような事項を明記した資料の提出を求めるなど住民基本台帳の一部の写しの閲覧に係る手続に準じた手続を整備すべきである。
 
・閲覧しようとする者の氏名、住所
・閲覧理由
・閲覧したい選挙人の範囲、その理由
・閲覧により取得した情報の管理・廃棄の方法
・(③の場合)選挙人名簿抄本の閲覧が必要な理由、調査の内容が分かる資料、調査結果の公表の方法・時期
・誓約書(目的外に使用しないこと)
 
さらに、現行法では、偽りその他不正な手段によって選挙人名簿抄本を閲覧した者に対する制裁措置がないため、住民基本台帳の閲覧に準じた制裁措置を設けるべきである(①を含む。)
②及び③については、民主政治の健全な発展に資するという公職選挙法の目的に即したものとして閲覧を認めるものであり、手数料は徴収しないことが適当である
ウ 市町村の選挙管理委員会は、選挙人名簿抄本を閲覧に供するほか、その他適当な便宜を供与しなければならないこととされているが、その範囲は「予算と労力の範囲内」と解されている。このため、市町村の中には選挙人名簿抄本のコピ−を認めている団体と認めていない団体がある。また、個人情報保護の観点からは安易に認めるべきではないとの意見がある一方、コピーを認めてほしいとの意見もある。
本検討会としては、前記のとおり選挙人名簿抄本の閲覧制度について、一定の見直しを行った上で存続することが必要であるとしたところであるが、選挙人名簿抄本のコピーを認めている市町村は全体の約4分の1にとどまっており、また、コピーを認めることは個人情報保護の観点から適当ではないと考えられることから、この際法律上の便宜供与の規定は削除すべきと考える。

【参考1】 報告書(案)の概要(PDF)
http://www.soumu.go.jp/menu_03/shingi_kenkyu/kenkyu/daityo_eturan/pdf/j_daityo_eturan08_san1.pdf
【参考2】 第7回検討会における主な意見(PDF)
http://www.soumu.go.jp/menu_03/shingi_kenkyu/kenkyu/daityo_eturan/pdf/j_daityo_eturan08_san2.pdf
【参考3】 住民基本台帳法の目的規定の改正経緯(PDF)
http://www.soumu.go.jp/menu_03/shingi_kenkyu/kenkyu/daityo_eturan/pdf/j_daityo_eturan08_san3.pdf
【参考4】 罰則規定について(PDF)
http://www.soumu.go.jp/menu_03/shingi_kenkyu/kenkyu/daityo_eturan/pdf/j_daityo_eturan08_san4.pdf
【参考5】 「学術調査と個人情報保護−住民基本台帳閲覧問題を中心に−」(日本学術会議 社会学研究連絡委員会)(PDF)
http://www.soumu.go.jp/menu_03/shingi_kenkyu/kenkyu/daityo_eturan/pdf/j_daityo_eturan08_san5.pdf
【参考6】 公益性が高いと考えられる事例(PDF)
http://www.soumu.go.jp/menu_03/shingi_kenkyu/kenkyu/daityo_eturan/pdf/j_daityo_eturan08_san6.pdf

参考6
世論調査、学術調査などいわゆる社会調査のうち公益性が高いと考えられるものの
a対象者を抽出するために閲覧する場合

  • 新聞社が報道目的のために行う有権者の各党の施策についての意識調査

新聞で結果が公表され、社会に還元されるとともに、国や地方公共団体の施策にも反映されることが期待される。

  • 大学附属の研究機関が学術研究目的のために行う都市計画についての意識調査

学会や大学の発行誌等で論文として結果が公表され、社会に還元されるとともに、国や地方公共団体の施策にも反映されることが期待される。

昭和40年から行われている調査で、調査結果は報道機関等を通じて広く国民に公開され、国や学術研究機関等にも利用されている。
b社会福祉協議会自治会などの公共的な団体が住民サービスの向上につながるような公益性の高い事業を実施するために閲覧する場合等

  • 自治会が行う当該自治会の区域内の新入学児童に対して入学祝い品黄色い帽子ランドセルカバーなど)を支給する事業の対象者を把握するための閲覧
  • 自治会が行う敬老会の開催案内を通知するための閲覧
  • 社会福祉協議会が行う敬老入浴券等を贈る事業の対象者を把握するための閲覧

市町村からの委託や補助を受けて行う場合のほか、一般からの寄付金などに基づいて事業を行う場合が考えられる。
市町村の担当課において(個人情報保護条例に基づく審議会に諮問して)該当者の名簿を提供することも許容されるような場合

  • マンションの管理組合がマンションの管理業務のために行う当該マンションの住民の居住確認のための閲覧

管理業務の内容、他に代替手段がないかを検討した上で、居住確認について確認する特別な理由があると考えられる場合

 
住民基本台帳制度を自己情報決定権を実現するために見直す必要性はあります。ただし、閲覧制度それ自体には一定の公益性があるますので、自己情報決定権と閲覧制度公益との調整を計る必要があります。プライバシーか閲覧かどちらをとるかといった二項対立的な発想は間違いであり、個人的法益も社会的法益もどちらも両立させなければならないということです。
自己情報決定権という権利概念の明確化がいまひとつはっきりしない部分もありますが、報告書案は比較的バランスのとれたものであるように思われます。
 
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関連ログ。
 

住基ネット差止め訴訟:金沢地裁判決「改正住基法は憲法13条に違反する」
住基ネット差止め訴訟についてのマスメディアの言論
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20050605
住民基本台帳閲覧制度検討会:国民の知る権利は守られるのか?
民主党住民基本台帳法一部改正案の意見を募集
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20050510
総務省電子政府・電子自治体推進本部
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20050312

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