立川反戦ビラ事件一審判決:良心の囚人に無罪判決(その3)

 
控訴の提起期限*1は12月30日。この日までに検察が控訴しなければ無罪は確定します。
公安当局などの妨害があるようですが*2、控訴しないことを求める動きも続いています。
立川反戦ビラ事件が言論の自由の破壊の礎とならぬよう、控訴しないことを求める声を検察に届けましょう。言論の自由が完全に無くなってしまう前に行動してください。
 

Subject: [aml 42208] 検察庁の抗議メール(意見集約)先
http://www1.jca.apc.org/aml/200412/42208.html

<要請先>
http://www.kensatsu.go.jp/send_form/feedback.php
東京地方検察庁八王子支部 TEL.0426-42-7291
〒192-8553 八王子市明神町4丁目21番2号
東京地方検察庁 TEL.03-3592-5611
〒100-8903 千代田区霞が関1丁目1番1号 中央合同庁舎第6号館 A棟・B棟
東京高等検察庁 TEL.03-3592-5611
〒100-8904 千代田区霞が関1丁目1番1号中央合同庁舎第6号館 A棟

法学者ら百人余「検察は控訴するな」と声明 反戦ビラ訴訟
http://www.asahi.com/national/update/1221/013.html

■法学館憲法研究所
http://www.jicl.jp/
立川自衛隊監視テント村への弾圧に抗議する法学者声明
http://www.jicl.jp/now/saiban/backnumber/tachikawa.html

郵便受けは、私人が住居という本質的に私的な空間を確保しながら、外から内部に向けて発せられる情報を受けとるために自ら設置した限定された空間だと考えられます。つまり、それは、法によって遮断された「私」と「公」の領域をつなぐための通路であり、外部との遮断を目的とするドアや門とは逆に、外に向かって開かれた性質を持つものです。したがって、チラシを郵便受けに配布するために他人の敷地に立ち入ることは、「プライバシーの享有を期待できる区画された場所」の「平穏」を害する行為にはあたりません。
・・・・・
憲法21条は、市民の間の自由なコミュニケーションは、正当な手段でなされる限り違法とされることがないことを保障しています。当該行為は、自衛隊イラク派兵というそれ自体憲法上疑義がある事態を憂慮する市民が、自衛隊員とその家族に対して、市民として共に考えることを直接促すために行われたものであり、その手段も、ビラという通常の媒体を使用して、郵便受けという外に開かれた空間にそれを投函したという極めて穏健なものです。
・・・・・
自衛隊員とその家族は、市民としてこのような情報を受けとり、その内容について自分で判断する権利があるのであり、「住居侵入」という通常考えられない刑罰をもって両者のコミュニケーションを遮断しようというのは、法の明確性、安定性、予見性を著しく害し、市民の間の自由なコミュニケーションを萎縮させ、ひいては民主主義というコンセプトを傷つける危険性を孕んでいます。

■立川・反戦ビラ弾圧救援会
判決のポイント 
http://www4.ocn.ne.jp/~tentmura/hanketsu.html

 
立川市の大沢ゆたか市議のサイトに判決文の全文が掲載されています。
 

判決文
http://homepage2.nifty.com/osawa-yutaka/heiwa-iraku-dannatu-hanketu.htm

 
判決は、航空自衛官の及川範実ひとりが個人的な不快感情で「姿を見た」だけで110番通報していたこと認定しています。
また裁判所は、航空自衛官高橋祐司がイラクヘの自衛隊派遣反対とか言ってるようなビラはだめなんだ」と言った事実、去ろうとした被告の前に航空自衛官高橋祐司が立ちふさがった事実(軽犯罪法違反?)、立ちふさがった航空自衛官高橋祐司が自分に対して配られたビラだけでなく別室のビラまで回収しろと命令していた事実(隣の人は別な判断をしていたかもしれないのでは?)、主義主張の違いを理由に住居侵入だと判断していた事実を認定しています。
さらに裁判所は、被害届を出した防衛庁の側*3も一般のアパートの集合郵便受けに自衛官募集のビラを投函していたことを事実として認定しています。
「主義主張が違っているだけで犯罪」と言う航空自衛官高橋祐司のような思考を、自衛官や検察官や警察官全員が持っているとは私は考えていません。ですが一部の自衛官、検察官、警察官がそういう狂った思考を持ち、日本国憲法に対する順法精神に欠けていることは、一納税者として納税意欲を失わさせられるのも事実です。
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高知新聞沖縄タイムス琉球新報反戦ビラ一審判決について社説を掲載しました。
この事件について言及した他紙同様、この事件が重い憲法問題を含んでおり、判決が妥当であることを指摘しています。
以下、当該社説を抜粋引用。
 

高知新聞 社説 2004年12月19日
【ビラ配り】警鐘重く受け止めよ
http://www.kochinews.co.jp/0412/041219editor.htm

憲法21条が保障する表現の自由を重くみて、「刑事罰に値するほどの違法性はない」とする明快で妥当な判決だ。
民主主義にとって、思想信条の自由や表現の自由は最も根幹をなすものだ。多様な意見が自由に表明できる環境なくして、健全な民主社会は維持できない。
ところが、その自由を暴力的に封殺しようという動きが後を絶たない。気に入らない意見を徹底的なバッシングによって封じ込めるような傾向も強まっている。
加えて、思想や表現をめぐる行動が警察によって摘発されるケースが相次ぐ。表現の自由を法的に規制しようとする動きも目立っている。
決して好ましい方向ではない。日本の民主主義の危機が深まりつつあるといっても過言ではないだろう。憲法を前面に出した今回の判決は、そうした流れに警鐘を鳴らしていると受け止めるべきだ。

沖縄タイムス 社説 2004年12月18日
ビラ配り無罪 表現の場は開かれている
http://www.okinawatimes.co.jp/edi/20041218.html#no_2

判決が重要な意味を持つのは、三人の行動を「憲法二一条の保障する政治的表現活動の態様であり、民主主義社会の根幹をなすもの」とし、憲法で保障された「表現の自由」を基に判断したことだ。
市民にとって政治的、社会的な問題をテーマにしたビラ配布や集会などは、意見発表の場として重要である。
異なる意見を認めない社会となっては、民主主義の崩壊にもつながりかねない。
そもそも住民の出した被害届について、宿舎管理担当の自衛官は「警察が代筆したものに押印しただけだ」と証言している。
安易な取り締まりであり、表現の自由を前提にした多様な市民活動を制約する行為と言わざるを得ない。捜査当局は判決を重く受け止める必要がある。

琉球新報 社説 2004年12月19日
ビラ配りで判決・強引な起訴に猛省促す
http://www.ryukyushimpo.co.jp/shasetu/sha29/s041219.html#shasetu_2

政治的な表現の自由を極めて重くみた判決内容であり、微罪による逮捕を憲法に照らして戒めた点で評価できる。無罪を言い渡したのは極めて妥当な判断であろう。
三人がビラを配りに入った自衛隊宿舎では、それまでに商業目的の宣伝ビラなどは配布されていたという。
ビラの内容が政治的かどうかによって、一方は何の罪にも問われていないのに、他方は逮捕・起訴されるというのは、公平を欠いている。
ビラの配布や集会などは意見表明の手段だ。安易に取り締まることは「言論弾圧」と非難されても仕方あるまい。強引な手法で起訴に持ち込んだ捜査当局に猛省を促したい。

 
週刊金曜日サイトに元防衛政務次官自民党防衛部会長だった箕輪登氏の証言が報道されています。
 

週刊金曜日
金曜アンテナ
http://www.kinyobi.co.jp/KTools/antena_pt?v=vol524

反戦ビラ裁判で箕輪氏 「内容は私の気持ち」
立川反戦ビラ裁判の第5回公判が9月9日、東京地裁八王子支部で開かれた。この日は、弁護側証人として奥平康弘・東大名誉教授や、防衛政務次官郵政大臣などを歴任した箕輪登氏らが証言。
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箕輪氏は「ビラに書かれている内容は私の気持ちと同じだ。ビラを撒かれて自衛官やその家族らが不安になるというが、憲法違反、法律違反のイラク派兵をやっているのだから、それを指摘されて不安にならないほうがおかしい。自衛隊にとってよい情報も、都合の悪い情報も、いろいろな情報が入って議論になることが大切だ」と証言した。

 
こちらのサイトではサンデー毎日の記事を紹介しています。
 

http://eritokyo.jp/independent/nagano-pref/aoyama-col240.html

サンデー毎日(2004年3月28日号)
大手宅配ピザチェーンの店員はさも意外そうな口調でこう話す。
「あそこにはずっとメニューを入れていますが、一度も苦情は来てないです」
住民に話を聞いてみた。反戦・チラシが郵便受けに入っていると迷惑ですか−−。
大方はただ「う〜ん・・・・」とうなるのみ。ある主婦は「捨てればいいから。」と淡々としたものだ。チラシ配りそのものが殊更、住民に害を及ぼしているという印象はない。
ある立川市民が2月28日夜、メンバー逮捕に抗議する電話を立川署にした際、対応した署員とおおむね次のような趣旨のやり取りがあったという。
市民「なぜ逮捕したのか」
署員「ビラ配りは禁止事項として明示してある」
市民「私も自宅の郵便受けに『広告お断り』と書いている。チラシを入れた人を取り締まってくれるか」
署員「自衛隊イラク派遣に関する内容であり、ピザ屋や寿司屋のチラシとは訳が違う。士気が下がるとかいろんな都合がある」
この市民が振り返る。「図らずも『士気が下がる』という言葉が飛び出したので本当に驚きました」

 
士気が下がるだけで逮捕って、そんな法律がどこにありますか。士気が下がるという理由が成立するなら、ピザ屋や寿司屋のチラシはダイエットの士気が下がり健康を害するという個人法益を侵害するからピザ屋や寿司屋を逮捕すべきだ。(笑)
だいいち士気を下げているのはビラではなくて、ビラに書いてある事実を作っている政府ですよね。政府が専守防衛に徹すれば士気は下がらない。
 
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2004年12月10日、小泉内閣は「防衛計画の大綱」と「次期防衛力整備計画」を閣議決定。これにより陸上自衛隊に海外で緊急派兵される中央即応集団*4が新設されるとともに、国際活動教育隊*5という海外活動専門部隊が設置され、派兵兵士の恒常的に教育訓練にあたる態勢が整備されました。
2004年12月という月は、名実共に「専守防衛」政策と最終的に決別し、武力による威嚇によって政治目的を完結させる「武装威嚇」政策を確定させたターニングポイントと言っても良いでしょう。
しかし、こうした政策転換に対し、政権内部から国民には目に見えない形で離反者が出て、政策と政権を根底から覆させる契機を生み出し、武装威嚇派官僚が動揺していることもまた事実です。
将来、武装威嚇派が政権から完全に駆逐される日が来るだろうと私は確信していますが、立川反戦ビラ事件が武装威嚇派の断末魔の叫びとなるかどうかは、武装威嚇派に対する国民の態度如何にかかっています。
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関連ログ。
 

街から反戦の声が消えるとき
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20050128#p2
立川反戦ビラ事件:検察が控訴
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20050122
2004-12-19 立川反戦ビラ事件一審判決:良心の囚人に無罪判決(その2)
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20041219
2004-12-18 立川反戦ビラ事件一審判決:良心の囚人に無罪判決、ビラ配布に可罰的違法性無し
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20041218
2004-12-16 迷惑防止条例改悪案:ビラを持っていると30万円以下の罰金
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20041216
2004-02-12 「落書き」事件判決/「何が」汚いのか
http://d.hatena.ne.jp/kitano/20040212

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■追補
 
遺憾ながら、検察当局は無罪判決が下った反戦ビラ裁判一審判決を不服として控訴する方針を固めたとの報道があります。
 

検察側、控訴の方針 自衛隊イラク派遣反対ビラ訴訟
http://www.asahi.com/national/update/1223/007.html

 
検察の態度がどうであれ、市民が一審判決を支持しているという意向をはっきりと検察に伝えるということが重要で、市民の意向を無視して検察が一方的に控訴するという状況をつくることそれ自体が将来、検察組織の悪しき密室性や不法性を解体させる前提になります。
一番最悪な事態は、検察が控訴することではなく、誰からも注目されず、批判もされず、無関心なままに検察の控訴が有効性を持ち得てしまう社会状況それ自体だと思います。。 
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*1:刑事訴訟法「第三百七十三条 控訴の提起期間は、十四日とする。」 http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S23/S23HO131.html

*2:BORAのジオログ 「今日は立川駅頭情宣 」 http://geocities.yahoo.co.jp/gl/solea01/view?.date=20041219

*3:判決によると、被害届を出したのは陸上自衛隊東立川駐屯地立川宿舎の航空自衛隊第1補給処立川支処業務科科長豊川一生(1号棟から4号棟の管理者補佐)と厚生科長浅霧修(5号棟から8号棟及び同宿舎敷地の管理者補佐)です。

*4:中央即応集団:4800人

*5:国際活動教育隊:100人