東京都青少年問題協議会緊急答申「青少年をめぐる社会的諸問題の解決にむけて(H17/01/24)」全文

はじめに
近年、さまざまなメディアを通し青少年の健全な育成を阻害する情報が氾濫し、青少年の関心を引いて、容易に手に入る状況となっている。また、青少年が凶悪な犯罪に巻き込まれる事件、あるいは青少年の間の悲惨な加害事件の発生など、青少年が育つ環境は、悪化し憂慮すべき事態となっている。
他方、青少年を育てる状況については、急速な少子化を背景とし、核家族が増える一方、都市環境が変化し、地域社会における人と人との結びつきが弱まり子育てへの地域の支えが少なくなっている。
青少年問題の対策については、これまで、東京都青少年問題協議会で、有害情報の制限をはじめとして、青少年の健全育成に関する課題を審議し、提言を行い、都は、これを踏まえ「東京都青少年の健全な育成に関する条例」(以下、「都健全育成条例」という。)の改正や青少年の育成に関わる施策の実施により対応を行ってきた。
都では、学校において、人間尊重の精神や、生命に対する畏敬の念、規範意識を高める教育を行うとともに、小・中学校では、道徳授業地区公開講座を通じて、家庭や地域社会の理解や協力を得る取組を行っている。
また、「心の東京革命」を提唱し、次代を担う子どもたちに対し、思いやりの心を育み、人が生きていく上で当然の心得を伝えていく取組を社会全体で推進している。
また、平成16年8月に、東京都青少年育成総合対策推進本部を設置し、総合的かつ効果的な対策に取り組んでいるところである。
しかし、青少年を取り巻く環境の現状をみてみると、青少年の成長を育み、危険から保護される仕組みが十分なされているとは言いがたい。
まずインターネットの急速な発展により、青少年を有害情報の氾濫からいかに保護するかは大きな問題である。この問題は、第25期の協議会でも重要課題であると認識され、残された課題となった。
青少年は、インターネットや携帯電話の利用のなかで、健全な育成を阻害する情報に無防備のままさらされ、有害サイト、チャットや電子メールの利用によるトラブルなどインターネットに絡む事件も次々に起きている。青少年は、大人よりも早くインターネットに慣れ、容易に利用しているだけに、このような危険から青少年を守る対策が緊急に求められている。
また、青少年の性行動の低年齢化が進んでおり、社会で生きるための知識が欠如しているために10代の人工妊娠中絶や性感染症の増加など見過ごすことができない問題が生じている。このことが、人格を形成する時期にある青少年にとって、大きな影響を与えている。このような青少年の性に関する問題にどう対応するかが大人社会に求められている。
他方、青少年を巡る問題について、青少年自身にすべて責任を負わせることはできない。青少年の保護と育成は、大人自身の責任であることは言うまでもない。親の養育過程における様々な困難がある中で、悲惨な児童虐待が発生し、非行に適切に対処できないなどの問題があり、保護者に対し、自覚を求めるとともに支援の強化が求められている。
これら喫緊の課題に対処するため、平成16年11月2日、第26期東京都青少年問題協議会は、東京都知事より、インターネット・携帯電話からの有害情報に対する効果的な対策、青少年の性に対する関わり方、青少年に対する保護者の養育のあり方等の事項を検討するよう諮問を受けた。
これらは、青少年の健全な育成に関わる深刻な問題であり、このまま放置することができない。対応にはさまざまな問題を伴うとしても、何らかの改善に取組まなければならないと考え、本協議会では、真摯な議論を行い、緊急答申としてまとめ、以下のように提言するものである。
 
第1章インターネットの有害情報への対応
1 情報化社会の進展と青少年
① 現状と問題点
携帯電話及びパソコンを利用したインターネット(以下、インターネットについては、携帯電話及びパソコンを利用したものをいう。)の普及は、日常生活に大きな利便と恩恵をもたらしている。
その反面、インターネットのコンテンツは無法状態にあり、年齢確認をする選択画面があった場合でも、18歳以上のアイコンをクリックするだけで誰でも簡単にアクセスすることが可能である。
また、インターネットに関しては、青少年に対する有害サイトの規制措置が十分に講じられておらず、出会い系サイト規制法が昨年12月に全面施行されたものの、児童買春で摘発した事件は施行前と変わっていない。
さらに、インターネットのルール・マナーなど使い方の啓発や教育が十分でないことから、インターネットの掲示板等における情報の書き込みから青少年がインターネットに関わる犯罪やトラブルに巻き込まれる事件が多発している。
こうした中、一部、インターネットプロバイダ(利用者が携帯電話やパソコンを利用してアクセスした時に、インターネットへの接続サービスを提供する事業者をいう。)による警告、削除、利用停止は行われているものの、膨大な情報量を検索することは困難である。
② 国の取組
内閣府では、平成15年12月に「青少年育成施策大綱」が策定され、平成16年4月7日に青少年育成推進課長会議で「青少年を取り巻く環境の整備に関する指針−情報化社会の進展に対応して−」の申合せが行われた。
申合せでは、インターネット上の有害環境から青少年を守るため、フィルタリング(インターネットを利用して得られる情報について一定の条件により受信するかどうかを選択することができる仕組みをいう。)の普及促進や新たな技術開発をより一層図っていくこと、青少年との間で携帯電話にかかる売買契約を締結する場合は、必ず保護者の同意を得ることなど関係業界に要請を行う方針である。
一方、インターネットプロバイダに関する法令としては、電気通信事業法電気通信事業者電気通信役務の提供の義務と検閲の禁止、秘密の保護が規定されている。
プロバイダ責任制限法では、特定電気通信役務提供者について、他人の権利が侵害されていることを知ったとき又は他人の権利が侵害されていると信じるに足りる相当の理由があったときは、被害者又は発信者に対する責任が規定されている。
また、出会い系サイトについては、出会い系サイト規制法でインターネット異性紹介事業者に対する児童の利用禁止などが規定されている。
③ 業界の対応
業界の対応としては、インターネットプロバイダの一部で、フィルタリング等による有害サイトへのアクセス制限や携帯電話会社の認定を受けた公式サイトのみアクセス可能なサービスを提供している。
また、インターネットプロバイダは、自主的対応により、公序良俗に反する情報、他人を誹謗中傷する書き込みに対して、警告、削除、利用停止の措置をとっている。
一方、インターネットカフェ・まんが喫茶では、青少年に対しては、フィルタリングシステムを導入したパソコンを利用させている店舗もある。
④ 都の状況
都健全育成条例では、インターネットに関して規制はない。
学校での対応としては、小学校では各教科や総合的な学習の時間でのコンピュータやインターネットに関する学習の中で、児童がコンピュータ等の情報手段に慣れ親しむよう指導しており、中学校では「技術・家庭」の技術分野の情報とコンピュータ、高等学校では「情報」の必須教科で、情報モラルや個人の責任などに関してIT教育が実施されている。
また、都では国に対して、電子メディアに関し、青少年を保護するための法の整備及び関係業界への指導等必要な措置を講ずることや学校・家庭での教育等の方策を検討することについて提案要求を行っている。
⑤ 他県の状況
大阪府など5府県では、青少年健全育成条例で、インターネットの規制について、インターネットプロバイダ、端末供用者、端末販売貸付者のフィルタリング活用の努力義務などを規定しており、京都府など6府県が、同様な内容で、条例の施行を予定し、又は改正の検討を行っている。
2 インターネットへの保護者の対応
日本PTA全国協議会で平成15年に行われた「青少年とインターネット等に関する調査」によると、中学2年生では3割以上が携帯電話を保有し、5割以上が電子メールを利用した経験があり、8割近くが自宅にパソコンを保有し、8割以上がインターネットを利用した経験がある。
さらに、同調査では、有害サイトへのアクセスを阻むフィルタリングソフトを知っている保護者は約3割であり、約7割の保護者はフィルタリングソフトについての認知がない、としている。
また、他の民間会社で行った調査でも、保護者のフィルタリングの認知度が低いため、家庭でのフィルタリング導入は1割程度、有害サイトについて何らかの対策を取っている保護者は2割弱である。
3 有害情報への対応とメディア・リテラシーの育成
① 対応のあり方
インターネットプロバイダや保護者は、青少年に有害情報にアクセスさせないよう努力し、親子で学ぶセミナーや啓発活動などにより、青少年のインターネットの利用や発信についての適切な判断能力(メディア・リテラシー)を向上させることが必要である。
また、インターネットを利用したり携帯電話を購入するときは、フィルタリングや接続制限機能付携帯について説明を受けた上で、これらのサービスや機器を利用することが求められている。
こうしたフィルタリングの利用などインターネットへのアクセス制限については、子どもの選択権を十分尊重した上で、親子の合意のもとに選択すべきである。
② 提言
インターネット利用環境の整備に関しては、第一に、インターネットプロバイダは、その事業活動において、青少年の健全な成長を阻害しないように、フィルタリングの機能を有するソフトウェアを利用するサービスを開発し、利用者に対して提供するよう努めることを条例で定める必要がある。
また、インターネットプロバイダについて、利用者と契約を行う際に青少年の利用を確認し、青少年が利用する場合には、必ずフィルタリングの情報を告知するとともにフィルタリングサービスの利用を勧奨することにより、フィルタリング機能の提供を標準とするよう努めることを条例で定める必要がある。
第二に、インターネットカフェについて、青少年がインターネットを利用する場合には、フィルタリング機能付機器の提供に努めることを条例で定める必要がある。
第三に、青少年の保護者について、青少年がインターネットを利用する場合には、

フィルタリングの機能を有するソフトウェアやインターネットプロバイダのフィルタリングサービスを利用させるよう努めることを条例で定める必要がある。
また、保護者及び関係者は、家庭その他の社会の場所において、インターネットの利用に関する健全な判断能力の育成を図るため、インターネット利用に伴う危険性、及び過度の利用による弊害等について、青少年に対し教育に努めることを条例で定める必要がある。
第四に、都は、青少年がインターネットの利用に関する判断能力の育成を図るために、普及啓発や教育等の推進に努めることを条例で定める必要がある。
なお、これらの取組については、インターネットプロバイダ及びインターネットカフェの事業者に対する努力義務にとどめるが、業界の自主規制を促すこととする。
最後に、都は、条例で定めた責務の効果をあげるための施策として、青少年に対しメディア・リテラシーや情報モラルを向上させる啓発を行うほか、保護者や学校教員及び地域で青少年活動を行っている方などに啓発を行うとともに、必要な支援を行う必要がある。
 
第2章青少年の性に対する関わり方
1 性情報の影響と性意識・性行動の変化
① 青少年の性行動に関する現状
青少年の性行動の現状は、この10年間で大きく様変わりをしており、とりわけ、性行動の低年齢化が進んでいる。
「東京都内の高校3年生の初交経験累積率」は、平成14年女子の45.6%(男子37.3%)に初交経験があり、12年前の約2.7倍(男子約1.8倍)で、同様に中学3年生の時点では9.1%(男子12.3%)に初交経験があり、12年前の約2.7倍(男子約1.2倍)となっている。
女子の増加の傾向を見ると、平成5年から平成8年にかけて急増している。この間には、援助交際あるいは児童買春等が問題となり、その後も出会い系サイトの問題が新たに生じるなど、特に女子を取り巻く性の環境の悪化が見られる。
そこで「全国の10代の人工妊娠中絶数」をみると、平成14年度44,987人、全人工妊娠中絶数の13.7%で、12年前の約1.4倍となっている。
また、「東京都の19歳以下の性感染症患者報告数(都内41医療機関における報告)」は、平成15年女子287人で、全感染症数の10.9%を占め、5年前の1.9倍となっている。
そのほか、「福祉犯罪(性的被害)で保護された女子少年数(東京都内)」は、平成15年571人で、9年前の3倍、うち中学生は149人で約15倍と著しい。
② 青少年を取り巻く環境や意識について
青少年に対する意識調査によれば、中学生が異性とつき合うときにすると思うことは、「夜遅くまで遊ぶ」が、全ての学年で30%を超えて一番多く、次いで、中学校3年生の男子27.1%、女子21.5%が「性交する」と回答している。
更に、セックスをしてもいいと思う時期は、高校生では「高校1年」(男子22.4%、女子29.1%)、中学生では「わからない」が最も多く、2番目が「高校1年」(男子14.1%、女子16.4%)と回答している。
また、少年非行問題等に関する世論調査によると「いわゆる援助交際などの性の非行」を問題だと思っている割合は、20歳以上では33%であるが、20歳未満では、19.1%と、低年齢ほど問題意識は低い。
諸外国との意識の違いとしては、日本の高校生の「売春など性を売ったり買ったりすることはよくないこと」と考えている割合は73.9%で米国(57.7%)より高いが、同じ東南アジア諸国である中国(90.4%)や韓国(85.0%)より低くなっている。
青少年を取り巻く環境は、インターネットや雑誌、ビデオ等から性についての興味を起こし、性行動へ誘惑するような情報が多く流れる一方、リスクに関する情報提供は著しく少ない。これらの情報は、青少年の生活の周りで提供されており、性に関する理解ができていないうちに、容易に手に入るようになっている。
③ 青少年の性に関する環境への対応
都のこれまでの対応状況であるが、第17期、第22期における青少年問題協議会の答申を受けて、一貫して、淫行処罰規定については否定的な立場を取ってきた。
これは、青少年の自由な意思決定の尊重、規制が与える青少年への影響、犯罪構成要件の不明確という考えによるものである。
しかし、第22期において、性の商品化、売買春等の性行為に関しては、青少年の性的自己決定能力を高めるための諸施策を積極的に展開することと併せて、青少年の保護のために大人を処罰する規定を設けることはやむを得ないとした答申が出されたことに伴い、平成9年の条例改正で、買春等処罰規定が新設され、金品等の供与等を伴う性交又は性交類似行為及び周旋による性交又は性交類似行為を禁止した。
その後、平成11年に児童買春法が施行され、児童に対して対償を供与等し、性交等をすることが禁止されたことに伴い、平成16年の条例改正において、異同部分の整理を行い、現在は、周旋(対償の供与の約束を伴うものを除く。)を受けて、青少年と性交又は性交類似行為を行うことを規制している。
なお、都健全育成条例においては、青少年に対する免責規定を設けており、違反行為者が青少年の場合は、処罰を免責している。
一方、他道府県の対応状況は、条例の無い長野県を除くすべての道府県は、罰則付きで淫行を規制する規定を置いている。その内容は、各道府県とも何人も青少年に対し、みだらな性行為又はわいせつな行為をすることを禁じたもので、ほとんどの道府県で検挙実績があり、少ない県では年10件以下、福岡県のように200件以上の実績がある県もある。
何人に対する規制であるが、条例は、青少年を好ましくない社会環境から守る義務を大人に負わせたもので、違反した青少年を罰することは条例の本旨ではないとして、40道府県では、青少年を免責する規定を設けている。
しかし、福井、静岡、岡山、広島、長崎の5県では、免責規定が設けられていない。この主な理由は、青少年が自ら他の青少年に好ましくない影響を与える場合や不健全な行為を行う場合まで保護しようとするものではない。ということである。
また、17道府県で保護者は青少年の人格形成の基礎的な場である家庭において、直接青少年を監督保護し、教育する責務を有するといった「保護者の責務」を規定している。
法律による規制状況は、「刑法」では、強制わいせつ罪(第176条)、強姦罪(第177条)が規定されており、13歳未満の男女に対し、わいせつな行為をした者及び13歳未満の女子を姦淫した者は暴行・脅迫等の手段を用いない場合においても犯罪になる。
「児童買春法」では、対償を供与し、又はその供与の約束をして、児童(18歳未満)に対して性交等することを禁じている。
児童福祉法」では、児童(18歳未満)に淫行させる行為を禁じている。
なお「民法」では、第731条で、男は満18歳、女は満16歳で結婚することができることになっており、第753条で、未成年者が婚姻をしたときには、成年に達したものとみなすとしている。
2 大人社会の関わり方
① 青少年の性行動の低年齢化について
今日、青少年の性行動には、性感染症、中絶などの危険性を伴うなど、憂慮すべき問題が生じている。低年齢化は好ましくはなく、このような低年齢化に伴う様々な弊害に対応すべきである。
低年齢化の要因は、根が深い問題であって、今の青少年には、自分を大切にすることや人に迷惑をかけないという考え方が欠落していること、青少年が疎外されていること、性情報が掲載される雑誌など性行動に誘惑する環境の問題などが考えられる。情報提供や性教育が重要ではあるが、他の方法を考えることも必要である。
青少年それぞれの性行動については、それぞれの発達段階の差によるほか、個人の関心の程度や家庭環境によっても違いがあることに留意しなければならない。
② 青少年とのコミュニケーションについて
援助交際や性情報の氾濫など、青少年を取り巻く環境のもとで、性行動について、青少年にのみ責任を負わせるのではなく、大人は自らの責任として自覚し、青少年の性に対する関わり方について、青少年と積極的にコミュニケーションを図り、必要な情報提供と教育を行うことが必要である。
まず、低年齢化に伴うリスクに鑑み、保護者は青少年の性行動について、関心を持ち、十分な注意を払っていくことが求められる。
加えて、学校、保健等の機関のみならず、地域においても、青少年や保護者に対する啓発や相談などの取組を進めていくことが望ましい。
しかし、性に対する考え方は、大人にも多様な価値観があり、画一的な教育や情報提供は難しく、その対応には、十分留意する必要がある。
3 青少年の性行動に対する行政の対応
① 対応のあり方
青少年の性行動に関わる現状をそのまま放置しておくことはできない。そのため、行政は、青少年の健全な育成を阻害する状況を改善するとともに、青少年に対し、情報提供、相談、教育など多様な対応に努める必要がある。
また、青少年とのコミュニケーションや教育においては、感染症、中絶など性行動に伴うリスクについての相談や支援などの対策をとるとともに、青少年の心の問題を取り上げ、生命、倫理と道徳、男女の相互の尊重などを取り上げるなかで考える機会を持たせることが必要である。
② 提言
青少年に対する指導面では、保護者及び関係者は、男女の性の特性に配慮し、青少年の異性との交友が相互の豊かな人格の涵養に資するとともに、安易な性行動により、自己及び他人の尊厳を傷つけ、その心身の健康を損ね、調和のとれた人間形成を阻害し、又は自ら対処できない責任を負うことのないよう慎重に行動するよう配慮を促すための啓発、教育に努めるとともに、これに反する社会的風潮を改めるよう努めなければならない。
また、保護者及び関係者は、心身の変化が著しく、かつ、人格形成途上の青少年に対しては、性行動について特に慎重であるよう配慮を促すことを伝えるように努めなければならないことを条例で定める。(※)
さらに、保護者は、青少年の性的関心の高まり、心身の変化等に十分な注意を払うとともに、青少年と性に関する対話を深めるよう努めなければならないことを条例で定める。
性についての環境整備面では、青少年を対象として情報提供に関わる者は、いたずらに青少年の安易な性行動を助長するなど青少年の性に関する健全な成長を阻害する情報を発信することのないよう、自主的な取組により対応するよう努めることを条例で定める。
大人の青少年に対する反倫理的な性交については、何人も、上記※の趣旨に反し、青少年とみだらな性交又は性交類似行為を行ってはならないことを罰則を付与し、条例で定める。
しかし、少数意見として「このような他道府県で定める淫行処罰規定については、これまでの青少年問題協議会の意見と同様、青少年の自由な意思決定の尊重、既に児童買春法、児童福祉法などで十分な法規制がされており、その必要性・合理性が認められないこと、これらの法とは二重の規制となり罰則に差が出て、バランスを失すること等の理由から、条例で定めるべきではない。」という意見や、「今後も継続して協議した上で結論を出すべきである。」という意見もあった。
その他、施策の推進として、メディアに対し、性に関する情報の取扱いについて健全育成の観点から配慮するように自主的な取組を促すとともに、青少年を性に関わる危険から保護するための地域の取組を展開すべきであり、また、青少年の健全育成に係る施策のなかで、青少年の性についての啓発の取組を行うべきである。
 
第3章青少年に対する保護者の養育のあり方
1 青少年の養育に関する現状
① 青少年の養育に係る行政機関
青少年の養育については、児童相談所、福祉事務所、保健所、警察署、学校などの関係行政機関が関わっている。
これらの行政機関では、それぞれ児童虐待をはじめとした青少年の福祉に関するあらゆる相談や一時保護などの措置、健康に関する相談・保健指導、非行を防止するための相談、教育問題など子どもの養育で悩んでいる保護者や不適切な養育を行っている保護者に対する助言及び指導などの業務を行っている。
青少年の養育のあり方で、特に問題となる児童虐待については、主に児童相談所が対応している。
都には児童相談センターを含め11か所の児童相談所があり、平成15年度29,908件の相談を受けている。その中で、児童虐待の相談件数は、2,481件で、10年前の平成6年度217件の11.4倍となっている。相談件数が増加したのは、児童虐待防止法の施行に伴い社会的な関心の高まりと児童虐待についての認識が顕在化したこと、また、ネグレクトを児童虐待と認識するようになり、同時に通報や早期発見が増したことによるものと考えられる。
平成13年度の都の「児童虐待白書」によると、児童虐待の通報及び相談を受ける中で、虐待を認めている親は24.6%にすぎず、虐待を認めない者が38.8%もいる。特に虐待者が実父の場合、半数が認めない。また、虐待相談を受け、指導を行っても、それに応じない保護者が18%である。
児童虐待において、保護者が虐待を認めないなどの困難性を有する場合には、児童相談所は、学校、保育園、保健所、警察、児童委員等の関係機関と連携協力体制を確立し、必要に応じては、医師・弁護士等の助言を得て問題解決に当たっている。
非行問題については主に児童相談所のほか警察署・少年センターが対応している。児童相談所では、児童福祉司や心理技術職員が児童、保護者に対し、ケースワークを中心とした助言又は指導を行っている。また、警察署・少年センターでは少年補導員等のボランティアとの連携の下、不良行為少年の発見及び補導活動、非行問題等で悩んでいる保護者に対する助言及び指導を行っている。
② 児童に関する関係法令
児童に関する関係法令の主なものは、児童福祉法児童虐待防止法及び少年法である。これらの法律において、児童及び保護者に対する関係行政機関職員の職務(調査・指導)等は規定されているが、現実には民法に定める親権が強く、必ずしも十分な対応ができていない実態がある。
児童福祉法第15条の2では、児童相談所はその業務として児童に関する各般の問題につき、家庭その他からの相談に応ずること、また児童及びその家庭につき、必要な調査並びに判定の実施に基づく必要な指導を行うものとされている。
しかし、この指導はあくまで、法的には相手方の自発的意思に基づく事実行為であるため、保護者の同意(協力)がないと対応できない。そのため例えば、保護者が虐待の事実を認めず、子どもに会わせないなどの態度をとると、児童相談所は家庭に踏み込んでまで子どもの状況を調査することは難しいのが現状である。
非行相談においても、児童相談所が、警察からの書類通告に基づき、後日その児童及び保護者に児童相談所への呼び出しを通知しても、それに応じない場合や、家庭訪問しても面会さえできないような場合もある。これに対しても、前述と同様に、法的には、原則としてあくまで保護者の同意がなければ対応できない。
児童福祉法第28条は、被虐待児童等について、親権を行う者又は後見人の意に反しても都道府県が家庭裁判所の承認を得て親子分離など、その児童の福祉の措置をとることができると規定している。そして、この措置をとるため必要があると認めるときは、同法第29条の立ち入り調査権を認めている。(児童虐待防止法第9条にも立入調査の規定あり。)さらに、第62条では、第29条の規定に基づく調査質問に対し、正当な理由なく、拒否、忌避等した場合、20万円以下の罰金に処せられることになっている。
第28条による家庭裁判所の審判による施設入所に際しては、承認の申し立てを行ってから、審判が終結し施設入所が承認されるまで一定の時間を要することから、この間は一時保護等の活用により適切に児童の保護を図ることが重要である。
児童福祉法の一部改正(平成17年4月1 日実施)により、児童相談に関し市町村が担う役割が法律上明確化される。これにより、区市町村が子どもに関する相談を第一義的に受けることとなり、都道府県の児童相談所の役割が要保護性の高い困難事例への対応・市町村の後方支援に重点化される。
③ 他道府県の対応状況
17道府県では、青少年健全育成条例で、保護者の責務として、青少年の監護、教育等について規定している。
2 行政と保護者の協力のあり方
① 保護者の養育の現状
青少年の育成においては、家庭が最も重要な役割を果たしている。
虐待、非行の問題を含め、子育てや教育に悩む保護者は多い。保護者のなかには、子どもにどのように接していいか、しつけていいかわからない、あるいは保護者と子どもの間の関係が希薄になり、子どもの非行はもとより日常の行動についても関心が少ないなどの問題を抱える人も多い。
人が育ってきた環境、家庭教育に関する考え方は多様であるが、子どものしつけ方やコミュニケーションのとり方、最低限の社会のルールの習得の仕方など、保護者の教育力の向上は重要な課題である。また、社会環境の変化により、かつてのような地域におけるコミュニケーションが希薄になり、地域で助け合う子育てが少なくなってきており、行政や地域の積極的な支援が求められている。
② 行政の支援と保護者の対応
児童虐待への対応についてであるが、子どもは、虐待について自ら言うことができない状況があるので、周囲が気付く必要がある。また、性的虐待心理的虐待、ネグレクト(養育の放棄又は怠慢)などはその証拠が見つけにくいなどの問題がある。行政、学校、地域社会が、これは虐待であるということを保護者に伝え気付かせることが必要である。
児童虐待防止法等の関係法令は整備されているものの、虐待を認めない保護者に対し、関係行政機関が、保護者の協力を得ることは容易ではないのが現状であり、これを放置することはできない。
虐待や非行を予防するためには、子どもへの接し方がわからない保護者や育て方に悩む保護者に対して、気軽に相談しやすい体制が必要であり、学校、保育園、児童相談所、保健所、警察署などの関係行政機関及びNPOなど諸団体が連携し支援を強化する必要がある。
また、虐待については、子どもの身近にいる大人が気付いた段階あるいは通報があった段階で、第一に子どもの安全確保を図り、そのうえで保護者に対する指導を実施するなど迅速な対応が必要である。非行についても、保護者の協力を得て、学校、警察など関係行政機関が連携協力して対応する必要がある。
③ 提言
青少年の保護者の責務として、青少年を健全に育成することが自らの責務であることを自覚するとともに、青少年に対し、健やかな成長を促し、保護し、教育する努力義務を条例で定める必要がある。
また、保護者は、青少年の保護又は育成に関わる行政機関が、児童虐待など青少年の健全育成が著しく阻害されている状況に基づき、保護者に対して助言又は指導を行った場合には、これを尊重し、適切に対応するよう努めることを条例で定める。
都は、心の東京革命など青少年の健全育成に関わる施策において、子育ての不安を解消し、保護者の教育力を高め、支援するための取組を行うべきである。
また、関係行政機関では、子育てや家庭の教育についての相談体制や相談機能を強化するとともに、虐待及び相談窓口に関する普及啓発に努める必要がある。
 
おわりに
本協議会では、諮問事項について、短期間ながらも非常に活発な議論を行った。青少年の現状に対する危機感は、すべての委員が共有するものであり、難しい課題ではあるが、一刻も早く対策に着手すべきであるという認識に立ち、諮問された事項に対して、緊急答申としてまとめたものである。
今回の答申は、緊急の課題に対応する提言を行っているので、都は、この提言を踏まえ、早急に施策化を図り、効果的な実施に努めてもらいたい。
青少年に関わる問題は、他にも不登校、ひきこもり、非行など多岐に渡っており、青少年対策は、都だけで対策の効果を挙げることは困難である。区市町村をはじめ、地域や民間団体が果たす役割は大きく、これらの団体との緊密な連絡調整の体制をつくることにより、着実に推進することが必要である。また関係業界の自主的な取組を大人一人ひとりが問題を直視し、将来を担う青少年の健全な育成のため、それぞれの役割のなかで取組を進めていかなければならない。
なお、提言の実行には青少年の育成に関わる者の不断の取組が不可欠であり、関係者の努力により、成果が生まれることを期待する。
平成17年1月24日 東京都青少年問題協議会

※上記情報は下記URLより転載しました。(転載日2005年1月25日)
http://www.seikatubunka.metro.tokyo.jp/index9files/26ki/26tousin_honbun.pdf
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参考リンク

東京都青少年の健全な育成に関する条例(条例昭和39年08月01日条例第181
号/最終改正平成16年03月31日 条例第43号)
http://www.reiki.metro.tokyo.jp/reiki_honbun/ag10121501.html