反性教育の動向(6):文科省「セックスを認めない。避妊方法も教えない」

山谷えり子議員などの性教育バッシングにより文部科学省では「中央教育審議会初等中等教育分科会健やかな体を育む教育の在り方に関する専門部会」で性教育見直し作業が行われていましたが、「高校生以下のセックスを認めない。避妊方法も教えない」という議論が文部科学省でなされているようです。
本気かあ? セックスして病気になった子どもや、妊娠した子どもへのサポートが低下し、子どもを見捨てる環境を整備することにならねば良いのですが。
 

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高校以下の性行為容認せず 中教審が基本方針 - 共同通信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20050714-00000243-kyodo-soci

性教育について議論している中教審の専門部会は14日までに、高校生以下の子どもの性行為を容認すべきではないとする立場に立って性教育の指導をすることで一致した。中教審が子どもの性行為を許容しないとする基本方針を示すのは初めて。
同日の専門部会で示された、審議経過の概要案で明らかになった。
文部科学省の学校健康教育課は「性行為を一切禁止するものではないが、性教育をする前提として、性行為を容認しないことを基本スタンスにしたい」としている。
専門部会は、高校卒業時点で身に付けているべき性教育の内容を議論。性行為について「子どもたちは社会的責任が取れない存在で、性感染症を防ぐ観点からも容認すべきではない」とした。

 
確認したところ、1月31日の文部省中央教育審議会初等中等教育分科会健やかな体を育む教育の在り方に関する専門部会で、「性行為はセーブした方が健康のためには良いというメッセージは、はっきりと出していくべきではないか」「コンドームを扱う前に「性交すべきでない」ということを教えるべきである。」と発言していたのを確認しました。
正直、中教審がここまで政治にあっけなく左右されてしまうとは予想していませんでした。政治では有権者のフレームアップを狙った政策が行われるにしても、官僚・学者はまともな政策が議論されるというのが、文部科学省のかつてのパターンでしたので。それだけ小泉内閣の官邸の独裁体制が深く進行してしまっているということなのでしょう。官僚政治には問題がありますが、かといって熱狂した民意や高すぎる支持率も危険だ。
性教育の縮小を求める委員が多数いる一方で、おそらく別な委員だと思いますが、「子どもの現実を全く無視して、禁欲のみを訴えることは効果的でないと考えられる」という正反対の意見も出されています。
しかし、異なるふたつの意見が委員から出ていますが、そこできちんとして学問的な議論をしているかというとそうでもない。なんとなく「性教育を縮小しなければならない」という気分に中教審が支配されているように見えます。
報道によると、文部科学省の学校健康教育課は「性教育をする前提として、性行為を容認しないことを基本スタンスにしたい」と言っているそうですが、禁欲教育に対する疑問の声があるにもかかわらず結果的に禁欲教育に与する立場を学校健康教育課がとらざるを得なくなっているあたりに、政治の“臭い”を感じます。
 

文部科学省

平成17年3月11日 中山成彬文部科学大臣会見概要*1
http://www.mext.go.jp/b_menu/daijin/05031801.htm

それと私のほうからもう一つお話をさせていただきますが、先日の参議院予算委員会におきまして、行き過ぎた性教育についてご質問いただきました。事務方に検討させた結果、次のような方針で対応することといたしましたのでご報告申し上げます。まず第一に、性教育についての基本的考え方の周知徹底でございますが、文部科学省では、これまでも性教育に取り組む上での基本的な考え方等について、参考資料の作成・配布や各種研修会の開催等により周知等に努めてきたところでございますが、今後、実践事例集の作成・配布や、文部科学省主催の指導者講習会の開催等により、さらに周知徹底を進めていきたいと思います。第二に、性教育の実態の把握でございますが、まず現時点で調査項目等の細部がまだ決まっておりませんが、4月から性教育の実態調査を行い、実態の把握に努めることとしたいと思っております。なお、調査の過程で、都道府県教育委員会からのヒアリングも実施する予定でございます。取りまとめられた内容については、中央教育審議会へ報告し、議論していただきたいと考えております。また、教育御意見箱、これは仮称でございますが、これを3月中旬より開設しまして、性教育を含め、学校現場における教育活動などに関し広くご意見やご質問を募集したいと考えております。第三に、中央教育審議会での性教育に関する検討でございます。今後の性教育に関しましては、中央教育審議会で議論していただきたいと考えております。その際、これからの取組で把握できる資料については、積極的にご報告し、議論していきたいと考えております。これらの取り組みによりまして、私としては、しっかりと実態を踏まえ、是正すべき点は是正しつつ、今後の在り方についても検討を進めていきたいと考えております。

中央教育審議会初等中等教育分科会健やかな体を育む教育の在り方に関する専門部会(第7回)議事録・配付資料
平成17年5月27日(金曜日)10時〜13時
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/siryo/022/05071304.htm

性教育について】
○オーストラリアのある州では性と人間関係に関する教育として行われている。低学年では親子関係、中学年では友人関係を学び、それを基盤に男女の健康的な人間関係を学習している。日本の性教育も人間関係に関する内容を増やし、道徳なども含めて総合的に取り扱うことが重要ではないか
○全米50州の性・エイズ教育のガイドラインでは、49州がコミュニケーション能力を扱っている一方で、コンドームの使い方は20州も実施していない。*2
○日本では一部分での性の捉え方しかしてない。性感染症や性の問題行動などの現象面に目が奪われており、人との関わり、人へのいたわりに関しては抜けてしまうのではないか。
性教育とは何かという目標、ねらいを明確に学習指導要領に明記していく必要があるのではないか。
性教育は道徳、特別活動など学校全体で取り組まれているが、指導内容が示されていないため問題になっているのではないか。今後、道徳、特別活動においても指導内容を示すことが必要ではないか
○望まない妊娠、性感染症などの問題については、道徳の問題も含め必要な課題として取り組むべきではないか。
○親子関係や男女の正しい在り方を超えて、親が自分の子どもにできないことを学校教育に求めているのではないか。
性教育は発達段階に応じて行われるべきであり、小学校低学年からコンドームを扱うような教育はしてほしくない。人間関係に関する教育は小学校低学年から教えるべきである。
コンドームを扱う前に「性交すべきでない」ということを教えるべきである。
文部科学省教育委員会が最低限の性に関する知識について具体例を示して、それを保護者に配布し学校と連携して教育を行うことが望ましい。さらに指導が必要な子どもには個別指導すればよいのではないか。
性の問題について学校で行う基本はコミュニケーションであり、コンドームではない。対人関係こそがベースである。
現実に性感染症の問題などはあるが、それが全体ではない。
また、学校のカリキュラム作成に保護者が参画する仕組みをつくるべき。
○メディアが助けてくれないと世間はわかってくれない。親子で話し合うことができるような番組が必要ではないか。学校も親にメッセージを出すべきだし、保護者が性教育について責任を果たすべきである。
性教育は人間教育と切り離せないし、人間関係が軸になるものであると考える。家庭の問題が大きい。家庭で満たされない子どもに限って想像をはるかに超える性行動が起こっているのが現状。問題となっている行き過ぎた性教育は実際は数少ないと思っている。むしろ積極的に取り組もうとしない場合の方が多いのではないか。
○性に関しては、学校教育よりも家庭、友人、メディアなどの影響が大きい。学校教育でどこまでできるか議論していかなければならないのではないか。
○学校は指導計画をどのように作るかが重要であり、これが十分でないと連携も教育もできないのではないか。また、教員の資質向上にも視点を据えて、指導方法を含めて進めていかないと十分に進んでいかないのではないか。
○コンドームに関しては、使い方を教えることに対して議論がなされていると思うが、アメリカでも20州に満たない状況であり、学校教育では扱うべきでないというのが現在のアメリカの動きである。

中央教育審議会初等中等教育分科会健やかな体を育む教育の在り方に関する専門部会(第5回)議事録・配付資料
1 日時 平成17年1月31日(月曜日)10時〜13時
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/siryo/022/05071302.htm

5 出席者
(委員) 浅見主査、衞藤主査代理、伊藤委員、牛山委員、甲藤委員、勝野委員、川畑委員、久慈委員、三枝委員、斉藤委員、辻委員、中村(和)委員、中村(康)委員、成田委員、ヒックス委員、星委員、堀内委員、増田委員、三木委員、和唐委員
(事務局) 尾山スポーツ・青少年総括官、宮内健康教育企画室長、戸田体育官
(略)
性教育について】
○子どもの現実を全く無視して、禁欲のみを訴えることは効果的でないと考えられる。「性行為や性衝動についてある程度の抑圧的な教育・指導が必要ではないか」という意見も出されているが、その場合の「教育・指導」と、いわゆる「純潔教育」はどこが違うのか、よく議論する必要がある
(略)
性教育においては人間尊重という視点が重要である。性教育は、保健体育や道徳などの関連教科で指導されているが、人間尊重という視点について学校教育でどのように取り扱うべきか検討すべきではないか。
○数年前に実施した青少年の危険行動に関する調査の中で、中学生以上には性に関する問題も取り扱ったが、中学生の時期から性に関する問題を起こす子どもは自尊感情が低いようである。性教育は、教科だけでカバーできるものでなく、学校教育全体で行うべきものであるが、そうした広い意味での性教育において自尊感情について取り扱うことは重要ではないか。
○また、マスメディアの影響は非常に大きなものがあるので、性の問題に関して、マスコミからの情報を適切に判断し、選択できる能力を涵養することが重要ではないか。
文部科学省では、性教育に関し、モデル事業的なものを実施しているのか。
△平成5年度からエイズ教育(性教育)推進事業」という事業を実施している。小・中・高等学校を含む地域を指定し、効果的な指導方法等について調査研究を実施する事業であり、実践の成果を研修会等の場で発表している。
○そうした実践を行った学校は、他の学校と比べてよい成果が上がっているというようなデータはあるのか。
事業を実施した結果、男女の理解が進み子どもがやさしくなった、マスメディアの情報に対する選択の能力が育ったなど成果は上がっていると聞いているが、事業を実施しているところと実施していないところの比較等は行っていない。
○ある研究団体における子どもの性に関するアンケート調査においても、学校間の比較は行っていない。
性教育に消極的な学校は、アンケート調査に対しても、「調査で薮をつつくな」という発
○そのようである。「寝た子を起こすな」という発想は残っていると思う。
○これまで幾つかの学校で勤務してきたが、性の問題についての実態は学校ごとに様々であり、子どもの実態を踏まえた対応が重要である。現行の学習指導要領で示されている内容をそれほど増やす必要はないと思う。
○「愛のない性行為は認めるのか」と聞かれれば、大人は「認めない」と言うと思う。「性行為や性衝動についてある程度の抑圧的な教育・指導が必要ではないか」という意見は、大人として子どもに伝えるべきことはしっかりと伝えるべきという趣旨である。
○マスコミからの情報を適切に判断し、選択できる能力を涵養する場合、そのような内容をどの年齢で扱うのか検討する必要があるのではないか。
○オーストラリアのある州では、性行為をしないで愛を確認し合う方法がどれだけ沢山あるかということを子ども同士の議論により理解させるというプログラムがある。また、性感染症を防ぐ方法について議論させ、その選択肢として、コンドームを使用するなど以外にも、性行為をしないということを気付かせるというプログラムもある。これらは、決して上から下へ一方的に伝えるというのではなく、子ども自身に考えさせていく中で、教師がメッセージとして伝えていくというプログラムである。
このように、様々な情報を総合して、意志決定や行動選択をすることができる能力を身に付けさせることは、保健という教科における重要な要素の一つではないか。
ある程度判断力がつくまでは、性行為はセーブした方が健康のためには良いというメッセージは、はっきりと出していくべきではないか。
現行の高等学校の「保健体育」の学習指導要領で、「生殖に関する機能については、必要に応じ関連付けて扱う程度とする。」とされていることに対して意見があったが、これは、性に関する意志決定や行動選択に関する内容を重視していく中で、生殖に関する機能については、性に関する意志決定や行動選択に関する内容を扱うに当たっての基礎・基本として「必要に応じて関連付けて」扱うとしたものである。

中央教育審議会初等中等教育分科会 > 健やかな体を育む教育の在り方に関する専門部会(第4回)議事録・配付資
日時 平成16年12月21日(火曜日)10時〜13時
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/siryo/022/05071301.htm

5 出席者
(委員) 浅見主査、衞藤主査代理、伊藤委員、牛山委員、甲藤委員、勝野委員、川畑委員、久慈委員、三枝委員、斉藤委員、高橋委員、辻委員、中村(和)委員、中村(康)委員、成田委員、野津委員、ヒックス委員、星委員、堀内委員、増田委員、三木委員、和唐委員
(事務局) 尾山スポーツ・青少年総括官、岡本企画・体育課長、山口学校健康教育課長、宮内健康教育企画室長、戸田体育官
(略)
性教育について】
◎自由にご意見をいただきたい。
○先日、田舎の小さな小学校の中学年を対象にした性教育の授業を参観した。男女一緒に、親も参観しながら授業が行われていた。私が学校に通っていた時には、性教育は全くなかったに等しく、女子に対して生理の指導があった程度だった。命という大切さという観点から、今後、中学生であろうが、高校生であろうが、性的行為をしてはいけないんだということについては、きちんと教えていく必要がある。ただ、学校間で差があるようであり、基盤づくりをする必要があるのではないかと感じている。
○子供は、心や体の発達、育った環境、考え方などが一人一人異なっている。そのような子供の集団において共通に勉強することは何かということ念頭に置いて、学校で性教育を行っている。性教育は、職員全体が共通理解の中で計画的に行う必要がある。集団指導とともに個別指導も必要に応じて行っているが、集団指導と個別指導は内容が異なるのが当然だと考えている。
性教育」は、豊かな人間性をはぐくみ、自分の生き方を充実させることにねらいがあると考えている。性教育は、心の健康と深くかかわっており、学習した内容を行動に移すためには自尊感情が重要である。
○我が国では性に対する捉え方が様々であり、学校における性教育の捉え方も教師によってもかなり異なることを認識しておく必要がある。学校における性教育として、今、現場で対応しなければならないことは大きく2つに分けられるのではないか。
1つには、10代の人工妊娠中絶や性感染症の増加などの問題を考えた時の対処療法的な指導である。しかし、それだけでは目的は半分であり、行動選択させるための基盤となる自己肯定感や自尊感情を育てる必要がある。コンドームをつけたらうまくいくというようなハウツーを教えるだけでは不十分である。いざとなったときにそのような対応をすれば良いという問題ではないということを教える必要がある。
また、発達段階に応じて指導することは当然であるが、心身の発達の状態には個人差がある。したがって、一律に指導すべきものと、個別に対応しなければならないものの区別を明確にする必要がある。
また、「保健」の中で、自分の体がどのように変化して、大人の体になっていくのかということを、科学的な知識としてしっかりと理解させることが重要である。
道徳や特別活動など他教科との関連性を、しっかりと洗い直することも重要である。
○教科の中で扱うということは、一律に集団全体に働きかけるというスタンスである。一方、保健室での指導などは、個人を対象とにした現実に合わせた指導である。学校教育の中でも、教科の部分とそれ以外の部分、あるいは教科間で役割分担を明確にしておく必要がある。現行の学習指導要領に基本的に書かれていることは、オーソドックスな良いスタンスだと思う。
「保健」で、体の発育、発達についてしっかり教えることは重要である。
現在は、小学校では「体育」で、中学・高校では「保健体育」で指導しているが、そのすみ分けについても将来的には考える必要があるのではないか。
一律で教える教科の指導とは異なる個別指導においては、妊娠や性感染症などの問題について学校や地域の状況によって対応をある程度変えるなど、柔軟性を持たせた方が良いのではないか。その点を明確にすれば、学校で性教育として何をすべきかが明確になるのではないか。
○学校現場では、性病にかかったかもしれないという相談や、出会い系サイトをきっかけとした援助交際にまつわる相談を受けるなどの実態がある。このような実態に対し、個別に対応できるようにしておく必要がある。
私の学校では、世界エイズデーに際し、養護教諭が保健だよりを作成した。その中で、性交渉で感染するからコンドームの使用が必要だという記述があっが、何人かの先生から「寝た子を起こすな」という意見があった。
女性が一生のうちで排卵する卵子の数を計算し、あなたたちの命は多くの可能性のうちのたった一つの卵子精子が結びついた大切な命なのだという授業をした後に、肉親からの虐待が疑われる子で、「僕なんて生まれてこなきゃよかった」が口癖だった子が、「僕っていてもよかったかもしれない」という発言に変わった。この時、授業で性を扱うことはとても重要だと実感した。
○参考資料の「性教育に関する有識者の意見」のA委員の3つ目の中の3つ目のが、私の「性教育」に関する考え方と非常に似通っている。「相手を思いやる心の醸成」の前に、例えば「自分や他者の価値を尊重し、相手を思える心の醸成」と変えると、学校で行う「性教育」で基本にすべきことではないかと考える。
ここに書かれていることは、「心の健康」や「体の健康」についての情報に関する判断能力と重なっている。性教育はまずこうしたことを基本にしながらすべての子供に指導し、その上で具体的な知識を指導するというアプローチが必要だと思う。個々の危険行動にだけ目を奪われるのではなく、危険行動の根底にある、自尊感情や対人関係の能力の問題などにまず目を向けることが、これからの方向性ではないか。
だまされないということを、特に中学生にしっかり教えるべきである。また、性感染症に関してしっかり理解させる必要がある。妊娠についても理解させなければならないが、基本的には、簡単にだまされないという教育が非常に重要であると思う。
○性の問題を抱えている中・高生がいる一方で、人とのかかわりがうまくいかず、同年齢の子供と対等につき合いができない子もいる。人とのかかわりの問題や、人間にとって性がどういうものかということを教えていくことが重要ではないか。
今、現場は非常に両極端である。引いてしまって、取組が行われていないところがある一方で、どうしてこういうことを子供に教えなければいけないのかと疑問を持つような内容を教えている事例もある。
科学的な知識をしっかり教えた上で、相手を大事にすることや、人とかかわるためにはどうしたら良いかということを学ばせる場が必要だと思う。特別活動や道徳などとの関連性を検討しないと、「保健」の分野だけで解決できる問題ではないのではないかと考える。
○現行の学習指導要領では、小学校の4年で精通や初経を扱うとなっているが、これについては議論が今でもある。発達段階を踏まえた指導内容にすることついては、慎重に検討を行うべきである。
性教育は議会でも問題になっている。
中学校では、性交とコンドームの扱いについて特に問題になるので、今後検討が必要ではないかと考える。

 
性的自己決定権を含めた“人権モデル”による教育やリプロダクティブヘルス/ライツに基く教育を縮小し、単一の宗教的価値を前提にした“道徳モデル(宗教モデル)”による道徳教育や禁欲運動(=性交する青少年の社会排除)を展開しようという文部科学省の意図を感じます。
 
人権モデルと道徳モデルの違いなどについては次の情報を参照してください。
 

特集・商業的性的搾取の撤廃をめざして 横浜会議から人権論への問題提起
〜「人権モデル」と「道徳モデル」森実(もりみのる)エクパットジャパン関西大阪教育大学助教
http://www.hurights.or.jp/newsletter/J_NL/NLJ42/NLJ42_3.htm


「道徳モデル」とは、援助交際子どもポルノを性的な倫理からの逸脱と見なす立場である。この立場からすれば、子どもを性的な存在と見なすことそのものが許せない。だから、性的なものすべてを子どもから遠ざけようとする。日本の法律も基本的には「道徳モデル」に立っている。
この立場からは、一番の土台に「淫行」(=性的に無軌道な行い)という概念が置かれる。「淫行」から守るために、「青少年の健全育成」が進められる。健全育成のためには、「援助交際」や「有害図書」があってはならない。
それに対して「人権モデル」は、それらが現実的な被害を子どもたちに及ぼすからこそ問題にする。たとえば、性的虐待を受けている場面を写真などに撮られると、それはどんどん一人歩きしてしまう。後々までいつ誰が見るか分からない。撮られた子どもは不安でならない。性的虐待が、一生にわたって影響を及ぼすことになる。「人権モデル」が子どもポルノを問題にするのはそのような理由からである。
「人権モデル」に立つと、土台に据えられる概念は、「子ども虐待」となる。「子ども虐待」は子どもの心身に深い影響を残す。「子ども虐待」の一環として「子どもへの性的虐待」がある。「性的虐待」は、「虐待」全般のなかでも特に深刻な被害が生じやすい。「子ども買春」や「子どもポルノ」もこの「性的虐待」の枠のなかで考える。
このように、いずれの立場に立つかによって、言葉づかいや取り組み方が違ってくるのだが、ここで問題になるのは、最近では「人権」という言葉を使いながら、よくよく考えてみると「道徳モデル」に立って論じている人が結構いるということだ。つまり、被害の実態から出発して、そこから必要な取り組みを論じるのではなく、頭ごなしに「○○はダメ」と言ってすませてしまう主張である。
性に関することがらは特に一人ひとり意識が大きく異なる。愛情がない人との性的関係をどのように考えるのか。結婚していない人同士の性的関係を肯定するのか。何歳ぐらいから性的関係を持つことを認めるのか。またそれは一般論として考える場合と、自分の子どもについて考える場合とでどう異なるのか。これら一つ一つについて、個々人の感じ方が異なっている。
「○○はダメ」というのは、多くの場合こういう違いを無視して、自分にとっての「当たり前」を他の人に強制している。人権というのは、そのようなお互いの価値観をぶつけ合いながら、実際の被害を捉えつつ普遍的なルールを求めてきて生まれたルールである。だから、頭ごなしに「○○はダメ」という人々は、たとえ人権という言葉を使っていても、人権とは似て非なる考え方に立っているというのである。

講演要旨:子どもの「性」と自己決定について
〜子どもの権利の視点からトータルに「性」をとらえる〜
買われる子どもたち〜アジアの場合、日本の場合〜 「性」をめぐる子どもの人権について考える 第1回 2003年1月11日 多摩市民館(神奈川県川崎市)
平野裕二(ARC代表)
http://homepage2.nifty.com/childrights/yujihirano/opinions/sexualrights/lecture030111.htm

日本の場合、基本的には「道徳モデル」が支配的であると言ってよいでしょう。「不純異性交遊」という言葉がいまだに用いられているように、青少年が不道徳な行為にたずさわらないように「健全育成」をしなければならない、そのために「有害」な環境から隔離しなければならないという考え方がまだまだ中心になっています。都道府県の青少年保護条例で規制されている「淫行」も、子どもに性的被害が及んだかどうかよりも、社会的に見て「みだらな行為」であったかどうかが判断基準とされます。援助交際にしても、子どもは被害者であるという建前とは裏腹に、子どものほうが「性非行」とか「性的逸脱」を行なったと見なされることが少なくありません。こうした見方が、最近の「出会い系サイト」規制問題でも言われているように、子どもの側も処罰しなければならないという発想につながっていきます。
このように、「人権モデル」に立つか「道徳モデル」に立つかによって、それ以外のさまざまな分野でも異なる対応が導き出されることになります。
(略)
(3)情報・教育の面でも、「エンパワーメント的対応」をとるか、「無菌培養的対応」をとるかというアプローチの違いがあります。たとえば、性の自己決定が行なえるようにリプロダクティブヘルス教育を重視するのか、とにかく大人になって結婚するまでセックスするなという禁欲(abstinence)教育を推し進めるのかということです。アメリカでは後者が中心になりつつあり、日本でもそういう動きが目立つようになってきました。また、子どもが「有害情報」に触れないようにそういう情報を規制するのか、さまざまな情報に批判的に接していくためのメディア・リテラシー教育を推進するのかという点にも、このようなアプローチの違いが反映されています。
(4)被害者への対応をめぐっては、3つのアプローチを挙げることができるでしょう。ひとつは、子どものレジリエンシー(回復力)を重視し、子どもが自分の経験を消化して被害から回復していくのを支援する「エンパワーメント的対応」です。被害を受けた子どもが「回復不可能な傷を負った」などと決めつけず、自分の被害をどうとらえるかということも含めて子ども自身が立ち直っていくことが重視されます。また、子どもには自分の経験をもとにして社会を変えていく力もあるのだととらえます。
次に「保護主義的対応」を挙げることができます。子どもを被害者としてとらえる点では変わりませんが、どのように「保護」するかはあくまで大人が中心になって決定します。子どもの感情や意見を無視した決めつけになったり、「子どものため」ということで、本人の意思に関わらず施設や少年院に入れたりということが起こりがちです。日本ではこれが中心と言ってよいでしょう。
3番目に「懲罰的対応」があります。日本では保護主義的対応が中心とはいえ、ややもすると、「援助交際に関わる子どもも悪いのだから処罰しよう」という発想につながりがちです。出会い系サイトに書きこんだ子どもを処罰しようという動きは、まさに「懲罰的対応」に向かう流れを象徴するものでしょう。その流れを逆転させ、「エンパワーメント的対応」を進めていくための取り組みが必要です。

 
ARCの平野さんが指摘しているように、青少年政策、厚生政策、文教政策において「人権モデル」に基く「エンパワーメント的対応」に基く政策が必要だと思いますし、性教育も同様な対応が必要です。
学校教育によって性交や認識を悪として心に植えつけ、性交や妊娠をタブー視すればるほど、性交した子どもは退学や叱責を恐れて相談できなくなったり援助を受けられなくなったりして、結果として妊娠や性交によって傷つく子どもたちは増えることでしょう。それで良いのだという親たちは多いとは私には思えません。
妊娠中絶は年間30万件。うち十代の中絶は約4万5千人。知らないから感染や避妊に失敗するのであって、知ることで失敗を防げます。だったら教えればいいじゃないですか。知れば知るほど性行動は抑制的になります。性行動を抑制させたいならリスクと対策を教えればいい。どうして教えることをやめさせようとするのでしょうか。
かつて厚生労働省は「感染症対策のために必要なことであるから、青少年保護育成条例の見直しを含め、都道府県でもコンドームの普及を確保すべきである」という通達*3を出したことがあります。厚生労働大臣は文部大臣に「避妊教育は内閣の方針だ。教えるべきことは教えよ」と言うべきでしょう。
 
神戸で開催されたエイズ国際会議(2005年7月1-5日)では、各国の性感染症対策について報告があり、日本の新聞でも報道されていました。
はっきり言って、性教育バッシングなんてやっている場合じゃないと思うのですが…。
 

神戸新聞
第7回アジア・太平洋地域エイズ国際会議
http://www.kobe-np.co.jp/news_now/aapkobe.shtml
海外の性教育報告に熱視線 エイズ国際会議
http://www.kobe-np.co.jp/kobenews/sg/00017695sg300507050900.shtml

神戸市で開催中のアジア・太平洋地域エイズ国際会議で、海外の性教育の取り組みが相次いで報告されている。エイズウイルス(HIV)の若年層への感染拡大は、各国共通の課題。農村部の祭りからテレビ番組に至るまで、若者に性の知識を伝えるための工夫が発表され、シンポジウムなどの会場で議論の輪が広がっている。
タイの学校現場では、感染防止に有効なコンドームの認知度を上げるゲームや、パートナーに装着させるための交渉術を生徒自身が演じるプログラムを導入。新たな感染者を減らすことに貢献している。
インドでは、非政府組織(NGO)が年間を通じて開かれる地域の祭りを活用、性への理解を深めることをテーマに劇やダンスなどを披露する活動を広げている。
一方、フィリピンでは、NGOが国営テレビの枠を買い取り、性教育の番組を毎週、全国放送。科学的なデータや専門家へのインタビューを交えながら、司会の女性三人が性について語る。司会者は視聴者と同じ若い世代。フィリピン社会はカトリックの影響が強く、一部で拒否反応もあったが、多くの視聴者から「分かりやすい」との支持を得ているという。
エイズ国際会議では、性教育をどのタイミングで誰が実施するのか、という議論が各国で続いている現状も報告された。
フィリピンのNGOで活動し、シンポジウムで番組を紹介した早稲田大現代日本研究所の兵頭智佳客員研究員は「国を挙げて性教育に取り組む姿勢と、活動の多様さ。日本はアジアの国々に到底及ばない」と話した。

 
文部科学省への抗議・意見の送付先はこちら。
 

文部科学省
文部科学省に関するメールでの御意見・お問い合わせ窓口案内
http://www.mext.go.jp/mail/index.htm

御意見・お問い合わせ専用メールアドレス voice@mext.go.jp

職員名簿(文部科学省)
http://www.mext.go.jp/b_menu/soshiki2/kanbumeibo.htm

スポーツ・青少年局
局長 素川富司
学校健康教育課長 山口敏
青少年課長 有松正洋
参事官(青少年健全育成担当)
大臣 中山成彬
副大臣 塩谷立
副大臣 小島敏男
大臣政務官 下村博文
大臣政務官 小泉顕雄

 

 
余談ですが、エイズ感染症の治療薬を開発販売している製薬会社や医師は、感染症が増えて患者が増えれば増えただけ利益も増えます。
自由民主党の「過激な性教育ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクト」の座長をしている安倍晋三衆議院議員政治団体「晋和会」は、平成16年9月10日公表された政治資金収支報告書によると、平成15年3月12日、平成15年7月23日、平成15年12月9日に実施された政治資金パーティーで、製薬産業政治連盟から150万円、日本薬剤師連盟から40万円、日本薬業政治連盟から100万円、日本医師連盟から320万円を受け取り、その他にも寄付として日本薬業政治連盟から350万円、日本医師連盟から850万円、日本薬剤師連盟から400万円、製薬産業政治連盟から600万円を受け取っています。
 

総務省
政治資金収支報告書及び政党交付金使途等報告書
http://www.seijishikin.soumu.go.jp/

 
安倍晋三氏の主な“公開されている”政治資金の動きについてはこちらで少し書きました。
 

安倍晋三議員
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20040129

 
リンク。
 

性教育バッシングを許さない人権救済申立HP
http://www.sexuality2003.com/index.html

■ “人間と性”教育研究協議会(性教協
http://www.seikyokyo.org/index.html

 
関連ログ。
 

性教育の動向(1):青少年保護に禁欲教育は逆効果
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20050522
性教育の動向(2):自民党の反性教育ジェンダーフリーキャンペーン
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20050523
性教育の動向(3):報道2001:「つくる会八木秀次氏が立ち往生(1)
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20050525
性教育の動向(4):報道2001:「つくる会八木秀次氏が立ち往生(2)
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20050526
性教育の動向(5):ここまでするのか「過激な性教育ジェンダーフリー教育に関する実態調査」
都立七生養護の件に関する補足
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20050527

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*1:中山成彬衆議院議員(現文部科学大臣/自由民主党/宮崎一区) http://www.nakayamanariaki.com/

*2:アメリカではコンドームの使い方を20州も実施していないと紹介していますが、実施せずに禁欲教育をしているからアメリカでエイズ性感染症が拡大しているのではないですか? どうしてそういう議論をしないのだろう。

*3: http://d.hatena.ne.jp/kitano/20040127/p1