日本版メーガン法制定に萌える馬淵澄夫議員

 

馬淵澄夫衆議院議員(民主党)
http://www.mabuti.net/
まぶちすみおの「不易塾」日記
http://backno.mag2.com/reader/Back?id=0000058393
2005年(平成17年)1月17日 第397号
http://backno.mag2.com/reader/BackBody?id=200501180000000000058393000

年末に解決したとはいえ、奈良の小一女児の誘拐殺人事件でいわゆる性犯罪の再犯が話題となり、性犯罪者情報の提供がこれから議論の焦点となっていく。
私は、今回の事件で三つの論点を整理している。
一つは、インターネットにおける犯罪に関わる情報の氾濫とそれによる犯罪の助長の可能性、そしてそれらに対する社会システムとしての一定の歯止めが必要ではないかいう点。
もう一つは、再犯性が高いという性犯罪者への更生・矯正プログラムの検討。
三つ目は、政府でも検討が始まろうとしている性犯罪者情報の地域への開示の検討である。
インターネット上での犯罪幇助となろう情報の氾濫は目を覆うものがある。
簡単なサイト検索によっても、小児性愛者の情報交換が日常的に行なわれていることがすぐにわかる。もちろんフィクションも含めてだろうがこうした情報の氾濫と、匿名性によって自己顕示が加速されていることを鑑みると、ある一定の歯止めの検討を今から始めなければ手遅れになる状況になるのではないかという危機感がある。
私自身は、情報インフラの自由の保護ということを強く求めてきた一人でもあるが、もはや看過できない側面がある。
また、再犯性が高いといわれる性犯罪者に対して、現行の刑罰では懲役が課されるのみで、犯罪者の心の闇や捻じ曲がっているであろう(?!)嗜好への根本的アプローチがなされていない。
薬物犯罪の矯正などには、まだ、一定の研究成果が反映されているようだが、今後こうした犯罪類型ごとの矯正プログラムは、社会システムとして要求されていくことだろう。
そして、犯罪者情報の提供問題。
法務相が、慎重論を唱えているようではあるが、ある一定の方法は検討しなければならないと思う。
確かに、米国のメーガン法や英国や韓国の情報開示の法律など諸外国の例もあるのだが果たして、ムラ社会のわが国の風土に見合うのか?。
むしろ、慎重に日本版メーガン法を検討しなければならない。
このように、地元の事件は私に多くの政治課題を突きつけた。
決して不法地帯でも無法地帯でもない、西奈良。
いやむしろ、凶悪犯罪は昨年で719件の減少、その前年は384件の減少と全国屈指の治安向上地域で起こった事件。
言い換えれば日本全国どこでも起こりうる事件であるといえる。
その意味で、社会システムの毀損部分として取り組まなければならない課題がその背景に多く潜んでいると、理解すべきである。
今年の課題として、一つ真剣に取り組むことが増えた。

まぶちすみおの「不易塾」日記
2005年(平成17年)1月21日 第400号
http://backno.mag2.com/reader/BackBody?id=200501212210000000058393000

引き続き性犯罪者問題について調査を重ねる。
法務省からのヒアリング。
矯正局と保護監察局から、性犯罪者だけに限らずだが、矯正の現況や仮出獄者の保護観察制度の状況を聞く。
全くの素人として話を聞いたのだが、現実を知って驚いた。
明治41年に制定されたままの監獄法によって刑務所での刑の執行運用がされているのだが、懲役を課せられた受刑者に対しては、例えば矯正プログラムなどの受講は現行法制下では課せられないのである。
今、どうしてるか?。
受刑者に対して、希望を募っているのである(!!!)。
さらには、その方法とは「集団討議」や「日誌指導」だという。
「矯正プログラム」以前の問題だわな。
うーん、これは根深いぞ。
性犯罪者の再犯防止や抑止の社会システムの構築には、相当のエネルギーを費やす必要がありそうだ。
さすがに問題意識はこの事件とは関係なくあったようで、今回の補正予算や来年度の予算措置に組み込まれているようでもあるのだが、まさに、これからということである。
しかし、警察庁からは統計数値がないということでなかなか説明をいただけなかった性犯罪者の「再犯性」の問題だが、法務省は犯罪者の同罪種による刑務所への「再入所の割合」という指数でこの「再犯性」に関わる数値を示してくれた。
それによると、性犯罪者受刑者が性犯罪で再入所した割合(再入率という)は7.2%、それ以外のたとえば窃盗など他の罪種での再入率は23.7%である。全受刑者の再入率は32.9%であるか
ら、性犯罪者の再犯性はこのデータからは簡単に結論付けることはできない。
もちろん、「刑務所への入所」が基本のデータなので、執行猶予などの場合は含まれないために、これらの数値が即「再犯」と結びついてはいないことも考慮すべきである。
いずれにしても、恐ろしく手付かずの部分であったことが、今更ながらに明らかになったのであった。

 
馬淵議員の認識なり意見が民主党全体の認識や意見だとは私は考えていませんが、ついに嗜好への懲罰や社会的リンチを結果的に認める言論が民主党の中から出てしまったか、やれやれ、というのが私の率直な感想です。
馬淵議員のように積極的にインターネットで政治活動を公開している若手議員からこうした主張が出てくることは、私は本当に残念でなりません。馬淵議員のメールマガジンの他の主張に多少なりとも肯首できる主張があっただけに尚更です。
 
馬淵議員は刑罰というものをどのように理解しているのでしょうか? 国民が個人的な報復感情で犯罪者を勝手に報復するような社会は、はたして望ましいことなのでしょうか?
個人的報復感情で国民が勝手に罰するようなことがあってはならないということは、あたりまえのことではないでしょうか? 馬淵議員は自身の意見と数千年の国家の血の歴史によって作られてきた罪刑法定主義、訴追権の独占、その他の刑事司法の諸原則とどのように整合性をとっているのか、私にはさっぱり理解できません。
馬淵議員が言う「インターネット上での犯罪幇助となろう情報の氾濫」が具体的になにを指してそう言っているのかが不明であり、馬淵議員が問題と指摘する情報の具体的検討なしに「インターネット上での犯罪幇助となろう情報」の規制立法を検討することはナンセンスです。
具体的な幇助となっているのなら幇助犯として逮捕例が出ていてもおかしくないはずですが、なぜ警察は逮捕せず、検察は起訴しないのか。奈良の事件に幇助犯がいたという話は寡聞ながら聞いたことがありません。
馬淵議員は、「小児性愛者の情報交換が日常的に行なわれていること」に対して「一定の歯止めの検討を今から始めなければ手遅れになる状況になる」と書き、あたかも奈良の事件が小児性愛者の情報交換が日常的に行なわれていることが原因であるかのような前提で議論を展開しています。
しかし、そのような前提がはたして成立するのでしょうか? 動機さえ完全に解明され揺るぎ無い結論が出ていると言えるのかどうかという点でさえ疑わしいのではないでしょうか。
仮に百歩譲って馬淵議員の認識がすべて事実だとしても、価値観の多様性を国家不可侵の絶対的権利=基本的人権として憲法が規定している以上、改憲によって大日本帝国憲法と同等の人権停止規定を設けること以外に、憲法規定に反することなしに人権を停止させる立法を作ることはできないはずです。
馬淵議員は、単に嗜好・個人的価値・信条に過ぎない事柄を「社会的危険」として立法によって制限することについて、憲法とどのような説明で整合性をとるつもりなのでしょうか? それとも馬淵議員は、特定信条を制限する内容を含む改憲を前提に規制を検討しようとしているのでしょうか?
はっきりしていないことについて政治はなにもできないとは思いませんが、情報交換している人が数十万数百万といった単位の人たちの間でなされている一方で、今回の事例だけをとりあげて情報交換した人すべての資質を犯罪に結びつける科学的根拠がいったいどこにあるのか。馬淵議員はなにも説明していません。
馬淵議員のようなネオ・リベラリズム的な発想が正しいとすると、性犯罪だけではなくすべての犯罪、つまりB・C級戦犯、政治家の犯罪歴、万引きなどの窃盗の前科、駐車違反などの道路交通法違反者を含めたすべての前科者の氏名、現住所、顔写真を全国民に公開すべきであって、性犯罪者だけに対して人権を制限する理屈が成立しません。
なぜ犯罪者一般ではなく性犯罪者だけを特別視するのか。その点についても、馬淵議員は国民が納得できるような説明をしていないように思われます。
趣味嗜好の情報交換が問題ではなく、性犯罪者だけを特別視したいと考えている馬淵議員自身になにか問題があるのではないでしょうか?
馬淵議員は、「米国のメーガン法や英国や韓国の情報開示の法律など諸外国の例」に疑問を感じておられるようですが、ならば馬淵議員が言う「日本版メーガン法」とはいったい具体的に誰が、いつ、どのようにして、どうやって個人情報の暴露を実施すべきとの認識を持っているのでしょう? 私にはさっぱりわかりません。
日本には、司法でプライバシー権基本的人権としてある程度認められ、国会では所管大臣の権限を巡って議論がおこなわれたとはいえ、個人情報保護法という制度が作られており、民主党はその制度の“目的”については基本的に賛成していました。
個人情報保護法や行政組織個人情報保護法といった諸制度と、馬淵議員が言う「日本版メーガン法」をどのように整合性をとるのかという点についても、納得できる説明は馬淵議員からはありません。
いずれにしても奈良の事件は、解明がまだ十分になされているとは言えず、事件を前提にした立法活動は早計に過ぎます。
それよりも馬淵議員自身が書いておられるように、「矯正プログラム以前の問題」が山積しているわけですから、その点を政策の優先順位の上位と考え調査し、あるべき立法を検討することが先決ではないかと思います。
それから、性犯罪の再犯率についてですが、馬淵議員に対する“ご説明接待”の時の法務省当局の情報によると、「性犯罪者受刑者が性犯罪で再入所した割合(再入率という)は7.2%」だそうですが、もしこれが仮に再犯率(≠再犯率者)と同義だとすると、テレビなどで説明されている「再犯(者)率7〜8割が世界常識」*1という情報はまったくのデタラメだったということになり、少なくとも他の犯罪に対して性犯罪だけが際立って再犯者率がたかいとはいえず、ますます日本版ミーガン法の前提が崩れるのではないかと思われます。
私が馬淵議員に望みたいことは、まずわからないことは結論を急がず「わからない」と言うこと。わからないことについては解明し、その上で立法を検討するということ。科学的な調査結果がでるまでの間は、個人の趣味嗜好の違いを犯罪とすぐにむすびつけないこと。基本的人権は不可侵であるということを自覚すること。ミーガン法は制定している国の中でも国民から批判があり、日本では憲法で禁じられた遡及法や二重刑となる可能性があること。*2そして、個人的報復感情を満足させるだけの立法は国の刑事法の根幹をゆるがせるという認識を持つということ。このことを馬淵議員に望みたいです。
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*1:フジTV「ワッツ!?ニッポン」:「性犯罪者再犯率は七割が常識」諸澤発言 http://d.hatena.ne.jp/kitano/20050108

*2:http://d.hatena.ne.jp/kitano/20050108 参照