報道管制とテレビメデイアが作るバーチャルリアリティ

テレビ局の映像自粛問題について、経緯をまとめておきます。
実は、4月8日、メディア関係の知人から、マスメディア消息筋からの未確認情報として、以下のような圧力が首相官邸筋から各局上層部に非公式に口頭で放送自粛の連絡があり、局上層部がその圧力に同意して支持が下したという未確認情報が札幌のNHK地方ローカル局関係者筋から入っていました。

問題となっている映像・情報は以下の3点です。

下記情報については人質の安全のため報道しないようご留意いただきたい。
1 首にサーベルを人質のノドにつきつけている映像
2 女性が悲鳴をあげている映像
3 声明文中、生きたまま焼き殺し食べるという部分

テレビ系列5局の報道を観察しましたが、たしかに上記部分の映像情報については報道がコントロールされていました。
1と2については4月10日現在、私が確認した範囲では映像では皆無。TBSとニュースの森だけがキャスターが「人質の首に剣をつきつけている」とニュース原稿を読むという形で伝えていました。
映像については、放送倫理を理由に自粛を続けているという状況です。
3については、事件が発生した8日の時点では、TBSのニュース23だけが「生きたまま焼き殺し食べる」と正確に報道し、他の全ニュース番組が「殺す」「殺害する」などと表現を変更。
翌日9日からテレビ東京を除く民放は、TBSのニュース23の報道に追随するように、「生きたまま焼き殺す」との表現を使いはじめましたが、NHKはあいかわらず「殺す」「殺害する」などと表現を変更したまま放送。という状況です。
自粛とその解除パターンをまとめるとこうなります。

TBSのニュース23など一部の番組で独立した真実報道を展開
 ↓
政府与党がそれを黙認
 ↓
NHKを除く他社が報道管制屈服を解除
 ↓
しかしNHKはあくまで報道管制屈服を継続

このようなパターンは、実は自衛隊派遣決定、米軍兵士の民間人殺害、検察不祥事事件、名古屋刑務所革手錠事件、外務省不祥事事件、政府が敗訴した国賠訴訟報道、違憲訴訟、その他政府にとって都合の悪い様々な事件で同じような現象がありました。
ですから、ある意味、今回は、テレビ局が政府にコントロールされ管制報道が実際に展開されているということを再確認したことになるわけですが、メデイア腐敗研究や政治の暗黒部分についての情報を追跡している人(私がそうだと言いたいわけではありません)以外の一般の人にもそれが明かになったという意味では、今回の管制報道は大きな管制報道だったなと思います。


私は、ニュース23がベストな番組だとは思っていません。報道不足、誤報、偏向も一部にはあるでしょう。ただ、ソースの選択という点では、他の番組とは相対的により独立した報道価値観を持っているとは言えると思います。
監視対象である政府権力からどれだけ距離を置いて独立した番組を作っているかという、そういう問題です。
誘拐犯の声明ビデオは、複数の海外メディアがウェブサイトでその一部をネット放送を実施しており、日本から確認することができます。
日本の放送局が放送しない映像を確認できるソースは、spiegelのストリームがアクセスしやすいと思います。実はspiegelのストリームも声明ビデオの完全版ではなく一部ですれども、重要な部分はすべて確認できます。

殺されかかっている日本人人質3人の悲鳴映像
(ソース=アルジャジーラ/spiegel経由)
http://www.spiegel.de/video/0,4916,2549,00.html
Real Player
rtsp://shared.streaming.telefonica.de/spiegel/video/4052.rm

ショッキングな事実が当初日本のテレビ局で放送されず事実がマイルド化していたのは事実ですが、政府の自粛要請についてはウラがとれなかったのでほんとなのかなと疑問を持っていました。
…のですが、ビデオニュース・ドットコムの丸激トーク・オン・デマンドで宮台氏が自粛要請についての情報を言っていたので、仮に情報源が複数だとすると、報道管制疑惑は真実だった可能性が高くなりそうです。
おそらくなんらかの圧力があった、と考えるべきなのでしょう。

ビデオニュース・ドットコム/丸激トーク・オン・デマンド
第159回 [4月9日収録] 小泉政権の人質事件への対応は正しいのか
http://www.videonews.com/
映像(無料プレビュー版)
http://www.videonews.com/asx/marugeki_pre.asx

宮台真司:どうみても事態を小さく小さく見せようとしているのは明かで、これはある筋からの情報ですが、首相官邸からメディア各社に対し、つまり記者クラブ加盟各社に対し、そこは報じるなとどうも言っているらしいのですね。
しかしだとすると、もし三人が惨殺され、そのあといったい誰の責任かということが問題になる時に、そのようにいわばマイルド化された情報を流すことによって世論を操作しようとした、首相官邸はともかくとして、メディアの責任がやはり問われる可能性があるので、今日はぼくは一部メディアの人間に対して保身をはかるんだったらたいがいにしたほうがいいぞと(笑)言っておきましたけれども、そこが気になるところですよね。

メディアの責任がやはり問われる可能性ですが、もうひとつの可能性としては、メディアが自分の責任を回避するため、護送船団にしてしまえと。
つまり、みんなで危ない橋を渡れば怖く無いと、みんなで殺せば殺人にはならないんだと、ダイエー長銀のようにみんながひとつに一体化して大きくまとまれば、責任があっても責任を問われないんだ、ということにしてしまう可能性もありそうな気がします。
近い将来起りそうなシナリオとしては、護送船団になることを許さない少数派、みんなで危ない橋を渡らせない少数派、オレは殺人者になりたくないと殺すのを拒否する少数派、みんながひとつに一体化して大きくまとまることを拒否する少数派を非難し、攻撃し、非難、いやがらせ、デマ、虚偽などの手練手管を使って少数派を排除し、少数派を排除することによって一体化を実現しようとする多数派の工作が発生するかもしれません。
具体的には、目の上のタンコブだったTBSがまたなにか不祥事を起して、というか起させられて、一斉に各所からバッシングが発生し、世論がTBS憎しになり、そうした世論に後押しされるフリをしながら自ら積極的にTBSを非難攻撃し、TBSの報道番組が潰れていっきに報道管制に歯止めがかからなくなって大本営状態になるっていうイヤなシナリオが想像できます。


とまあ以上の想像は予言に近いのでこれぐらいにしておきますが、そもそもテレビメディアや記者クラブやらに情報のソースが集中し、経営的多様性が失われていること自体が背景にある問題なので、マスメディア集中排除を徹底して実現し、市民が管制情報ソースから独立した取材メディアを共有しない限り、どうしようもないという気もします。
放送免許の問題とか、クロスオーナーシップとか、新聞販売流通の独占とか、記者クラブ制度とか、再販規制とか、記者特権の問題とか、新聞社の株式保有特権の問題とか、マスメディア自体に多くの構造問題があり、且つ、マスメディア自身でそれを改革できないということになると、政府にまるごと管理されて潰れてしまえ!なにもかも潰れて無くなった状態から最初からやり直せ!と言いたくもなります。
以前はメディアが潰れたら権力を監視する者が誰もいなくなってしまうという危機感があったのですが、これだけ権力との一体化がすすむと、政治からメディアを分離独立させて監視させるということに徒労感ばかりがつのるので、もう権力ごと潰れていいのかもしれないなぁと私は思い始めていて、正直、迷っています。
まあそういう迷いもあって、近い将来、権力と一体化したメディアが潰れた時の事前準備を、いまからインターネットとかで活動を始めておく必要があるなぁとも感じています。
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